夏季休暇――二人の心近づくのこと

 夏期休暇。それは学生たちには福音とも言える恵みの季節。
 ある者は里帰りして両親に甘え、ある者は仕送りとアルバイトで得た金を使って遊び呆ける。家族で、あるいは友達同士で旅行をし、行楽地で体を動かし、繁華街で悪い遊びを覚える。
 厳しい授業と訓練のことを一時忘れられる時間。学校に入る前の自由な時間の一時的復活。生徒はみな休暇という名の幸福に浸り、憩う。
 ナップも夏期休暇を楽しみにしていたことでは他の生徒に劣らない――だが、その過ごし方は他の生徒たちといくぶん違っていた。

「だあっ!」
 渾身の力を込めて振り下ろされた一撃を、ナップは掲げた剣で軽く押すようにして受け流した。そして相手が剣を戻そうとするより早く、こん、と上から剣を叩く。力を込めているとははたからは見えないその一撃に、相手の教官の剣はぱたんと地面に落ちた。
「せいっ!」
 掛け声と同時にナップはさらに踏み込んだ。踏み込む力を使って手にした剣の動きを流れるような円から直線に変え、相手がかわす間もなくぴたりと剣を教官の喉に突きつける。
「………参った」
 教官の声にふぅ、と息をついて剣を戻すと、ナップは軽く一礼した。
「ありがとうございました」
「いや、礼を言われるほどのことはできなかったさ。また数度打ち合っただけで負けちまったからな。まったく、教える側の立場がないぜ」
 自分も剣を拾ってやれやれと肩をすくめる教官に、ナップはちょっと困った顔をして笑った。
「その年でそこまでの腕になって、それでもまだ修練を怠らないっていうのも大したもんだな。いや、だからこそそこまでになったのか。最近特に熱心に訓練してるな」
「あ、それは……オレ、もう少ししたら二週間ほど里帰り……っていうか、寮を出ることになってるんで。だからそれまでにやれる勉強は全部やっていこうと思ったんです」
「ああ、それで。学校にいるどの先生もお前に質問やら訓練の手伝いやらさせられてるわけだ。二学期から上の学年の授業が受けられるからな、その準備ってわけか」
「ていうか……向こうに行った時くらい勉強のこととか忘れたいって思って」
「ほう。お前さんにしては珍しい台詞だな。ま、当然と言やあ当然か。どうせすぐにでかくなるんだ、思いっきり親御さんに甘えてこい」
「…………親じゃ、ないんだけどな」
 ナップは口の中だけで呟いて、もう一度ぺこりと頭を下げた。

「ただいまー」
「………お帰り」
 夜になって部屋に戻ると、中にはすでにウィルがいた。夏期休暇ともなれば大抵の寮生は寮を出る。アリーゼもベルフラウも里帰りしている。だが、ウィルはまるで授業が続いてでもいるようにひたすら勉学と訓練にいそしんでいた。里帰りしないのか、と聞いたことはあるが、いつものごとく君には関係ないだろ、と言われてしまったのだ。
「飯買ってきたぜー。フィル&アントニのサンドイッチと牛乳。お前チキンとポテトサラダでよかったよな?」
「……君、またその格好で街まで行ったのかい? 一度なんて通報されかけたこともあるくせに。少しは学習したら?」
 今のナップの格好は鎧をまとって大剣を背負った完全武装モード。訓練のあと直接街へ出たのでこの格好なのだ。
「いいじゃん、もー街の人も慣れてるよ。チキンとポテトサラダでいいのか? あとハンバーグと白身魚のフライとベーコンレタスがあるけど」
「……いつものでいいよ。いくら?」
「6バーム。牛乳入れて」
 ウィルが財布から取り出した小銭を、ナップは貯金箱に入れた。
 夏期休暇は寮のほとんどの機能は停止する。残っている生徒はごくわずかなのだから当然だ。学校に何人か交代で先生が宿直に来るくらいで、学校も寮も普段とはうって変わって静まり返っている。
