この作品には男同士の性行為を描写した部分が存在します(ぬるいものではありますが)。
なので十八歳未満の方は(十八歳以上でも高校生の方も)閲覧を禁じさせていただきます(うっかり迷い込んでしまった男と男の性行為を描写した小説が好きではないという方も非閲覧を推奨します)。





破れ、砕け、壊て

「俺がエトリアにやってきたのは、十五歳で大学に入学した時頭に浮かんだある映像のせいだ」
 唐突に話し出したディックに、アルバーはわずかに眉を寄せ隣のセディシュの方をちらりと見た。セディシュはというと、いつも通りのきょとんとした顔で周囲を警戒しつつ歩を進めている。
「まず浮かんだのは文字だった。ATLUS。暗闇をバックにそう文字が浮かんだ。Tの字が赤くなってて、それ以外の文字は青。角ばった形にレタリングされていた」
 場所は第四階層、枯レ森。からからに乾いた、砂地と枯れた木々の階層だ。メンバーは自分、セディシュ、ディック、クレイトフ、それから新メンバーのレヴェジンニ。紫色の髪をお下げにしていて、真っ黒くてボロボロのマントと鎖を身に着けた幼女だ。はっきり言って死ぬほど怪しいが、彼女のカースメーカーとやらいう職業はこれが普通なのだそうで、今のところは役に立ってもいないが足を引っ張ってもいない。
「それからその文字が消えて、世界樹の迷宮≠ニいう文字が浮かんだ。丸みのある、ちょっと植物を思わせる凝った形にレタリングされていた。それから下に文章。『深き樹海に総ては沈んだ……。』から始まって、現れては消え現れては消えを繰り返す九行の文章だ」
 こいつ、なにが言いたいんだろう。アルバーは困惑しつつ他の面々の表情をうかがった。セディシュはいつも通りのきょとんとした顔で、クレイトフは少しばかり眉がもの問いたげに動いてはいるがいつもの笑顔、レヴェジンニはまったくの無表情。少なくとも即座になに言ってんだよと言ってくれそうな顔はしていない。
「文章が止まった、と思ったらすべてがホワイトアウトして、次の瞬間森を背後にした小高い丘の上に立つ、おそろしく大きな樹が見えた。その樹の周囲をぐるぐる回るように映し出される映像、それを背景にして世界樹の迷宮≠フ文字が飛び出ていた」
「あのさ、ディック。お前、なに言ってんのか、俺さっぱりわかんねーんだけど」
 きっぱりと、できるだけ感情を乗せずにそう言い放つ。感情を乗せたら、カッとなってしまいそうで怖かった。探索中に刃傷沙汰なんて、死んでもごめんだ。
 が、ディックはアルバーの声を無視して、言葉を続けた。
「その少し下には○の中にCが書いてあるっていう妙な文字からATLUS、小さく空間を開けて2007と白く小さな文字で書いてあって、その下に映像の下部分をだいたい三分割する形で細い棒状の空間が横に伸びてた。そしてその中に、上から順にNew Game∞Load Game∞Option≠ニ緑地に白抜きの文字で書いてあったんだ」
 アルバーは当然ながら、ムッとして鼻を鳴らしそっぽを向いた。こいつの、ディックの意味のない話なんて、聞きたくはない。
「その棒状の空間は、俺が意識を向けると黄色に染まった。文字は黒くなった。最初そういう風になってたのはNew Game≠フ部分だったんだが、別の部分に意識を向けるとそちらにそういう状態が移るんだ。焦点が動く、みたいに。選択しろ、と告げているように、俺には思えた」
「……それで?」
 クレイトフが静かに問う。なんでそんなこと聞くんだよ、とアルバーは顔をしかめたが、クレイトフは静かにディックの方を見る。ディックは答えようとするように口を開いたが、ふと手を上げてクレイトフを押し留めた。
「続きはまたにしよう。魔物が近づいてきてる」
 だったら最初から話すなよ、と心底イラッとしたが、ぐ、と奥歯を噛み締めて剣の柄を握り締めた。魔物に備えて構えなくちゃならない。
 ふと、セディシュと目が合う。セディシュはいつも通りのきょとんとした顔でこちらを見るが、アルバーはぎりっと音が鳴るほど奥歯を噛んで目を逸らした。
 このままじゃ、ダメだ。そんな言葉ばかりが、頭の中でわんわんと鳴っていた。

 ここ数日、フェイタスはB16Fを中心に迷宮内をぐるぐる回っていた。B16Fから先には進んでいない。どこを調べても下りる階段らしきものがないのだ。ツスクルから呪い鈴をもらった奥の木に怪しげなくぼみがあったので、そこをどうにかすれば先に進めるのかもという意見も出たが、どう『どうにか』すればいいのかという当てがなかったのでひたすら迷宮を歩き回るしかない。
