僕たちは父上たちからお土産をもらってからサマルトリアを出発すると(毎度お馴染みの涙の別れがあってかなりうんざりした。サリアも僕のフォローの甲斐あってか以前とほとんど変わらない顔を見せていたし)、ルーラでローレシアに飛んだ。ロトの印を手に入れるために。 ロトの印っていうのはロトの叡智を蓄えたものと言われ、継承すればロトの知識、記憶、戦術、そういったものが全て自分のものとなるという。アレフの記憶も記録されているという話も聞いたことがあった。 そしてロトの印を継承した人間はロトの勇者として世界に認められると言われている。具体的にどういう働きをするのかはわからないけど、持っておくにこしたことはない。 ロレには里帰りしてもらうことになるけど(そして里帰りする心境やロレの家族のことはマリアがいるので聞けないんだけど)、ロレはローレシアに行くという話をしてからずっとぶすっとしていた。 不機嫌なのかな、とちらりと思ったけど、たぶん照れているんだと思う。ロレってすごく愛情深いのにそれをあからさまに表すのは照れくさいって人だから。自分でもわかってないみたいだけど。 ローレシアの城下町門前に着地して、門を守る衛兵さんたちに全員で近づく――と、衛兵たちがこっちを見て、目を丸くした。 「ロレイス王子!」 ……ロレイス? 衛兵が王子を愛称で呼ぶのか? 僕は怪訝に思ったが、ロレは全然そう思わなかったみたいでひょいと手を上げてにっと笑ってみせる。 「よー、アヴェにフネ」 「省略して呼ばないでくださいって言ったでしょーが! 俺の名前はアヴェンズです!」 「俺はフルネオ! それがなんでフネになるんすか!」 「どーでもいーだろんなこたぁ。城に用があんだ、中入れてくれや」 「へいへい……って、うわ! なんすかこの超美人な方々は!」 「男がサマ――サウマリルト、サマルトリアの王子。女がマリア、ムーンブルクの王女だ。二人ともただの美人だと思ってると痛い目見んぞ」 「っはー……すっげぇ。俺ら王子みたいな規格外品しか見てねぇからわかんなかったけど、王族ってやっぱすっげー、なんつーか……気品があるもんなんすねぇ……こんな人がロレイス殿下と一緒に旅できんですか、マジで?」 「ああ? んだコラ、喧嘩売ってんのか?」 ボキボキと指を鳴らしてみせるロレに、二人の衛兵は慌てたように笑い顔を浮かべてみせた。 「えーと、城に行くんですよね? どうぞ門の中へ! ローレシアにようこそ!」 「誤魔化してんじゃねぇよ。てめぇらいっぺんあの世のぞいてみっか?」 「いやいやいやいや、とにかく王子、早く城へ! 王様がお待ちかねっすよきっと!」 「ったく、てめーらは」 そう言って笑うロレの顔は、なんていうか……不思議にイキイキしていた。僕に見せるぶっきらぼうな顔とも、マリアと話している時の笑顔とも違う、ものすごく自然な笑顔。まるであるべき場所に戻ってきたかのような。 門の中に入って、城に移動する間もそうだった。僕のように不自然なほどじゃないけど、道を歩いていると店の人や道行く人からたまに声をかけられる。 「ロレイス殿下! 帰ってきたのかい? 可愛い子連れちゃって! これ持ってきなよ、今朝採れたてのトマトだよ!」 「おお王子様じゃねーか! ひっさしぶりだなー、今度はいつまでいんだ? べっぴんさん二人も連れまわしやがって、城いる間に一杯やりにこいよ、待ってるからよ」 「殿下! ご無沙汰だねー! 相変わらずいい男じゃないのさ、あんまり女泣かすんじゃないよ? そんな可愛い子はべらしちゃってさぁ」 そんな親しげな声にロレはちょっと笑顔を浮かべて、「おう」「まぁな」「じゃあな」などと短い言葉で応えている。それを声をかけた人たちも当然と受け入れているようで、さっさと笑顔で去っていくのだ。 城の近く、高級住宅街に入って声をかける人がいなくなってきた頃、マリアがぽつりと言った。 