2007.02.01.

優華の性癖
02
あきよし



■ 第一章 優華2

「2年2組が私のクラスだった。
友達もたくさんいて、楽しい学校生活だった。
途中までは………。
6月にある事件が起こったの。
放課後に好きだった男の子に呼び出されて、体育倉庫にいったんだ。
−告白されたらどうしよう。
なんて馬鹿な事を考えて倉庫に向かったわ。
この日はちょうどバスケ部の練習も休みで、体育館には誰一人としていなかった。
体育館から回って倉庫の前に着くと、誰かの話し声が聞こえた。
『おい!!! 早く脱げよ!!』
−えっ? なんだろ。
好奇心の強い私は少し扉を開けて中の様子を覗った。
そこには男子3人に対して女子が2人いた。
男の子の一人は私を呼び出した佐伯 忠文(さえき ただふみ)君だった。
いつもはクールで冷静な佐伯君が声を荒げていた。
 他の二人は、いつも佐伯君と一緒にいる、金堂 亮太(こんごう りょうた)君と中谷 達也(なかたに たつや)君だ。
正直この二人は前々から変わり者だと思っていた。
『も、もう許してください。』
弱々しく許しを請う声がした。
後輩の上村 亜美(かみむら あい)さんだ。
彼女は私と同じ水泳部に所属している。
いつもスクール水着の姿を見ていたが、相当胸が大きい事が水着越しにわかる。
それが同じ女性から見ると羨ましい限りである。
だが、当の本人は、胸のでかさをコンプレックスに感じているようだ。
実際に部活が終わった後に、何回も相談されている。
私から見たら羨ましい事を相談されると、妙に憎たらしく感じる時があった。
その上、童顔な顔立ちが小悪魔を連想させる。
裏で男を手玉にとって悪さをしてそうな、そんな気がしてならなかった。
外見で判断すると、間違いなく私にとって気に入らない存在になる。
しかし、いざ話してみると繊細で先輩である私を頼りにしてくれているのが誇らしく思う。
人は外見で判断するものではない。
と言うのは亜美にぴったりの言葉だ。
その亜美の隣にいるのが、同じく水泳部に所属している先輩で水泳部キャプテンの東 奈津美(あずま なつみ)さんだ。
先輩は、後輩の私から見ても面倒見が良く、誰からも慕われているように思う。
現に、先生からも信頼されており、生徒会も任されている。
男女問わず人気が高い事も、先輩なら納得できる。 誤解される言い方だけど、私も先輩が大好きな女の子の一人である。
ルックスの話でいくと、先輩はスタイルはいいのだが、胸が小さいため、細いウエストが引き立っていない。
顔もほっそりとしていて、モデルのような顔立ちをしている。
聞いた話だと、街を歩いていてスカウトされた経験があるとかないとか。
本当なら、スカウトされるほどに大人びていて、美しい顔立ちをしているのだろう。
そのとおりである。
何度先輩と変わりたいと思った事か。
先輩のような顔があれば怖いものなしであろうと、私は考えていた。
もちろん彼氏もいるし、水泳の試合の応援にも必ず来ている。
ラブラブな彼氏がいるのは正直羨ましかった。
でも、私は気になる男の子には自分から話しかける事が出来ないシャイな性格なので、話しかけてくれないかといつも待っている。
相手はもちろんその事を知らないのだから、話しかけてくれるはずもないのだが……。
−私も彼氏ほしい。
そう本気で考えていた矢先、例の約束が交わされたのだ。
体育倉庫。
期待に胸を膨らまして来た体育倉庫でのこの光景。
 私はどうしていいのかわからなかった。
『うるせぇ。こんなでけぇおっぱいしやがって。揉んでほしいのか?』
亜美と佐伯君が言い争っている。
いや、一方的に佐伯君が怒鳴っている。
立ち場は佐伯君の方が、断然有利の状況だ。
−一体何があったんだろう?
私はこの状況が指す意味を、理解しきれていなかった。
体育倉庫には、マットが4枚敷かれていて、その側には跳び箱や、バスケットボール等の入ったボール入れが置かれている。
この独特の臭いが、私は大嫌いだ。
マットの上に、亜美と先輩が座り込んでいる。
やばそうな雰囲気が肌にピリピリ伝わって来る。
−助けなきゃ。でも、どうしよう。このまま出て行ってもどうせ何にも出来ない。
私はただ、その様子を覗くことしか出来なかった。
 勇気がなかった。
私には、二人を助ける勇気がなかった。
これが私の人生を大きく変える悲劇の幕開けだったのかも知れない。

