夜。ロレに最初の見張りを任せて寝入った僕は、ごそごそという音で目を覚ました。 なんだろう? 魔物が近寄ってきてるのかな。でもそれならロレが警告を発すると思うんだけど。 目を開いて、耳を澄ましてその音がどこから聞こえてきたのか寝転がったまま周囲を見渡す。すると、ごそごそという音はこちらに後ろを向けているロレの方から聞こえてきたんだとわかった。 なんだ、と僕はほっとしたんだけど、そうすると今度はロレがなにをしてるのか気になってきた。向こうを向いて小刻みに体を揺らしているロレ。いったいなにやってるんだろう? しばらく眺めていたけどわからないので、僕はロレに声をかけつつ上半身を起こした。 「ロレ……?」 ロレはぴたりと動きを止めた。返事がないので毛布を被ったまま(サマルトリアは春でも夜は寒い)ずりずりとロレに近寄る。 ………あ………ロレ、ズボン下ろしてる。 「ロレ……ズボン下ろして、なにしてるの?」 「……………………」 本当になにやってるのか気になってしまった僕は、立ち上がってロレの前面の方に回り込んで前をのぞきこんだ。なんだかロレの秘密をのぞいてるみたいでドキドキしてしまう。 ―――あ! ロレ、下帯も外してる! ロレのおちんちんが丸見えだ! うわあ、うわあ! と僕はすごく興奮してしまって一心不乱にロレの股間を見つめてしまった。だって興奮するでしょう、これは。好きな人の恥ずかしい部分なんだもの。日焼けしてるわけじゃないだろうに少し浅黒い腰周りの肌と、使いこまれた感じのやっぱり浅黒いロレのおちんちんをドキドキしながら眺めた。 ロレのおちんちん、おっきい……僕のより一回り半は確実におっきい。太さからして全然違う。なんていうか、どーんって感じ。 亀頭はびっくりするぐらい鮮やかなピンク色。そこから僕の手だと握り締めるのがやっとぐらいの太さの竿が握り拳二個分近くの長さで伸び、根元にはそれだけの陽物を支えるにふさわしいどっしりとした楕円形の睾丸がくっついている。 その竿をロレの手袋をしたままの手が軽く握りしめていて――って、ああ! 「ああ、そっかぁ! ロレ、オナニーしてたんだね! ごめんね、邪魔しちゃって! 僕のことは気にせず続きやっていいよ!」 僕も男だから、途中で邪魔される辛さはわかる。僕はあんまり性欲が旺盛なほうじゃないけど、一応定期的に処理してるから。 ロレと出会ってからはそんな余裕もなくてやってないけど――たぶん、ううん絶対、したら頭の中はロレでいっぱいになるんだろうな。 それはともかくとして。僕はそう言ってから、あっと気づいた。これってかなりおいしい状況じゃないだろうか。 ロレのおちんちんを見ることができただけでも嬉しいけど、この状況だと――ロレがオナニーして気持ちよくなってるところとか、イくところとかを見れる可能性とかもあるんじゃないか? うわあ、見たい見たい絶対に見たい! ロレのいやらしいとこめちゃくちゃ見たい! 僕は期待に胸をわくわくさせながらロレに聞いた。 「ね、ロレのオナニーするとこ見ててもいい? 僕ロレのイくとこ見てみたいな」 「……………………」 ロレは答えてくれなかった。僕はロレの右隣に正座して、ロレの股間を眺めながら答えを待つ。 と、「なに考えてんだてめぇはあぁぁぁ!!」という絶叫と共に僕はロレに思いきり殴られた。すごく痛くて、当たり所がよかったのか数分間気絶してしまった。 目覚めると僕はもちろん「なんで殴るのー? 痛いなー」と言ったのだけど、ロレはなぜだかものすごく怒っていて朝まで口を利いてくれなかった。 殴られた跡が痣になってるんじゃないかと思ったけど、考えた末回復はしないことに決めた。ロレがつけてくれた傷って思うと、なんか嬉しくて。えへへ。 翌朝、なぜかロレに「お前ホモ……っつか、男が好きなのか?」と聞かれたので「別に好きっていうか、普通だけど……」と答えた。僕が好きなのはロレだけだもんね。 