 新メンバーであるレヴェジンニのレベル上げも兼ねて、ということでしばらく酒場の依頼をこなしつつひたすら歩き回っていたのだが、当然ながらそればかりでは新鮮味がないしストレスも溜まる。自分はほぼ毎回探索に参加しているので、強くそう思った。
 参加するときはいつもセディシュと、ディックと一緒になので、ことさらに。
「………っ」
 ぎりっ、と奥歯を噛み締めながら、アルバーは手の中の剣を振り下ろした。ぶんっ、とわずかに耳障りな空気を裂く音が立つ。
 場所は屋敷の庭、ディックが世界がなんたらとかいうことを言い出してから、いつも取られるようになった街に戻ってきた際の休憩時間。なにをやっても時間が過ぎないので、それぞれ好きなことを好きなだけやっていいと定められている時間だ。
 この時間を、アルバーはいつも剣の稽古に使っていた。他にすることもないし。イライラを解消するにはちょうどいいし。自分をかまってくれるような奴も、もういないし。
「………っ!」
 かぁっ、と首筋が背中から熱くなっていくような感覚に耐えきれず、アルバーはぶんっ、とまた剣を振るった。それでもやはり好調時に剣を振るう時いつも聞こえるような、空気を斬る気持ちのいい音は聞こえない。それにもさらに苛立ってアルバーはぶんっ、ぶんっと剣を振り回した。
「精が出るねぇ」
 かけられてきた声に一応振り向く。予想通りの姿にアルバーは眉を寄せた。クレイトフがそこに立っている。いつも通りのへらへら笑顔で。
「なんだよ。なんか用か」
「んー、用ってほどでもないんだけど。なんか煮詰まってるなー、って思ってさ。つい声かけちゃった」
「……別に……俺に声かけなくたって、いーよ。他に助けが必要な奴、いるだろ。そいつと話せばいいじゃん」
「残念ながら、今俺の目の前にいるのはお前さんだけだね」
 ぽろろん、とリュートをかき鳴らしながらクレイトフは笑い、「座っていいか?」と訊ねてからアルバーのすぐ隣の石段に座った。そんな風にされるとアルバーもなんとなく相手しなくては悪いような気分になり、剣を鞘に収め、汗を拭いて隣に座る。
「ん? 稽古はいいの?」
「……ああ」
「ふーん。なんというか、すっごいすっきりしてなさそうな反応だねー」
「…………」
「セデちゃんとディッたんのこと、そんなに気になる?」
「っ!」
 アルバーは思わずばっと立ち上がりかけて、クレイトフが思いのほか真剣な顔でこちらをじっと見つめているのに息をつき、のろのろとその場に座り直した。
 ……実際、誰かに話を聞いてほしい気分では、あったのだ。
「……なる」
「ふぅん。ディッたんは別にやましいことはなにもしてない、単にオハナシしてるだけだって言ったけど?」
 アルバーは唇を噛む。街での休憩時間の間、家事をしていない時はディックはいつもセディシュを部屋に連れ込むようになっていた。アルバーが忠告を受けた日から、毎日のように。
 なにをやっているかは聞けなかった。ディックのセディシュに対する素振りも大きく変わったというわけではない。だからクレイトフが聞いたように、ただ話をしているだけなのかもしれないとも思う、けれども。
「でも、すげー、気になる」
「なんで?」
「絶対ヤってねーとは、思えねーし……それに」
 言う前にはさすがに逡巡したが、本人に言ったんだから他に何人言っても一緒だ、と開き直り顔を上げて言い放つ。
「俺は、セディシュが、好きだから。二人っきりでなにしてるかとか、すげー気になる」
「おおー。言い切ったか。そこまできっぱり言うってことは、やっぱもー本人に告白してんだ?」
 ぶっ、と思わず吹き出してから、いまさら否定するのも馬鹿馬鹿しいと仏頂面ながらもうなずく。すると、クレイトフはふっと笑ってぱちぱちと拍手をしてきた。
「……んっだよ。それ」
「いや、頑張ったなーと思って。ちなみにそれって俺らが忠告する前? あと?」
「……前」
「おおー」
「なんだよおおーって」
「いや、だったら余計なお世話だったかもなーって、あの忠告。お前さんにもうセデちゃんの人生、丸ごと背負う覚悟があるんだったらさ」
 アルバーはう、と言葉に詰まりうつむいた。あの忠告を言われた時のことを、思い出したのだ。
「……俺の方にもう、そんな資格、ねーよ」
「ふぅん」
 クレイトフは肩をすくめ、またぽろろんとリュートを爪弾いた。話せと促されているような気分になって、アルバーはうつむきながらぼそぼそと言う。
「俺は、最初、セディシュに誘われた時、すげーほいほいその誘いに乗ったんだ。全然深く考えてなかった。あいつが男だからって理由で、あいつも遊び気分なんだろーって当たり前みたいに思いこんで。女でもないのにてーそーだのなんだのって気にすることないだろ、って思ってた」
