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≪第三話≫
高校に入る前の春休み、ママは新しいパパを連れてきた。それが例の目に妖しい光を宿すパパだ。
パパには私よりも二つ上の娘さんがいるらしいけれど、その娘さんは家を出て行ったまま戻らないらしい。一人っ子の私にはお姉ちゃんという存在がうらやましかったので、少しがっかりだった。
パパは本当にいい人だけれど、どこかで理想の私の像を勝手に決める癖があった。それはきっと出て行った娘さんを私にかぶせていたのだろう。
「パパ、これ似合う?」
「うーん、それよりシナはこっちのほうがいいんじゃないか?」
私が水色系のさっぱりしたデザインの服を着ても、パパはフリルのピンクを勧めてくる。
「やっぱり私は文系かな。」
「いや、シナは数学の点数はよくなくても、センスはあると思うから理系にしなさい。」
…実際センスもへったくれもなかった。パパがこじつけている気がした。だけど私はあくまでパパが大好きだった。性的な意味でもそうだった。
だから私はパパが求めるように理系コースに進んで、休日はピンクのフリルを身にまとっていた。
こんなに好きなのに、届かない恋。満たされない可哀そうな私のマ●コ。
私のほうが若くてキレイなのに、どうしてパパはあの馬鹿なママのほうが…
パパのいうことを聞くたびに、やりきれない気持ちになった。
「シナ、今日放課後資料室の整理があるんだけど、手伝ってくれないか?」
そんなある日、声をかけてきたのは一緒に総務委員を務める男の子、タケシだった。
「いいけど…」
ふてくされながらも内心私はごきげんだった。パパも好きだけど、タケシのことも好きだからだ。タケシはオナニーのおかずにはしないけど、なんというか、若さ特有のニオイだとかそういうものをプンプンと漂わせていて、一緒にいるとクラクラするのだ。
「……」
「……」
黙々と掃除を続けるタケシと私。ふと私は急に、とてもエッチな気分になった。
“このまま急にタケシに押し倒されちゃったりしたら…”
という、あらぬ妄想が頭の中を駆け抜ける。
しかしあろうことか、その妄想が本物になってしまったのだ。
「シナ……」
ラベルの整理をするためにしゃがんでいると、上からタケシの大きな影がおおいかぶさった。逆光でよく見えないが、タケシの顔は少し緊張しているように見える。
「な…に?」
「…おまえ、俺のこと好きなんだろ?」
「…なんで知ってるの?」
首をかしげたまま黙っていると、私はそのままごろんと倒された。
短いスカートがピラリとめくれて、ショーツが丸出しになる。
タケシはそのショーツと太ももの間に自分の手をなんども行き来させながら、私のおでこにキスをした。
このときの私の視界には、タケシのスラックスのふくらみがはっきりと入っていた。
「なぁ……」
“セックスしても、いいだろ?”と続けたかったのだろうか。そのままタケシは呼吸を荒げて私のブラウスのボタンをぶるぶる震える指で外しだした。
しばらく私は自分のされていることを見ていたが、タケシの痛いだけの愛撫に目をそむけた瞬間、タケシの瞳の中に信じられないものを見た。
パ……パパ???
それは、パパの目だった。妖しい光を宿す目。獣の目。肉食獣…女をむさぼる目。そう、タケシは獣の目をしていた。ということは、パパの目は……
「いやっ!」
私はタケシを突き飛ばし、資料室から飛び出した。アソコから出る熱い液体が止まらない。この液体がパンツから滴り落ちて、ベチャベチャと学校の床や上履を汚してしまうような気さえした。
タケシがイヤで逃げたんじゃない。パパの目がなぜあんなに妖しく光るかわかったからだ。パパは獣だ。女をむさぼる獣だ。…としたらママは……。
いつもボケっとしているだけで何もできない、しがない専業主婦の母の顔が、脳裏に悲しく映った。
ママは…パパにむさぼられているんだ…。
それからパパは私のオナニーのおかずでしかなくなった。なつく気もしない。何かものをねだるようなこともしたくなかった。
けれどパパの目を見るたびに、私のアソコはよだれを垂らした。私のアソコは電動歯ブラシの代わりにパパを求めるようになったのだろうか…。
「パパ…う……やめて…そこは…ダメっ…あんまり舐めちゃ…イク」
それは月の明るい夜のことだった。
イッたはずの私がそのまま眠りにつくはずが、その日だけは少し違っていた。
眠りのトンネルの途中に藍色のブラックホールのようなものに吸い込まれる変な感覚のあと、私は不思議な空間に浮いていた。
二つの黒い影。中年のものと若い者のもの。あれは私とパパ…?でもなんで私はここにいるのに、向こうに私がいるの…?
若者の影は中年の影を、なんだか叩いているように見える。…なぜ?
やがて中年の影がうずくまり、動かなくなると、若者の影がゆっくりとこちらに歩いてきた。細い体。長い脚。近くに来てみると、とてもキリっとした顔立ちの少年とも少女ともとれる若者といることがわかった。名はシオンという。
「イイカイ、明日ノ夜、絶対ニ、月ダケハ見テハイケナイヨ。」
若者の声からも、性別はわからなかった。私はどうしてもこの若者の正体を知りたくて何かを言おうとしたが、その瞬間に中年の影も若者の姿も、そこにあったものもすべて眠りのトンネルに吸い込まれていってしまった。
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「明日ノ夜、絶対ニ、月ダケハ見テハイケナイヨ。」
翌朝の授業中も、放課後も、夕飯の時も、夢にみた若者の声が離れなかった。
けれども今日は幸いぶあつい雲で月が覆われている。月を見ずにすみそうだ。
しかし、なんだか気持ちが悪かった。
中年の影、あの若者は一体何…?
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