それは夏の日の花火にも似て
 ……あれから――俺がユルトをレイプしてからも、俺とユルトは何食わぬ顔をして仲間づきあいを続けていた。
 まぁユルトの奴は本気でなんにも気にしちゃいないんだろうが、俺としては当然のことながら気にしてないわけではまったくなく、翌日はさりげなくできるだけユルトの体を庇ったりユルトの取ろうとしているものを取ったりとユルトのフォローに勤しんだ。回復呪文をかけたせいもあってか、予想よりはるかに元気で正直拍子抜けしたが。
 それからしばらくは俺らしくもなく、なにか償いをするべきだろうか、などとくよくよ悩んでしまったりもしたが、ユルトが本当に全然気にした様子もなく、以前とまったく変わらずに接してくるので、俺も気にするのをやめた。他の仲間に言う気もなさそうだったし、こいつが気にしていない話を蒸し返すのもなんだ。
 なかったことにしよう。こいつの望み通りに。
 それはずいぶんと俺に都合のいい結末ではあったが、それでも正直ほっとしていた。このパーティの一員でいるのは少なくとも修道院よりははるかに居心地がよかったし、とりあえずドルマゲスを倒すまではこいつらと一緒にいてもいいな、と思い始めていたからだ。
 ――ユルトの笑顔に、時々焼けつくような嫉妬を覚えるのは変わらなかったけれど。
 そんな焦げつくような感情に、俺は見ない振りをした。レイプされても笑っている奴にこんな感情を抱き続けるのは馬鹿馬鹿しいとわかっていたし、ユルトの笑顔が、どこから湧いてくるんだか知れない大量の愛情が心地よかったのも確かだったからだ。
 だから俺はそれからも、ユルトをからかい、子供扱いし、皮肉を言い、ツッコミを入れ、と以前と変わらないスタンスを保ち続けた。
 それに対しユルトはいつものぽけーっとした顔で、ぷうっと頬を膨らませたりにこにこしたり俺の頭を撫でたりしてきた。馬鹿にしてるのかと腹が立つこともたびたびだったが、そのつどあの天然なぽやぽやした笑顔でククールなに怒ってるの? とか言われて気が抜け、大した喧嘩もしないまま仲間として他の奴らとも一緒に旅してきた。
 そんなわけだから俺はユルトが本当はあれを――俺のレイプをどう思ってるかなんて、これっぽっちもわかっちゃいなかったんだ。

「ククール。セックスしよ?」
 パルミドの宿屋。馬姫を首尾よく取り戻し、情報屋に会うためこの街に戻ってきて、もう時間が遅くなっていたからということで入った部屋。
 どこもかしこも薄汚くてここで寝るなんて考えるだけで嫌で、ルーラで別の街の宿屋へ行こうぜと何度も主張したのだがもう遅いしそれに僕一回ここの宿屋に泊まってみたいというユルトの主張に勝てず。
 くじ引きの結果ヤンガス&ゼシカとユルト&俺という組み合わせになり、なんとなく面白くなくてベッドに座り酒場から持ち込んだ安酒をすすっていた時に、ちょっとかがみこんで視線を合わせてのこの台詞。
 当然のことながら、俺は吹いた。ぶふーっと。
「うわ、汚いなぁ」
「……お前、今、なんつった?」
 俺はおそるおそる問う。聞き間違えだと信じたかった。
 ユルトはこくん、と小首を傾げて、素直にもう一度言う。
「ククール、セックスしよ?」
 って言ったんだよ。
 にこにこしながらそう言うユルトに、俺はしばし固まった。頭の中が真っ白く凍りつき、混乱と恐慌がその中を怒涛のように走り抜ける。
 だが俺も伊達に経験を積んでいるわけじゃない。落ち着け、落ち着けと繰り返し、なんとか冷静さを取り戻して冷たく言う。
「嫌だね」
「えー? なんで?」
 断られることなど思ってもみなかった、というように目ん玉を大きく見開いて、心底不思議そうに問うユルト。
 俺は頭が痛くなってくるのを感じながら、ユルトに言った。
「お前な……とりあえず座れ。ちょっと座れ」
 するとユルトはにっこりうなずいて、俺の膝の上に横向きに座った。
「そこじゃねぇっ!」
「じゃあどこ?」
 至近距離で見上げてくるでかい瞳についどぎまぎしつつ、俺は向かいのベッドを手で示す。
「とりあえず、そこに座れ」
「うん」
 素直にうなずき、俺の向かいに腰かけるユルト。
 しばしの沈黙。ユルトはにこにこしながら俺の言葉を待っている。俺はなんと言えばいいかかなり迷ったが、なにか口にしなきゃ始まらない。のろのろと口を開いた。
「お前さ……なんでいきなりんなこと言い出したわけ?」
「あのね、なんかムラムラっていうか、ムズムズっていうか、うわーって微妙にテンションが上がっちゃって、じっとしてられない感じなんだ。こういうのってセックスしたら治るんでしょ? だから」
 ……つまり、溜まってるからすっきりしたいと思ったわけか?