「ま、わりと一般的な男の思考だな」
「そのくせあいつとヤって。なんか、あいつのことすっげー可愛いって思って。他のヤローがあいつとヤったって知って、すっげームカついて。自分があいつのことどう思ってんのか考えもしねーで、どころか当たり前みてーに都合のいい、いつでもヤれる相手みてーな扱いしてたくせに、独占欲バリバリであいつ独り占めしようとして」
「うん」
「なのに、あいつ。俺のこと全然怒りもしねーで。ヤらせろとか言っても、嫌そうな顔もしねーで、当たり前みてーにうなずいて」
「うん」
「……そのくせ、あいつ、俺に全然、なんにも言わなかったんだ。なんかしてくれとか、そういうの」
「……そうか」
「俺の身勝手とか、全部受け容れるくせに、俺の方にはなんにも言わないんだ。なんにも言わないで、求めないで……そんで、俺が好きだって言ったらこう答えるんだ。『ありがとう』って」
「……ふぅん?」
「俺が告白した時、あいつはいつもの顔で、ただそう言ってうなずいた」
 いつも通りの無表情で。ただ、心から真剣に、真面目な顔で。
「だったら俺になにができるっていうんだよ。だって、あいつ俺になにかしてほしいとか全然思ってないんだ。なんにも求めないで、求めないくせに体でも命でも……俺が、俺たちがほしいって言ったら当たり前みたいに投げ出すんだ……」
 ぐ、と喉が詰まった。瞳の奥がじんわりと熱くなり、表面が濡れる。みっともないとわかってはいたが、堪えることができなかった。
 格好の悪い涙声でアルバーは続ける。漏れ出る言葉を止めることができなかった。
「そんで俺は今までそれに甘えて、あいつのこといいように使ってきた。あいつのこと犯してきた奴らとおんなじようなことしかしてこなかった。だったら俺になにが言えるっていうんだよ。あいつのこと好き勝手に扱ってきた俺が、いまさら、どの面下げて」
「少なくとも、今からその扱いを変えることはできるんじゃないの?」
 アルバーはくっと、口元だけを笑ませた。自嘲と苦々しさに満ちた笑みだと自分でわかる。
「ああ、そうだよ。本当に、少なくともこれから変えることだけはできるはずだ、そうだってわかってんのに、俺は」
 この、どうしようもなく情けない男は。
「変えられるかどうか、自信、ないんだ」
「……へぇ?」
「あいつのこと大切にしたいって思ってんのに、あいつに嬉しいこといっぱいあればいいって、幸せになってほしいって思ってんのにさ、その気持ち嘘じゃないとか本気で思ってんのにさ。それでも、俺はあいつと、セディシュとヤりたいんだ。ヤりたいとか、自分のものにしたいとか、他の奴のものにしたくねーとか俺以外見んなとか、そんなこと、すげー考えちまうんだ」
 だったら、そんな自分はもう。
「あいつのそばにいられっこねーじゃねーか。話しかけられっこねーじゃねーか。どんなにディックにヤキモチ焼いたって、見てるしかねーじゃねーか。だってあいつは」
 自分の望みは身勝手で、あいつには通じないと、本当にわかってしまうから。
「俺が、ほしいわけじゃないんだから」
 う、と喉の奥が勝手にしゃくり上げる。必死に堪えようとしても喉は勝手に動く。それを見つめて、クレイトフはふ、と息を吐いて小さく肩をすくめた。
「恋してんなぁ」
 そのある意味場違いな台詞に、アルバーは一瞬目をぱちくりとさせてしゃくり上げながらははっと笑った。

 ディックはベッドの上で、毛布に包まりながらセディシュの胸に頭を擦りつけた。必死に縋るように体温を体に覚えこませる。そうでもしなければ、立ち上がれなかった。この部屋の外に出た時に、冷静沈着なギルドマスターをやれる自信がなかった。
「セディ……セディ、セディ……」
「うん」
 すりすり、と何度も何度も体を抱き寄せてすり寄る。体が震えてしょうがなかった。セディシュは優しくうなずきながら必死に背中を撫で下ろしてくれる。この優しい腕がなかったら、もしかしたら自分はおかしくなってしまっていたかもしれない。
「……怖いんだ」
「うん」
「俺はこれから、ひとつの種族を滅ぼすことになる。人間と意思疎通ができる生物を、もしかしたら交流し互いに反映することすらできたかもしれない種族を、禁忌を犯して相手の領域に踏み込み、自分の勝手な都合で、何人も、何人も殺すんだ」
「うん」
「本当なら他にやり方があるかもしれないのに。俺はそれを選ばないんだ。選べないんだ。なんでかはわからないのにそれが無駄で無意味で俺にはできないって知ってるんだ」
「うん」
「どうすればいい。どうすればいいんだ、俺は。ひとつの種族の滅亡なんて、背負えない。そんなものの運命背負ってまで迷宮踏破して、なんの意味があるっていうんだ。そう思う。そう思うのに」
