先生と生徒の休日

「休日だって?」
 みんながこの島に来てからずっと働きづめに働いている俺に気を遣って、明日一日を俺の自由時間にしようと言ってくれた。思いきり羽を伸ばせって――
「……って、言われたのはいいんだけどさ」
「いいじゃんか? せっかく、みんなが休めって言ってくれてるんだしさ」
「ピピッ♪」
「好きなことして、めいっぱい楽しめばいいんだよ」
 ナップは嬉しげだ。たぶん(俺の自惚れを抜きにしたとしても)俺のことを気遣って、俺が休日を楽しめることを嬉しく思ってくれてるんだと思う。それはとっても嬉しいんだけど――
「そう! 問題なのはそれなんだよ!」
「え?」
 きょとんとするナップ。
「ちゃんとした休みなんて、久しぶりだから……なにをして過ごしたらいいのやら、ちっとも思いつかないんだ」
「はぁ!?(ピィ?)」
 あからさまにナップに呆れた顔をされ、俺はちょっと落ちこんだ。そりゃ自分があんまり面白くない人間だってのは自覚してるつもりではあるけどさ……。
「それじゃ、先生今まで休みの日にはなにをしてたんだよ?」
「学生になってからは自習をやっていたか、さもなきゃ、一日中寝てたかな……」
「趣味とか? 友達なんかと一緒にどこかに出かけたりとかは?」
「特にないなあ。それに、俺は村のみんなに学費を出してもらって勉強してたからね。あんまり外へ出て遊ぶのも、気が引けて誘われても、ほとんど断ってたんだよ」
「信じられねえ……」
 ナップはやれやれという顔をして目をつぶってしまう。
「でも、本当にそうだったんだ。なあ、どうしたらいいと思う?」
「どうしたら、ってそんなこと、オレに相談されても……」
「プピィ……」
 ナップは困った顔をする――そりゃそうだろうなぁ。自分の教師に休日の使い方を相談されて、すらすら答えられる生徒はそういないだろう。
 でも、俺はこっそり、『じゃあいつも通りオレに授業してよ!』って言ってくれるのを、ちょっとだけだけど、期待して、たんだけどな。
 ……わかってるわかってるわかってるよ! そんなの俺の妄想にすぎないってことは!
 だけど俺はナップにものを教えるのが楽しいんだよ。苦役じゃなくて楽しみだ。だからこういう風に休みって言われると、ちょっと、いやかなり、寂しいものがある。俺はナップと一緒に授業をしたいのにー!
 でも、ナップにはこんなの迷惑な気持ちだろうなぁ。授業してる時は一生懸命俺の話を聞いてくれるけど。それは仕事っていうか、するべきことだからで。そこから逸脱してまで俺につきあう気はないよなぁ。
 ……それってもしかして、先生と生徒って立場を離れたら俺とナップってなんの関わりもないっていうこと?
 いやいやいやいや! ナップは俺を慕ってくれている、それは確かだ! あんな健気な想いを生徒だからって理由だけで済ませるとしたら、俺の頭はカボチャ以下だぞ!
 ……でも、俺がナップの家庭教師をする期間が終わったら、俺とナップってなんの関わりもなくなるんだよな。
 今まであえて気がつかなかったその事実に思い当たり、俺はズガーンとショックを受けた。当たり前のことなんだけど、最初からわかってたことなんだけど、目の前に照らし出されると……苦しい。悲しい。泣きたくなる。
 すごく辛くてすごく嫌だ。俺はナップがすごく好きで、可愛くて可愛くてたまらない。この世のなににも代えられないくらい大切だ。そんなナップと、もうなんの関わりもない他人になってしまうなんて――
 俺はどうすればいいんだ。ナップとのいつか訪れる別れに、なにも抵抗できないのかーっ!?
 ――そんなことを考えつつ、俺はその日、一晩中苦悩した。

