囚人
 囚われている。
 ゼッシュ・クラプトンはそれを自覚していた。自分は初めて彼と、リクトと出会った時から、ずっと彼に囚われ続けているのだ。

 初めて彼と出会った時を、自分はしっかり記憶している。それはゼッシュの人生の中で一番最初の記憶。
 二歳の時。母親に抱かれながら行った公園。なにせまだ二歳だったので細かいことは覚えていない。だが初めてリクトを見た時の一瞬の感情は、鮮烈に記憶していた。
 同じように母親に抱かれてぽかんとこちらを見ている同じぐらいの大きさの子供。艶やかに輝く黒い髪と瞳。琥珀の肌。柔らかな曲線を描く顔の形。純真をそのまま形にしたような表情。そのすべてに、ゼッシュは一瞬で魅了された。
「おかーさん、おかーさん」
 ばたばたと暴れると、母親は「ちょっと、暴れないの! なぁに?」と自分を押さえつけながらも言ってくれた。
「あの、あのこ」
 必死にリクトを指差すと、母親は「あら」と声を上げた。
「フランズベールさんのとこのお子さんね。あの子がどうかしたの?」
「あのこのとこ、いって! あのこのとこ!」
「お友達になりたいの? まぁ、いいけど……あんたがそんなこと言うなんて初めてね」
 そうして母親はリクトの母親に話しかけ、「この子がどうしてもリクトくんとお友達になりたいって」と言うが早いか、リクトっていうんだ、と一瞬ほわんとして、それからばっと手をリクトに突き出し叫んだ。
「おっきくなったらぼくのおよめさんになってください!」
『………………』
 その場に沈黙が降りたが、ゼッシュはリクトの反応ばかりに集中していて気にならなかった。人生で初めてというくらい真剣にリクトを見つめていると、リクトは少し首を傾げて、それからこくんとうなずいた。
「やったーっ!」
 ゼッシュはそれまでの人生で最大の歓喜に包まれた。おやつをもらった時よりも、頭をなでてもらった時よりも、そんなものとは比べ物にならないくらいの。
 だって、リクトが、この今まで見た誰より可愛い子が自分のおよめさんになってくれるのだから。
 リクトは「そんなの覚えてるわけないだろ! 時効だ時効!」などとこの話を持ち出すたびに怒鳴るけれど、そんなのは照れ隠しだとちゃんとわかっているのだ。

 初めてリクトとキスをした時のことは忘れられない。それはゼッシュの人生で初めての快感に陶酔した記憶。
 五歳の時。その頃はまだ友達でしかなかったリクト(もちろん将来お嫁さんにするんだとは誓っていたし深い深い絆で結ばれた大親友ではあったのだが、やはりまだ若かったので押しと自覚が足りなかったのだ)の家に遊びに来たゼッシュは、リクトが父であるオルテガと唇をくっつけているところを目撃してしまった。
「あーっ! なにしてるんだよっ、リクト!」
「あ、ゼッシュ。どうしたの?」
「いま、きすしてただろっ」
「え、うん」
「うんじゃないだろー! なんでそんなことするんだよー!」
「だって、お父さんがしようっていうから」
「じゃあおれともしよう!」
「えー……なんで? やだよ、はずかしいもん」
「じゃーなんでおじさんとはするんだよっ」
「だってお父さんはお父さんだし」
「はっはっはっゼッシュくん、駄目だよ君はリクトにしてみればしょせん大勢いるお友達の一人にしかすぎないんだから。血の繋がった愛し合っている親子である私とは絆の強さが違うのさ」
 勝ち誇った笑いを浮かべるオルテガを、こいつがリクトとちがつながってるなんてぜったいうそだ、と思いつつ睨みつけながらゼッシュは駆け寄ってリクトをぐいっと引っ張った。
「リクト、いこうぜ! おれひみつのかくれがみつけたんだっ」
「え、ほんと! ……でもぉ」
「はっはっは、馬鹿だねぇゼッシュくんは。これからリクトは久しぶりに帰ってきた私と愛の語らいをするんだよ。しょせんその他大勢の一人の君は引っ込んでなさい」