「……それで、なんで相手俺だよ」
「え? だって僕、ククール好きだもん。前に一回してくれたし。気持ちよかったし。ちょっと痛かったけど。とりあえず今近くにいる人の中ではククールがいいなって」
 こ……こいつ、この俺を間に合わせかなにかみたいに……。
「溜まってんなら商売女にでも相手にしてもらえ童貞。俺を巻きこむな、俺は男は相手にしないんだ」
「えー? だってこの前僕とセックスしたじゃん」
 ……思い出させるなこの馬鹿!
 うがー思い出したくない、忘れろー忘れろーと一心不乱に頭を抱えて呟いていると、ユルトが不思議そうな声を出した。
「ククール、したくないの? 僕あとくされないせいよくしょりにちょうどいいよ? こうしゅうべんじょみたいに扱われても文句言わないし」
 ……俺は、不覚にもちょっと顔を赤らめた。
 その虫も殺さないような純真面でえげつないこと言うんじゃない! んっとにこいつの天然ってタチ悪いな!
「そういう問題じゃない。だからな……この前のは特別っつーか……俺は男より女の方が好きなんだ」
「なんで?」
 ……なんでって聞くか……。
「あのな、普通に考えてみろよ。男っつーのは柔らかくて可愛かったり綺麗だったりするもんが好きなんだよ。お前だってそうだろうが」
「えー? うっそだー。普通男はカッコいいのが好きだし女の人は綺麗なものが好きじゃん。誰に聞いたってそう言うよ」
「だぁかぁらぁ〜」
 それはそれで確かに間違ってはいないんだが。恋愛対象っつーか……抱く対象はまた別……
 というのをこの天然にどういえばわからせることができるのか。俺は頭を抱えた。
「僕女の人とはやったことないからどっちが好きかなんてわかんないけど、ククールとするの嫌じゃなかったよ? どっちかっていうと嬉しかったし」
「…………」
 なんだか純真な少年を曲がった道に引きずりこんでしまった気がして、俺はますますずりずりと頭を下げた。どうすりゃいいんだ、こいつ……。
 そんな俺をしばし困ったように見つめていたユルトは、うん、とうなずいて声を上げた。
「わかった。ククールが嫌なら仕方ないよね。他の人に頼んでくる」
「待て待て待て待て!」
 俺は本気で踵を返しかけたユルトの襟首をがっしとつかんだ。ユルトはきょとんとした顔で俺の方を振り返る。
「なに?」
「お前、誰のところに頼みに行くつもりだ」
「ヤンガス。ヤンガスが嫌だって言ったら、トロデ王」
「…………」
 俺は襲いくる頭痛に耐えるべく、頭を強く押さえた。それでもとりあえずの疑問は口に出す。
「なんで男ばっかなんだよ」
「えー? だってゼシカ今日は生理だから早く寝るわ起こさないでねって言ってたじゃん」
「あー……」
 一緒に旅をしてるんだからそうでないとまずいんだろうが、ゼシカは自分の体調についてはかなりオープンに口にする方だった。
「ミーティア姫は馬だし、できないでしょ? それに今日も馬車を牽いて疲れてるだろうから相手させちゃうの悪いし」
「そうだな……」
 さすがに俺も馬とやれという度胸はない。
「……どうやって誘うつもりだ?」
「どうやってって、普通に。僕とセックスしない? って」
 俺はぎゅうっと揉み絞るように頭を押さえた。こいつならやる、本気でやる。
 ヤンガスにそれを言った時の反応が目に見える気がした。まず大パニックだろう。それでどうしてそんなことを言い出したのか聞くはずだ。そうすればこの天然はあっさり答えるに違いない。
『ククールにセックスしよ? って言ったら断られちゃったから』
 それでもって俺がこの前こいつを抱いたことまで聞かれるままに答えるに決まってるんだ。それから導き出される結果を想像し、俺はぞくりと身を震わせた。