「オレと?」
「ああ、一人で過ごすよりも、そのほうが楽しいと思ってさ」
 俺は休日当日、朝食を終えてしばらくしてから極力さりげなくナップの部屋を訪れた。ナップに今日一日一緒に遊んでくれないか訊ねるためだ。
 一日考えて、俺は決めたんだ。ナップといつか別れるのは避けられない。でも、思い出をお互いの中に残すことはできるはずだって。
 教師と生徒としてじゃなく、レックス≠ニナップ≠ニしての思い出。そういうのも今のうちにたくさん作っておきたいって思ったんだ。せっかくもらった休日なんだし、そういう風に使えたらいいなと思うし。
 でないと……立ち直れなくなっちゃうくらい、寂しいから……。
「今日一日、つきあってくれないかな?」
「うんっ!」
 ナップはめちゃくちゃドキドキしながらの俺の言葉に、すごく嬉しげにうなずいた。
 ………やったあぁぁぁっ! デートだあぁぁぁっ!
 ………いや、言っておくけど少しでも思い出を作っておきたいっていう切ない思い(うう、自分でいうとなんかおかしな感じ……)も本当だ。心の底からそう思っている。できるだけナップのそばにいたいって思う。
 でも、それはそれとして、ナップと二人っきりで遊びに出かけるっていうのが嬉しくてたまらないんだ。俺はデートとかってほとんどしたことがなかったし、ナップとデートって考えると自然と顔が笑えてくるぐらい嬉しい。
 ……ナップの方はデートとは思ってないんだろうけどさ……俺の心の中でぐらいそう思ってもいいんじゃないかなって思ったりして……。
「それじゃ、あとはなにをして過ごすかだけど……」
 ナップとデート♪ ナップとデート♪ と俺がうきうきしながら言うと、ナップはちょっと考えて目を輝かせた。
「うーん……それなら!」

「で、いつの間にやらこんな大所帯になってしまった、と……」
「ゴメン……なんか、話をしたらみんな一緒に行くって言い出しちゃってさ」
 俺たちを除いても総勢八人にのぼる人数を前に、俺は心の中で滂沱の涙を流していた。
 そうだよなナップはやっぱり俺と遊びに行くことなんてデートだなんて欠片も思ってないんだよな……当たり前だけど。二人っきりよりみんなの方が楽しいって思うよな……俺はナップと二人っきりで、お互いだけを見つめて過ごしたかったんだけど……うわああなにを教師にあるまじきことを考えてるんだ俺の馬鹿馬鹿馬鹿ー! ナップがそれを求めてるならそれでいいじゃないか!
 とにかく俺たちはヤッファたちの案内で目的地へと出かけた。そこはここを作った召喚師たちの保養施設のようなものだったらしい。
 俺はまだナップと二人きりじゃなくなったショックから脱していなかったが、みんなに(特にナップに)暗い顔を見せるわけにはいかない。みんなで遊ぶのはみんなで遊ぶので楽しいと思うし、ナップも楽しんでくれるだろうし。俺はみんなと親睦を深めようといろんな人に話しかけた。
 ナップもみんなと楽しくお喋りしているようだ。俺を見てほしいな、という気持ちもあるけど、それよりもナップが楽しそうで嬉しい気持ちの方が強い。やっぱりナップには笑っていてほしいと思うし……。
 時々ナップの様子をうかがいつつみんなと話していると、一瞬ちらりと視線を感じた。――ナップの視線だ。
 俺はさりげなく話から抜け出し、ナップの方へ近寄った。ナップはスバルたちと話していたので、話が途切れるまで待つ。
 ナップは俺が近づいてきたのに気づくと、話の輪から抜け出してちょっと困ったような目で俺の方を見た。俺はん? と訊ねるように首を傾げてみせる。
 ナップはしばらく俺をじっと見つめていたが、やがておずおずと言った。
「先生……怒ってない?」
「え?」
 俺がきょとんとした顔をすると、ナップはちょっと顔を赤くして、まくしたてるように言う。
「いや、別に大したことじゃないんだけど、先生、みんなと一緒に遊びに行くことになってから怒ってるみたいに見えたから……」
 俺はちょっと驚いた。そんな風に見えてたんだろうか? 別に怒ってたわけじゃなくてショックだったんだけど、それが滲み出てたのかな?
 それともナップが特別に俺のことをよく見ててくれたからとか……うわあ馬鹿馬鹿! 調子に乗るな、ナップは教師としての俺を慕ってくれてるだけにすぎないんだぞ! 教師としての分をはみ出すような真似は……
 でも。俺はそういうことをやろうとしてたんじゃないか?
 別に邪な気持ちとかは関係なく。そういうのは心の奥に押し込めておかなきゃいけないと思うけど。先生と生徒としてだけじゃなくなりたくて、ナップを遊びに連れ出したんじゃないか?
 だったら、俺は――
「怒ってないよ」
 にっこりと笑ってみせる。
 ほっとした様子で笑うナップに、俺も笑いながらさりげなく付け加えた。
「ただ、俺はナップと二人で遊びに出かけるつもりだったから、ちょっと拗ねてただけさ。ナップは俺だけじゃ不満なのかな、って」
 俺の言葉にナップはしばし呆然として、ぶっと吹き出した。
「せ、先生……ガキみてえ!」
「まあね。本当は俺、まだまだガキなんだよ」
 俺も笑いながら言う。先生としてナップを導くだけじゃない、等身大の俺。先生としての俺を捨てないで、俺に出せるギリギリの本音。
 本当に俺はガキなんだよ、ナップ。君を教え導く先生としての立場も、君を想う男としての俺も、どっちも捨てられないぐらいに。