 むろん寮の食堂も休みなので、食事するには自分で材料を買ってきて自炊するか街で食べるかしかないわけだ。ナップたちはもっぱら軽食の持ち帰りができる店に頼っていた。量は物足りないが、そこが一番安くつくのだ。
 鎧を脱いだナップと差し向かいでサンドイッチをぱくつくウィルを見ながら、ナップは内心くすりと笑った。
 なんのかんの言いつつ、こいつオレに慣れてきたよな。最初の頃はこんな風に一緒に食事をするなんてのも嫌がってたわけだし。
 ウィルは見かけ上は以前と変わらずつんけんしているが、顔を洗ったあと差し出したタオルを受け取るとか、帰りに飯買ってきて、と言った時にためらいつつもうなずくとか、そういう細かいところで自分を無視することをしなくなってきている。
 懐かない動物を馴れさせているようで、気分がよかった。こんなことを言ったらウィルはまた真っ赤になって怒り出すだろうから言わないけど。
 がたん! と大きな音がした。ナップもウィルも、思わず音のした方を見る。
 窓がぶうらぶうらと揺れていた。開いていた窓が風で壁に叩きつけられたのだ、とわかった。
 ナップが立ち上がって窓の外を見た。雲が黒い。右から左へ凄まじい速さで流れていく。吹きつける風の中に、雨の匂いがした。
「……こりゃ、嵐になるかもなぁ」
「……え?」
「今にも雨降り出しそうだもん。今朝は晴れてたのに、夏の天気ってホント……わ、降ってきた!」
 ざっと唐突に大泣きし始めた空に、ナップは慌てて窓を閉めた。掛け金をしっかりとかけて、雨粒が部屋の中に入りこまないようにする。
「朝から降らないだけまだマシだけど、嵐っていうのは参るよなあ。窓とか壊れたら自分たちで修理しなくちゃダメなんだろ? オレ、細かい仕事ってどーも苦手で……」
「…………」
 などと言いつつもナップはワクワクしていた。ナップは昔から嵐が来ると雨合羽を着て外に出かけ、はしゃぎながら走り回るような子供だったのだ。
「うわあ……すげえ雨。雷とか鳴るかな? どっかに落ちるかな? 意外と寮に落ちたりして……」
「ナップ!」
「え?」
 ウィルに絶叫に近い叫び声で呼ばれ、ナップはきょとんとした。ウィルのその声はあまりに切羽詰っていて、今のこの状況にそぐわないように感じられたのだ。
「なんだよ、いきなり大声出して」
「……………」
 聞くととたんにうつむいて唇を噛むウィル。
「どうしたんだよ。なんかオレに言いたいことがあったんじゃないのか?」
「…………あ、あの…………」
「うん」
「な………ナップ………ナップは、里帰りはしないのか?」
「へ?」
 妙に緊張感の感じられる口調にそぐわない台詞。ナップはまたも一瞬きょとんとしたが、ウィルがなんだか必死な顔をしてこちらを見つめてくるので慌てて答えた。
「里帰り……っていうか、寮は出るよ。予定としては五日後に港まで迎えに来てくれることになってる」
「………ふう、ん。家に、帰るのかい?」
「いや、家っていうか……マルティーニの家じゃないよ。いつか家にする予定の場所、っていうか……」
「なんだい……それは」
「んー……俺の、世界で一番大切な人のいる場所、って感じかな」
 そう言ってナップが照れたように頭をかくと、ウィルの目に一瞬影が差した。
「……例の、先生≠チて人?」
「え? なんで知ってんの?」
「君は、以前から何度もその先生とやらについて話してたじゃないか。嬉しそうに」
「え……そ、そう、かな?」
 なんだかのろけてるみたいで恥ずかしいな、とナップが照れつつまた頭をかくと、ウィルはぎっと、なぜか怒りをこめてナップを睨んだ。
「そうだよ! 君は大好きな人のことを話せて嬉しいかもしれないけどね、僕は――」
 ドゥガラガラピッシャ―――ン!!
