彼と俺が願ったこと

 ………どうしよう。
 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!??
 俺は……俺って奴は、ついに……ついにやってしまった……!
 ナップに……ナップに、手を出してしまうなんて………!
 い、いや、手を出すといってもキスまでなんだけど……あれぐらいなら親愛表現ということでごまかせないことも……
 うわ―――ダメだ―――だって俺舌入れちゃったもん! 思いっきり舌入れながらナップのあそこに腰をぐりぐり押しつけたりしたしうああ俺って奴は俺の馬鹿馬鹿馬鹿ナップの唇柔らかくて気持ちよかったってそうじゃないだろ!!
 あああ俺って奴は俺って奴は。嫌われたよなぁナップに……びっくりしてたよなぁ……ナップに嫌われないために、傷つけないために断腸の思いでナップとの別れを決意したのに俺って奴はなんて馬鹿なんだ。人間のクズだカスだゴミだダメよダメダメ人間だ……。
 はああどうせ嫌われるんなら最後まで行っときたかったなぁ……って俺の馬鹿馬鹿最低すぎるぞいくらなんでも!
 ナップに……ナップに嫌われちゃうんだったら、俺、生きてる意味あんまりないかも……。
 と恐怖と絶望にさいなまれながら一夜を過ごし、明けて翌日。まんじりともせずに朝を迎えた俺は、怖くて怖くてしょうがなかったけどこのままにはしておくのもかえって怖いという理由でナップが部屋から出てきたのを見計らって部屋の外に出た。
 がちゃり。扉が開いた時、ナップは目の前にいた。俺の部屋のまん前を通っていたところだったんだ。
「……………………」
 思わず絶句してしまう俺。ナップも驚いたような顔をして俺を見ている。数瞬と言うにはちょっと長い間、俺たちは互いの顔を見つめあった。
「…………ナ…………」
「おはよ、先生」
 なんとか声を出そうと口を動かして出てきた掠れた声にかぶせるように、ナップはにこっと笑って俺に言ってきた。
「……え? あ、うん、おはよう、ナップ」
「うん」
 にこ、といつもの元気な笑顔。
「俺さー、昨日の宴会でいろんなもんいっぱい食べたのに朝起きたら腹減っちゃってさあ。今日の食事当番誰だっけ?」
「そ……そうだね、確かソノラだったと思うよ」
「うえー、またあの消し炭料理を食わされるのかー」
 そんなことを話しながらナップは歩き出す。俺も慌ててそのあとを追うが、頭の中は大混乱だった。
 ナップ……昨晩のことを忘れてしまったのか? いやそんな馬鹿な、昨日のことを忘れるほどナップは記憶力が悪くはないはずだ。
 じゃあたいしたことじゃないと思ってるとか? ディープなキスっていうのは十二歳の少年にとってはかなり重大事だと思うんだけど。
 それじゃあ……もしかして俺との関係を壊したくなくて知らんぷりしてるとか……? これはわりとありそうだけど……俺との関係を壊したくないってことはやっぱり俺とは一生いいお友達……先生生徒の関係どまり? いやそんなのは今更だろうでもナップの考える俺とナップの関係ってどんなのなんだろううああ考えれば考えるほどわけわからーんっ!
 しかし俺にはナップが普段通りにしているというのに話を蒸し返す勇気はない。混乱と困惑の海にどっぷり浸かりながら、口には出せぬ疑問に煩悶しつつ、ひさびさにやってきたナップとの平和な日々を過ごすしか、俺にはできることがなかった。