「ん?」
「どうしたの?」
「ほら、向こうのほう、なんか、雲がいっぱい広がっているからさ。雨になったら、困るなあって……」
「あれ、雲じゃないわよ」
「え?」
「くっくっく……まあ、行ってみればすぐに納得するさ」
 ようやく着いた目的地では、海がお湯になっていた。海から湯気が勢いよく立ち上っている。
「こいつは、もしかして海底温泉ってヤツか?」
「ええ、そうよ。「イスアドラの温海」。このあたりの地熱は場所ごとにまちまちで冷たい海と熱い海が隣りあってるの」
 すごく大きな花畑もあったりして、すごく気持ちのいい場所だ。行楽地としても最高ってヤッファが言ってたけど、その通りだな。
 俺はとりあえず、浜辺に行ってみた。
「ははっ、すげえ! ここの水、本当にぽかぽかしてるぜ」
「どれどれ……うひゃっ!?」
「ううう……塩辛いですよお」
「あははははっ♪」
 はしゃいでいるスバルたちに、先生根性が頭をもたげた。
「こらこら、スバル。そんなこと……ひゃあっ!?」
「へっへーん♪ 先手必勝だよーん」
 気づかない場所からナップとソノラが海水をかけてきたのだ。俺は思わず笑いながら二人を睨んでしまった。
「お、お前ら……」
「悔しかったら反撃してみなよ?」
 よーし……やってやろうじゃないか!
「おっとっと!」
「ふぎゃっ!?」
「あははは……。……はわっ!?」
「うふふ、油断大敵よ」
 う、後ろからは卑怯だ……!
「よーし、みんな先生を集中攻撃!」
『おーっ!』
 バシャバシャバシャバシャ。俺はみんなに四方八方から海水をかけられまくる。
「ちょ……っ!? わ、わわわわっ!?」
「あはははははっ! それ、それっ!」
 楽しそうに笑いながら水をかけるナップ。俺はさんざん水に濡れたけど、ナップが笑っていてくれて嬉しかった。
 びしょ濡れになってしまった俺は、下着だけになって服を乾かすことにした。花畑に寝っ転がって、太陽の陽射しを一杯に浴びながら花の香りを吸い込む。すごく気持ちよかった。
 そのままうたた寝しそうになった時、ひょいと顔をのぞきこまれた。ナップに、スバルに、パナシェたちだ。
「ど……どうしたんだい?」
 ドキドキしながらそう訊ねると、ナップたちは笑う。
「せっかくそんな格好になったのに、寝てるだけじゃもったいないって!」
「オレたちと一緒に泳ごうぜ、先生!」
 え、え!?
 見てみるとナップたちは全員下着姿だ。しょ、少年たちの、それもナップのしなやかで華奢な肢体が目、目の前に……!
 り、理性が。いや、こんなみんないる場所で理性をぶっちぎらせたりはしないけど。こんなハーレムチックな状況じゃ鼻の粘膜が……いやいや俺が好きなのはナップだけ……ってなにを言ってるんだ俺は―――っ!
 ナップが硬直している俺にしびれを切らしてか、俺の手を取って引っ張った。
「ほら、先生、早く!」
 …………! ナ、ナップのちっちゃくて温かい手のひらが俺の手に……ああ、今俺はナップと手を繋いでるんだ……!
 俺は引っ張られるままにナップたちと一緒に温かい海へ飛びこみ、疲れるまで泳いだ。波間から垣間見えるナップの体に(温かい海のせいもあるかも)、のぼせそうになりながら。