 あの時は覚悟していたつもりではあるが、一度なかったことにしたつもりの悪事を掘り返されるのはかなり嫌だ。パーティ全員からどれだけ責められるか考えると、死ぬほど気が重くなる。
 それに、この俺が男を(八つ当たりで)抱いた、ということを知られるのは特に、思いっきり嫌だったのだ。弱みを見せたくないという思いと、男が好きだと思われたくないという思いで。
 ユルトはパーティから追い出しはしないだろうが、他の奴らの視線が厳しくなるのは明らかだ。それも正直嬉しくない。
 じゃあどうする。
 俺は唇を噛んで考えこんだ。ユルトはそんな俺を不思議そうに見ている。
 俺はこの天然をどうすれば自分の思う通りに操縦できるかひたすらひたすら考えて――渋々、本気で渋々心を決めた。
「わかった。相手してやる」
「え、ホント?」
 嬉しそうにぱぁっと笑うユルト。その笑顔は男の俺から見ても可愛らしいといえそうなものだったが、色気のようなものはかけらもない。三百六十度どこから見ても健全そのものだ。
「わー、嬉しいなー。やっぱりククールっていいやつだねっ。ありがとククール、僕頑張るよ!」
「いや、頑張らないでいいから……」
 さっさと済ませてすっきりしてもらいたい。俺はその心の声を口には出さなかった。男相手の経験はないが、少なくとも俺の中では抱く前にさっさと終わらせようと言うのは喧嘩を売る場合以外にありえなかったからだ。
 この天然がそう簡単に傷つくとは思えないが、俺は別にこいつと喧嘩したいわけじゃない。
 少なくとも、今は。

 しかしそれはそれとして男相手にどうやったらいいもんだろう。俺はユルトの隣に座り、髪を撫でつつ考えた。
 この前やって支障なかったから繋がり方自体には不安はないんだが。今度は一応合意なわけだから……女相手する時みたくスキンシップとか口説き文句とかかけるべきか……
 うああ嫌だ考えるだけで嫌だ。こいつ相手に「綺麗だ……君は本当に綺麗だ」だの「君の肌の手触りは素敵だね。最上質の絹より柔らかい」だの「君の髪は大空を駆ける鳥の羽のように軽い――たまらなく惹きつけられるよ、俺の小鳥」だの考えただけで背筋が痒くなる。
 俺がそんなことを口の中でぶつぶつ言っていると、ユルトがきょとんと小首を傾げて言ってきた。
「ククール、なに考えてるの?」
「いや……」
 君のことだよ、と反射的に口にしそうになって俺は冷や汗をかいた。確かにある意味間違ってはいないが、明らかにニュアンスが違う。
 いや、もしかしてそういうことを言うべきなのか? 俺はしばし頭をぐるぐるさせて、とりあえず外回りから攻めていこうとこんな風に口にした。
「お前のことだって言ったらどうする?」
 ユルトはきょとん、と首を傾げる。
「僕のなにを?」
「…………」
 そういう返され方をされるとは思わなかった。
 普通こう言われたら照れるなりうっとりするなりするのが普通じゃないか? 睦言ってやつなんだからさ。
 ……そーだなこの天然相手に雰囲気作りなんて考える方がバカだった。とっととやることやってやりゃいいんだ、そうすりゃこいつだって満足するだろ。
「なんでもない。とっととするぞ」
「うん」
 うなずくユルトの頭を引き寄せると、ぐいっとキスをした。唇を合わせ、わずかに開いた隙間から舌を差し入れ、口中を縦横に蹂躙する。
 ……が、三十秒で口を離した。
「お前な。キスされてる時ぐらい目を閉じろよ」
「なんで?」
 きょとんと返すユルト。……こいつに雰囲気がどうとか言っても絶対納得しないだろうしなー……。
「そういう決まりなんだよ」
「わかった」
 こくん、とうなずいて目を閉じるユルトに、俺はほっとしてもう一度口付ける。あのでかい目で至近距離からまじまじ見つめられるとどうも落ち着かない。
