マリア王女が人間に戻って三週間と少し。彼女の体力は順調に回復していた。 最初の頃は食事をとっても全部吐いてしまったり、なかなか眠れなかったりということがあったんだけど、ロレが話し相手――というか、喧嘩相手になってくれたおかげで、体力を消費したせいか食事も睡眠もある程度は取れるようになってきた。 もう彼女の体力は普通に暮らす分には支障がないレベルにまでなっているといっていいだろうと思う。………ロレって、やっぱりすごいな。 もはやこの一週間でおなじみになってしまった胸の痛みに知らない振りをしながら、僕は全員分の食事を載せたお盆を持ってマリア王女の部屋をノックし、三十秒待っても返事がなかったので扉を開けた。 ――とたん、男女の怒鳴り声が聞こえてくる。 「あなたにだけは頭が悪いとか言われたくないわ! この脳味噌まで筋肉男!」 「ん……っだとぉ!? この洗濯板のえぐれ胸ブス!」 うわ……また、派手にやってるなぁ。マリア王女は普段はいかにも清楚な姫君っていう穏やかなイメージを周囲に振りまいているんだけど、ロレといる時だけはものすごくカッとしやすいんだ。 ……きっとロレといる時だけは、生のままの感情が表に出ちゃうんだろうな。 そう考えるとまたずきり、と胸が痛む。 でも、僕はそれを無視して笑いかける。こんな気持ちを持っている素振りなどちらりとも見せず。 ――知られたら、きっとロレには迷惑な気持ちだろうから。この痛みがなんなのか、僕もまだよくわかってはいないのだけど。 「まぁまぁ二人とも、落ち着いて。そんな大声出して喧嘩したらのど枯れちゃうよ?」 『俺は(私は)落ち着いてる(わ)!』 「そうなの? ごめん。とりあえず、ご飯にしよ? もらってきたから。ちゃんとご飯食べないと喧嘩だってできないもんね」 『…………』 僕は、二人の前にテーブルを引き出してきた。二人の前にそれぞれのトレイを置く。 「はい、ロレ」 「……おう」 「はい、マリア」 「……ええ、ありがとう」 僕が彼女を呼び捨てにするようになったのは、ロレがマリアと呼ぶようになったからだ。僕だけマリア王女と呼んで丁寧にするのも妙な気がしたんで(マリア王女も気を遣うんじゃないかと思って)、マリアと呼んでいいですか、普通に話していいですかと訊ねたらおずおずとうなずかれた。 内心では、いまだに王女をつけたりつけなかったり、なのだけど。なんだか、自分でもマリア王女の立ち位置が決められないらしくて。 僕は食事をしながら、考えていたことをいつ切り出すか機会をうかがった。言おうと考えていたことがあるからだ。 「もう少ししたら、ムーンペタ大公に面会を求めようと思うんだけど。二人はどう思う?」 結局、二人がご飯を食べ終えた頃になって、僕はそう言う。 ロレはしばらくきょとんとして、それからはっとしてマリアを見た。マリアはのろのろとうつむいてしまう。 「僕たちが情報を得たいということもあるけど。基本的にはマリア、君についての話になるよね? だからマリアにもぜひついてきてほしいんだ。これからどうするにしろ、ムーンペタや各地の領主たちに話を通しておかないわけにはいかないから」 「…………」 「これからどうするって……なんだよそりゃ。マリアはムーンペタ大公に預けるんだろ?」 「ロレ、それはね――」 マリア王女が大人しく預けられてくれるか、はなはだ疑問だからだよ。 と僕が言うより早く、マリアがぼそりと言った。 「私がどうするかは私が決めます。勝手なことを言わないで」 「……んだとコラ――」 「まあまあ、カッカしないで。ロレの気持ちもわかるけど、マリアの言い分ももっともだよ。マリアの去就を決めるのに、マリアの意思が介在してないのはどう考えてもおかしい」 「ぐ……」 「ただまあ、因果なことに僕たちは国をしょって立つ身の上だから。