「どうしたんだよ? ぼけーっとしてさ」
 浜辺に座って海を見ていた俺に、ナップが話しかけてきた。俺はひどく幸せな気分のまま答える。
「ん、ちょっとね。思っていたんだよ。どう過ごそうかって最初は迷ったりもしたけどさ……みんなのおかげですごく楽しい休日になったな、ってね」
 ナップのおかげで、と言わないあたりは俺なりの大人的配慮だ。
「うん、オレも、こんなに楽しい休みは初めてだよ」
 ナップは嬉しくてたまらないというように笑う。
「オヤジの仕事のつきあいで、大人に混じって出かけることはあったけど、そういうのってきゅうくつでさ、ちっとも楽しくないんだもんな……」
「大人が一緒じゃ、そうかも知れないな」
 それにナップみたいな子は、堅苦しい大人社会なんかよりこういう風に元気に体を動かしてる方が輝けると思う。
 ナップは俺を見ながら、どこか真剣な眼差しで言う。
「この島に来て、最初はさ、オレすっげえ損したって思ってたよ。屋敷で暮らしてた時より、ずっと不便でたまらないって思った」
 そうか……最初はそんな風に思ってたのか。
 でもナップは目を閉じて、自分の心の声に耳を澄ますようにして言う。
「でもさ……代わりに、オレこの島に来て、今まで知らなかったこといっぱい知ったんだ。勉強も、遊びも、ご飯を食べるのだって、みんなと一緒のほうが一人より、ずっと楽しいんだって!」
「!」
 みんなと一緒……みんなと一緒か。
 そうだな……当たり前のことだけど、ナップには俺一人じゃダメなんだ。いろんな人と会って、話して、仲良くなって……そういう経験を積んで、成長していくんだから。
 俺は本当に馬鹿だな。本当に、まだまだちゃんと先生やれてない……いやこれは先生とかいう問題じゃない。曲がりなりにも成人した大人として、子供の成長を願う人間として、ちゃんとしてなかった。
 そんなことじゃ……子供相手に、心と体を損なうことなく、想いをかけることなんてできやしない。
 心の中で落ちこむ俺に、ナップは言葉を続けた。
「オレ、この島に来てさ、良かったって今は思う。スバルや、みんなと会うことができて良かったって思う。それに……」
 いったん言葉を切って、
「アンタがさ……オレの先生になってくれたこともな」
 …………!
「ナップ……」
「へ、へへへ……こんな時じゃないと言えなかったからさ」
 照れくさそうに笑うと、ナップは「それじゃ!」と立ち上がって走っていってしまった。たぶん恥ずかしくてしょうがなかったんだと思う。
 俺は――感動のあまり硬直していた。

 帰ってくるとジャキーニさんが召喚石を使って暴れていた。俺たちと再戦を求めていたので、仕方なく手加減して叩きのめした。
 どうやらイスラに召喚石の使い方を教わって一緒に裏切るようそそのかされたんだけど、それを断って個人的に反乱(というのも変だけど)を起こしたらしい。
 咎めるのは自分だけにしてくれ、というジャキーニさんに、もう二度とこんなことはしないと約束してもらって恨みっこなしで決着がついた。