 そんな中途半端な状態を続けてもう半月が過ぎてしまった。
 今日も俺は生徒たちと楽しく授業をしている。読み書き常識情操教育、生徒のみんなも楽しみにしていたみたいで授業は楽しく進む。こういう時教師の喜びをしみじみと感じる――んだけどおぉぉ………。
 ナップも一緒に授業受けてるんだよおぉぉ………ナップの姿を見るたび俺の心臓はばくばくだというのに。正直かなりなんでもない顔して授業するのは苦しい……。
 でもこんな時でもナップのいろんな表情を見れるのは幸せだ。ああ、ナップ可愛いなぁ……笑顔もなにかを考えているような顔も得意げに鼻の下を擦る顔も猛烈可愛い……。
 とか言いつつ目が合うと速攻逸らしちゃうんだけどねーううう。ナップがどんな顔をしてるかとても見られない……。
 授業を終えると、ナップが俺のところにやってきた。
「学校が再開してからさ、みんな、前より熱心になったんじゃないか?」
「ずいぶんと長い間待たせちゃったからね」
 俺は普通に! 普通に! と思いつつにっこり笑ってみせる。
「みんな、待ってる間に今まで習ったことを復習してたらしいよ」
「へえ……」
「教科書の見直しもしなくちゃいけないくらいで、ホント、うれしい悲鳴だよ」
「うーん、これはオレも負けちゃいられないな……うん! だから、先生。帰ったら、オレの授業のほうもよろしく!」
 にっと元気な笑顔を浮かべてそう言うナップに、俺は笑顔を返しながら内心泣きそうだった。ナップ、俺もう君の顔ちゃんと見られないよ………。
 もう……俺は、どうすればいいんだろう。君と一緒にいたい、でも、俺にはもうそんな資格はない。
 ………覚悟を決めなくちゃならないよな。
 俺は数日前から考えていた、ある決意を胸にナップと共に帰路についた。

「今日の授業は……と、いいたいところなんだけどさ。実はもう、君に教えることは、ないんだよ」
「ええっ!?」
 ナップは仰天した声を上げる。その顔が、かっと朱に染まった。
「知識も戦闘訓練も、本当なら、入学して学ぶことまで、君は身につけてしまった。正直、俺も驚いてる。これなら、間違いなく試験は合格できるよ」
「で、でもっ!? 俺はもっと、アンタに教わりたいんだよ!」
 ナップは瞳をわずかに潤ませて、きっと睨むようにしてそう言う。その真っ直ぐな瞳には憤りと悲しみが感じられた。誰かに裏切られた時のように。
 うううう……心が痛い。ナップを悲しませるのは俺は絶対に嫌なのに。今すぐひざまずいて許しを請いたい!
 でもナップのためには……ナップを傷つけることのないまま別れるためには(もうキスはしちゃったけどこれ以上は!)、しょうがないことなんだ。ナップ……ごめん。ごめんごめんごめんごめん!
「ありがとう……」
 本当に、心からそう思う。こんな俺を教師として慕ってくれるなんて。
 でも、その信頼が俺には痛い。
「もちろん、これからも俺は君の先生として色々なことを教えていくつもりだよ。だけど、授業として行うのは、今日を最後にしたいって思う」
「最後の授業……」
 そう。最後の授業だ。
 もうナップに教えることがないというのは本当だ。もう半月前からなにを教えればいいのか迷っていたくらい、ナップの実力は高くなっていた。だからある意味当然のことだ、でも………
 本当は、本当の本音を言えば、俺は最後になんてしたくない。俺はナップとの繋がりを一つでも多く持っていたいし、授業は今でも(苦しくてしょうがないのも確かだけど)至福の時間だ。
 でも、俺たちはもうすぐさよならしなくちゃいけないから。もうきっと二度と会えなくなるから。
 だから、少しずつこうして、俺が君の心から消え去れるよう準備をしていかなくちゃならない。君が俺を忘れてくれるように、俺を忘れられないくらい傷つくことがないように。
 ………うああ―――本当はイヤなんだよ―――今すぐナップに縋りついて忘れないでって泣きつきたいよ―――! でもでもでもナップのためにはそうしなきゃいけないのはわかりきってるし―――うあああん。
 だから、だからせめて今は、この一瞬一瞬を俺の心の中に刻みつけるんだ……! そして教師として、最後の授業に俺の伝えられることを全て伝えたい! 俺は、この授業に自分の、教師としても君を愛する一人の男としても、全てをかける!
「ああ、そうさ。今の俺が、君に教えてあげられる最後の、そして最大のものだよ。戦闘の準備をしてついてくるんだ」

「今の君の力の全てを出し切って、それを俺にぶつけるんだ」
「な……っ!?」
「俺は防御に徹する。この線から、一歩でも俺を下がらせたら君の勝ちだ。これが、俺からの卒業試験の課題だよ」
「無理だよ……そんな……オレが、先生に勝てるはずなんか……」
 ナップは少しうつむいて唇を噛み締める。うああちょっと目を伏せたアングルが強烈可愛い〜! などと跳ね回る煩悩に喝を入れるように、俺は怒鳴った。
「勝てない相手とでも戦わなくちゃいけないことは、誰にだってあるんだぞ!」
「!!」
「だいじょうぶだよ。今の君の力だったらできないことじゃない」
「先生……。……っ!」
 ナップはすっと、剣を構えた。彼の瞳に強い光が宿る。
 うん、君にはその方が似合ってるよ。俺なんか、君のその光で打ち破ってみせてくれ。
 俺も武器を構えると、ナップは叫んだ。
「いくぞおぉぉっ!!」
「来いっ!!」
 手加減はしない。俺の武器の一振り一振りが、君への置き土産だ!

