わからない、内にあるもの
「なるほど……それで我々の村をひとつひとつ回っているというわけか」
 メトラルの長老の言葉に、セイロンは深くうなずいた。
「はい。少しでもご存知なことがあれば教えていただけぬでしょうか?」
「ちょっとでもさ、噂みたいなことでもいいんだ。お願いします」
 頭を下げるリュームに習う。ここで口を出すと話がこじれる可能性があるので口は開かない。
 長老は考えるように顎鬚をしごきながら言葉を連ねた。
「古い妖精の消息は我らの集落でもめったに聞かれぬことだが……ここより北、プルギスの山奥深くに古き妖精の集う場所があると伝え聞いたことがある」
『…………!』
 一瞬の沈黙があってから、わっと歓声が上がった。もちろん上げたのは自分も同じだ。
「よかったな、エニシア!」
 やっと見つけた手がかりに笑顔で肩を叩くと、エニシアは泣きそうな瞳で笑む。
「うん……うん。ライ、リュームくん、みんな……本当に、ありがとう……」
「まだそなたの母親が間違いなく見つかったわけではない。礼はその時にとっておけ」
「ああ、一度始めたことだ。なんとしても見つけてやるさ、裏切りはしない」
「そうですわよ、むしろここからが大変なんですから」
 口々に言う御使いの声と表情もむしろ優しい。必死に泣くのを堪えて笑うエニシアに、無理するなよと言ってやりたくて背を撫でると、抱きつかれて大泣きされ焦った。
「ほっほっほ、睦まじいな」
 長老にそんなことを言われ苦笑した。本当はこういう時に抱きつくのは、カサスやレンドラーのおっさんの方がいいんだろうけどな、と思いつつ。
 そうあとでリュームに言ってみると、はー、とため息をつかれた。
「鈍いオヤを持つとコドモは大変だよな」
「誰のことだ?」
 拳に息を吹きかけてみせて、それからしばらくじゃれあって。自分たちがなんの話をしていたのかなんてことはすぐに忘れてしまったのだけれど。

 ラウスブルグの、自分の寝台に寝転がってぼんやりと考える。
 よかった。エニシアの母親の手がかりが見つかって。
 メイトルパにやってきてもう一週間。その間、自分たちは忙しく働いていた。
 まず亜人たちをラウスブルグでそれぞれの集落まで送り届け、そのかたわらエニシアの母親探しに取り組む。一緒にラウスブルグで運ばれてきた剣の軍団、鋼の軍団や、カサスたちの願いもあり、それはごく当然のこととして受け容れられた。
 だが当然ながらラウスブルグで移動するのは目立つし(それが噂を呼んでエニシアの母親を呼び寄せられるかもしれないと異空間に隠れずに移動しているのだが)、亜人たちには警戒される。その上ライや剣の軍団のような人間が話を聞こうとすれば村を上げての大騒ぎになるとあって(本気で戦いになりかけたことも何度かある)、ここまでくるのは本当に大変だったのだ。
 でも、ようやく手がかりがつかめた。ライはぎゅっと拳を握り締める。ギアンの、あいつの想いを無駄にしないためにも、エニシアやみんなのためにも。なんとしても母親を見つけてやらなきゃ。
 それに。実は、早くリィンバウムへ帰りたいという気持ちもあるのだった。
 メイトルパは自然が豊かで、不思議に懐かしい感じもしたのだけれど、やはりここは自分のいるべき場所ではない。自分たちを受け容れてくれた亜人もいたけれど、自分はやはり、リィンバウムの、トレイユの忘れじの面影亭へ帰りたい。
 エニシアが帰ると言ってくれるかは微妙なところではあるのだが、それならそれで一人でもなんとしても帰ってやるつもりでいた。少しは異界を渡るコツをつかみ始めたことでもあるし。
 母さんのいる、あの場所へ。リュームたちと一緒に、リシェルやルシアンや兄貴やミントねーちゃんやポムニットさんや、親父が生きているあの世界へ絶対戻るのだ。
 そう考えてから、ぼっと顔が熱くなる。なんだなんだなに考えてんだ、なんで親父が出てくんだよ!?
 ぐあああと頭を抱えながらベッドの上をごろごろ転がる。あんな奴どうでもいいじゃねぇか。自分がこの年になって父を求めているなんて、信じられないし信じたくない。
 第一あの親父は嘘つきだし怠け者だしちゃらんぽらんだし、本気でろくなことをしない最低親父だというのに。この前会った時は会った時で変なことをするし。
 その変なこと≠思い出してライはぎゅっと唇を噛んだ。あれを思い出すと、なんだか胸の中がもやもやするのだ。なんだか妙な感じがしたあの行為。思い出すと背筋がぞわぞわして、輿の奥が疼いて、胸がもやもやどきどきして。いてもたってもいられないような妙な気分になってしまう。
 あーもうっ、頭から出てけ! と思いながら寝転がって輾転反側する。でももやもやは出て行ってくれない。むずむず、もやもや。体の奥に巣食ってライの体を揺さぶる。なぜかじんわりと熱くなる自分の体に困惑した。しかも熱は股間の、用を足す時にしか使わない場所が中心になっている感じがする。なんだこれ、こんなのなったことない。どうすりゃいいんだ?
 おそるおそるその部分に触れると、ぞくりと背筋に奇妙な感覚が走って体が震えた。なに、なんだこれ。なんでこんなになってんだ、俺?
 どうしようどうしよう、と考えながらも、体は勝手に動いていた。親父がやったようにズボンを下ろし、股間を見る。用を足したい時のように、男の印が大きくなり、どくんどくんと脈打っているのがわかった。
 恥ずかしくて、どきどきしてたまらなかったけれど、そっと触れてみる。
「……んっ……」
 ぞくり、とまた背筋が震えた。なんだ、なんなんだこれ。さわさわ撫でてみる。びくん、びくんと体に電流が走るのがわかった。これ、なんか……気持ち、いい……?