 がっしとオルテガはリクトを抱え込むようにして馬鹿にしたように笑う。ちくしょー、と思ってゼッシュは懸命にリクトの腕を引っ張るが、オルテガはしっかりリクトを抱きこんでびくともさせない。
「リクトをはなせよ、おじさん!」
「君こそ離しなさい。というか君なんぞにおじさん呼ばわりされる覚えはない!」
「へっ、じゃージジイだ! おれとリクトはおないどしなんだもんなっ、おにあいなんだもんなっ」
「りっ、リクトのような可愛い子にはしっかり経験を積んだ大人のリードが必要なんだ! リクトが襲われた時に守ってやれもしないガキはすっこんでいろ!」
「お、おとーさん、いたい」
「ああっ大丈夫かいリクトっ今すぐお父さんがこのガキを追い払って」
 そんなことを言いながらオルテガは体勢を変えようとした。ゼッシュは懸命にオルテガの手からリクトを奪い返そうと引っ張り――
 その瞬間、つるっと足が滑った。
『!』
「あ……り、リクトぉぉぉ! 貴様このクソガキ殺すぅぅぅっ!」
 ばきぃ! と全力で殴られゼッシュは吹っ飛び、部屋の端まで吹っ飛んで気絶したが(よく死ななかったものだと今では思う)たまらなく幸福な気分だった。だって、転んだ拍子とはいえリクトとキスができたし、それ以上に。
「ゼッシュっ! ゼッシュっ! しっかりしてっ」
 リクトの唇のたまらなく柔らかい感触と甘い匂いを思い出して陶然としながら目を開けると、目の前でリクトのたまらなく世界一どんなお姫さまよりも可愛いと言い切れる顔が泣いていて。
「リクト……」
「ゼッシュっ! よかったっ」
 まだ夢見心地のまま声をかけたら、その顔がぱぁっと笑顔になって。
「リクト、だいすきだ……」
 そう訴えながら頭を抱き寄せてまたキスをしたら、リクトは逆らわずにキスを受けてくれて、唇を離したら恥ずかしそうに顔を赤らめてくれて。
「貴様この変態ガキ俺のリクトに許さんんんんんっ!!!」
 また本気で殴られて今度はマジで死んだが(オルテガの呪文で生き返らされたらしい)、リクトはそれから自分が二人っきりの時に「キスしよーぜ」と言うと顔を赤らめながらもこくん、とうなずいてくれるようになったのだから。
 リクトはこの話をするたびに「うああ思い出させるなだってあの頃はまだ子供だったからっ、ていうか八歳になってから断るようにしてたのはお前の記憶には入ってないのかー!」と怒鳴るけれど、そんなのはリクトが恥ずかしがり屋さんだからちょっと意地を張ってしまっているせいだとちゃんとわかっているのだ。

 初めてリクトとセックスをした時のことは昨日のように覚えている。それはゼッシュの人生で最高の瞬間のひとつ。
 十歳のある日。その日もいつものようにリクトと一緒に外に遊びに行ったゼッシュは、幸い二人きりだったので(ゼッシュとしてはいつでも二人きりがいいのに、シャイで照れ屋なリクトは「みんなで遊んだ方が楽しいじゃないか」とか言ってなかなか二人っきりになれないのだ)、秘密の隠れ家に向かった。隠れ家といっても、街外れの空き地にいくつか生えている茂みで囲まれた小さな空間というだけで、雨風をしのぐこともできないが。
(恥ずかしがり屋さんだから)かなり渋々ついてきていたリクトは、隠れ家に着くやリクトに抱きついたゼッシュにばたばたと抵抗した(シャイだから)。
「ちょ、ゼッシュ! 離せよっ」
「リクト、なぁ、キスしようぜ」
「なっ、そーいうことはしないんだって言っただろ何度も何度も! いい加減にしろよ!」
「なんでだよ? 俺はリクトが好きで、リクトも俺を好き。なのになんでキスしちゃいけないんだよ?」
「だって、男同士……ていうかそもそもなんで俺がお前を好きってことになってるんだよ!」
