それは母の乳房にも似て
 マルチェロが――兄貴が去っていくのを、俺はぼうっと見つめた。
 それは刷り込みのようなものだったかもしれない。たぶん兄貴のあの優しさには、大した理由なんてなかったのだろう。俺が女を口説くのに大した理由がいらないように。
 俺は兄貴に憎まれていた。いや、ただ憎まれているならそれだけ俺を見てくれているのだと心の慰めようもあった。だが兄貴はあくまで他人として俺を憎んだ。弟ではなく他人。ただの邪魔な存在として。俺の存在など歯牙にもかけずあくまで自分の道を進んでいったんだ。
 それが、あの法皇の館ではっきりわかった。わかったのに。
 俺はマルチェロを、憎むことも無視することもできなかった。助けたかったこっちを向かせたかった愛したかった。
 愛されたかった。
 家族だから。たった一人の。俺に優しくしてくれた家族だから。
 たとえ、その優しさになんの意味も理由もなかったとしても。
「………ククール」
 服の裾を、くいくいと引っ張られた。
 ――ユルトだった。
「……ああ、うん。別に。どうってことないさ」
 ぼうっとしたままそう言って、兄貴の去った方向を見つめ続ける。
「ククール」
 もう一度、今度はもう少し強く言われ引っ張られた。
「…………。悪いな。何か話したいなら他の奴をあたってくれ」
 別にひどいことを言ったというつもりはなかった。その方がこいつにもいいだろうと思ったし、この程度毒舌と言うには優しすぎる。俺の普段からすれば、こんな状態なのによく気遣ってると言ってもいいくらいだ。
 だが、ユルトはその言葉にむっと、その童顔を思いきりしかめ、舌を突き出した。忌々しげに。
「べえぇぇ―――っ、だ!」
 …………。
 なんだそりゃ?
 俺がぼうっとそんなことを考えていると、ユルトはくるりと俺に背を向けて歩き出した。崩壊した聖地ゴルドの中心地の方へ。
 歩きながらみちみち怪我を負った人間に回復呪文をかけている。崩壊に巻き込まれた奴らを助けようとしているんだろう。ゼシカやヤンガスもそれに続いていた。
 その姿をやはりぼうっと見つめる。するとユルトはふいに足を止めて、だだだっと俺のところまで駆け戻ってくると、珍しいことにひどく不機嫌な顔でぐいっと俺の手を引っ張った。
「ククールもやるの!」
「………わかった」
 体を動かしていた方が気が紛れるかもしれない。俺はユルトのあとについて、怪我人の救出に向かった。

 怪我人の救出が一通り終わると、俺たちはトロデ王も交えてこれからどうするか話し合った。ラプソーンはあの空中に浮かぶ都市の中にいると考えるのが妥当だろう。すぐにでも空を飛び、そこに向かおう――というゼシカの主張に、ユルトはきっぱり首を振った。
「三角谷で一日休んでからにしよう」
「そんなことをしている間にラプソーンが暴れ出したらどうする気!? 確かに少しは魔法力とか減ってるけど、どうせマルチェロは弱かったし魔法の聖水もエルフの飲み薬もいっぱいあるんだからそれを使えばいいじゃない!」
 ゼシカはそう強硬に主張したが、ユルトも頑固だった。
「ダメ! 三角谷で休むの!」
 きっぱりはっきりそう主張して一歩も退かず、二人は壮絶にぶつかりあった。おろおろするヤンガス、眉間に皺を寄せるトロデ王。十分近くぶつかり合って、トロデ王が「まぁ、最後の戦いじゃ。英気を養っておくのもいいのではないか?」とユルト擁護に回ったのをきっかけに、ゼシカも渋々自論を引っ込めた。
 俺はそれを人事のように眺めていた。ラプソーンはずっと追ってきた敵のはずなのに、自分とはまるで関係のないことのようにしか感じられなかった。
 俺の頭の中は、ただ、『兄貴は結局俺に優しい言葉のひとつもかけてくれなかった』ということだけで占められていたのだ。

 三角谷ではいつも通り、魔物たちが辺りをうろついていた――だがその雰囲気はかなり騒然としていた。ラプソーンが蘇ったというのはやはりここの奴らにはわかるんだろう。