さて、僕たちは現在レベル上げ&連携の強化&銀の鍵を手に入れるために、サマルトリア西端の銀の鍵の洞窟を攻略するところなんだけど。 やっぱり(ロレと一緒の、という意味でも、僕の人生におけるクエストらしいクエストという意味でも)初のクエストなわけだから、僕はそれなりに緊張してドキドキしていた。ヘマしてロレに愛想をつかされないようにしなくっちゃ。 とりあえず準備はこれまで通ってきた町や村で万全にしておいたつもりだけど……。 一応周囲の植物やなんかで隠してある入り口を見つけて、中に入るとロレが言った。 「暗いじゃねーか。なんだよこの暗さ。勇者の泉の洞窟はやたら明るかったのによ」 ……ロレって、もしかして洞窟の標準が勇者の泉だと思ってたのかな? 「そりゃそうだよ、勇者の泉はレミーラの呪文が固定化されてるもん。ここは曲がりなりにも宝物の封印の洞窟だからね」 「おい、じゃあ真っ暗闇の中俺たちは洞窟攻略せにゃならんわけか? 俺たいまつなんて持ってねーぞ」 「心配することないよ。僕がカンテラ持ってるし、レミーラの呪文も使えるから」 そう言うと僕はさっそく呪文を唱えた。 「光の精霊よ、我が下に集いて闇を食い荒らす顎となれ。精霊神の創りし太陽の輝きの欠片、今ここに呼び出さん=v この手の呪文は得意分野だ。たちまち周囲が明るい光に照らされる。この光は僕が意識しなくても、僕のあとをついてくるはず。 「この光、どれくらいもつんだ?」 「その気になれば数日はもつよ。こういう便利呪文は改良に改良を重ねられて、魔法力もほとんど消費せず大きな効果を得られるようになってるからね。数少ない失われずにすんだ進歩ってわけ」 「ふーん……」 ロレはなんとなくぴんとこないような顔をしていたけど、とにかく奥に向けて進み始めた。僕が念の為カンテラを点けて掲げておく。 当然と言うべきか、洞窟を進んでいくとあとからあとから魔物が湧いて出てきた。軍隊アリ、大鼠、キングコブラ、ラリホーアント、などなど。たぶんハーゴンの組織の末端構成員だろう、人じみた姿の奴もいた。斬り倒すと死体ごと消えたから、すでに魔の眷属なんだろうけど。 どちらにしろ大した強さの敵じゃなくて、ロレにあっという間に斬り倒されてしまった。ルビスさまのお力はやっぱりすごい、旅立つ土地から強い魔物を締め出してくれるんだから。もちろん、魔族が高位になればなるほど魔化領域から出るのが難しくなるっていう法則のせいもあるんだろうけど。 でも、ロレって本当にすごい……すごく強い。僕の援護なんてほとんど必要ないくらいさくさく敵を斬り倒していっている。 カッコいいなぁ……ドキドキしちゃう。僕が役に立てないのは悔しいけど……。 戦闘ではあんまり役に立てないので、少しでもその代わりになればとマッピングを頑張った。万一にも迷わないように、トラップとかがあったら対処できるように。 そうこうしているうちに洞窟の一番奥にたどりつき、銀の鍵の入った宝箱を開けることに成功した。 「しっかし、いっくら魔法の鍵だからって……鍵穴はどの扉も違うんだろ? ホントに開けられんのかよ、これで」 「うん。これで開けられる扉は魔法で閉じられてる扉だもの、魔法の鍵で開けられるよ。鍵穴に合った鍵でだって簡単な魔法をかけなくちゃ開けられないんだから」 「ふーん……ま、いいや。これはお前が持ってろよ。俺が持ってたらなくしそうだ」 「え……うん!」 うわぁ、ロレが僕を頼ってくれた! 仲間としてまた少し認めてくれたって感じがして、すっごく嬉しい! るんるん気分で出口に向かう――と、地下一階に戻ったとたん僕らは軍隊アリの群れに襲われた。それも半端な数じゃない、三桁いくんじゃないかってほどの数だ。 通路が狭いから一度に襲われる数は大したことないけど、ロレは慌てて次々アリを斬り捨てていく。前線をロレに任せて、僕は即座にギラの呪文の詠唱に入った。軍隊アリは一つところにまとまっているからこの呪文で一網打尽にできる! 