「うん」
「俺はそうしなきゃいけないって思ってる。思ってしまっている。自分の役割として受け容れてしまっているんだ。そんな理不尽なことが、常識で考えてあるわけがないのに」
「うん」
「どうすればいいんだ。俺は狂ってるのか? 俺の頭はおかしくなってるっていうのか? いや、そもそも俺の頭が正常だったなんて誰に言える? 俺はこの街に入ってくる直前に『創られた』のかもしれない。記憶も性格もそういうように『創られた』のかもしれない。この迷宮を踏破するという目的に向けて邁進するためだけに創られた人形なのかもしれない」
「そう?」
「だってそうじゃなきゃ――どうして俺は、彼らを。モリビト≠……殺すことになるって、最初からわかってたのに……」
 う、と喉の奥がしゃくり上げた。瞳からぼろぼろとこぼれる涙を、セディシュの胸元で拭く。
 セディシュの前で恥ずかしい、とかそんなところを見せるわけには、などという意地はとうに決壊していた。どうすればいいのかわからないという途方に暮れた迷子のような気分。それをひたすらに吐き出して、優しく慰めて甘えさせてもらう。そんなことをディックは、あのモリビト≠フ少女と会った時から何度も繰り返しているのだから。
 セディシュは嫌になったような気配も見せず、優しく頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめて、暖かい口付けを何度も落としてくれた。「セディ……」と本当に情けない幼児のような涙声に、セディシュはぽんぽんと頭を軽く叩いてくれる。
「大丈夫」
「セディ……っ」
「大丈夫。大丈夫」
「う、う、うぅーっ」
 泣きじゃくりながらすりすりと顔をすり寄せる。ちゅ、ちゅ、と何度もキスを落としてもらう。ディックも唇を合わせ、涙ぐみながら舌を差し込んだ。
 セディシュはその行為を柔らかく受け止め、優しく舌を絡めてくる。頭を撫でながら何度も角度を変えつつキスを繰り返し、ディックの頭がぽうっとしてきたところで流れるようにお互いの服を脱がす。セディシュの手はいつもただやみくもに感情をぶつけるしかない自分を受け止めて、スムーズに行為へと導いてくれた。
 服がベッドの下に滑り落ちる。顔を赤くし息を荒げながらセディシュの肌に何度もキスを落とす。セディシュは「ん……」と気持ちよさそうな声を上げながらディックの肌を愛撫してくれる。時に手で、時に唇で、時には他のいろんなところで。そのたびに熱くなるディックの体を、時になだめ時に解放しつつ。
 体を蕩かせるほど熱いセディシュの口腔。それに舌を、耳を、乳首を、性器を時には足の指のような場所まで含まれて喘がされる。奉仕されているというよりもはや可愛がられているようなものだ、と冷静な時のディックは思うが、施されている時はただ熱と快感に酔って喘ぎすすり泣くしかできない。
「セディ……セディ……」
「うん。いいよ」
 もうたまらなくなって懇願すると、セディシュはいつもにこ、と優しく笑って足を開き、ディックのペニスを後孔に導いてくれる。時には正面から、時には背面から。時には上に乗り、時にはもっと複雑に、淫猥に絡み合い。獣のように、あるいはセックスを覚えたての子供のように、技巧もなにもなく感情のままただ突き入れ腰を動かすディックを、溶けそうなほど熱いアヌスに何度も飲み込み、締め上げてくれるのだ。
「あ、あぁ、あぁっ」
「ディック、大丈夫。ディック」
「セディ……もっ、俺は、もうっ」
「うん、いいよ。大丈夫、ディック、いい子だね」
「あ、あぁっ、あーっ、あーっ……」
 足を、唇と舌を、体の隅々まで絡め合わせて。体中を撫でられ、舐められ、時には挿れながら後孔にまで指を這わせられて。
 母親の膝の上で甘えさせられているような安心感と、神経が蕩けるような心地よさに酔いながら、ディックはいつも、すすり泣くような声と共に、達する。
 は、は、とどうしても乱れる呼吸が落ち着いてくると、頭の方も次第に落ち着いてくる。死にたくなるほどの自己嫌悪と、落ち込みの感情と共に。
「ごめん……ごめんな、セディ」
「なんで?」
 きょとんと首を傾げるセディシュ。その変わらなさ。会った時からまったくずれていないと感じられるその変化のなさに、自分がどれだけ救われているだろう。
「本当に、すまない……今までさんざん、お前のことを批判してきておきながら、自分は……勝手に落ち込んで……お前に迷惑ばかりかけて」
「……なんで?」