 ラジュさんに会うよう求められ、全員で向かったものの大した意味はなかった。ラプソーンを復活させてしまった俺たちはただ平謝りするしかなかったし、ラジュさんも責めはしなかったもののなにか役にたつことを言ってくれもしなかったからだ。
 俺たちは魔物と人の間を通り抜けて(エルフは三角谷でも数が少なく、ラジュさんの周りにしかいないようだった)宿屋に向かった。ここの宿屋は小さくて武器屋やら防具屋やらと敷地を共有していて、寝る時もカーテンで囲うだけなのでプライバシーがほとんどない。だから俺はここの宿屋はどんなに安くてメシがうまくてベッドが気持ちよくてトロデ王も一緒にベッドで泊まれても、好きじゃなかった。
 だけど、そんなことはどうでもいいことだ。だって、俺の人生はもう終ったようなもんなんだから。
 たった一人の兄貴にも、俺は愛されなかったんだから。弟と認めてもらうことさえなかったんだから。
 ――惚れた相手にだって、相手にされなかったんだから。
 そんなことを考えながら夕食と風呂を終えベッドに寝転がる――と、いきなり目の前にユルトのでかい瞳が現れた。
「…………なんだよ」
 ぼそっと愛想なく言うと、ユルトもしごく珍しいことに愛想のないぶっきらぼうな声で俺を睨みながら言った。
「話があるんだ」
「……悪いが、明日にしてくれ」
「今話したいんだよ」
 その声はぶっきらぼうではあったが、なんとしても話し合うという強烈な意思を感じさせた。
 俺は反抗するのが面倒になって立ち上がった。早く済ませて、また昏い情念の闇に沈んでいきたい。
「どこで話すんだ?」
「教会の裏がいいと思う。あそこ人こないみたいだし」
 俺たちはさりげなくこちらの様子をうかがうゼシカたちにことわって、宿屋の外へ歩き出した。夕暮れ近くの朱色の光が目を刺す。
 ここ三角谷は山間に流れる川の上の崖の中に作られた村なので、建物の中から出れば見事な景観が目に飛び込んでくる。初めてここに来た時はユルトと一緒に崖の下を眺めながら声をこだまさせたりもした。
 だが、今は当然そんなことはせず、俺は黙ってユルトのあとについて歩く。
 柄の悪いベビーサタンが司祭を勤めている大きな教会の裏は、ユルトの言った通り人がいなかった。そしてどこからも視線が通らない。
 確かにこれなら内緒話をするにはうってつけかもしれない。俺はそんな話につきあう気はさらさらなかったが。
「……話ってなんだ」
 俺は愛想のない声で言った。放っておいてほしい。俺はもう、たった今死んでもかまわないような人間なのだから。
 ユルトは、そんな俺をぎっと睨むと、つかつかと歩み寄り――俺に、めちゃめちゃねちこく激しい、ディープキスをかました。
「…………」
 俺は一瞬目を丸くしたが、次の瞬間には舌を動かしていた。これはもうほとんど本能に近い。舌を絡めあい、頬の内側をつつき、歯裏をなぞって軟口蓋と硬口蓋を撫で――
 そしてもちろんユルトにもその全てを思いきり激しくやられた。
 不覚にも頭がぼうっとしてきた頃、ようやくユルトは唇を離し、俺を見上げた。その顔が、やたらと嬉しそーににへーっと緩む。
「よかった。ククール、ちゃんとキスしてくれた」
「………なんだよそりゃ。なにがしたかったんだお前は」
「ククールをこっちに向かせたかったんだ」
「―――」
 そんな、唐突にかわいいことを言われても。
 ユルトはそう言ってから不機嫌な顔に戻って、むっとしたように言う。
「ククール、煉獄島でもちょっとそうだったけど、もうなにもかもどうでもいいやーみたいな顔してマルチェロさんの方見てるんだもん。もうすんごい腹立ったんだからね」
「……なんでお前が腹を立てることがあるんだ」
 俺はユルトの言葉に心臓を跳ねさせながらユルトを見返して言った。いまさらのように、こいつが好きだと、恋愛感情で好きだという思いが思い起こされて。
 ユルトは、当たり前のことを言う口調できっぱり言った。