「仲がいいのね。城下の人たちと」 「は? 別にフツーだろ」 本当に全然特別なことだとは思っていないようで、きょとんと答えるロレ。僕はくすりと笑った。 「普通とはちょっと言い難いんじゃないかな。王族と城下町の人たちとじゃまず話す機会が全然ないし。僕はただ一方的にこっちのことを知られているだけだったけど、ロレの場合は本当に普通の知り合いみたいだったじゃない」 「あぁ、そりゃまぁ知り合いだからな。俺、ガキん頃から城抜け出して街のガキと遊ぶの好きだったからよ。おかげで言葉が移って、どうして王族がそんな言葉遣いになるんだとか親父にゃがなられるけど」 「王子だってこと知ってるんだ?」 「別に隠すことでもねぇだろ。最初は王子だとは思われてなかったみてぇだけどな、まーいろいろあって俺の知り合いは全員俺が王子だってこと知ってるぜ」 「ふぅん。ロレらしいね」 「そっか?」 そう言って苦笑するロレ。その顔からはたいていの人は気づかないだろうけど、僕にはロレが街の人たちとそういう関係を築くまでにどれだけ苦労したかわかる。 きっと初めてちゃんと知られた時は大変だったと思う。壁を作られることもあっただろう。でもロレはそれをきっちり乗り越えて、街の人たちと友人になったんだ。ちゃんとした。 ロレは、やっぱりすごいなって、そんなところで再確認する。 「――城が見えてきたぜ。マリアは初めてだろ、うちの城」 「えぇ――」 「別に他と比べてでかい城ってわけじゃねぇけどよ。ま、居心地は悪くねぇから安心しろや」 門に近づくにつれ、城門にうじゃうじゃ人が集まってるのが見えてきた。兵士やら小間使いやら料理人やらいろんなタイプの人間が。 門前にやってくると、その人たちがいっせいに叫ぶ。 『お帰りなさいませ、ロレイス殿下!』 「今戻ったぜ、親父」 謁見の間で、ローレシア王と王妃の目の前で、ロレはそう言ってふんぞりかえった。 ローレシア王はじろりとロレを睨む。 「サウマリルト殿下とマリア姫の前でそんな言葉遣いをするな。お前は一応残念だが困ったことに、我が国の王太子なのだぞ。一国の威信を背負っておるという自覚はあるのかたわけが」 「てめぇも褒められた言葉遣いじゃねーだろーが。んなことぐだぐだ言ってる暇ぁねぇんだよ、とっととロトの印の試練の準備しやがれ」 「ロトの印の試練? お前のようなひよっこが挑んでいいと思っておるのか。旅に出れば少しは成長するかと期待しておったのに、相も変わらず……」 ふぅ、とわざとらしくため息をつくローレシア王をロレはぎっと睨む。 「ふざけてる場合じゃねーんだ。俺らは一日も早くハーゴンを倒さなきゃならねぇんだろーが。てめぇもとっとと協力しやがれ」 「我が息子ながらまったくわかりの悪い奴だな。お前がロトの印の試練を越えられるとは思えんと言っておるのだ」 「んだとコラ―――」 と、くすくすくす、と笑い声が聞こえた。王妃様が柔らかい笑顔を浮かべて、ロレとローレシア王を交互に見る。 「二人とも、親子喧嘩はそのくらいになさい。久しぶりに会えて嬉しいのはわかるけれど、サウマリルト殿下とマリア姫がいらっしゃるのよ」 『誰が嬉しいか!』 声を揃えて怒鳴り、声がぴったり合ったことに苛立ちを感じてかお互いを睨む。それからロレは王妃に向かって頭を下げた。 「……母上。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」 「いいのですよ、ロレイス。あなたが陛下に弱いところを見せたがらないのは、私にはようくわかっていますから」 「なっ……別に、そーいうわけじゃ……」 「ふん、まったく子供よのう。お前が情けない奴だというのはいまさら隠さずとも知れ渡っていることだろうに」 「てめぇ……」 「そういうあなたも、サマルトリアからの知らせが着いてからというもの落ち着かなかったことを隠してらっしゃるでしょう?」 