「迷惑だろう、こんな奴。セックスについて偉そうなことを言っておきながら、俺はもうお前に慰めて、甘やかしてもらわなきゃ一歩も動けないんだ……しかもそのセックスだって、一方的に奉仕してもらって、気持ちよくしてもらうだけで。ガキみたいに噛みついてただ腰振るだけで……本当に、最低だ、俺は……」
「ディック、最低、じゃない」
 セディシュはきっぱりと首を振る。いつものように。そうして甘やかして、褒めてもらう手がなければ自分は動くこともできないのだ。それこそ子供のように。甘やかされた子供は、大嫌いだったのに。
「だけど、俺は、ひとつの種族を滅ぼそうとしてるような、最低の、生きている価値のないクズで」
「ディックは、クズじゃない」
「クズだよ。自分が間違ってるってわかってるくせに、他の道を選べないんだ。自分の、自分でもわかっていない都合のために、ただそうしなきゃならないって心理的圧迫だけで、ひとつの種族を滅ぼすんだ。本来なら、俺がそうだと信じていたくらい賢い、正しい人間なら、これまでの歴史で何度も繰り返されてきた愚かな行為だって絶対行わないようなことだ」
「……そう?」
「そうだよ。言葉が通じる、それだけで穏やかな互いの繁栄となる交流が行われる可能性はぐっと高くなったのに。勝手な都合で。私利私欲で、薄汚い欲望で蛮族∞未開人≠セのと相手にレッテルを貼って大量の命を奪ってきた虐殺者たちと同じだ」
「……そう?」
「そうだよ……」
 ゆっくりとセディシュの体内から分身を引き抜き、避妊具の口を縛って捨てて、またセディシュに頭をこすりつける。汗で濡れた頭を。甘やかしてくれろとみっともなくねだる。
「なにを思い上がっていたんだろうな。本当に、馬鹿だ。俺なんて、本当は、存在することすらおこがましいような愚か者なのに」
 いじましさに満ちたそんな嘆声に、セディシュはきっぱりと首を振ってくれる。いつも通りに。期待通りに。自分がそうであってほしいと思った通りに。
「ディック、いてくれないと、嫌だ」
「………うん」
 さんざん甘えて、迷惑をかけて、それでもこの言葉がないと自分は動き出せない。本当に、馬鹿で愚かしくて醜くて下劣で自分勝手で鬱陶しくて器が小さくて。
 そんなのを心地よいとすら感じている、最低な自分。
 セディシュの上にのしかかり、抱きしめながら訊ねる。みっともなく、子供のように、最初から答えのわかっている問いを。
「俺は、どうすればいい?」
「ディックのしたいようにすればいい、と思う」
「それが間違っていても?」
「うん」
「そのせいでどんなに人に迷惑をかけても?」
「うん」
「そのせいで俺が罪に問われて殺されそうになったらどうする?」
「頑張って抵抗する」
「それでも駄目だったら?」
「死ぬ」
「俺と一緒に?」
「ディックと一緒に」
 く、とディックは小さく笑う。本当に最低だ。ここまで言わせて、こんな子供にここまで言わせて、それでもまだ怖がっていることも、その言葉を嬉しいと思っている自分も。
「……俺は、逃げたい。でも、ちゃんと話をしたい。みんなに説明したいんだ。そしてみんなに決めてもらいたい。怖いけど、そうしたい、そうするって、決めたんだ」
「うん。ディック、偉い」
「……誰も一緒に来てくれなくても、俺のそばにいてくれるか?」
「うん。いる」
 にこ、と優しく笑んで言った言葉に、ディックはセディシュに抱きつき、また頭をすり寄せた。ときおり嗚咽を漏らしながら。自分を心底汚らわしいと、そう感じながら。

「俺はその時、驚いた。そして選択することを避けた。困惑して、わけがわからなくて、選択して取り返しがつかない状況になった場合のリスクを恐れたからだ」
 アルバーはぴくり、と眉を動かしながら、ディックをじろりと睨みつけた。『続き』なんて、はっきり言って少しも聞きたくなかったのに。
「だけどそれはいつも頭に浮かぶんだ。何度も何度も何度も。朝も昼も夜も。それこそ頭がおかしくなりそうなほど。そして同時に、断片的なデータが頭に流れ込み始めたんだ」
「データ?」
 眉をひそめ問うたのはエアハルトだった。今のパーティは自分とセディシュとディック、そしてスヴェンとエアハルトだった。毎日の採集の帰り道だ。
「世界樹の迷宮の情報だ」
「……どういうことだい?」
「それは断片的なものだった。見たこともない魔物の名前、迷宮のある場所で起こること、職業の特徴とスキルの効果、スキルの効率的な取り方。否も応もなく、一方的に、ただデータだけが。何度も何度も。わけがわからないうちに俺は世界樹の迷宮の知識を無駄に蓄えることになったんだ」
「それは、いったい」
「わけがわからなかった。意味がさっぱり不明だった。だから、調べた。世界樹の迷宮について。手に入れられる方法をすべて用いて。――そして大学二年になった時、俺は、New Game≠選んだんだ」