 そっと唇に唇で触れ、顔やら耳やら背中やらを手で愛撫しつつ口中で舌を遊ばせる。大サービスで俺のテクニックをたっぷり披露させていただいた。ユルトが目を閉じたまま、ん、ふ、と息を漏らす。
 ……しっかし、前は気づかなかったけどこいつの唇って柔らかいな……すべすべしてるし。普通男の唇ってこんな触り心地いいもんか? 男の体なんて触ったことないからわからんが。
 そんなことを考えながら俺はキスしつつユルトのベルトを外し、上着を脱がせて胸元の紐を解いた。こいつの下を脱がすには上も一緒に脱がさなきゃならないんで、こういう時は少し面倒くさい。
 実を言うと、俺は手でやるだけで勘弁してくれんかなー、などと考えていた。こいつは単にイってすっきりしたいだけみたいだし、それなら別にヤんなてくてもいいと思うんだよな。
 正直、俺はこの前と違って興奮してるわけでもないんだから、男相手に勃つとはとても思えなかったのだ。
 だが俺のつもりはともかく、こいつをイかせるには下を脱がさなきゃならず、そのためにはこいつを素っ裸にしなきゃならないわけだ。ブーツはもう脱いでる、上着は脱がした、あとは上下とバンダナだけ。
 まあ別にバンダナは取らなくてもいいか。下を脱がせりゃいいわけだし。俺はまだ目を閉じて少しぽうっとしてるユルトを(俺の技にかかりゃ当然だ)バンザイさせて上を脱がせた。
 ……しっかし、ほっそいなぁこいつ……俺より力強いくせに俺よりずっと細い。俺より頭一つは小さいし。着痩せしてるわけでもないんだな、この肩の細さは。あの力はいったいどっから来るのか……あ、レベル上げか。
 もう目を開けてもいいと判断したのか、ユルトは潤んだ瞳で俺を見上げた。どこか呆けたような、ぼうっとしているような、いつもと同じといえばそうなんだが――やけに情事の気配が色濃い、イった直後の女みたいな妙にやらしい顔で。
 う、と俺は一瞬だけ息を呑み、そんな自分に心の中で蹴りを入れた。なにを考えてんだ俺は。そりゃ確かに感じてりゃ顔がやらしくなるのは当然だが、細い体にピンク色の小さな乳首なんかは妙に頼りない感じで淫靡と言えなくもないが、相手はユルトだぞ。あのど天然の。
 きっとこのバンダナがよくないんだ。上半身裸に頭に布つけたままっつーのがやらしく見えるんだ、と俺はすすすっとユルトを押し倒しつつしゅるりとバンダナを解いた。とす、とベッドに横たわったユルトの頭から、さらりと焦げ茶色の髪が流れる。
 ……なんかこれはこれで妙な雰囲気かもし出してないか? こいつ寝っ転がりながら妙に熱っぽい視線で俺のこと見てるし。
 ええい考えててもしょうがない、さっさと済まそう。俺はユルトのズボンの紐を解いて脱がし、するっと下帯を解いた。他人の下帯を解くなんて初めてだったが、帯の解き方の要領は知っている。ユルトはあっという間に素っ裸になった。
 ……大きさは、まぁ、体相応だな。普通だ。さして大きくもないけど小さくもない。
 少しほっとした。こいつが俺よりはるかにでかかったりしたらさすがにショックだ。俺はでかいというよりは細長いタイプで、それをうまく動かして急所を突くやり方をするんだよな。
 その普通の大きさのペニスが、半勃ちと通常の中間ぐらいの大きさで目の前にある。
 ……思ったほど嫌悪感とかないな。触るのも嫌な感じがするんじゃないかと思ってたが。ユルトは男臭さとかが全然ないんでキスやら愛撫やらに抵抗がないのはわかるが……ペニスもそうなのか? 確かに毛も薄いし色もほとんど使われてないことが明らかなピンク色だし、子供っぽくてグロテスクさはないが。……剥けてはいるけど。
 俺はそのペニスを、そっと握った。
「ん……」
 ちょっと鼻にかかったような、切なそうな声を漏らすユルト。……なんなんだその声は、普通男ってのはペニス握られたぐらいじゃそんな声出さんだろ!