「いざや炎の精霊よ舞い踊れ! 炎熱を我が手に来たらしめよ! 我が前に立ち塞がりし敵を、集いて余さず焼き払え!=v ゴウッ! ギラの炎熱が通路を満たす。あっという間に軍隊アリは黒焦げになった。 うん、上出来。攻撃呪文使うのは久しぶりだけど、まだ腕はなまってなかった、よかった。一応自信はあったんだけどね。 ……でも、ロレはなにをやってるんだろう? 突然喚きながら地面に転がったかと思うと、立ち上がって目をぱちくりさせている。 「どうしたの、ロレ? 軍隊アリは焼き払ったよ」 「焼き払ったって……もしかしてさっきの炎、お前が……?」 「なに言ってるの、当たり前じゃない。ギラの呪文を使ったんだよ。呪文詠唱の時間稼いでくれてありがとね、ロレ」 「け……けど、俺は炎に取り巻かれたのになんで無事だったんだ!?」 「え……もしかして、知らないの? 攻撃呪文は攻撃対象を術者の任意で選ぶことができるんだよ? 仲間を傷つけない≠チて条件付けして使えば同士討ちすることなんか絶対にないんだよ」 「…………」 僕はがつんとロレに頭を殴られた。 「いたーっ!」 「だったら最初っからそう言え! 攻撃呪文使えるなんて一言も言わなかったくせにっ!」 「それは僕が悪かったけどさ……んもー、乱暴だなーロレは」 「おい、サマ。お前攻撃呪文使えるくせになんで今まで使わなかったんだよ。もっとガンガン使やあ少しはマシな戦力って認めてやったのによ」 え? ロレはなにを言ってるんだろう。 「なんで? ロレの力で充分戦えてたのに。いざという時回復するために、魔法力はできるだけ温存しておくのがセオリーでしょ? もちろん使った方が傷を負わなくてすむんなら使うけど」 僕が戦力として認められるかどうかなんてことより、そっちの方がよっぽど重要だと思うけどなぁ? 僕の言葉にロレは首をかしげながらも反論はせずに足を進め、出口にたどりつき―― 呆然となった。僕も驚いた。出口が土で塞がれている。 「なんでだ……? 最初に入ってきた時は土砂崩れの気配なんてかけらもなかったのに!」 「うーん、たぶん僕たちが奥に行ってる間に魔物たちがやったんじゃないかなぁ? 魔物たちの中には魔術師とかいたから、そいつらが他の魔物を指揮して僕たちを閉じ込めようとしたんだと思うよ」 悪くない手ではあると思う。いかに弱小魔族とはいえ数を揃えてすぐ近くまで来ればかなりの数の魔物を操ることができるだろうし、こういう土木作業はアリにとってはお手の物だろうし。リスクは低いし、僕たちの中にリレミトを使える人間がいなければ致命的なトラップになりえる。そして僕はまだリレミトを使えない。 ロレは恐慌状態に半分くらい足を突っ込んだような顔でそこらへんをうろうろしている。まあ無理もないよね。 そういう顔も面白くてたまにはいいけど――やっぱり、なんとかしてあげなくちゃ。しなくちゃ。 たぶん出入り口はそうとう分厚く土を盛ってあるんだろうな、と思いつつ僕はさっきまで書いていた洞窟のマップを取り出した。洞窟に入る前にチェックした周囲の地形、この辺りの地層、それらを洞窟内のマップと頭の中で照らし合わせて―― 「おい、のんびり考え事してる場合かよ!」 「ちょっと待って。ここがこうなってるんだから……ここをこうすれば……こうなって……うん、ここだ!」 僕は立ち上がり歩き出した。 「おい、どこ行くんだよ?」 「うん、地図と入る前に見たこの辺の地形を考え合わせてたんだけど。一番土の層の薄い部分がわかったから、穴を開けようと思って」 「………はあ? ちょっと待てよ。土の層が薄いって……なんでそんなことわかるんだ? 第一穴を開けるって、そんなことができるって本気で思ってんのか? 俺たちはたった二人で、ろくに道具もねえんだぞ」 「マッピングをしてる時に土の層の質もメモしておいたから。地表に現れる地質を考えれば地表に近い層はわかる。そこにはわずかに風も吹いてたから小さな穴も空いてるんだと思うよ。