「うわ――――っ!!!」
 がばっ!
「………え?」
 ナップは一瞬混乱した。なんで、ウィルが、自分に思いきり抱きついているのか?
 ウィルははっとして、どんっとナップを突き飛ばして離れた。
「は、離せよ!」
「いや離せって抱きついてきたのお前じゃん」
「い、言っておくけど僕は別に、好きで抱きついたりしたわけじゃ――」
 ガラゴロガラゴロドピッシャ―――ン!!!
「うわ――――っ!!! うわっ、うわっ、うわ――――っ!!!」
 がしっ、ぎゅむむむ。
 またも全力で抱きつかれるに至って、ナップもようやく悟った。
「………お前、雷怖いの?」
 ウィルははっと顔を上げ、かあっと顔を赤くして、ナップを睨んだ。
「おかしいだろ。おかしけりゃ笑えよ。笑えばいいだろ」
 ナップは内心苦笑した。実際けっこうおかしかったが、本当に笑ったらこの意地っ張りは大激怒するか涙ぐむかするに違いない。
「おかしくないよ。オレだってゴキブリ嫌いだもん」
「………そうなの?」
「うん。あれがさささって走ってるとこ見ると思わず飛び退っちゃう。だからちょっと心配なんだよなー、この寮古いからゴキブリ出るんじゃないかって」
 はあ、とため息をついてみせるとウィルは一瞬だけ、小さく笑った。数瞬後、こいつがオレの前で笑ったのって初めてだ、ということに気づく。まあ、悪い気分ではなかった。
「だから、怖いものがあるからって笑ったりしないよ。オレが必要なら、好きなだけそばにいてやるから」
「………ずっとそばになんていてくれないくせに」
「え?」
 よく聞こえなかったナップが聞き返すと、ウィルははっとして、かあっと顔を赤くし、再びナップを突き飛ばした。
「……っ、なんだよ急に!」
「僕は君なんて必要としてない! 僕は誰も必要としたりなんかしてないんだ! そばにいてほしいなんて、これっぽっちも思ってない!」
「……ウィル?」
 一瞬腹を立てたものの、ウィルを見るとその怒りは急速に静まってしまった。
 ウィルは泣きそうだった。顔を真っ赤にしてぶるぶる震え、拳を握り締めて必死になにかに耐えている。
「僕は、誰かに頼るような弱い人間じゃない。一人でちゃんとやっていけるんだ。家族なんていらない、友達なんていらない! 僕は、勝って、みんなに勝って、誰よりも上に行けさえすれば………!」
「ウィル……」
「僕は、君なんか、君なんか……!」
 今にも泣きそうに歪んだ顔で、それでも必死にこちらを睨みつける――
 ナップは、なんだかウィルがひどく可哀想な気がしてしまった。
「………っ!?」
 ウィルが固まる。ナップがぎゅっと、ウィルを抱きしめたからだ。
「は……っ、離せよ……っ」
「離さない。お前がホントのこと言うまで」
「ほ……ホントの、こと………?」
 少し体を離して、間近にあるウィルの顔を見つめる。ウィルの頬も額も真っ赤に赤らんで、瞳は今にも涙が零れ落ちそうに潤んでいる。
「こんな顔して、お前なんかいらないって言っても説得力ないんだよ。お前自分が今どんな顔してるかわかってるか?」
「……どんな顔?」
「寂しくて寂しくてしょーがないって顔」
 ばっ、とウィルは反射的に顔を隠そうとするが、ナップがその手を止めた。間近からウィルの瞳をのぞきこむ。
「ちゃんと言えよ。自分の気持ち、言葉にしろ。そうじゃなきゃ相手は自分の気持ちなんかわかってくれないんだからな」
「……っ、僕は、誰にもわかってもらいたくなんか……」
「嘘つけ。こんな顔して言ったって説得力ないって言ったろ? それに本当にわかってもらいたくなくたって、オレは聞くからな。しつこくしつこく何度だって聞いてお前の気持ち聞きだしてやる。オレは馬鹿だから相手の気持ちに遠慮するなんてできないもん」