「腹立てるに決まってるじゃない。僕はククールが好きなんだから」
 ――もしかして。この天然にそんなことを期待しちゃいかんというのは重々わかってるが、もしかして。
 こいつは、俺のために―――
「……嫉妬、したのか?」
 内心おそるおそる聞いた俺に、ユルトはきょとんとした顔で答えた。
「嫉妬? なんで?」
「…………――――」
 俺は顔は無表情だったが、内心がっくりと膝をついていた。やっぱりな。こいつは俺のことなんかただの仲間としか思っちゃいねぇんだ。
 マルチェロに無視されたのがひどくこたえたのも、人生が終ったかのように思えたのも――半分くらいはこいつになんとも思われてないせいなのに。こいつは平然とした顔で俺の気持ちを無視するんだ。
 悔しい。悔しい。こいつが憎い――そんな感情が熾火のように、底の方から湧き上がってきた。
「頼んでねーよ」
「え?」
「腹立ててくれなんて頼んでねーっつーんだよ!」
 俺はどん、とユルトを力をこめて突いた。ユルトが数歩後ろに下がり、驚いたように俺を見上げる。
「俺は別にお前になにかしてくれなんて一言も言ってねーよ。勝手に俺のしてほしくもないことすんじゃねーよこのおせっかいヤロー! てめぇが他人の揉め事に首突っ込むのは勝手だけどな、俺のプライバシーにまで口出しすんな。すっげー迷惑なんだよ!」
 ユルトはしばし目を丸くしながら俺の言葉を聞いていたが、すぐにきっと俺を睨み上げて言い返してきた。
「頼まれてなくても僕するもん! したいもん! ククールが苦しそうなの放っておくなんて絶対やだよ!」
「それが余計なお世話だっつってんだ。俺は自分のことは自分でできるんだよ!」
「嘘つき! マルチェロさんに冷たくされただけでめちゃくちゃ落ち込んでたくせに!」
「――――」
「なんであんな人に優しくされなかったぐらいで落ち込んじゃうわけ!? あんな頭悪くて意地悪で根性曲がってる取り柄といえば顔しかもおでこより下ぐらいのM字ハゲイヤミ男に!」
「――あのなぁ! 兄貴は確かに根性曲がってるけど、頭は――」
「悪いじゃない! 一見正しそうに見える理屈振りかざして悪いことしてさ! 自分の頭の中で考えた理屈だけが正しいと思うなんて馬鹿以外のなにものでもないでしょ!?」
「あいつの言ってることは間違ってなかったろうが!」
「間違ってなければ人殺していいわけ、人虐げていいわけ!? 普通に暮らしてる人たちには統治者なんてまともに仕事してさえくれれば誰でもいいのに、それ無視して自分の理屈押し付けてさ! 血に反抗するのは勝手だし間違ってないけど、結局あの人のやってることって独裁じゃない!」
「――――」
「大体あの人って与えられないものをひがんでただけじゃないの!? たかが馬鹿な父親に捨てられた程度で拗ねちゃってさ、血に一番こだわってるのあの人じゃない! オディロ院長っていう優しくしてくれる人が絶えずそばにいたのに、ひねくれちゃってばっかじゃないの!? 世界なんて冷たいのが、優しくないのが、理不尽なのが当たり前なのに!」
「たかが、だと―――!?」
 俺はカッとして拳を振り上げた。それは許せない。あいつの人生を歪めたことを、なんでもないことのように扱うのは許せない。
 だが俺の拳はユルトに当たる前に受け止められた。きっとこちらを睨みながらぐぐぐと俺の拳を押し返すユルトに、俺は腕に渾身の力をこめる。
 ――しばらくそのまま押し合って、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。なんで俺たちがマルチェロのことで喧嘩しなきゃならないんだ。
 手から力を抜くと、ユルトも俺の手を放した。だが俺の目から視線を外そうとはしない。
「……なんだよ」
 ぶっきらぼうに言うと、ユルトはまっすぐ俺の目を見つめたままで言った。
「僕、あんな人のためにククールが苦しむのいやなんだ」
「……………」