「なっ……ヴィクトワール! 馬鹿なことを言うな! わしがなぜそんな子供のようなことを……」 「へっ、やっぱてめぇもガキじゃねぇか。いい年して恥ずかしがってんじゃねぇよ、阿呆くせぇ」 「貴様に言われたくはないわ!」 「二人とも。サウマリルト殿下とマリア姫の前ですよ」 王妃が微笑みながらそう言うと、二人とも少し顔を赤らめて咳払いをする。……きっといろんな人に似た者親子だって言われてるんだろうな。 「えー、サウマリルト殿下、マリア姫。お二人ともしばらくはこちらに滞在していただけるのであろう?」 僕はにっこり笑ってうなずいた。 「ロレイソム殿下が発つと言われるまではこちらにお邪魔したいと思っております」 「ご迷惑でなければ」 ローレシア王の下心ありそうな目つきに気づかないわけじゃないけど、ロレにとってはせっかくの里帰りだもんね。そう言ったらロレに「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ」って軽く殴られたけど。 とりあえずロレの部屋に案内してもらおうと謁見の間を出ると、わらわらと兵士たちが集まってきた。 「ロレイス殿下! お久しぶりですな! 旅の間もちゃんと剣の稽古はなさっていましたか?」 「あー、まぁな。サマ、マリア。こいつはロータル、今は引退してっけどもとローレシア陸軍の将軍で、俺の剣の師匠だ」 「殿下が十三の時にすでに一本取られていた情けない師匠ですがな」 「よろしくお願いします」 「よろしく……」 「よー、ロレイス。お前ハーゴン倒しに行くって国を挙げて見送られてったくせになに帰ってきてんだよ女連れでよ。ったくこんの女たらしがぁ」 「誰がだボケ。こいつはマンフレッド、俺の乳兄弟の一人。女とみれば目の色変える万年女日照りだから、マリアは気をつけろよ」 「バカヤロ人を変態みたいに言うんじゃねぇ! マリア姫っ、信じないでくださいね!」 「ロレイス殿下! ご無事でなによりです、自分も、自分も殿下についていきたかった……!」 「あーわかってっからいちいち言わないでいい。この熱血野郎は二クラス、俺の稽古仲間だ。ちっと馬鹿だけど悪ぃ奴じゃねーから」 「ひ、ひどいですよ殿下!」 次から次へとやってくる兵士たちの一人一人に僕たちはいちいち挨拶した。いろんな人がいたけど、どの人もロレに輝くような笑顔を向けていると言うことでは共通している。 やっぱりロレは、たくさんの人に本当に愛されている。ロレがみんなを心から愛しているのと同じように。 などと考えていると、ふいに少女の声がした。 「もらったぁ―――っ!」 「おっと」 テラスから飛び降りてきたその少女は飛び降りざま全力で木剣をロレに振り下ろしてきたが、当然ながらロレはその程度で攻撃を受け損なうほどレベルは低くない。軽く背伸びをして木剣を指で止め、バランスを崩した少女を左腕で受け止める。 「………ロレ、その子、もしかして……」 「お、覚えてたか。前に話したラチェルって一番下の異母妹」 「もうっ! 今度こそ絶対一本取れると思ったのにっ!」 深緑に近いような色味の髪を後ろで結んだその少女は、ロレにそっと地面に降ろされるなり木剣を振り回して悔しげに叫んだ。周囲の兵士たちが苦笑しつつ一歩退がる。 「ラチェル。てめぇなぁ、そりゃいつでもかかってこいたぁ言ったが回りに人がいる時にかかってくんじゃねぇよ。危ねぇだろうが」 「なに言ってるのよ、人って言っても兵士じゃない。戦士たるもの常在戦場の心構えでいるのは当然! いつ何時でも襲われる危険に対処できなきゃ駄目なんだから!」 立ち上がって木剣を振り回すラチェル嬢――その丸出しにしたおでこをロレはぴんと弾いた。 「いたっ!」 「屁理屈ゆーな、タコ。てめぇができてねぇことを人に押しつけんじゃねぇっての」 「できてるもん!」 「だったら人の群れの中に不用意に飛び込むんじゃねぇよ。