「はぁっ、はぁ……っ」
「どうした……まさか、これでもうおしまいなのか?」
「ちっくしょおぉっ!」
「…………」
 俺はナップの攻撃をさばいて押し返した。全力で。
「ぐあ……っ!?」
 ナップが転ばされて呻く。
 痛そうだ。苦しそうだ。でも俺は手加減しない。
 君に嫌われてもいい。本当は全然よくないけど、それ以上に君に伝えたいことがあるんだ。
 君には、俺を超えてほしい!
「ピピピーッ!!」
 アールをあっさり吹っ飛ばす。
「ピピィッ!?」
 ナップは吹っ飛ばされたままの格好でしばらく荒い息をついていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。その瞳には激しい意思が感じられた。
「大切なのは……っ、負けてたまるかって必死になれる気持ちなんだぁーっ!!!!」
「ピピピィーッ!!!!」
「!?」
 ――――!!
「…………」
 とっさに障壁を張って防いだものの、俺は大きく吹き飛ばされていた。
 光学兵器……抜剣しなかったら危なかった……。
「はは、は……っ」
「ピピィッ!?」
「おっと!」
 俺は倒れこむナップを慌てて支えた。
 ――軽い。本当にナップは軽いんだ。
 わかってたけど……本当に、ナップは、まだ子供なんだなぁ……。
 こんな小さな身体で戦ってる君を――俺は愛しく思わずにはいられない。小さな身体をいろんな想いでいっぱいにして、自分のため、みんなのために戦う君を。
「せん、せ……」
 苦しげな息の下から見上げるナップに、俺は微笑んだ。
「がんばったな……ナップ……」
 泣きそうだよ。こんなに強く俺を惹きつける君とお別れしなきゃならないなんて。
「文句なしで、試験は合格だからな……」
 でも、俺は君が誇らしい。君のその強い心を作る一部でも俺が手伝えたなら、こんなに嬉しいことはないよ。
「へへへ……っ」
 苦しげな、でも嬉しげな笑い。見ているだけでいとおしく、胸が痛くなる。君を抱きしめてキスして、できることならもっと先まで進みたくなる。
 でも、それはできないから、しちゃいけないことだから、俺は教師の顔で微笑むんだ。
「でも、今の召喚術は君の身体には、まだ負担が大きすぎる。けして、むやみに使ったらいけないよ……いいね?」
「うん……」
「無理しないで、今はじっとしてるんだ。帰りは、俺がおぶっていってやるから……」
「うん……」
 俺の言葉にナップはちょっと困ったような顔をしたけど、素直にうなずいた。
 ……こんなことをできるのも、君とこんなに接近できるのも、これが最後。
 これで終わりなんだ、と思うとたまらなく切なくて、帰りは少しだけ、ゆっくり歩いた。

 イスラとの最後の戦いを控え、島のみんなは一時の平和を楽しんでいるようだった。オウキーニの新しい料理――『タコ焼き』をみんなで食べたりミスミさまたちと縁側でお茶を飲んだり。
 この前助けた派閥の暗殺者――ヘイゼルさんとも少し話をして、新しい生き方を一緒に考えようと言ったりして。そのあとアズリアにイスラが病魔の呪いをかけられていたことを護人たちに説明してもらったり。
 なにも変わらないように見えても、全ては少しずつ終わりに近づいていっている。身体の底のどこかが終わりを前にしてせっぱつまり、焦っているのを感じる。
 俺とナップが流れ着いた浜辺でアズリアと話していると、イスラが遺跡に現れたとギャレオが教えてくれたので、俺たちは急いで遺跡へ向かった。