「ククールがあの人のこと好きなのは、しょうがないけどさ。いやだけど。でも苦しんでたら放っておけないよ、絶対。助けたいって思う」
「……仲間だから、だろ?」
 俺はお前に、ただの仲間とだけしか扱われないのは嫌だ――そう続けるべきかどうか迷いつつそれだけ言うと、ユルトは首を振った。
「違うよ。僕がククールのことをだいだい大好きだからだよ」
「…………」
 そのガキっぽい台詞に、俺は一瞬反応を忘れた。
 だいだい大好きって……なんじゃそりゃ。
「……お前は俺のことをただの仲間としか思ってないんだろ?」
「ただの仲間……って、なにそれ。あ、わかった、仲間っていうだけじゃ特別扱いって感じがしないから拗ねてるんでしょ」
 う……確かにそうとも言えるが……なんでお前はそうてらいがないんだ。
 ユルトはにこにこっと笑顔を浮かべて言う。
「僕にとってククールはね、ものすごーく特別な相手だよ。世界で一番好きな人の一人だ。だってずっと一緒に旅をしてきて、一緒に寝起きして同じ釜のご飯食べて、何度も助けて助けられてってやってきたんだもん。セックスもしたし」
「…………」
「だから困ってたらいくらでも力を貸すし、頼まれなくてもおせっかい焼きたいって思う。僕、ククールにすっごく幸せになってもらいたいもん。だからそのためならいくらだって頑張る。僕、ククールのこと大好きだもん」
 ああ―――
 俺は苦笑していた。まいるよなぁ。これ本気で言ってんだぜこいつ。
 こいつがどう考えて感じてるかよくわかる。こいつのことだから。こいつにとって俺は大好きな仲間≠フ一人にしかすぎないくせに、本気でいくらでも俺のために尽くそうとしてるんだ。
 俺のためにフォローして、俺のために傷ついて。俺が大好きだって平然とした顔して言い放って、その気持ちだけのために死力を尽くして俺を守ろうとする。
 ――俺がこいつを好きになったのは、たぶん、こういうところだ。
 こんな俺でも軽々と懐に入れてしまえるところ。母のような家族のような愛情を容赦なく注いでくれるところ。俺で幸せになるのじゃなく、俺を幸せにしようと力を尽くしてくれるところ。
 我ながら因果な性分してんな。こういう奴じゃなきゃ惚れなかったくせに、そこが不満だなんて。
 俺はユルトを抱きしめた。最初はそっと、次第に強く。
 ユルトもちょっと笑って抱き返す。同じぐらいの力をこめて。
 自分の目から涙がこぼれるのを自覚した。俺は、生きていける。
 こいつが俺に愛情を注いでくれるから、生きていける。
 不幸なのか幸福なのかもわからない気分でそう思い、ユルトに頭をこすりつけた。
「ユルトー」
「なに?」
「セックスしようぜー」
「…………」
 ちょっと沈黙があって、それからユルトはくすくすっと笑ってうなずいた。
「うん。しよっか」
 俺はユルトからいったん体を離した。そしてユルトをじっと見つめる。
 ユルトはにこにこしていた。……こんな天然な面して、スキモノなんだよな、けっこう。エロいし。だからこういう時は話が早い。
 そーいうとこも好きだ。
 俺はユルトにキスをした。強く、弱く。唇を離しては触れさせ、舌を絡めては離し、というのを繰り返す。
 ユルトもそんな俺に応えた。ちゅ、ちゅぷ、と唾液と唾液が混ざり合う音が立つ。
 外だし、立ったままだから、体中を舐めまわすことはできない。だけど諦めきれなくて、わずかに胸もとを開いてそこに跡をつけた。
「痛っ……なにしたの?」
「印つけたんだよ」
「印?」
「そ。所有印」
 そう言って笑うと、わかってんだかわかってないんだかユルトも同じように笑った。
 ……そういやキスマークなんてつけるの久しぶりだな。誰かを所有したいと思ったのも、所有されたいと思ったのも。
 ――これほど強い思いは、生まれて初めてかもしれない。
「俺にもつけて」
「どうすればいいの?」
「肌に唇つけて思いきり吸やあいいんだよ」