「俺は医学について驚異的な才能を発揮するようになった。文字通り一を聞いて十を知る、というほどの才能を」
「………っ」
 アルバーは苛立ちを剣の柄を握ることでごまかす。今回のパーティは、前回と前々回の三人にセスとヴォルクを加えた五人だった。
「どんなことでも、初めて聞いたことなのに当然のことのように頭に入る。気付いたら俺は大学をスキップして、十八で医者になってしまった。臨床研修もきっちり終えてな。本来なるべきとされている年齢より、八年も早く」
「……なに? 自慢?」
 怪訝そうなセスの問いに答えるつもりなのかどうなのか、淡々とした声でディックは続けた。
「それが俺の力じゃないってことを、なにか大きな流れのせいだってことを、俺は、よく知ってた」

「俺は周囲の反対を押し切ってエトリアにやってきた。知りたかったんだ。自分の頭に浮かぶものがなんなのか。なぜ自分にこんな力が宿るのか」
「っ………」
 アルバーはぎりっ、と奥歯を噛み締める。今回のパーティはいつもの三人にアキホとレヴェジンニだった。
「それに世界樹の迷宮にも興味があった。薬と精神力だけで怪我をあっという間に治せるような力を与えられる迷宮。それ自体にも好奇心をそそられたし、その力を得るためになら命を張るくらいはしてもいいと思った」
「……はぁ」
「それなら、冒険者になってもいいと思った。そしてなるなら一流になってやろう、世界樹の迷宮を踏破した最初の人間になってやろうと思ったんだ。今思うと、思い上がりもはなはだしい考えだったが。第一……その先になにがあるのか、俺は知っていたのに、な」
 だんっ! と苛つきに任せて、アルバーは壁を叩いた。ばっと視線が集中するや、感情に任せて怒鳴り散らした。
「お前、なにが言いたいんだよ! 言いたいことあんならさっさと言えよ! くだらねーことに俺らつきあわせてんじゃねーよ、俺らはお前の話聞くために迷宮潜ってんじゃねーんだよっ!」
 その瞬間、ディックの顔から表情が消えた。一瞬のことでアルバー自身勘違いかとちらりと思ったが、確かに。
 が、すぐにディックはいつもの憎たらしいくらい冷静な顔に戻って、うなずいた。
「そうだな。なら、街に戻るか。――どうせ、そろそろちゃんと話をしなきゃならない頃だ」

「モリビト……」
「せん滅作戦……」
 自分たちが長から出された執政院のミッションの話を出すと、ギルドの面々は戸惑ったような顔をした。それはそうだろう、長から直接話を聞いた自分だって正直わけがわからない。
「モリビトというのは、以前話した樹海の中に住む人の言葉を話す人ではない生物のことだ。ヴォルクが植物のような印象を受けたという、あれだな。人とは違う形で進化した生物、なんだそうだ」
 ディックはこんな時にも冷静な顔だ。当然のように。こんなことまるで大したことではないというように。
「あれをせん滅……って、どういうことよ」
「なんでそんなミッションを執政院が出さなくてはならんのだ?」
「『彼らは森に住み、森を聖地とあがめそこに来る人間を敵対者として始末しようと考えているらしい。これまでも、樹海の奥で冒険者が 倒れることがあったのだが…全てモリビトの仕業だったようだ。我々としては、発見した樹海のさらなる奥を調査したいのだが…。…樹海の先を探索するためにはそのモリビトたちとの戦いを覚悟せねばならないだろう』だ、そうだ」
「……つまり、せん滅というのは」
「モリビトを皆殺しにしろ、ということだな。文字通り」
『…………』
 ディックの言葉に、沈黙が下りる。全員、戸惑ったような表情から顔が変わらない。
「皆殺し……とはまた、穏やかじゃないね」
「そもそも冒険者に出すミッションではないように思うが。それは俺たちに戦争の手駒になれ、ということだろう。それは国の抱える軍の仕事だ」
「ていうか、冒険者ギルドって最大でも十六人でしょ? そんなんでひとつの種族を皆殺しとか、できるわけないじゃん」
「だが、執政院はミッションを出した。俺たちにな。俺たち以外受けられる人間はいない。さらに言うなら、受けなければ俺たちは先に進めない。B16Fにあったあのくぼみに埋め込み、先への道を開く石版は俺たちがこのミッションを受けないと貸し出さない、とのことだ」
『…………』
「だからって……皆殺し、って」
「……おかしくないですか、それ。世界樹の迷宮の謎を解き明かすことを求めてるのは執政院でしょ。僕たちはそれに請われて協力してる立場のはず。それがなんで協力しなきゃ先へ進ませない、ってことになるんですか」
「長がそう決めたからだろう」
