■ 第1章 目覚め 02
― ブログ ―
――明菜、、、
遅い昼食を摂ってオフィスに戻ると、ビルの入口で明菜とばったり出くわした。
別れて以来、何度か仕事で顔を合わせた時と同じで、明菜はプイっと顔をそむけ立ち去っていく。
――ふっ。 僕は浮気男だよっ
何となく寂しくて時々頭をもたげた明菜への未練を『こんな身体で会ったら何を言われるかわかったもんじゃないしな』と自分に言い聞かせて心を静めていたのももう過去の話だ。
再び目覚めてしまった女装の魅力に竜之介は夢中になっている。 そして何より絶対人には知られたくない女の女装してするオナニーの快感をしばらくは失いたくない。
別れてすぐ、どうせならと、女装するたぴに気になっていた脛毛や腋毛をすべて綺麗に剃ってしまった。 もともと体毛は薄く、髭も殆ど生えない体質なのだが、今ではショーツからはみでる体毛が無様に思えて、ビキニラインまで綺麗に処理するようになっている。
足全体の無駄毛を処理して初めてパンストに足を通した時、そのすべらかな感触のなんともいえない気持ち良さが竜之介を虜にした。
女装を再開したした頃は誰に見られるわけでもないのに脛毛を隠すために濃い色のパンストを選んで履いていたのだが、今ではほとんど透明に近いベージュのストッキングが大好きで膝からまっすくに伸びたストッキングに包まれた足を眺めるのがお気に入りの時間だ。
幼い頃から凝り性で、何にでもとことん突き詰めるタイプの竜之介は、化粧方法が載った女性誌を買い込み夜毎、”女性の顔を造る”ことに没頭していた。
使い方はもちろん呼び名すら分からない様々なメイク用品や洋服、下着を片っ端から通販で買いまくっている。
自分で身につけることを想像しながらネットサーフィンをすることの楽しさにすっかりはまっていた。
今日も、宅配業者から通販サイトで購入した商品が届いているとメールがあった。
――どれが届いたんだろう?!
目につく物をやみくもに注文しているのでどの商品の配達通知なのかわからなかったのだが、小包を開封し、身に付ける時のトキメキを思うと気もそぞろだ。
だが竜之介のマンションには宅配ボックスがなく、両隣の住人とはあいさつ程度しか交わさないので預かって貰うわけにもいかず、配達してもらって手にするのは週末になる。
今夜はどうしても待ちきれなくて、仕事を早々に切り上げ宅配の集配センターに寄り道して小包を受取って帰宅した。
◆
届いていたのは、部屋で着るつもりで注文した下着だった。
――あんなに綺麗な下着、汚しちゃもったいない
竜之介は夕食もとらず、身に付けることを想像しながら急いでバスルームに飛び込む。
身につけて鏡に映る自分を想像し、ウキウキしながらボディシャンプーの泡で全身を包んだ。
――どうしようかなあ、、、
竜之介は、ネットで自分の姿を公開するかどうかをここ数日悩んでいた。
最初はどう見てもタレントが笑いを誘うために化粧をしたような不細工な出来栄えだったのが、この頃は「鏡の中の女の子」が毎日少しずつ綺麗になっていく。
まだ外出する程の勇気は持てないが、その姿を”鏡を見つめる自分”だけが見るのは竜之介には何とも惜しい気がしてきていた。
――今ぐらい化粧が出来たら、もし会社の人が見たってボクだってばれないよなっ?!
竜之介は親や友達、何より会社の人に”女装趣味”を知られることを恐れていた。 犯罪を犯しているわけじゃないが、さすがに恥ずかしくて会社に居づらくなるに決まっている。
しかし綺麗に変わっていく姿を見てほしいという欲求はもう抑えきれないほど昂っていた。
勢い込んでバスルームを出た竜之介は、届いたばかりの下着にいそいそと身を包み鏡に映す。
――うふっ。 可愛いじゃん
フリルの付いたコットン地のランジェリーは肌触りも気持ち良く、てとも気に入った。
「どう、ごん太? 似合ってるだろ?!」
明菜が家では飼えないからと強引に竜之介の部屋に連れてきたペットの猫・ごん太が喉をゴロゴロ鳴らし、竜之介を見ていた。
「よ〜しっ!」
――僕は、女になりたいわけじゃない。 可愛い、綺麗な女に見られたいだけなんだ。 人に言えない少し変わった趣味を持ってるだけさ
竜之介はパソコンの前に陣取り、可愛い下着を身に着けた高揚感も手伝い『女装外出日記 ヴィーナス&マース』と題したブログを一気に立ち上げた。
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