「ちぇ……無色の派閥の連中も、意外と、あっさり負けちゃったなあ。もう少しぐらいがんばってくれてもよかったのに……そうは思わないかい? ねえ、レックス」
 イスラはこの状況でもこちらを挑発するような言葉を放ってくる。ナップがかっとして前に出そうになったが、俺がそっとそれを押しとどめると「先生……」と俺を信頼しきった笑顔を向けてきた。
「で、どうするんだい? よってたかって、僕を袋叩きにしてから今度こそ、力ずくで剣を奪うのかい?」
 俺はイスラに降伏を勧告した。無駄な争いはしたくない。
「は……っ? ははっ? あははっ! あっははははは! それってさあ……まるで、自分が勝って当たり前って言ってるみたいじゃないか?」
「……勝つよ」
 ナップが教えてくれたから。他人がどう言おうと、それが自分の本当の気持ちなら、最後まで貫くことが大切なんだって。
 ……ナップに幸せになってほしいって気持ちを、俺がどんなに辛かろうが貫き通すつもりのように。
「俺はもう、君の言葉にまどわされたりしない。周りの視線を気にして自分を卑下したり無理に笑顔を作ってごまかしたりしない。ありのままの自分の気持ちを、そのまま剣にこめて振るうよ。だから……絶対に負けない!!」
 そうだ、だって俺はナップと、ナップへの想いと一緒に戦ってるんだから!
「うんっ! 勝つのは、絶対にオレたちだ!!」
 ナップが凛とした表情でそう言う――その笑顔は、本当にきれいで――壮絶に可愛い。今すぐ抱きしめたいくらい……ってこの期に及んで俺ってやつは……。
「黙れえええええエエエエエエぇぇぇぇぇェェェェェェッ!!!」
 イスラは抜剣し、亡霊たちを操って俺たちに向かわせる。そしてそのまま戦闘に突入した……。