「そんなの明らかにおかしいでしょう。というか、以前から調べてましたけど、ここの執政院って構造自体おかしいですよ。長に権力が集中しすぎてる。あれじゃ長がいなくなったら日々の業務すら立ち行かない。代替わりした人間が優秀とは限らないし、そもそも長が権力のほぼすべてを有して完全に掌握しきっていて、それに対抗する勢力どころかその意識すら存在しないのもおかしすぎる」
「あんたそんなこといつ調べてたわけ?」
「以前から、です。最初は他国の情報を手に入れ、知識として得るため。途中からは、まぁ、好奇心のために。……そんな怪しげな相手の一方的な依頼を、唯々諾々と受けるなんて、そんなのは馬鹿のすることだ。ディックさん、あなたはどう考えているんですか」
「おおむね同意、だな。だが今の状況ではそのミッションを受けなければ先へは進めない、というのも確かなことだ」
「確かって、だから」
「おい。ディック」
 食ってかかりかけたエアハルトを制し、アルバーは低い声で言葉を発した。ディックは平然とこちらを向く。
「なんだ、アルバー」
「お前、なんか隠してるだろ」
『!』
 集まった人間すべてがばっとディックに視線を集中させた。だがディックはあくまで平然と言葉を返す。
「なんか、とは?」
「それは知らねー。けど、お前はなんかを知って、それで隠してるんだ。そうでなきゃお前がそんなに平然としてるわけがねぇ」
「俺がお前らと同じように得た同じ知識を活用して蓋然性の高い推測を立てた、とは考えないのか?」
「お前はそこまで頭よくねーよ」
 少なくとも、そういうことになるまでに、少しはこちらに乱れたところを見せるはずだ。だが、ディックは長の話を聞いてこちらが困惑した時も、驚いた時も、終始一貫して冷静沈着な顔を崩さなかった。そんなのは、今までのディックからすると、明らかにおかしい。
 そう気合を籠めてディックを睨みつけると、ディックは意外なことに、ふっと苦笑した。気安げに、しょうもなげに。どこか自嘲するような顔で。
「意外に、鋭いな。いや、俺に人を見る目がなかったのか……」
「おい、それじゃあっ」
「ああ、俺はこのミッションとモリビト、そして世界樹の迷宮と長ヴィズルについてお前たちが知らない情報を知っている」
『………!』
 空気が張り詰めた。アルバーはずかずかと椅子に平然と腰掛けるディックに歩み寄り、ぐいっと胸倉をつかみ上げる。
「どういうことだよ。お前どっからそんな情報」
「もうすでに説明したと思うが? お前は全部、直接その耳で聞いているだろう」
「え」
「『そして同時に、断片的なデータが頭に流れ込み始めたんだ。世界樹の迷宮の情報だ。それは断片的なものだった。見たこともない魔物の名前、迷宮のある場所で起こること、職業の特徴とスキルの効果、スキルの効率的な取り方。否も応もなく、一方的に、ただデータだけが』――そう俺は言ったと思うが?」
 思わず目を見開く。それは、確かに聞いたけれど、それは。
「んなの、わけ、わかんねー……」
「わけがわからなかろうとなんだろうとこれは事実だ。俺が十五の時から脳裏に浮かぶようになった映像でNew Game≠選んだ時から、俺の頭には世界樹の迷宮のデータが流れ込み続けてる。のみならず調べようと思えばそのデータを検索して調べることも可能だ。お前らは今まで微塵も不思議に思わなかったか? 俺が迷宮の情報を知りすぎてることに。敵の弱点、クエストの情報、その他もろもろを当然のように知っていることに」
 ディックはあくまで平然と、冷静そのものの顔でこちらを見上げる。アルバーは自分が気圧されるのを感じたが、それでも必死に睨み返した。
「だからっ、なんでそんな情報を知ってんのか、って」
「お前人の話を聞いてたか? New Game≠選んでから勝手に頭に情報が流れ込んでくるんだ、なんでだのどこからだのって話は俺の方が知りたい。俺はその謎を知るために世界樹の迷宮にやってきたんだからな」
「だったら、なんで、それを早く」
「言わなかったのか、か? 別に言っても良かったんだが、納得させるのに手間がかかりそうだったからな。こうして真正面から言ってもお前のようになかなか納得しない奴もいることだし?」
「………っ」
 かぁっ、と思わず頭が熱くなった。胸倉をつかむ拳に力が入る。が、アルバーが切れる前にスヴェンが静かな声で割って入った。
「それで……君が今それを改めて話した理由は? 今のこの状況とどういう関係が?」
「……そうだな」
 は、とディックは小さく息を吐いた。そしてアルバーの手を払い、ギルドメンバーたちに向き直りあくまで淡々と言葉を告げる。
「これから世界樹の迷宮の深部に進む人間は、モリビトと真っ向から戦い、殺すことになる」