「細かいこと気にしちゃって……本当にお前は気遣い屋さんだなぁ。大丈夫だって愛があれば」
「だから愛なんてないって言ってるだろーっ!」
 リクトはぎゃあぎゃあ喚くけれど(そんな素振りも子猫のようで可愛かった)、ゼッシュは気にしなかった。リクトは自分が大好きなんだとわかってるから。
 だって体を(無理やり)抱きしめて喚いてる口にちゅっとキスをしてやると受け容れてくれるし。
「んっ……」
 気持ちよさそうな声を出されて、ゼッシュはぞくっと腰の奥の方がひどくうずうずするのを感じた。
 それに尻や太腿を撫でながら耳をはみはみしてやると、喘ぎながら体の力を抜いてくれるし。
「んぁぅっ……」
 へたぁ、と自分にもたれかかるリクトにうわーかわいーっ俺のリクトーっ! と内心絶叫しながらもどきどきしながら耳たぶを吸う。
 最近知ったのだが、唇の中に舌を入れて口の中を舐めたりしたらもうとろんとした顔になってなんでも言うこと聞いてくれるし。
「んむ、んく、んはぁ……」
 へろへろになったリクトをそっと草の上に横たえて、ゼッシュは夢中になってキスを続けた。リクトとはもう三桁を超える(四桁かもしれないがゼッシュは百を超えると頭が痛くなってくるので)回数キスをしているが、そのたびにゼッシュは夢中になってしまう。リクトの唇は甘くて、いい匂いがして、柔らかくて、自分をたまらなくとろけさせてくれるのだ。
「リクト、リクト……好きだ、リクト……」
 痺れるような快感の中、ゼッシュはリクトの体をまさぐる。気持ちよくてたまらなくて、リクトが好きでたまらなくて、リクトの体をいっぱい触りたかった。
 背中。太腿。尻。脇腹。胸。それからそれから。
「あっ、んんっ!」
 リクトが今まで聞いたことのない類の声を上げ、ゼッシュはびくん、と震えた。今のリクトの声には、ゼッシュの体をたまらなく熱くさせるなにかがあったのだ。
 ゼッシュはリクトからその反応を引き出した場所を見た。リクトの股間。ちんちんがある場所。そこをもう一度そっと撫でてみる。
「んぁっ! くふ、やぁ……」
 びりっ、と電流が体を走る。リクト、ちんちん触られるの、好きなんだ。そう思ったらぞくぞくっとさっきよりも強い衝撃ともつかない快感が体を走った。
 リクトのちんちん、見たい。
 そんなことを思いつくや、頭の中はその思考だけでいっぱいになってしまった。はぁはぁと息を荒げながらリクトのボタンをひとつひとつ外し(本当なら一気にぶっちぎりたいところだったがリクトの服を破るなんてゼッシュには絶対できない)、上を脱がせ、ああズボンを脱がせなきゃとホックを外して下をずり下ろす。
 パンツ(ちなみに白)だけの姿になったリクトの前はこんもり膨らんで小山を作っていた。それを見てごくりと唾を飲み込み、ゼッシュは震える手でリクトのパンツをずり下ろす。
 そして、それがゼッシュの目の前にさらされた。キスを拒むようになったのと同じ頃から何度頼んでも一緒に風呂に入ってくれなくなったので、二年ぶりに見るリクトのちんちん。それは以前と同じように小ぶりで可愛らしかったが、高々と天を向き、先端からとろりと蜜をこぼしていて、今までのキスで得られたどの反応とも違う明らかな徴にゼッシュはたまらなく興奮した。
 触りたい、と思った。
 手を伸ばし、そっと先端を撫でる。
「あっ、は……!」
 リクトが切なげな声を上げる。い、痛いのかな、と一瞬びくりとしたが、リクトは怒り出しはしなかったのでほっとして今度は全体を握りこむように触れてみた。
「やぁっ、ふぅ……」
 その声の中に潜む陶然とした響きを敏感に感じ取り、ゼッシュは勢いづいた。先端、幹、その下の小さなふぐりの部分にまで揉むように触る。リクトは「やっ、あっ、ひぅっ!」とそのたびに身をよじった。先端からこぼれる蜜が量を増す。