 あーったくもー、と思いつつ、俺はユルトに覆いかぶさるようにしてペニスをしごく。
 ……やりにくいなこの体勢。他人のペニスをしごいた経験なんてないから知らなかったけど。自分のだってめったに触らないけどな、自家発電するほど不自由したことないから。
 俺はユルトの上体を起こして、背中側に座り、後ろから抱くような体勢でユルトのペニスをしごいた。女にしごかれたことは何度もあるから、やり方は見て知ってる。
「ん……はぁ……あ……」
 だからその声やめろってのに……と思いつつ、先端から根元まで指を滑らせてみたり、玉をくりくりといじくってみたり、蟻の門渡りをいじくってみたりとテクニックを発揮する俺。むろん空いている手で乳首をつねったり、耳を甘噛みしたり首筋にキスを落としたりするのも忘れない。たとえこいつ相手でも下手くそなんぞと思われたくはないからな。
 ……うわ、なんでこいつこんなに肌すべすべなんだ。すげえ手触りいい。触ってて気持ちいい。なんか思わずキスマーク残したくなる。
 いやなに考えてんだ俺。これはボランティアみたいなもんなんだから、俺はただこいつを気持ちよくさせてやりゃいいんだ。頭を振って、愛撫の手を強める。
「や、あ! ひ、ん、ふ、あ……ひっ、あ、や……!」
 くそ……だから耳元でそういう切なげな声を出すのはやめろってんだよ! 俺は首筋にかぶりつきつつ、ユルトのペニスを勢いよくしごく。ユルトの体ががくがくと震えてきた。
「あ! あ、あ! や、あ、あ、ああぁぁーっ!」
 う………!
 ユルトは俺の手の中に白濁を吐き出した。くて、と全身から力を抜き、その細い体をわずかに俺に寄りかからせる。
 ……あとは後始末だけ、なんだが………。
 やばい。不本意だが、めちゃくちゃ不本意だが……今のこいつがイく時の声は……正直、きた。下半身にきた。かなり。
 もともと俺はこいつの声が好きなんだ。いい声をしてると思う。それがああも切なげに、たまらないって声で鳴かれると……。
 どうする。このいきりたってしまったものをどう始末つけりゃいいんだ。
 普通なら一晩のあと腐れない相手(当然女)を探してくるところなんだが。この街じゃどの女も薄汚れてそうだし。
 それに俺は正直けっこう切羽詰っていた。これから女を口説くにしては余裕がなさすぎる。そんな状況で口説くのは俺のプライドが許さない。
 どうする。どうする?