 ユルトはちょっと首をかしげると、にっと笑って首筋に吸いついた。目立つとこだったんでちょっと焦ったが、気にするのはやめた。今はバレることを心配するよりも、幼い情熱に身を任せていたい。
「きれいについた」
 ユルトは笑った。
「なんか、気分いいね」
「だろ」
 笑いあいながら手早くお互いの下半身の服を脱がす。俺は前をくつろげただけだが、ユルトは下半身を完全に露出させた。わずかにかかる上着以外は。
 ……やべぇ、俺めちゃくちゃ興奮してるかも。セックスなんてこいつとのだって一ヶ月以上ごぶさただし。
「ククール……舐めていい?」
 ユルトの声にも興奮が滲んでいて、俺は思わず勢いよくうなずきそうになったが、必死に理性を働かせて首を振った。
「俺にさせてからにして」
 先にみっともなくイっちまいそうで怖いし――久しぶりの射精はやっぱりユルトの中がいい。
 俺はユルトに後ろを向かせ、教会の壁に寄りかからせた。手はフリーだ。
「……お前の尻の穴、見せてくれ」
「え?」
 こっちを向いているユルトの顔がわずかに上気する。こいつでも照れることあんだ、とぞくぞくするような快感が走った。
「えーと、ククール、見たい、の?」
「ああ。すんげー見たい」
 にやにや笑いながらそう言うと、ユルトは上体を下げつつ、顔はこちらを向いたままで、おずおずと尻たぶを割ってアヌスを俺の眼前に晒した。
 ……数ヶ月使いこんであるだけあって、ピンクと赤の中間ぐらいの色をしていた。使い古されたってほどじゃないが、処女の初々しさはない。
 でも、綺麗だ。
 俺はたまらない興奮に導かれ、腰を落としてその場所に唇を寄せた。
「え、ククール、ちょっと!」
 慌てたようなユルトの声を無視して、俺は容赦なくその場所をねぶった。中にも舌を差し入れ、唾液でべとべとにする。
 俺にスカトロの趣味はない。だからこんなこと今までしなかった。事実やりながら時々苦い味が舌を刺す。
 だけど、そんなのもうどうでもいいぐらい、俺はユルトに酔っていた。こいつの与えてくれる幸福な感情に。
「くく……や、あ……ん……」
 アヌスが柔らかくなってきたのを見計らって、指も同時に挿入する。ユルトの中を広げながら、感じるところを的確に突いた。
 もちろん唾液はすぐに乾くから潤滑油にはならないが、指を挿れられるぐらい湿らせることはできる。気がすむまでユルトの内外をねぶると、最後に尻たぶにちゅっとキスをして唇を離した。
「あ……やべ……」
 こんなことになると思ってなかったから香油とか持ってきてない。ユルトに痛い思いをさせたくはない、けど心は今すぐにでも突っ込みたいと言ってるし、と焦る俺に、ユルトはすっとポケットから小瓶を取り出した。
「これ……使う?」
「あ……香油じゃん。持ってきてたのか」
「うん。こういうことになったら嬉しいなって思って」
「………スキモノ」
「スキモノってなに?」
「スケベってことだよ……それ貸して」
 俺は香油をたっぷりと取ってユルトの中に塗りこめた。ユルトの後孔の襞一枚一枚に香油を塗ってぬるぬるにする。
「ん……はぁ、ん……くくー、る、もっと、奥……」
 喘ぎながら潤んだ瞳で俺を見つめ、たまらないという顔でおねだりするユルト。その顔ははっきり言ってめちゃめちゃエロい。
「挿れてほしいか?」
「うん……挿れて……」
「俺がその気になるようにおねだりしてみ」
「おねだり……」
 ユルトの瞳が一瞬考えるように揺れて、それからひどく淫らに笑んだ。すっと尻たぶに手を伸ばし、ぐいっと割って、てろてろいやらしく光りながらぱくぱく口を開けているアヌスをあらわにする。
「お願い、ククール……僕のここに、ククールのおっきいの、挿れて……」
 ………う。
「ククールので、僕の中、いっぱいにして……僕の中に、いっぱい、出して……」
 ……このヤロ、思いっきり挑発しやがって……いや俺がやれっつったんだが、普通初心者がこーまでやらしくおねだりするか!? 興奮が加速したじゃねぇかこのヤロ!