「……なんで、そんなに、僕のこと……」
「言っただろ。オレはお前と、友達になりたいんだって」
 その言葉がとどめだった。
 ウィルの顔がふえっ、と大きく歪んだ。目の端からぽろ、ぽろろっと涙が零れ落ちる。口から掠れた声が漏れた。
「う―――ううっ、うう―――っ。うっ、うっ、うあ、うう――――っ」
 声を抑えようと懸命になりながらもどうしても漏れてしまう、そんな声。涙を見せないようにというつもりか、ナップの肩口に顔を埋め、呻くようにしゃくりあげる。
 ったく、ホントに意地っ張りだな、と苦笑しつつも、ナップはウィルの背中に手を回し、ぽんぽんと叩いてやった。子供を慰めるように、あるいは――ナップは気づいていなかったが――恋人を労わる時のように、優しく。

「………僕の家――アルダート家が、代々帝国執政官の家柄だってことは知ってるよね」
「うん」
 ナップとウィルは窓側の壁に背中をくっつけて隣り合わせに座り、話を始めていた。ウィルがこっちを見るな、と言うので、ナップは視線を天井に固定している。
「奇妙だとは思わなかった? 執政官はほとんど世襲も同然の状態なのに」
「別に。お前が軍人になりたかったんだろ? ならそれでいいじゃん」
 ウィルは小さく苦笑を漏らした。
「君ぐらい単純だったら話は簡単なんだけどね――完全にそう、というわけじゃないんだ。僕は小さい頃は、父さんと同じ執政官になるのが夢だったんだよ」
「へえ……」
 似合っていなくもない気がした。軍人というむくつけき男を連想させる言葉よりは、執政官の方が今のウィルには近いかもしれない。
「……でも、僕はその夢を早々に諦めた。まだ初等学校にも入らないうちからね」
「なんで?」
 この問いの答えには、しばらく間があった。
「僕には兄さんが一人いるんだ」
「兄さん。へー、男兄弟か。お前に似てる?」
「顔は、少しね。……でも、他のところは全然似てない」
 ウィルはぎゅっとナップの腕を握り締めた。密着して座りながら、ウィルは子供のようにナップの腕を握っていたのだ。
「兄さんはアルダート家始まって以来の天才と呼ばれてる。僕より八つ年上なんだけど、学校でも飛び級を繰り返して僕が初等学校に入る年にはもう高等学校の最上級生だった」
「ていうと……三年飛び級したわけか。そりゃ確かにすごいけど……」
「頭脳明晰、成績優秀、品行方正、性格よし。優しくておおらかなのによく気がついて、常に努力を忘れずなのに他人には親切で。誰からも好かれて、使用人にも町の人にも人気があって、父さんにもすごく期待されてた。――僕と違ってね」
「ちょっと待てよ。お前だって二年も飛び級してるだろ? 充分以上に優秀じゃんかよ」
「僕の場合は必死に努力してだから。でも、兄さんは違うんだ。努力しなくてもどんなことも上手にできる。僕は小さい頃から、みんなに兄さんを見習えって言われて育った。凄いお兄さんをお持ちですね、とかあなたのお兄さんは素晴らしい方です、あなたも頑張りなさい、とか。父さんにもお前も少しは兄を見習えっていつも言われてたよ」
「…………」
「僕がどんなに頑張っても、兄さんには届かなかった。どんなに努力しても、みんな兄さんを見習ってもっと頑張りなさい、って言うんだ。僕は兄さんには及ばない、粗悪な模造品にしかすぎなかったんだよ」
「そんな!」
 いきりたちかけたナップの腕を、ウィルはぎゅっとつかんだ。その手が最後まで話を聞いてくれ、と訴えているようで、ナップは渋々黙って座りこむ。
 ウィルは話を続けた。