「ふはっ、あはははっ? あははははは……っ。なんだよ、それ……なんで、適格者である僕が、負けたりなんかするんだよ……っ。なんでだよおッ!? ずるいじゃないか!? なんで、壊れたはずの剣が、お前のところにあるんだよおッ!!」
「イスラ……」
「見るなあァァァッ! そんな目で見るなッ! 哀れみの目で、僕を見るなあァァァッ!! お前が悪いんだ……お前さえいなければ、お前さえ、消えさってしまえば……く……っ、ふくくっ、ははっ、あはハはははハハハははは……消えて……ッ!! なくなってしまえええええエエエエエぇぇぇぇェェェッ!!!!」
「せんせえぇぇぇっ!?」
 イスラが剣を振りかざすのを見て、ナップが叫ぶ。だが、俺は冷静に状況を見て取ると、剣の力を解放した。
「うおおおおおオオオオぉぉぉぉォォッ!!!」
「ひ……っ!?」
「イスラあぁぁぁッ!!」
 抜剣して放った魔力――その力に、砂のようにあっさりと、はかなく紅の暴君の刀身のほとんどは崩れ去った。
「剣がァ……ッ!? 僕の剣ッ!? 僕の……ッ、が!? あ、ア……うああアアアぁぁあアアぁァァァッ!?!?」
 イスラの抜剣状態が解除され、俺はほっと息をついた。完全には破壊せずにすんだ。
 だが、イスラはムキになって何度も何度も俺にかかってきた。俺は抜剣し、そのたびにイスラを退ける。
 イスラが泣きながら喚く。
「なんでだよッ!? なんで、お前ばっかりみんなから、ちやほやされるんだよッ!? かなうはずなんかない無責任な理想ばかり口にしてるくせにッ! そのせいで周りに迷惑をかけても、平気な顔して笑ってさぁ……気持ち悪いんだよッ! お前を見てると、僕はムカついて、イライラするんだよォッ!!」
「…………」
 確かにそうかもしれない。俺が決して褒められた人格をしていないことは、誰よりも俺がよく知っている。
 でも、俺は、その褒められたものじゃない人格でみんなを守り、一人の少年の幸せを願うことを貫こうと決めたんだ。
「お前らも変だよッ!? おかしいよッ!? なんで、こんなヤツを信用しちゃうんだよ? つきあうだけ、損することぐらい、わかっているはずなのに!?」
「ピピー、ピピ……」
「はは……っ、バカじゃないの? 人と人のつながりなんて、しょせんはだましあいと損得勘定じゃないか……馬鹿正直に心を開けばそれを逆手にとられて痛い目を見て、嘲笑されるだけだろ? だったら、得をする方法をとろうとしてなにが悪いんだよ!?」
「イスラ……」
「真剣にはならず、遠くから物事を見つめて自分に利益がなければ無関心を決めこむ。そうすれば傷つくこともないし、他人にバカにもされない……それが一番、利口な生き方じゃないか!?」
「そんなことない!!」
「……っ!?」
「ナップ……」
 唇を噛んで、じっとイスラを見つめていたナップが――毅然と顔を上げて叫んだ。
「たしかに、お前が言ってることはホントのことなのかもしれない……真面目にがんばっても周りのみんなが認めてくれるとは限らないし、逆に、からかわれてバカにされることのほうが、多いのかもしれない……でもさ!? だからって、真剣になるのをやめたら自分がなりたいものやしたいことを……ひとつだってかなえられずに終わっちゃうかもしれないだろッ!」
「……っ!」
「そんなの、オレは絶対イヤだ……だって、そんなんじゃ生きてることが楽しくなくなっちゃうじゃないかよッ!!」
 ナップ……。
 君のそのまっすぐな心、純粋な魂に――俺は救われ、たまらなく惹かれる。
 ……そんな君を見ていられるのも、あと少しのことなのだけれど。
「…………」
「バカにされたって、傷つけられたって、オレは、なりたいものになってやる!! こわいからって逃げたりなんかしない。お前みたいに……遠くから他人のことをうらやましがって、バカにすることで自分を守ろうとする、そんな臆病者になってたまるもんか!!」
「う……ぐ……っ、黙れえええええエエエエエエぇぇぇぇぇェェェェェェッ!!!」
「……っ!?」
「わかったよ……どこまでいっても僕とお前たちは、絶対わかりあうことなんてできないってね!」
「イスラ……」
「近づくなアァァッ!」
「……っ」
「僕は負けないよ……負けるくらいだったらどんなことをしたって逃げてやる……逃げて! 逃げて! 力を取り戻したらまた、お前たちを殺しにきてやるよッ! 何度でも、何度でも僕を殺さない限りは永遠にねえ……あっははははは! あはっ、あははははっ、あっはっはっは…………ごばアぁッ!?」
 イスラが――血を吐いた。
「ち……血……っ? なん、で……??? ぐふっ!! ガっ!? ギ、あ……ッ……ぐぎぃアあアアアァァァァァぁぁッ!?!?」
「イスラっ!?」
 なんなんだ、これは? ふさがっていたはずのイスラの傷口から血が噴き出して……どんな治癒も追いつかない……!
「ふはははははは……」
「!?」
「無駄だ! 無駄だ! あがいたところでそいつの命は、もはや助かりはせんぞ!!」
 オルドレイク……!
 オルドレイクが嬉しそうに解説したところによると、病魔の呪いを解呪したんだそうだ。体を酷使し続けたイスラから剣の力も死ねない呪いも存在しなくなった今、イスラは死ぬしかない、と……。
 むりやり抜剣してオルドレイクに襲いかかったイスラはあっさり返り討ちにあった。俺が怒りに燃えて抜剣すると――
「な、なんだっ!?」
「ププ、ピピィーッ!?」
『やっと……ッ! やっと、この時がやってきた……ッ! 忌まわしき封印は砕け散ったッ! 我を縛るものは、もう存在しないッ!!! ふふふふ……ッ? ぐふふっ! ぎひゃはははははははははははは!!!! 破壊してやるウッ! 殺して、壊して、支配してやるウウウゥゥゥゥゥッ!! 我が名はディエルゴ!! ハイネルのディエルゴ!! 怒りと悲しみに猛り狂う、島の意思なりッ!!!』
 頭の中に響き渡る、狂気に狂喜する声。その声は、まさしくあの化け物の声だった。
「フシュウゥゥ……ッ」
「オオオオヲヲヲッ!! ウオォォぉぉぉッ!?」
 亡者たちが次から次へとあふれてくる。島の意思の復活に呼応して。
 オルドレイクは時を無駄にしたととっとと逃げ出し、俺が思わず追おうとするとナップに袖をつかまれた。
「今はアイツのことより解けちゃった封印をなんとかするほうが先だろッ!!」
「く……ッ!」
「キュウマ! ヤッファ! ファリエル! ありったけの魔力を彼に注ぎこんで!」
「共界線へと、直に封印の魔力を叩きこんで黙らせようってのかよ」
「心得ました!!」
「フオォォォ……ッ!」
「頼みましたよ……レックス殿!!」
 ここは――なんとしてもなんとかするしかないっ!
「ウオオォォォッ!! 復活は……っ、させないッ!!!!」
 俺は全力で魔力を放出した―――

 本日の授業結果……これで最後?

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