「そんな風に挑発すると手加減できなくなるぞ」
「しなくていい。手加減なしで思いっきり、して……」
 そう潤んだ瞳で誘うユルトの、少しずつゆらめく尻も顔も、もうどうしようもなくエロくって――
「……知らねぇぞこの馬鹿!」
 俺は歯噛みしながらあっさり挑発に乗った。ユルトの突き出された尻に体を密着させ、一突きで奥まで挿れる。
「あ、はぁ、あ!」
 ユルトが嬌声を上げる。それにさらに煽られて、思いきり腰を引いては勢いよく一番奥の急所に打ちつける、強烈なストロークを繰り返した。
「あ、や、は、ん、や、はぁっん!」
 ユルトのわずかに開いた口から漏れる喘ぎ声。快感に堪えて震える体。俺のペニスをキュウキュウと緩急自在に締めつけてくる後孔。その全てがたまらなく俺の体に快感を導き、俺は内部の襞に愛撫されながらペニスを何度も抜き差しした。
「くく、る、きも、気持ちいいっ?」
 喘ぎながら突かれながら荒い息の下からそう訊ねるユルト。俺はもうたまらなくなってユルトのペニスを勢いよく扱きながら抱きついた(その間も腰は止まらない)。
「ああ、気持ちいいぜ! 死ぬほど気持ちいい! お前は気持ちいいか!?」
「きも、気持ち、気持ちいいっ! おねが、くく、中に、僕の中に、いっぱい、いっぱい出し、て、あ、あ、あ、あ―――っ………」
「…………っ!!」
 言葉と体にめちゃくちゃに煽られて、どうしようもなく昂ぶって――それでも必死に耐えて、ユルトが射精した直後に俺も射精した。一ヶ月分の溜まりに溜まった精液が、ユルトの中にたっぷりと注がれる。
 ――数分間、俺たちは無言でたまらない快感の余韻に浸った。
「は………あ、ん」
 俺がペニスを抜く瞬間、ユルトは切なそうな声を上げて後孔を締めつけた。抜こうとしていたペニスがうまい具合に愛撫され、俺はまたも勃ってきてしまう。
「……こら。煽んな」
「煽るって?」
「穴締めんな。色っぽい声上げて挑発すんな」
「僕、色っぽい? えへへ」
 俺の方を振り向いた無理な体勢で笑うユルト。ちくしょうカワイイ。また興奮してきちまうじゃねぇか。
「またしたくなっちまうだろ。そういうことされると」
「え……しないの?」
 …………。寂しそうに言うなよこいつは〜。
「だって、一ヶ月ぶりだし……もうちょっと、しない?」
「……しょうがねぇなお前は……このスキモノ」
「スキモノだもん」
「淫乱。助平」
「ククールだってそうなくせに」
「確かに」
 笑って俺はユルトの後孔からペニスを抜いた。寂しそうな声を上げるユルトをちゃんと立たせてお互い向かい合う。
 ユルトも俺の意図を悟ったらしく、ちょっと笑って目を閉じた。そのピンク色の唇に、俺は少しずつ唇を近づけ――
「キキーッ! いい加減にしろよこの罰当たりどもが」
 上から降ってきた声に、俺は仰天しつつ飛び退った。慌てて身づくろいをしつつ上をみると、教会の屋根から司祭をやってるベビーサタンが人の悪い(つってもベビーサタンの表情なんて俺にはよくわからんけど)笑みを浮かべて俺たちを見下ろしているのが見える。
 顔面蒼白になる俺に、ベビーサタンはにやにやと笑いながら言う。
「でかい声であんあんよがりやがって。ここは教会だぞ罰当たりヤローども。ちったぁ状況考えやがれ」
「す、すいません……」
「ごめんなさい……」
 小さくなって謝る俺とユルトに、ベビーサタンは舌打ちした。
「キキーッ! 謝るくらいなら最初からやんじゃねぇよ。……おい、そっちの。ケツ穴からザーメンが垂れてるぞ」
「え……うわ」
 慌てるユルトに、俺も慌てて布をユルトの後孔に当てた。やっぱまずかったかな、青姦で中出しは。
「ったく、しょうがねぇ野郎どもだぜ。おい、お前ら。俺の入ったあとの風呂がそっちの裏にある。きれいに後片付けするってんなら使っていいぜ」
「ホントですか!? ありがとうございます」
「ただし! 一人ずつだぞ、風呂入りながらおっぱじめんじゃねーぞ!」
「はい!」
 嬉しげに笑うユルトにふんと鼻を鳴らして、ベビーサタンは姿を消した。………はーマジ焦った………。
「ラッキーだったね」
「もうできないのは残念だけどな」
「そうだね……しょうがないよ、明日ラプソーンを倒したあと、いっぱいしよ?」
「そうだな」
 ひどく安らいだ気持ちで俺はユルトに笑いかけた。ユルトも嬉しげに笑い返す。
 こいつは俺のことを仲間としか思ってないかもしれないけど。でもこいつは俺のことを容赦なく愛してくれる。
 今はそれでいい。こいつとこんな風に、セックスして愛しあって笑いあって、そういうのを続けていければいい。
 それで俺は、生きていくことができるのだから。そんな風に思って、笑うユルトに素早くキスをした。

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