 どんな味がするんだろう。
 そう思ったら顔が自然と近づいた。心臓は破裂しそうなほどドキドキしていたが止める気は微塵もない。
 そこは自分同様皮をかぶっていて、かすかにおしっこの匂いがした。リクトのちんちんからもおしっこの匂いするんだ、と思ったらゼッシュの体の熱はさらに上がる。
 ぱくり、と咥えた。
「んぁあっ!」
 リクトの唇から今までで一番大きな声が漏れる。また一瞬びくりとするが、やっぱり怒られはしなかったので勢いに乗り、先端を舐めてみたり、吸ってみたり、口の中でまわしてみたりと思う存分リクトのちんちんをいじる。
「やっ、はっ、んんっ……!」
 声が上がるたび、夢中になった。少ししょっぱい味のするリクトのちんちん。それを舐めたらリクトはこんなに反応してくれるんだ。それが嬉しくてたまらなかった。
 そして同時に、腰の底をたまらなく疼かせた。むずむずするような、暴れだしたいような感じ。それが俺もリクトにちんちんいじってもらいたい、という気持ちだと気付きゼッシュはごくりとリクトの蜜と一緒に唾を飲み込んだ。
 でも、駄目だろうな、ともゼッシュは思っていた。だってリクトは恥ずかしがり屋さんだから。自分からゼッシュになにかをするなんてことは、照れちゃって絶対してくれないのだ。思わずずーんと肩を落とす。
 と、その時はっと思いついた。俺もリクトの口の中にちんちん入れたらどうだろう? 俺が腰を動かせばリクトはなにもしなくてもいじったのと同じ感じになるはず。あ、でもリクトってばうっかりさんだから間違えて俺のちんちん噛んじゃうかも……。ならそうだ、口の代わりに尻の穴に入れればいいんじゃないか? 同じ穴だし!
 それはとても素敵な思いつきのようにゼッシュには思えた。なにより口と違って、尻の穴に入れればリクトをぎゅうっと抱きしめられる。一緒にリクトのちんちんもいじれる。なんだかまるでひとつになるみたいだ、と思ったのだ。
 リクトのちんちんから口を離す。リクトがなんでやめちゃうの? と言いたげなとろんとした目でこちらを見つめるのに、力強くゼッシュは言った。
「ちょっと待ってろ、すぐもっとすごいことしてやるからな!」
 尻の穴尻の穴、と頭を下げて、ああそうか尻の穴なんだから普通に寝てたら見れないのか、と気付く。一瞬考えて、リクトの太腿をつかみぐいっと持ち上げた。大きく股を開かせて、尻を上に向ける。これでちょうどゼッシュのちんちんの前にリクトの尻の穴がくるようになった。
「……! ちょ、ゼ……!」
 身を起こしかけ叫ぼうとしているリクトの言葉はたぶん照れ隠しだろうと想像がついたので、ゼッシュはかまわずはぁはぁと息を荒げ、心臓をばくばくいわせて、たまらなくドキドキしながらずいっと腰を進めた。
「っ………!」
「ひぅっ………!」
 その瞬間は衝撃だった。熱い。自分のちんちんがとろけるような熱いものに包まれ、締め付けられている。ゼリーのように柔らかくて、ぬめぬめしていて、でもゼリーよりずっとしっかりした厚みのあるもの。
 リクトの尻の中の肉なんだ、と気がついた瞬間、ゼッシュは絶叫しながら猛スピードで腰を動かしていた。
「リクト、リクトぉっ、大好きだ、リクトぉっ!」
「ひっ、やっ、あぁんっ……!」
「すげぇ、気持ちいい、リクト、愛してる、リクト」
「はっ、ひっ、はぁっ」
 初めて愛してるという言葉を使ったのはこの時だった。腰を動かしながらリクトの顔を見つめる。リクトの顔は歪んでいたが、今のゼッシュにはそれが快感からくるのだとわかった。俺のちんちん尻に入れられて気持ちいいんだ、と思ったら脳味噌がとろけそうなほど熱くなった。
「リクト……!」