『あんまり俺らをなめんなよ!?』
佐伯君がさらに声を荒げ怒鳴り散らす。
亜美はそんな佐伯君におびえていた。
−私がここに来る前にいったい何があったの?
私はその異様な光景を目の当たりにして後輩と先輩が危険な状況であると察した。
ここで止めに入るべきなのか。
それとももう少し様子を見るべきなのか。
止めに行ったとしても私には何も出来ない。
そんな事を考える暇を与えないように、佐伯君が亜美の顔に平手打ちをした。
パチン
亜美の顔が左方向に動く。
『いたぃ。』
亜美の瞳から薄っすらと、透明な粒がこぼれた。
後輩のそんな姿を見てさすがに耐え切れなくなった私は体育倉庫の中に足を踏み入れた。
『ちょっと何してんのよ!!』
勢いよく飛び出したはいいが、完全に場違いの空気が流れていた。
『おや? やっと来たか。待ってましたよ。遅いじゃないですか。優華さんに言われたとおりやってますよ。』
−えっ? どういう事? ま、まさか……
私は完璧にはめられたのだ。
ちらっと亜美と先輩の表情を覗った。
見る必要はなかった。
当然のように私を軽蔑の目で見ている。
この時の私は、ここにいる人達の中で、唯一孤独だった事を知らなかった。
−誤解を解かなくちゃ。
そう思ってみたはいいけど、言葉が見つからない。
 佐伯君や金堂君、中谷君の方を向くと、3人とも口元が緩んでいた。
−もう終わりだ。
私は絶望感を覚えた。
水泳部にはもう行けない。
あんなに楽しかった部活を続ける事は出来ない。
厳しい練習の後の楽しい一時はもう永遠に来ないんだ。
もはや弁解の余地なしの状態だった。
『よし、帰ろうぜ。』
佐伯君の掛け声を中心にして、3人組が倉庫を出て行った。
残された3人の間には気まずい雰囲気が漂っていた。
『優華。私達をどうしようとしたの?』
私は無言のまま下を向いていた。
−ここで下手なこと言うと言い訳に聞こえないかな?
私は余計な事を気にしすぎてしまっていた。
それが逆効果になり、二人をイライラさせていたらしい。
『もう、何かいいなさいよ!!』
びくっ
いつもは優しくしてくれている先輩の怒鳴り声にビックリした。
『ふぅ。もういいから明日の朝練ちゃんと来なさいよ?』
先輩の態度の変わり様に驚いたが、いつもの優しい声に安心した。
『はい!!(^o^)』
私は笑顔で返事をした。

その日は、起こったこと全てを忘れたかった。
先輩は優しく言ってくれたが、内心では怒っているに違いない。
それも当然の事。
私は覚悟を決めていた。
色々と考えながら帰宅途中の道を歩いていた。
−!!!
誰かに後をつけられていた。
私は、過去にあった恐怖を思い出していた。
ストーカーの恐ろしさは私自身が一番よく知っているつもり。

中学に入りたてだった私は制服を着て、クラス発表のある○○中学校の校舎に向かっていた。
私の家から○○中学までは約15分かかる。
小学校を卒業してすぐにこの地域に転校してきたので、友達もいなかった。
見慣れない町に見慣れない人たち。
私の前にいた所とは違い、かなりの田舎町だった。
 中学校生活に期待を不安を抱えながらの登校だった。
こんな田舎町でストーカーされるなんて思ってもいなかった。
たった15分の短い時間。
しかし、後ろからは足音が聞こえる。
トコトコトコ
−何なのよ。ついて来ないで。
ついて来る足音を振り払うために、通学路とは違う
道に走って行った。
当然の如く知らない道に出る。
それでもまだ足音がついて来る。
段々足音が私に追いついてくる。
−もう駄目だ。
私はあきらめて足を止めた。
深呼吸をして、一気に後ろを振り返った。
−あれ??
しかし、そこには誰の姿もなかった。
−よかった〜。
ほっとして来た道を戻りその日は無事に学校に着いた。
クラス発表も終わり、新たな友達を作るべく私は果敢にクラスメイトに声をかけていた。
友達も何人か出来、いよいよ学校が楽しくなり始めた矢先の登校途中。
またもや足音がする。
−何なの?
私は二度目の恐怖に泣き出しそうだった。



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