いつ後ろから刺されるかわかんねぇだろうが」 「う……」 泣きそうな顔になるラチェル嬢に、ロレは苦笑して。 「ま、腕が上がったのは認めてやるよ。しっかり練習してたらしいな」 その言葉を聞いたとたん、ラチェル嬢は顔を上気させた。頬を染めつつ早口で言い立てる。 「あ、当たり前でしょっ。私はロレイス様から絶対一本取るんだからねっ」 そう言ってラチェル嬢は走り去っていく。その姿を見て兵士さんたちが笑った。 「ラチェルさまも頑張るなぁ。ローレシアの姫殿下だっていうのに」 「健気じゃねぇか。よっぽど殿下に認めてもらいたいんだろ」 「殿下、ラチェルさまは本当に熱心に稽古してらしたんですよ。俺たちにもしょっちゅう手合わせを頼んできて」 「バカヤロ、あいつが必死に稽古してたことぐらい最初の一撃でわかるっての」 そう言いつつ去っていくラチェル嬢を見送るロレは、なんとなく嬉しそうだ。……彼女のこと、気に入ってるんだな。 「あぁら、ロレイソム殿下じゃありませんこと!?」 いきなり脇から聞こえる甲高い声。ロレはうんざりした顔になって、兵士さんたちはあからさまにびくんとした。 「……なんの用だよ」 「なんの用とはご挨拶ですわね、殿下。私たちにご友人を紹介していただけませんの?」 そう言ったのは先頭にいる茶色い神を結い上げた少女だった。ドレープのたっぷりついたドレスを着て、扇を持って、口元を隠しつつ微笑んで。貴婦人のつもりなのかもしれないけどぎらぎらした目と甲高い声が全てを台無しにしている。 おまけに仕草も言動も貴族女性と言うには堂に入っていなさすぎる、そんな少女とそれが引き連れる少女の集団に向かってロレは愛想のない声で僕たちを紹介した。 「こいつがサウマリルト、サマルトリアの王子。こっちがマリア、ムーンブルクの王女だ」 「まぁ! 相変わらず礼儀知らずですこと! 他国の王族を紹介する時にそんな適当なやり方がありまして? 姓名も王位継承順位も言わないなんて!」 「……こいつがエイメ、二番目の異母妹。俺が王にふさわしくないってきゃんきゃらやかましく文句つけてくる奴。それとその取り巻き」 「まぁっ! よくまぁそんなことが言えたものですわね、わたくしはあなたがあまりに粗野で下品でいらっしゃるから少しでもこのローレシアの王にふさわしくなられるよう日々教育してさしあげているというのに!」 「そうよ、そうよ」 「ひどいですわ、ロレイス殿下」 「王子だなんて思えませんわ」 「ひどい、ひどい」 「うるせ。紹介は済んだぞ、用があんなら早くしろ」 エイメというその少女はムッとした顔でロレを睨んだ。それから即座にまくしたて始める。 「用? そんなもの礼儀指導に決まっているでしょう。あなたの歩き方、口の利き方、仕草に素振り、どれをとっても王としてふさわしくありませんわ! 旅に出てますます下品になられたのじゃないかしら、なにをしてらっしゃったの!」 僕はがなる少女をやれやれと思いつつ見つめていた。たぶんこの少女は、ロレが気になってしょうがなくて、こっちを向いてほしくてついついちょっかいをかけてしまうのだろう。 子供っぽいけれど精一杯のアピール。やり方は間違っていると思うけれど――身につまされなくもない。 エイメ嬢が喋り疲れて口を閉じるや、ロレはじろりとエイメ嬢を睨んで言った。 「気が済んだら自分の部屋帰れ。俺らはお前らにつきあうほど暇じゃねぇんだ」 「…………!」 顔面蒼白になったエイメ嬢は、ぎっとロレを睨んで怒鳴る。 「わたくしは、あなたが王になるなんて認めないんだから! その時になって泣いて頼んでも、絶対許してあげないんだからねっ!」 そう言って取り巻きを引き連れてさーっと走り去る。兵士さんたちがはぁ、とため息をついた。 「あんまりいじめるのも可哀想ですぞ、殿下。エイメ姫はまだ子供でいらっしゃるのですから」 「いじめてねぇよ。