「昨日あんなに降ってたのに、今日はもうこんなに晴れてる」 次の日の午後、順はよく晴れた青空を見上げながら夕歩の家へと向かっていた。 順と夕歩は週に数日、近くの道場に剣道を習いに行っている。今日もこれから、夕歩と一緒に稽古に行くのだ。 (でもやっぱり、父さんと夕歩に相手してもらってる時が一番楽しいな) 今父さんに習ってる新しい技、ちゃんとできるようになったら夕歩に見せてあげよう。 うきうきした足取りで角を曲がると、夕歩の家が見えてきた。 「あ、おばさま……こんにちは」 「あら、順さん」 家の前まで来ると、夕歩の母が門のところで水をまいていた。 順はいつも夕歩と連れ立って道場へ行く。こうして迎えに来るのも毎回おなじみの光景なのに、夕歩の母は順のことを認めると何故かその顔を曇らせた。 「夕歩、迎えに来ました」 いつもと少し様子が違うな。 心の中でいぶかりながらも用件を伝えると、夕歩の母はうつむき加減にため息をついた。 「夕歩、昨日から熱を出して寝ているのよ」 「えっ」 熱……昨日はあんなに元気だったのに。 分かれた時の夕歩の元気な顔が思い浮かんだが、同時にびしょ濡れになって帰り着いたことにも思いあたって、順ははっとした。 「きっと風邪ね。順さん悪いけれど、今日はお休みしますと先生に伝えてもらえるかしら」 「あ、はい……あの、ちょっとだけ上がっていっていいですか」 「ええ、でも移るといけないから少しだけですよ」 「はい。じゃあ、おじゃまします」 お辞儀をして、門の中へと入っていく。夕歩の母はついてはこないようで、順は内心ほっとした。 夕歩のことは大好きだが、彼女の母のことは苦手だった。あからさまに冷たくされたり避けられているわけではないのだが、どこかよそよそしいというか、壁のようなものを感じるのだ。 物心ついたときにはもう、夕歩の母に対する印象はそういうものになっていたような気さえする。 (それより夕歩夕歩) いつの間にかうつむき加減になってしまった。 順は暗くなりかけた気持ちを振り払い、夕歩の部屋の前に立った。 |
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