自分一人の意思で自分の行動を決められるわけじゃないけどね。少なくとも、大公たちに話をして了承を得る必要はあると思う」 「……………」 「で、二人とも、どう思う? もうそろそろ大公に会いに行ってもいいかな?」 しばし二人とも黙った。僕としてはマリア王女の体力が充分回復するまで待ったつもりなんだけど。 マリアが先に口を開いた。 「私は、かまわないわ。明日にでも会いに行こうと思っていたところだから」 「……そう? じゃあ早い方がいいね。明日、みんなでムーンペタ大公の城に向かうことにしようか」 その時には、この気持ちにも決着がつくだろうか。 「………そうね」 「ロレもいい?」 「……俺が反対することじゃねぇだろ」 「じゃ、決定」 ふと、マリアが立ち上がった。ケープを羽織って部屋を出ていこうとする。 「どこ行くんだよ」 ロレが聞いた。僕の胸は性懲りもなくずきっ、と痛む。 「あなたには関係ないでしょう?」 「んだとこのアマ……」 「どこへ行くにしろ、気をつけてね。日が暮れるまでには帰ってきた方がいいと思う」 「ええ……わかってる。大丈夫、そんなに遅くはならないわ」 マリア王女がいなくなって、僕ははぁっ、と息をついた。これで少し楽に呼吸ができる。 ロレと、二人きり。 この三週間の間一度もなかったわけじゃないけど、それでもやっぱり嬉しい。涙が出そうなくらい幸せだ。 マリア王女のことを、マリアとロレのことをなにも考えなくていい、その幸せな時間――それに浸ることはできなかった。ふいにロレが立ち上がったからだ。 僕はなぜか、殴られたようなショックを受けてロレを見上げ聞く。 「マリアのあとを追うの?」 「……は? なんでそうなるんだよ」 「だって、マリアのあとについて立ち上がったから、そうなのかなって」 「なんでだっつの。俺はあんな女のことなんぞ、全然まったく心配してねぇんだからな」 嘘つき。心配してないんだったら日に何度もお見舞いに来るわけないじゃないか。 僕はそんなような意味のことを言って、ロレに頭をぐりぐりとされた。 「痛い痛い痛い! ……でも、本当にマリアのことを追わなくていいの?」 「追うんだったら俺じゃなくててめぇだろ」 「え? 僕がマリアのあとを追ってどうするのさ」 「俺が追ったってどうしようもねぇだろ。てめぇの方がよっぽどあいつと親しいじゃねぇか」 「…………」 僕は呆気に取られてロレを見つめると、ぶっと吹き出した。 マリアがロレ以外の人間と一緒にいる時は絶えず緊張してること、全然わかってないんだ。 「ロレ、本気でそう思ってるの?」 「たりめーだろーが」 「ふうん」 「とにかく、俺は剣の稽古に行くんだ。よけいなこと考えんじゃねぇよ」 「え、ホント?」 僕は目を輝かせた。この三週間、ロレと時間を共有できるのは、剣の稽古の時だけだったから。 「だったら僕も行く! ちょっと待ってて、すぐ食べるから!」 「……食べ終わるまでくらい待っててやるから、ゆっくり食えよ」 ロレはちょっと髪をかきあげ、自分では気づいていないんだろう優しい笑みを浮かべて僕を見た。他の人には馬鹿にしたような笑みに見えるかもしれないけど、僕は知っている。 ロレは、こういう時、ちょっとだけ、優しいんだ。僕が思いきりロレを求めようとしてる時なんかには。 幸せな時間が終わり、湯屋に寄ろうかなんて話していた帰り道。ふいにロレの足が止まった。 「どうしたの?」 「……あれ見ろ」 ロレの指差した先にいたのは、マリア王女だった。 部屋着にも外出着にも使えるよう買った麻のワンピースにケープを羽織った、さっき見たままの格好でふらふら歩いている。 「あいつ……まだ体力戻ってねぇのか?」 僕はちょっと考えて、その可能性を否定した。この三週間ずっと彼女の体を診てたんだ、調子ぐらいわかる。 