「あーあ、せっかくいい気分で一日が終わると思ったのに。最後の最後でケチがついちゃったよなあ」
 ナップは俺のベッドにばふんと飛びこむと、ベッドの上でごろごろしながら言った。
 俺は、かなり緊張していた。晩ご飯を食べたあと、ナップは俺の部屋に当然のように入ってきたのだ。俺は驚いてどうしたのか聞くべきか迷ったが、ナップがあんまり自然だし、それに薮蛇になってナップが出て行ってしまうのも嫌だったので聞くのをやめた。ナップがそばにいるというのは俺としては素直になればすごく嬉しいし。
 ともかくなにか返事をしなければならない。俺はベッドに腰掛けて、口を開いた。
「そうでもないさ。俺にとっては、すごく楽しい一日だったよ。また機会を見つけて、みんな一緒に出かけられるといいよな」
 今度はちゃんと、最初からみんなで遊ぶと決めて。
「うん……」
 ナップはそう答えたが、なぜだか浮かない顔だ。
 もしかして……! ナ、ナップも今度は俺と二人っきりでデートしたいな、とか考えてくれてるのかーっ!?
 いやいやいやいやなにを言ってるんだなにを、ナップがそんなこと思うわけ………!
 だがナップは腰掛けている俺の前に回り、ぺたっと俺に体を預けるように抱きついてくる。
 …………! な、な、な、な! も、もしかして俺は誘われてるのか!? いやそんなまさかナップは子供だ、きっとこれは俺とコミュニケーションを取りたいというサインにちがいない! 子供っぽく俺に甘えてるんだ! そうに決まってる!
 俺は『もし本当に誘ってて据え膳だったら?』と囁く煩悩の声を必死に叩き伏せて、全精神力を結集して優しく微笑み、そっとナップを抱きしめて、髪を撫でた。
 ナップは目を閉じて、しばらくされるがままになっていたが、ふいに言った。
「ずっと、ずっとこうしていられるといいんだけどな」
「え……」
 そ、それってそれって! 『ずっとこうしていたい……』っていう、恋人が抱きあってる時に言うアレのことか!?
 ナップ、もしや、もしや君は本当に……!?
「いつかはさ、オレたちこの島から出ていくことになるんだろ?」
 ……は?
 俺は一瞬なんのことかわからなかったが、数瞬後気づいた。つまりナップはこの島の生活について話してたんだ! この島の生活が楽しいからずっとこうしてられたらいいな、って!
 うわあ俺って大馬鹿者だあっ! は、恥ずかしい……!
 ナップを抱きしめつつ心の中で悶絶する俺に気づかず、ナップは続ける。
「工船都市まで送ってもらったら、カイルたちともお別れだし、それに……」
 いったん言葉を切って、小声で言う。
「アンタを先生って呼べるのも、軍学校に入るまでだしさ」
 …………!
 胸が、ぎゅん、と疼いた。
「ナップ……」
「わかってるよ、オレにも、みんなにも、それぞれにやるべきことがあるんだから、そのために、一人でもがんばらなくちゃいけないってことは。でもさ……オレ、このままずっとみんなとここで暮らしてたいよ。ずっと……先生の生徒のままでいたいよ……」
 胸がたまらなくドキドキして、痛かった。ナップの心の中の等身大の思い。それが泣きたくなるくらい嬉しくて、切なかった。
 ずっと生徒のままでいることはできない。それは俺もよくわかってる。
 でも、俺はたまらなく嬉しい。ナップの俺への気持ちが嬉しい。
 まるで告白みたいだよ、ナップ。
「ただのワガママだよな、こんなの……」
 そう言ってうなだれるナップ。
 俺はしばらく考えて、必死に考えて、自分の気持ちにも嘘をつかず、ナップにとってもちゃんと道を示せる言葉を考えて、言った。
「そうかもしれないな。でも、君がそう思うことが、間違いだとは俺は思わないよ」
「え?」
 目を見開くナップに、優しく言う。
「軍学校に入るのも、島に残って暮らすのも、君の好きなように決めればいいと思う。大切なのは、そう決めたことに対して、自分で自分に責任がとれるかだと思うんだ」
「自分に責任……」
「後悔をしないように完璧な答えを選ぶなんてこと、誰にもできないけどさ。後悔しても構わない、そう覚悟して、進むことならなんとかできると俺は思う」
「……!」
「ワガママだっていいんじゃない? 生きていくことって結局、自分の意思を通していくことだし。どうせだったらさ、やりたいことを通していくほうが、気分いいだろ?」
「そうだね……」
 ナップは目を閉じて、どこか安らいだような顔になった。俺は頭を撫でながら語りかけ続ける。
「しっかりと考えて、納得できる答えを探してごらん。それがどんな答えでも、君が正しいと信じられるものなら、俺は、応援するよ」
「……うん。ありがとう、先生!」
 ナップはそう言ってぎゅっと俺に抱きついてきた。俺は泣きそうになりながら抱き返す。
 ナップの日なたの匂いのする体。びっくりするぐらい華奢な手足と体の感触。さらさらと頬に触れるこげ茶色の髪――
 俺は……俺は、今、今まで生きてきた中で一、二を争うくらい幸せだ………。

 本日の授業結果……ラブラブ?

戻る   次へ
サモンナイト3 topへ