本当のこと言っただけだろーが」 「それでも言い方ってもんがあるだろ。あのお姫さん八つ当たりに俺らの給料引き下げろってがなるに決まってんだから」 「あのガキんなことしてやがったのか!?」 「マンフレッド!」 「あ……いや、大丈夫大丈夫! そこらへんは陛下がしっかりしてて、途中でその命令止めさせてるから」 「たりめーだ! あんのガキ……いっぺんシメとかねぇと駄目みてぇだな……」 「あの……兄上様」 「ん?」 細い声のした方に振り向いたロレは、目を見開いた。兵士さんたちがさっと襟を正す。 「ツィーリア……」 「兄上様……お久しゅうございます」 深々と頭を下げる女性は、優雅な品のいいドレスに長い黒髪を垂らした、かなりの美人だった。兄上様、っていうことは……。 「ロレの異母妹さん?」 「ああ。一番上のツィーリア。ツィーリア、こっちがサマとマリアだ」 「初めてお目にかかります、ツィーリア・エメ・ローレシアです。以後お見知りおきを」 「サウマリルト・エシュディ・サマルトリアです。こちらこそ以後よろしく」 「マリア・テューラ・イミド・クスマ・ムーンブルクです。どうぞ見知りおいてくださいませ」 優雅な挨拶に優雅な挨拶を返す。ツィーリア嬢は今までの異母妹とは違い確かに貴族らしい気品があった。王族らしいかどうかはともかくとして。 ツィーリア嬢はロレに向き直り、じっと見上げるようにしながら言う。 「兄上様……道中、ご無事でしたか? ずっとご心配申し上げておりました」 「……ああ」 「城にいらっしゃる間に一度私の部屋へいらっしゃってくださいね。ムーンブルク産のお茶を買いましたの……ぜひ兄上様とご一緒にと思いまして」 「……考えとく」 「よろしくお願いしますわね? では、失礼いたします……またご夕食の時に」 また頭を下げてツィーリア嬢が去っていき姿が見えなくなると、ロレと兵士さんたちははぁ、と息をついた。 「緊張したぁ〜。ツィーリアさまって上品だから乱暴な口利くと壊れちまいそうな気がするんだよな」 「陛下に死刑にされるぜ。ツィーリアさま可愛がってるから」 「ロレもそういう理由で彼女が苦手なの?」 そう聞くと、ロレは苦笑した。 「そーいうわけじゃねぇよ。ただ、あいつはマジで素直に俺慕ってくるから。どーいう風に接していいか、ちっと戸惑うんだよな」 「ふぅん……」 「……あなたって男性にも女性にも人気があるのね」 「あ? 別にそーいうわけじゃ……」 「そうなんですよマリア姫! 殿下は城下にも城内にも惚れられてる女がいっぱいいらっしゃいまして! 希代の女泣かせってやつなんですよ!」 「てめぇマンフレッド、阿呆なこと言ってんじゃ……」 「殿下ーっ! こちらにいらっしゃったのね!」 「あ……」 「ほれファンがやってきたぜー。どうする殿下?」 「てめぇ……」 そんな風に、僕たちはロレの知り合いや友達たちに引き合わされて午前の時間を過ごした。 ロトの印の儀式は滞りなくすんだ。ロレが先頭で印へと近づいていったら、なんの抵抗もなくロレは印を手にできて。 ロレはそのあと印を触ったりしてみて、なんだかショックを受けたみたいだった。なにか見えたのか聞いてみても教えてくれなかったんだけど。 とにかく僕たちはロトの印を手に入れて、夕食を妾妃やその娘たちとも一緒に食べることに決まって、全員で食堂に集まって―― ちょうどその時、部屋の中に兵士が一人飛び込んできた。 「何事だ! 他国の王子と姫殿下の前だぞ!」 ローレシア王の言葉に兵士はその場に平伏する、だが言葉は止まらなかった。大声で、振り絞るような声で、部屋中に言葉を発する。 「陛下! 敵の、敵の襲来です!」 「敵……? どこの国だ!」 「国ではありません、魔物です! 地を埋め尽くすかと思われるほどの魔物がこの城めがけ進軍してきています!」 ――その言葉に、周囲は一気に騒然となった。 |