「だから僕は執政官にはなれなかった。なりたくなかった。なったら一生兄さんと比べられ続けて、兄さんには及ばないということを思い知らされ続けることになる。それだけは、ごめんだったんだ。苦しくて苦しくて、でもどうすればこの状況から抜け出せるのかわからなくて、僕はもがいていた。生まれた時から、ずっと」
「…………」
 ナップにもその苦しみはよくわかった。自分を見てもらえない苦しみ。肩書きや他者との比較の中でしか評価されない苦しみ。そういうものと自分もずっと戦ってきたのだから。
 ――先生に出会うまで。
「だけど――初等学校に入ってから、僕は父さんに言われて剣術の教師につくことになった。兄さんも初等学校の間学んだ教師だ。僕はさして乗り気じゃなかったんだけど、課せられたことだから必死に頑張って、少しでも認めてもらいたくて頑張って、その時――初めて言ってもらえたんだ」
「……なんて?」
「お兄さんより、筋がいいですねって」
 ウィルはその言葉を、ひどく幸福そうに、福音のように呟く。ナップは奇妙な気持ちでそれを聞いた。
「だから僕は軍人になろうと思ったんだ。軍人としてなら僕は兄さんの上にいける。兄さんがどれだけ出世しても、僕が軍の最高位、大元帥の地位にまで上りつめれば兄さんはもう僕に命令はできない、形式的には僕の方が地位は上になる。兄さんには――あの人にだけは負けたくない。だから僕はここで、誰よりも上に行かなきゃならない。父さんや、今まで僕を見下してきた人たちみんなに、僕の方が努力してるってことを見せつけてやりたいんだ……」
「…………」
 ナップは黙ったまま、ウィルのその言葉を聞いた。必死で切実な、他者に自分を認めてほしいというその想いを。
 納得がいかない部分もある、間違っていると感じられる部分もある。でも、ウィルの全身で叫ぶその声は、誰かに自分を好きになってほしいというその声は、ナップの心の芯にずんと響いた。
 こいつ少し昔の俺に似てるかもしれない。ナップはなんだか、ウィルが可哀想になった。苦しんでいる昔の自分に、人生そんなに捨てたもんじゃないぞと言ってやりたかった。
 ナップは、そっとウィルの肩を抱いた。ウィルはびくり、と体を震わせるが、黙ってされるがままになっている。
「ウィル」
「……なんだよ」
「オレ、お前のこと嫌いじゃないぜ。っていうか、好きだ。わりと」
 ナップの腕の中でウィルが硬直した。ナップは静かに続ける。
「今はまだわりと、だけど。これから先つきあってたらもっともっと、すごーく好きになるかもしれない。そのことは忘れんなよな」
「…………」
「だからさ。オレの前でぐらいもう少し肩の力抜いてくれよ。オレはお前がすごく頑張ってるの知ってる、すげえって思ってる。だからさ……もう少し楽しみながらっていうか、一つだけって思いつめるんじゃなくてさ、いろんなもの見ながら、感じながら過程も楽しんで生きてほしいんだ。なんていうかなぁ……」
 自分の気持ちをうまく表現する言葉が見つからず、頭をかきながら懸命に喋るナップ。その肩に、ふいにこてん、とウィルの頭が乗った。
 驚いてウィルの方を見ると、ウィルはずるずると体から完全に力が抜けたようにナップに寄りかかるようにして倒れこんでくる。呼吸音が長かった。
「………ウィル。寝ちゃったのか?」
 答えはない。
 ナップは苦笑すると、ウィルを軽々とベッドまで運んだ。体の上に毛布をかけて、ぽんぽんと上から叩く。
 ウィルの顔を眺める。力の抜けたウィルの顔は、年よりずっと幼く、あどけなく見えた。
「……先生も、こんな気持ちだったのかな」
 そうひとりごちて、ナップは歯を磨こうと洗面所へ向かった。

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