2012.7.25.

悠美、大騒動
002
木暮香瑠



■ プレゼントは何?2

「ううーーーん、やっぱりグラビア写真集かな? 賢一の喜ぶプレゼントは……。女性の裸、好きだもんなあ、男性は……」
 賢一の趣味を、男性一般の趣味と置き換えている。
「それともHゲーかな? 賢一も男だし……、きっと好きだよな」
 色々とギフトショップやゲーム屋を廻ったが、賢一好みのプレゼントは見つからなかった。と言うか、賢一が何を好きなのかわからないのだ、3年も付き合ってると言うのに。いつも悠美が賢一を一方的に振り回しているだけで、賢一のことを何も判っていなかったことに気付く。
「どうしよう、何買ったら賢一が喜ぶか、判らないよ」
 いろんなものを見て廻る悠美だが、見れば見るほど判らなくなる悠美だった。



 深夜、賢一の部屋、窓にコツンッと何かぶつかる音がした。

 !?

 賢一の部屋は二階である。部屋の明かりに誘われ、虫でも飛んできて窓に当たったかな? 賢一は特に気にもせず、マンガを読み続けた。

 コツンッ!

 !?

「賢一! 開けなさいよ」
 マンガを読んでいる賢一に、押し殺した声が聞こえる。
 賢一は、何事? と思いながら窓は開け下を覗いた。
「何だよ、悠美か……。何か用か?」
「何か用かじゃないわよ。何で鍵締めてんのよ。玄関の鍵、閉まってるわよ、もう……」
 呑気に声を掛けてくる賢一に、悠美は怒った様に頬を膨らませた。
「普通締めるだろ。もう10時だぞ。それに玄関のチャイム押せばいいだろ」
「ご両親にばれちゃうでしょ」
「いいじゃねえか。お前が来ても何も驚かねえよ」
 そんないつもの他愛のない会話が繰り返される。
「そうじゃなくて……。もう、開けてよ」
 悠美は、さっきよりも頬を膨らませて言った。
「判った判った。待ってろ」
 賢一はそういうと、玄関に向かった。

 玄関から入った悠美は、賢一にしーーーっと立てた人差し指を口に当て、抜き足差し足で階段を上がっていく。
「なんだよ、親父たちに知られると拙いことでもあるのか?」
 しーーーっとされてることもあり、賢一は小さな声で悠美に聞いてみる。
「ちょっとね」
 悠美は、たいした事じゃないという感じで答えた。でも、知られちゃ拙いことには変わりはないみたいだ。賢一も、とりあえず悠美に従って音を立てないように階段を悠美の後を追った。

 部屋に入った悠美は、いきなりTシャツを脱ぎだした。

 !?

 一瞬の静寂の後、賢一は、
「ひいっ!!」
と、驚きの声を上げる。
「しーーー!、なんて声上げてんのよ。ご両親に聞こえちゃうじゃない」
 悠美の人差し指が賢一の口を塞ぐ。
「で、でも、何してんだ!! 着ろよ」
 口を塞がれようと、賢一は突然の出来事に声を上げざる負えなかった。
「何してんだじゃないでしょ。今日、あんたの誕生日でしょ!? プレゼント、まだだったから、私のバージンあげようと思ったんじゃない」

 !?

 何度目の!? だろう。いつも悠美には驚かされている賢一だったが、こんなに短い間に、こんなに驚かされることは初めてだった。

「だって、いつも抱かせろって言ってたじゃん。下着も賢一好みのを探してきたんだよ」
 レースのスケスケのブラジャー、なんと乳首も、乳輪の形さえ透けている。レースの下で、カワイイ乳首がプルプルと震えている。初めてをあげると決心してきたが、それでも緊張と興奮、それに何も気付かない呑気な賢一に対する怒りから震えが止まらない。しかしそんなことは、突然目の前で起こったことに驚いている賢一には読み取る余裕はない。
「いやっ、そのっ、あっ、あれは挨拶みたいなもんで、決まり文句って言うか……、そういうことだよ」
「えっ? 抱きたいわけじゃないの? 私を……」
「いやっ、抱きたくないって言ったら嘘になるし、かと言って抱きたいって言ったら抱きたいけど、でも今すぐ抱きたいって言うわけじゃなくて、ええっと……」
「何言ってんの? 意味判んない」
 目を丸くしている賢一に、悠美はちょっと切れている。
(女心を全然判ってない。賢一の、バカッ!!)
 初めてをあげる緊張より、女の子の気持ちを判っていない賢一に対する怒りが勝った。

