■ 1
しばらくして、とうとう玲さんがドアを開けて中に入ってきました。
「そこにかけてくださいね」
私は玲さんを、通路に置いているソファに座らせました。
「はい」
玲さんはそう返事して、私の指示に従いました。素直で真面目な玲さんの様子を見て、私はますますためらいました。
でも、看護士として、いつまでもそうしているわけにはいきません。それに、今診察を受けているのは赤ん坊を連れた女性の方です。玲さんの後も、五歳の女の子とその母親が入ってくる予定になっています。幸いにも、玲さんが男性に裸を見られるということはありません。
私は決心しました。
「玲さん」
私はソファに座っている玲さんの前にしゃがみ込んで、言いました。
「はい」
「ちょっと恥ずかしいけど・・・今のうちに服を脱いで、パンツ一枚になろうね」
玲さんは、一瞬目を大きく見開いて、それからうつむきました。やっぱりショックだったのでしょう、しばらく何も言わずに、じっとしていました。
でもやがて、か細い声ではあったのですが、「はい」と返事したのです。
この後部活動があるためなのか、玲さんはこの時、上はジャージ、下は短パンという格好でした。
玲さんは立ち上がって、最初にジャージを脱ぎました。ジャージの下は体操服のシャツでした。
「靴下も脱いでね。パンツだけになって」
玲さんは私の指示にこくんとうなずいて、それからかかとを片足ずつ浮かせて、靴下を脱いでいきました。
続けて、短パンを一気に膝元まで下ろしました。玲さんの白いパンツがあらわになってしまいました。
短パンを床に脱ぎ捨てたまま、玲さんはシャツを脱ぎました。白いブラジャーとパンツだけの格好になった玲さんは、頬を真っ赤にして、恥ずかしさをこらえるように唇をかんでいました。
その後、さすがにためらってしまうのか、玲さんはなかなかブラジャーを取ろうとしませんでした。
本当はそっとしてあげたかったのですが、診察の順番はすぐに回ってきます。やむをえず、私は言いました。
「下着も脱いでくださいね」
玲さんはさっきのようなか細い声で、「はい」と返事しました。そしてようやく背中に手を回し、ブラジャーを自分の胸から離していったのです。
「服は預かっておきます」
私がそう言うと、玲さんは律儀にも、自分で脱いだ服を畳みました。そして「お願いします」と言ったのです。
そういう真面目な子に、なんてひどいことをしているんだろうと、私は罪悪感で胸が痛みました。
玲さんの衣服は、正面の処置室にあるかごの中に入れておきました。
私は病院の規則に従って、玲さんを正面の処置室に入ってもらい、そこで身長と体重を測定しました。
身長を測る時、玲さんは恥ずかしがりながらも、胸を隠していた両腕を自分で下ろして、気を付けをしました。
「胸は隠してていいよ」
私がそう言うと、恥ずかしそうに少しはにかんでいました。玲さんの胸は体格どおりそんなに大きくなくて、せいぜいBくらいです。でも、形はお椀型で整っていて、乳首も桜色でキレイでした。
私は処置室のベッドに玲さんを座らせました。間もなく赤ん坊を抱いた女性の方が出てきて、私は先生のところへ行くようにと玲さんに言いました。
処置室は入り口にカーテンがなく、通路からは中が見えてしまいます。玲さんは一瞬女性の方と目があったのか、恥ずかしそうにうつむいていました。
処置室を出ると、野田さんが待っていました。玲さんを野田さんに預けて受付に戻るつもりだったのですが、野田さんに一緒に来るようにと言われて、私は二人の後に続いて先生のところへ行きました。
先生のところへ行くと、玲さんは野田さんに促されて、丸い回転椅子に腰を下ろしました。
診察するお医者さんが女の人ということで、心なしか少し安心しているようでした。
先生は、最初に問診をしました。
「よく気分が悪くなるということだけど、どれくらいの頻度で起こるの?」
「最近は、週の半分は気分が悪いです」
「どんなふうに?」
「体がだるいっていうのが一番多いです。あとは、頭痛がひどかったり、吐き気がしたり・・・」
「本当に吐くこともある?」
「はい・・・昨日学校で、昼休みに弁当を食べた後、気持ち悪くなってトイレで吐きました」
「今も?」
「はい・・・まだちょっと頭が痛いし、体もだるいです」
恥ずかしさのせいか少し声が震えていたけれど、わりとしっかりした口調で話していました。
「生理痛なのかどうか分からないというのは?」
「はい、あの・・・生理の時も気分悪くなるんですけど、そうじゃない時も・・・高校に入学した時から、ずっとそんな感じなんです」
「なるほどね・・・それじゃあ、診察をします」
先生はそう言うと、いつものように診察を始めました。まず玲さんの口を開けさせて中を見て、それから聴診器を使い始めました。
「両腕を下ろして、胸を張ってください」
「はい」
玲さんは素直に従いました。
今度は、玲さんの乳房がはっきりと見えました。改めて見ても、小さいけれど形の良いキレイな乳房でした。
「大きく息を吸って・・・吐いて・・・また吸って・・・吐いて・・・」
先生はそう言いながら、玲さんの体に聴診器を当てていきました。
胸、おなか、そして背中と当てて、先生は聴診器での診察をやめました。
「ちょっとおなかを見てみようね」
先生はそう言って、玲さんの腹部を指で押し始めました。
「痛いところある?」
「いいえ・・・」
「・・・ここは?」
「ここは?」
「大丈夫です・・・」
一瞬、玲さんの表情がぱっと変わりました。先生が、少しだけ玲さんのパンツを指で下げたのです。でも、それは診察のために必要なことですから、玲さんも分かってくれたと思います。
「ここは?」
「・・・いいえ」
さっきよりかすれた声で、玲さんは答えました。
先生は玲さんのおなかから手を離して、カルテに書き込みながら言いました。
「もう少し詳しく診てみる必要があるわね。血液検査と、尿検査と、それから・・・」
「はい・・・」
「月経との関係もよく分からないから、外陰部も診てみないといけないわね」
その瞬間、玲さんの顔から血の気が引きました。
先生は念を押すように言いました。
「恥ずかしいと思うけど、自分のためなんだから、我慢できるわね?」
玲さんはしばらくうつむいていました。女の子にとって一番大事で、恥ずかしいところを調べられると言われたわけですから、やっぱりすごくショックだったと思います。
でも、玲さんは気丈にも顔を上げて、か細い声ではありましたが、「はい」と返事したのです。
その後、玲さんは隣の処置室に移ることになりました。私はバスタオルを用意して、玲さんに羽織ってもらいました。
これから受ける診察のことを思っているのか、玲さんの表情はとても堅かったです。でも私には、励ます言葉もありませんでした。
そしてここから、玲さんの本当の悪夢は始まったのです。
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