「というか、深窓の姫君が二刻もずっと歩いていれば疲れもすると思うよ」 「……まさかあいつあれからずっとふらふら歩いてたのか!?」 「たぶん、考え事してるんじゃないかな」 「なんの」 「これからのこととか……ムーンブルクのこととかだと思う」 マリアがどこかに行こうとした時から、多分一人になって考えたいんだろうな、とは思ってたから、僕はそう言った。 すると、ロレは、ひどくムッとした顔をして、ずかずかとマリアの方に近寄っていった。 ―――あ。 また、僕の胸がずきりと痛んだ。 ロレは苛立たしげにマリアとなにか話している。マリアは無表情で答えている。 ――僕よりも、マリアが気になるんだ。 そんな思考が頭をよぎり、僕はぎゅっと拳を握った。 なにを考えてるんだ僕は。マリア王女は今普通の状態じゃない、そんな時に僕よりマリア王女を気にするのは当たり前のことじゃないか。 でも、ロレにとってマリア王女はすごく特別って気がする。どんな時も優先せずにはいられないような。たとえ僕が死にかけていても、マリアの方を優先するような。 うわ、僕すごく馬鹿なこと考えてる。 でも――間違いじゃないような気がしてしまう。なんでだろう。 「てめぇは結局好かれるために人生費やすよりてめぇのまんまで生きる方を選んだんだろうが。だったらきっちりそれを貫き通しやがれ! 拗ねんな媚びんな甘えんな、前見ろ顔上げろしっかり胸張れ! 誰かが言ったからだの誰かのためにだの、しょうもねぇ言葉で誤魔化してねぇで、誰がなに言おうがどう思われようが、自分の人生は自分で決めろ!」 ロレが怒鳴る声がこっちまで聞こえてくる。マリアのためにそんなに必死になってるんだ。 「…………!」 僕は固まった。泣き喚き始めたマリア王女を、ロレがぎゅっと抱きしめたからだ。 ――ロレ。 (ずるい) 僕の胸が、魔物の爪で抉られた時よりもはるかに強く痛む。 (僕にだって、そんなことしてくれたことないのに) だけど僕にあってマリア王女にないものってなにがあるんだろう。二人で一緒に旅してきたのだって三ヶ月程度、そんな歴史三週間もあればすぐに追い抜けてしまえたって全然おかしくない。 (僕じゃなくてマリアならいいの?) 僕にはなくてマリアにはあるものがいっぱいあるってことなんだろうか。 じゃあ、それはなに? 痛い。 なんだか、すごく痛い。 ロレに周りの奴らをなんとかしろっていう意思をこめて睨まれたんで、ロレたちを見ている人たちのところに行って見ないでくださいと脅し混じりに説得した。 その間中、ずっとナイフで抉られるような痛みが離れなかった。 「……うん、大丈夫。久しぶりにいっぱい歩いたんで、ちょっと体がびっくりしちゃったんだね。マッサージもしたし、一晩ゆっくり休めば回復するよ。若いから」 僕はにこにことベッドに横たわるマリア王女に笑いかけた。マリアも頬をかすかに緩めてうなずく。 なんだか熱っぽい、とマリアが(ロレがいない時に)訴えてきたので、晩ご飯のあとちょっと診てあげたんだけど(僕はここしばらくマリアのお抱え医師をやってたから)、大したことはないみたいでほっとした。これなら明日ちゃんとムーンペタ大公の屋敷に向かえそうだ。 ロレとマリアが一緒にいるところを見るとなんだか苦しいけど、僕は別にマリア王女が嫌いなわけじゃない。むしろそのひたむきな意思には好感を持っているって言ってもいいくらいだ。 だから当然、苦しいときには助ける。 「……ありがとう、サウマリルト」 マリア王女は僕を名前で呼ぶようになっていた。ロレはいまだに呼べないみたいだけど。 「気にすることないよ。困ったときはお互い様。辛い時には優しくしてもらわなきゃ駄目なんだから、大手を振って優しくされなよ。代わりに僕たちが辛い時にはマリアに助けてもらうから」 「ふふ」 マリアは少しおかしそうに笑った。 