 好きだ、大好きだ、愛してる。この気持ちをめいっぱい表したくて、ゼッシュはリクトのちんちんに手を伸ばした。ぎゅっと握ってしゅっしゅっと上下に動かす。そうするのが正しいのかどうかわからなかったが、そうしたらもっと気持ちよくなってくれるんじゃないかとなんとなく思ったのだ。
 そうすると、リクトはひどく切なげな顔でゼッシュを見つめ、小さく震えるたまらなく可愛い声で自分の名を呼んだ。
「ゼッ……シュぅ……」
「リクっ……!!」
 その瞬間、ゼッシュはリクトの中に人生初めての射精を行った。たまらなく幸福な気分だった。間違いなく人生最良の瞬間のひとつだと思った。だって、リクトと自分が、本当にひとつになった最初の瞬間だったのだから。
 リクトはそう話をするたびに「勝手なこと言うな俺はイってな、いやていうかそもそも許可を得ずに押し倒しておいてなんなんだその身勝手台詞ぅぅぅ!」と怒鳴るのだが、本当はゼッシュと同じ気持ちでいるのに素直に言えないだけだとちゃんとわかっているのだ。
 ……それは、まぁ、今考えたら先にイったのはまずかったなー、とは思うのだけど。

 リクトとの思い出は他にも山ほどある。初めて手を繋いだ時、初めてぎゅっと抱きしめた時、初めてリクトを後ろでイかせた時、初めてフェラしてくれた時、初めて後ろからヤった時上に乗ってくれた時立ちながらヤった時他にもいろいろ。
 リクトとの一瞬一瞬、すべてが自分にとっては宝物だ。そしてその一瞬一瞬ごとに、自分はリクトに何度も恋をして、何度も自らを縛る鎖を太くする。
 確かに自分は囚人だ。リクトへの愛で、誰よりも深く、長くリクトに囚われている。
 けれど自由にしてくれると言われても、万度繰り返しても自分は否と答えるだろう。孤独な自由よりもリクトと一緒の呪縛がいい。この囚われの生活以外自分はほしくない。世界の誰より愛する可愛いリクトに囚われている、自分は誰よりも幸福な囚人だと知っているのだから。
「……だから、なに?」
「だからリクト、俺が不幸かどうかなんて気にしなくていいんだぞっ? 実家の家族は兄ちゃん姉ちゃんが面倒見てくれるし!」
「そーいうこと言ってんじゃないよ俺はただ家の方大丈夫なのって聞いただけだろなんで押し倒されなきゃならないんだよー!」
「だって、リクトが俺のこと心配してくれたんだぞ? 俺すっげー嬉しいもん! だからキスしたいって思ったし、セックスしたいって思った! 別におかしいことじゃないだろ?」
「おかしいよ俺はしたくないって言ってんだろ俺たちは夫婦でもなんでもないんだぞ同意を得ろよ同意を、ていうか俺は男とセックスする気は微塵もないんだってばー!」
「リクト……好きだ、リクト……」
「聞けよ人の話――――!!」
 じゃきん。リクトにキスしようとするゼッシュの目の前に、短剣と杖が突き出された。
「貴様、いい度胸だな。犬の分際で見張り番をサボって俺の肉奴隷に手を出すとは」
「リクトは嫌がっている。その手を離せ」
 きっ、とゼッシュは杖と短剣の持ち主、エイルとジェドを睨みつける。こいつらさえいなければ俺とリクトは二人っきりだったのに。
「俺とリクトの愛の触れ合いを邪魔する気か!?」
「笑わせるな、どこに愛がある。一方通行の分際で喚くな」
「……馬鹿が」
「てっめぇらぁぁぁ!」
 ゼッシュは素早く立ち上がり腰の銅の剣を抜く。エイルとジェドも武器を構え、戦いが始まった。
「待ってろリクト、今すぐこいつら片付けてやるからな!」
 にっと笑いかけたゼッシュは、リクトが深々とため息をつき、「また始まった……ていうかマジ旅進まないんだけど? まだナジミの塔にも行ってないのに仲間との同士討ちで教会に担ぎ込まれること二桁ってどういうことだよ……」などと呟いているのには当然全然気付かなかったのだった。

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