「とにかく乳首、隠せ! 乳首が透けてるぞ」
 怒りに拳を握り締め微動だにしない悠美に痺れを切らした賢一は、思わず声が大きくなってしまう。
「えっ!? ブラが透けてるのに驚いてるの? こっちも透けてるよ」
 ブラが透けているだけで驚いている賢一に、追い討ちを掛けるようにスカートを捲くってみせる。ブラとお揃いのショーツもやっぱり透けて陰毛の形を晒している。男なら、ドンッと構えていて欲しかった悠美の賢一に対する悪戯心だ。

 !!!

 賢一は目を点にした。

「イヤンッ、恥ずかしい。そんなに見詰めないで!」
 悠美の股間に向けた視線が固まったままの賢一に、悠美は両手を頬に当て可愛く恥ずかしがるポーズをとる。
 でも賢一の固まった姿勢は、微動だにしなかった。

「どうしたの? ゴムもちゃんと用意してるから大丈夫だよ」
 悠美はドギマギする賢一に対し、これでどうだ! とばかりに、ポーチからコンドームを取り出し賢一に翳し、お誘いの追い討ちを掛けた。

「そういう問題じゃないんだ!!」
 そういって賢一は、悠美が手に掲げたコンドームの包みを叩き落した。怒ったと思ったら恥ずかしがってみたり、平気な顔で誘ってみたり、『お前の方が意味不明だ!!』と言いたいところをグッと押さえた。でも、大きな声が出てしまった。

(私の方から誘ってあげてるのに何? 賢一のバカ!!)
(何誘ってんだよ、この変態! 誘うならもっと情緒がある場所、雰囲気ってもんがあるだろ)
 声には出さないが、コンドームを叩き落された悠美と、それを叩き落した賢一の睨み合いが続く。

「どうかしたのか? 賢一……」
 先ほどの賢一の悲鳴、大声と只ならぬ雰囲気を気にして、父親が部屋を覗きに来た。

 !?

 父親の目に映ったものは、上半身をブラジャーのみを身に着けた悠美の半裸と床に落ちているコンドームの包みだった。父親の顔が真っ赤になり、沸騰したやかんのように湯気が吹き上がったようになっている。
「何してんだ! 賢一!! 悠美ちゃんを脱がしたりして! コンドームまで用意して!!」
 ドカ、ドカ、ドカと賢一に近づいたお父さんの手が、賢一の頬に飛んだ。

 バチンッ!!

「お前にはまだ早い!! お父さんだって、二十歳過ぎてからだったんだぞ! それも母さんとだったんだぞ! フムッ、フムッ、フムッ……」
 鼻息を荒らげお父さんは、言わなくて良い事まで言い放った。賢一と悠美は、父親のあまりの興奮ぶりに呆気に獲られている。完全に素に戻ってしまった。

(母さんとが初めてだったんだ。じゃあきっと、母さん意外には知らないんだ……)
 21歳で結婚した両親、親父が浮気できるような性格でない事は息子の賢一には判っている。今でもラブラブの二人なのは、ご近所さんにも周知の事だ。もちろん悠美にも……。

「おじさん、賢一のママしか知らないの? 一穴主義? カワイイーー」
 賢一が思っていても口に出せなかったことを、悠美は平気で言う。賢一の父親の顔が、更に赤くなった。

「そんなことはどうでもいい! おっ、お前は悠美ちゃんになんてことをしようとしてたんだ!!」
 本当のことを言い当てられた恥ずかしさを隠すように、更に大きな声を賢一にぶつけている。迫力はないが……。
(俺が誘ったんじゃないのに……。でも、この状況を見たら仕方ないか、親父が怒るのも……)
 スケスケのブラジャーと共に胸を晒している悠美と床に落ちているコンドーム。

 そのことの理由を聞こうともせず、怒って要らぬ事を口走る父親。そのことを楽しんでる悠美。
(俺の周りはこんなヤツばかりか!)
 賢一は自分の不遇を嘆いた。



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