「サウマリルトは、本当に優しいのね。ちょっとした言葉で、人の気持ちを楽にしてくれる」 「僕、別に優しくないよ。本当に優しいっていうのは、ロレみたいな人のことを言うんだよ」 「…………」 マリアが表情を固くして、黙りこんだ。 「……ロレの話、聞きたくなかった?」 「……いいえ、そういうわけでは、ないけれど」 マリアは小さく首を振り、しばし黙ったあと、小さく聞いてくる。 「サウマリルト」 「なに?」 「……ローレシアの王子……ロレイソム王子は、どうしてああなのかしら」 僕はマリアの言いたいことがよくわかったので、ちょっと苦笑した。 「どうしてだろうね? 少なくとも僕が会った時から彼はああだったけど」 「……そうなの?」 「うん。直情的で無鉄砲で、無茶で無策で考えなしで、でもそれでも一度決めたことはなんとしてもやり通す強さがあって。嘘やごまかしには容赦がないけど、同時に弱い人も懐に入れられる器の大きさがあって。不器用だけど真っ直ぐで――とても優しい人だったよ。きっと未来永劫ずっとそのままだと思う」 「……それは褒めすぎではないのかしら」 「そうかな? 僕はこんな言葉じゃ全然足りないと思うけど」 「ずいぶん彼を買っているのね」 「買っているっていうか、僕はロレが大好きだからね」 「…………」 マリア王女は、一瞬呆けたような顔になった。 「どうしたの?」 「……あ、ごめんなさい。男の人が同性をそんな風に言うのって、初めて聞いたものだから」 「ふうん」 「でも、そんな風に思っているとは思わなかったわ……」 「どう思ってたの?」 「手のかかる子供と思っているものとばっかり」 くすっ、と僕は笑った。 「僕はロレを子供だなんて全然思ってないよ。そりゃロレは不器用だけど、決して無力でも未成熟なわけでもない。それにね、ロレが不器用なのはそれだけ僕がロレにしてあげられることが多いってことでもあるから、ちょっと嬉しいんだ」 「……………」 「マリアもロレのこと好きでしょう?」 マリアはとたん、顔を朱に染めて宙を睨んだ。 「なにを言っているのそんなわけないでしょう。嫌いよ。いつも失礼で意地悪で。すぐに私に絡んできて」 そう言ってから、ふっと沈んだ目をして暗くなった窓の外を見る。 「あの人も、きっと私を嫌っているわ……」 僕はくすりと笑った。彼女が僕にしてみれば、ひどくこっけいな、自明のことで悩んでいるように見えたからだ。 「きっとマリアにも、すぐにわかるよ」 「……なにが?」 「ロレが決して君のことを嫌ってはいないこと。彼なりのやり方で、君を大切にしていること。ロレがどんなにすごい人間か、君にもすぐにわかるよ」 「……そうかしら。私にはとても、そうは思えないけれど」 マリアの感情のない声に、僕はくすりと笑うにとどめた。 ムーンペタ大公は俗物を絵に描いたような人物だった。マリアを自分の陣地に引き入れ、少しでも自分の権力を増そうとしているのがまるわかりだ。 たぶんマリアが出てこなければ自分が王位につけると思ってたんだろうな。ハーゴンを討ちに行く、と言い張るマリアにプレッシャーをかけて自分のところに引き留めようとする。きっとハーゴンを倒してしまったらマリアの名声が高まって、王位につけないわけにはいかなくなるからだろうけど。 そんな大公に、ロレが立ち上がって、思いきり偉そうに言った。 「つまんねぇことぐだぐだ言ってんじゃねぇ。マリアが行きたいっつってんだ、行かしてやれ」 その強さ。鮮やかさ。僕は思わず魅せられて、ロレをぼうっと見上げる。 「これは、ローレシアのお方は異なことをおっしゃられる。マリア王女はムーンブルクの王家最後の一人なのですぞ? ローレシアと違って、ムーンブルクの王家とにはそれなりの責任というものが」 「うっせタコおやじ。そういう話してんじゃねぇんだよ。