 頭の中に親父の行動が蘇る。親父は確か、夢の中で自分のここを、こうしごいていた。
 そっと自身を握り、皮を上下に動かしてみる。
「んっ!」
 ぞわぁっとした感覚。悪寒にも似ているけれど、ひどく甘やかな刺激。あの時と、親父にやられた時と同じ。
 親父なんかにやられたことしたくない、と思っているのに体は止まってくれない。頭の中にあの時の親父の声が響き、親父の手の感触が体に蘇る。
『お? 敏感だな』
 耳元で囁かれるその声。体中がじゅんっと痺れる。
『その調子その調子。ほれ、リラックスしろって』
 親父の逞しい体の感触。熱い体温。ごつごつした手の感触。
『駄目じゃねぇから。素直に感じてろ』
 今まで聞いたこともないような、優しい声の響き――
「………だーっ! なにやってんだ俺は!」
 なんで親父のことを思い出しながらこんなとこ弄らなきゃなんねーんだ。クソ親父に自分が甘えたがってるみたいで、死ぬほど気に食わねぇ!
 でも股間はひどく熱く、元気に自己を主張しまくっているし、このままじゃとても眠れないし。それに、あの時の、親父が自分に与えたあのたまらない快感を、また味わいたいという恥ずかしい気持ちもあった。
「ええい、要するに親父にバレなきゃいーんだ。こっそりやりゃあ……」
 でも普通にやればどうしても親父のことを頭に思い浮かべてしまう。それは嫌だ、絶対嫌だ。なんとか他のことを考えられないだろうか。
 そうだ、親父を他の人に置き換えて考えてみたらどうだろう。そうすれば少しは気分がよくなるんじゃないか?
「誰がいいかな……」
 股間を丸出しにしたまま考える。年からいくとセクター先生? いや先生だと授業っぽくなる気がしてなんか妙だ。セイロンは? あいつもなぁ、面白がりだし。あっはっはとか笑われながらやられたらなんかムカつく。シンゲン……でもいいんだけど、あいつ飄々としすぎててつかみどころがないんだよな……。
 よし、兄貴でいってみよう。兄貴なら変なこととか言ったりしたりしそうにないし。
 そう決めて、そっとライは股間のものをしごいた。何度か触れられたことのある、グラッドの手の感触を思い出しながら、グラッドにやられていると想像しながらしゅっしゅっとしごく。
 ん……けっこう、いい感じかも。
 グラッドの手の感触は軍人らしく、大きくてごつごつしていて、でも優しかった。その手が優しく自分のものをしごいている、そう想像するとなんだか嬉しい気分になる。
 グラッドはこんな時なんと言うだろう。
『ライ、大丈夫か? 痛くないか?』
 そう、そんな感じそんな感じ。想像の声にライは精神を没入させて答えていた。
「ん……へーきだって……」
『そうか、けど痛かったらすぐに言えよ?』
「うん……」
 自分の、グラッドの手が優しく自分のものを握り、ぎゅっぎゅっと激しく動かす。少し痛かったけれど、でもその痛みは不思議に甘かった。
『よし、ライ。もうちょっと足を広げて』
「んん……あんま、見んなよ……」
『見なきゃできないだろ。大丈夫、俺に任せとけ』
 想像の中のグラッドはつつっ、と指を蟻の門渡りから尻の方へ滑らせた。そっとライの肛門に触れる。ライは思わずびくりとしたが、逆らいはしなかった。兄貴ならきっとひどいことはしない。
 わずかに指を挿入させるが、入らない。乾いているからだ、とライは指を唾で濡らし、小指から再度そっと挿入してみた。
「ん、んん……」
『大丈夫だ。ちょっとずつ挿れれば痛くないだろう?』
「ん、ん……」
『こっちも弄ってやるからな。大丈夫だ、俺に任せとけって言っただろ?』
「ん……うぅ」
 肛門に挿れられた指は奇妙な感じだった。痛い、というのではないけれど不思議な疼痛感がある。むずむずするような、もっと奥までやってほしいようなほしくないような、体がたまらなくうずうずする感じ。
 グラッドの指は太くて長い。それが自分の中を探っている。中に、入ってくる。
 そう想像するとじゅわっと音が頭の中で聞こえるほど一気に熱が上がった。
「は、ん、は……」
 後ろに入っている指を変えた。小指から薬指、そして人差し指から中指へ。けっこう入るもんだなと頭のどこかでちらりと思いながらずっ、ずっと入り口のあたりで指を前後させる。
 なんか、変で、体がぞわぞわして、変なんだけど、これ……。
『気持ちいいか?』
「ん……!」
 頭の中にグラッドの声が響いて、またぞくっと震えながらライは手の速度を速める。しごき、出し入れし、こんなところを見られたら悶死するだろうというような格好で呻き叫ぶ。
『ほら、ライ。イっていいぞ。大丈夫だ、俺がついてるからな。心配するなよ、ライ、俺に任せて……』
「あ、にき、ん、ん、んん……!」
 どくん、と体全体が脈打つような感覚があり、ライは自身から白濁を放出した。勢いよく飛んだ白い液は顔までかかる。なんかこれ変な匂いすんな、とまだ熱を残した頭でぼーっと考えて、我に返った。
「な……に考えてんだ俺はーっ!」
 なんで兄貴のことを考えながらこんなことをしなきゃならないんだ。俺がまるで変態みたいじゃねーか。うああ兄貴ごめんごめんなさい。親父なんかに教わったこと兄貴にひっつけて考えてごめんなさい。
 ライは寝台の上でしばし悶絶した。

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