 呆気にとられたり眉をひそめたりするメンバーたちの反応など気に留めた風もなく、ディックは続ける。
「モリビトは知性を持ち、人間と会話することも可能な種族だが、これから出会う存在はあの少女を除き全員会話する余裕も、交渉の余地も存在しない。迷宮の魔物と同様、こちらを容赦なく殺しにくる。あの少女も、最終的に和解できる可能性はゼロだ。B20Fでモリビトの精鋭と真っ向からぶつかり合い、彼らの守護神をも叩き殺して、あの少女を絶望の淵に追いやることになる。――このまま進めばな」
「な、お前、なに」
「この期に及んでなんでそんなことがわかるんだ、とか抜かしたりはしないだろうな。言っただろう、俺にはわかるんだ。世界樹の迷宮に挑んだ人間の進む道が」
「……頭に流れ込んでくる、って? でもそれが真実だっていう保証もないんじゃない?」
「ああ、ないな。ただ、俺には真実だとわかる。これから先に進む人間はモリビトの屍山血河を築いて進むことになる、例外はありえない、とな」
「な、なんでそんなことがわかるんだよっ」
「世界がそう創られているのが俺にはわかる。それだけだ」
「な……世界、って」
「そんなの、常識的に考えて」
「常識的に、ならな。だが、忘れたのか? お前ら」
「え……なにを」
「『エトリアに存在するなにかは、俺たちを専用の箱庭――小さな世界に閉じ込めてる』そう、俺は説明しただろう?」
『…………』
 ぽかん、と思わず口を開く。確かに言われた、そう言われた。だけどそれは別に大したことのない、ごくささいな、自分とは関係のないことのはずで。
「俺たちはエトリアから外にはどうやっても出て行けない。ギルドをやめれば話は別だろうがな。だから今決めろ。モリビトを虐殺し、世界樹の迷宮の奥へと進むか、ギルドを抜けてそんなくだらない戦とは関わりなく生きるか。まぁ、世界がこのエトリアの外にもちゃんとあるかどうかは知らないがな。以上だ」
 言うやディックは背を向け、居間を出ていく。ディックの隣にちょこんと座っていたセディシュが立ち上がりそのあとを追った。
 アルバーは混乱していた。なんだ、なんだってんだディックの奴。世界ってなんだ。例外はないってなんだ。わけわかんねー、普通じゃねぇ。
 だけどなにか尋常じゃないのはよくわかった。それこそ自分たちの世界を震撼させるほどのなにかと、この先に進めば出会うことになる。
 そうでなくとも、ひとつの種族を滅ぼすなんてことやはり自分はやりたくはない。自分は戦いは好きだが戦は嫌いだ。そんなつまんないことするより、仲良し同士の方がいいに決まってる。だからこのままじゃまずい、なんとかしなければ――
 そう頭はぐるぐると回転するのに、心臓はどきんどきんと鳴っていた。
 足が勝手にあとを追う。手が勝手に背中へと伸びる。目が勝手に姿を追いかける。口が勝手に開いて名前を呼ぼうとする――
「セディ、シュ」
 その言葉は、口の中に消えた。ディックを追うセディシュを止める資格など、どれだけ思っても自分にはないのだから。

「………馬鹿だと、思ってるだろう」
 ふるふる、とセディシュは首を振った。生まれたばかりの赤ん坊のようにあどけなく。
「いや、馬鹿だよ、俺は、本当に。最初からこんな街に来るべきじゃなかったんだ。俺が来なければ、あの時あの選択肢を選んでいなければこんなことにはならなかったんだ。最初から迷宮になんて潜らなければよかったんだ、始めるべきじゃなかったんだ、そうすれば、こんなことにはならなかったのに。俺なんか、本当に、存在しなければ」
 ぎゅっ、と背中から、セディシュが自分を抱きしめる。優しく、ふんわりと。熱い体温を伝えてくる。
「……セディ」
「俺は、そんなの、嫌だ」
「…………」
「俺は、ディックと、会えないの、嫌だ」
「……そうか」
「うん」
 すり、と頭が背中に擦りつけられる。子供のように高い体温。何度も何度も伝えられる、今ここに生きている証。
 たまらず、ディックは振り向いてセディシュを抱きしめる。そっとセディシュの腕が背中に回される。暖かい、熱い。自分の味方、自分の仲間。自分のそばにいてくれる存在。
「セディ」
「うん」
「そばに、いてくれ」
「うん」
「ずっとなんて言わないから。俺がちゃんと立てるようになるまででいいから。あと、もう少し、頼むから」
「ディックが、俺をいらなくなるまで、いる」
「セディ……っ」
 ディックはセディの前にひざまずいて、何度も嗚咽を漏らした。初めてセディシュに告白した時と、同じように。

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