マリアはハーゴン討ちに行くって言ったんだ、こいつの、少なくとも今しなきゃなんねぇと思ってることはハーゴン討伐なんだろうよ。……だったらやらせてやりゃあいいじゃねぇか」 「タ……!? きっ、きさまっ、それはローレシア王家の宣戦布告と判断するぞ!」 「阿呆かてめぇは。男なんだったら細かいことぐちゃぐちゃ言うんじゃねぇ。てめぇ曲がりなりにも家族養って大公やってんだろーが。だったらマリアがいようがいなかろうが国の一つや二つきっちり運営しやがれ!」 「そ、そういう問題ではないっ! 王家には王家の責任というものがあるのだ!」 「果たそうとしてんだろうが、王家の責任。ロト三国の血の盟約。これはムーンブルク王家にとっても至上命令だったはずだよな?」 「しかし、マリア王女は女性なのだし……王家の最後の一人にもしものことがあれば……」 「そういう心配はいらねぇよ」 「なぜそんなことが言える!」 ロレは自分を親指で示し、きっぱり宣言した。 「俺がこいつを、守ってやる」 『…………』 ――ロレ。 すごく――カッコいい。本当に、どうしてこんなにカッコいいんだろうってくらいカッコいい。 たまらなく魅せられながら――同時に、胸が切り裂かれるように痛かった。 そんなことを言うのは、マリア王女のためにだけ? 僕には、そんなこと言ってくれたこと、ないよね? そう思いながら、僕も立ち上がってムーンペタ大公に僕もマリアを守ると言っていた。頭がムーンペタ大公を説得することを考えて。 それからムーンペタ大公に軽く脅しをかけ、別室で手続き云々の用紙をもらって、僕たちは大公の城を出た。 ロレとマリアが話している。怒鳴りあって、マリアが泣きそうな顔をして、ロレがむすっとしながらなにか言って。 ごく当たり前の光景なのに、僕はなんだかひどく辛かった。邪魔をするべきじゃないと思ったけど、話に割りこんでしまった。 そして、つい、訊ねてしまったんだ。 「ロレ、ロレはマリアを守るように、僕のことも守ってくれる?」 ロレはひどく呆れた、という顔をした。 「はぁ? 男守ってどうすんだよ。キショイこと言うな」 「………………」 キショイ。気持ち悪い? 僕を守るのは、気持ち悪い? 頭を殴られたような衝撃。がぁんがぁんと鳴り響く音の中、僕はなんとか笑ってみせた。 「……僕は、ロレのこと、いくらだって守っちゃうけどなぁ……」 「てめぇに守られるほど弱くねぇ」 ………………。 僕は、ロレを守ることもできないのだろうか。 僕は、ロレに守られるほど価値がないんだろうか。 僕は―― その時、『考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ』と心のどこかが警報を上げていたにもかかわらず、考えてしまった。 『僕は、ロレにとって、不必要な存在なんだろうか?』 これは――その思考は、このショックなことだらけの三週間の中でも、最高に強烈な衝撃だった。 ロレは、僕がいらないんだろうか? 考えたことなかった。僕は今まで誰かに不必要だと言われたことがなかった。 僕はどこにいてもその時必要とされていることを見抜き、実行する能力があったから。 この旅でもそりゃ戦闘でロレの足手まといになってるかな、と思うことはあったけど別のところで役に立っていると確信してたんだ。それにロレが、あんまり簡単に僕を懐に入れてくれたから、そんなこと考える暇がなかったんだ。 でも、ロレにとっては、そんなこと、全然意味のないことだったんじゃないだろうか。 ロレにしてみれば、僕を仲間にするなんてのは、しょうがないから嫌々やったことじゃなかったんだろうか。 頭の中がぐるぐるする。世界が回る。今にも倒れそうになったけど、ロレが早足で進んでいくので、遅れちゃいけない、迷惑をかけちゃいけないと必死に足を進めた。 |