方角と地形を考え合わせれば、間違いなくそこが一番地表に近い」 これにはけっこう自信があった。 「それほど掘る必要もないと思うよ。それに、この状況で他にできることってあんまりないでしょ?」 というか、今の状況では希望をなくすことが一番まずい。なにをしてもダメな気がして気力から先に萎えさせるようなことは絶対にしちゃいけない。だから、か細い希望でもなにかやることがあった方がいい。……実際、他にやること思いつかないし。 そんな思いを押し隠して、僕はにっこり微笑んだ。 「…………そりゃ、そうかもしれねーけど…………」 ロレは困惑気に頭をかく――ごめんね、ロレ、こんなことしか思いつかなくて。そう思うと悔しい。 僕は目的の場所にたどりつくと、剣の鞘を使って壁を掘り始めた。やっぱりショベルとかがないと掘りにくいのは確かだけど、やっぱり土が柔らかい。これが岩の洞窟だったらアウトだったな。 ロレも仏頂面で手伝ってくれた。 ――僕は、なにも口にしなかった。ロレも口にしない。ただ、ひたすらに黙って土壁を掘る。 なにか言うべきかとも思ったけど、なにも思いつけなかった。だって僕は、初めて二人で一つのことをするっていう状態に、一つ間違えれば餓死もありえるって状況で、ドキドキしたりしていたから。 「あ―――もうっ、やってられるか―――っ!」 掘り始めてから数時間が経った頃、ロレはそう言って剣を投げ出しその場にひっくり返った。子供っぽい動作がちょっと可愛い。 もう、ロレってば我慢が足りないなぁ、とは思ったけど、言いはしなかった。ロレと一緒の作業に喜びを感じていた僕と違ってロレにはこの作業はさぞ辛いだろうと思えたし、僕がロレの助けになれるというのは考えただけで嬉しかったからだ。 だから僕は微笑みながら土を掘り続けていたんだけど、ふいにロレが聞いてきた。 「……休まねえのかよ」 「うん。ロレは休んでていいよ。僕はもうちょっと頑張ってみる」 「俺がやってられるかーっつって投げ出したんだぞ? 少しはやってらんねーとか、思わねえのかよ」 「なんで? だって、僕にはまだやれることがあるのに」 ロレを助けるために、できることがあるのに。 ロレを助けることができるなら、僕は死力くらいいくらでも尽くすよ。なんだってやるよ。 だって、僕はロレが好きなんだから。 生まれて初めてただ一人、大好きだと言える人に会えたんだから。 そう言うと、ロレは相変わらずの仏頂面をしたまま、立ち上がってまた土掘りに参加し始めた。僕はちょっと笑って、その隣で同じように土を掘り続けた。――嬉しかったから。 ザックザックザック。僕らは土を掘る。お互い黙ったまま、お互いを心のどこかで意識しながら、一心に。 静かだった。聞こえるのはお互いの土を掘る音と息遣いだけ。 そして自分の心臓の鼓動だけ。 ――なんだか、すごくロレを近くに感じた。ロレの心臓の鼓動すら、はっきり感じ取れる気がする。ロレと僕は、今――すごく近くにいる。 二人だけ。洞窟の中で、二人だけ。 こんな状況で本当に馬鹿だと思うんだけど、僕はこっそり、このまま時が止まればいい、なんてちょっと思った。 掘り始めてからどのくらい時間が経ったかもわからなくなった頃、壁に穴が開いた。 「あ!」 「やった………!」 新鮮な空気と風。夕陽の暖かい光。――外だ。 「………よっしゃあ―――っ!」 「やったね! ロレ、やったね!」 僕たちはお互い手を叩きあって互いの健闘を讃えた。というか、お互いの体を叩きまくった。高揚のあまり。 僕も、やっぱり外に出れたっていうのは、さっきまでの時間は時間としてすごくほっとすることだったみたいだ。 ロレはすごく嬉しそうに笑っていた。その顔を見て僕もすごく嬉しくなった。 ――お互いの興奮が鎮まってきた頃、ロレがぼそりと口にした。 「おまえ、すげえな。なかなかやるじゃん」 その言葉を聞いて、僕が卒倒しそうなくらい嬉しかったのは、言うまでもない。 |