 こてん、とユルトの首が俺の肩に乗せられた。ふわ、とユルトの髪の匂い――太陽と、風と、草の匂いが漂う。
 さらりと焦げ茶の髪の毛が俺の鼻をくすぐった。それを意識すると、ユルトの細い肩やらすべすべの背中やらが俺の体にくっついていることも意識されてきてしまう。
 ユルトがわずかに俺の方に顔を向け、俺はう、と息を呑んだ。瞳は潤み、額に髪が汗で張りつき、唇はわずかに開かれ、頬は赤い。なんつーか……さあどうぞ、今すぐヤってくださいという感じというか……。
 いやしかしこいつは男だ。しかもあの天然ユルトだ。確かに今のこいつが色っぽいのは認める、だがだからっていくらなんでも男を相手にするのは……。
 ユルトの唇がゆるゆると大きく開かれる。大きくと言っても指が二、三本入る程度。隙間から真っ赤な舌が妙になまめかしく動くのが見え、言葉が発された。
「ククール……この前みたいに……ククールにも……」
 一度はぁ、と吐息で言葉を切って。
「して?」
 ………っ!!
 俺はユルトをうつぶせに押し倒した。はぁ、とそれだけで息を荒くするユルトの背中にキスを落とし、ポケットから香油の入った瓶を取り出す。
 もういい。もう我慢するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。こいつがヤってほしいっていうんだ、こいつを色っぽいと感じたのも確か。それならヤって悪いことはないはずだ。
 ユルトのぷりんとした尻。腰は細いのに尻はぷりぷりして、うっすら桃色に色づいている。その谷間のやはり桃色のアヌスに、俺は香油を塗りこめた。
「ん……ふぅ……」
 ユルトの色っぽいというか、可愛いというか、言ってみりゃやたらといやらしい声。俺は認めたくないがかなり興奮して、それでもプライドにかけてユルトに痛い思いはさせないように丁寧に熱く指を締めつける後孔をほぐす。
 指が三本入るようになったところで、俺は素早くズボンからペニスを取り出した。この服はズボンを下ろさなくても相手を抱けるからいい。
 自慢じゃないが女と後ろでやった数も両手の指じゃ足りない。相手に痛い思いをさせない挿入の仕方も心得ている。
 ユルトの後孔は、するりと俺を受け入れた。
「ん……!」
「……くっ……」
 ユルトも声を上げるが俺も声を上げていた。二度目なんだから当たり前だが、きつい。俺のペニスをきゅうきゅうと締めつけてくる。
 俺は後孔にペニスが馴染むよう動かずに、熱くユルトの耳元に囁いた。
「ユルト。力を抜くんだ。息を吐いて。このままじゃ動けない」
「ん……ふぅ」
 ユルトは熱い息を吐くと、言われた通りすんなり体の力を抜いた。体をコントロールする方法はよく知ってるってことだろうか。
 まだ締めつけは強烈だが、動かせないほどじゃない。俺はゆるゆると、軽くユルトの急所を擦る程度に(ユルトの弱いところはよく覚えている)腰を動かした。
「ん……ふ、あ……」
「う……!」
 こいつ……こいつの中、認めたくはないが、いい。締まりがいいのは当然としても、内部の凹凸が……ヒダヒダが柔らかく俺のペニスを愛撫し、絡みついてくる。
 はっきり言って、名器だ。俺が抱いた相手の中でもNo1と言ってもいいほど。
 しかも力を抜けと言ったのをどう解釈したのか、括約筋の緩急のつけ方が絶妙だ。時に強く時に弱く、俺の動きに合わせて締めつけてくる。
 くそ、これが二度目の相手に翻弄されてなるものか。俺は腰の動きを激しくした。もちろん痛くなるほどじゃない、俺のテクニックを駆使した動きだ。
 急所を二連続で突いたあと抜くぎりぎりまで腰を引き、ユルトがそれを追って腰を動かしたところを見計らってぐいっと腰を進め急所を突く。ゆるゆると入り口をいじり焦らしに焦らしたあと急所を突く。俺が熟練の技を披露するたびに、ユルトはその俺の好きな声で切ない喘ぎ声を上げる。
「ン、あッ! イ、ひあ、んあぅっ……!」
「く……ふっ……」
 そしてそのたびにきゅっと俺を締めつけてくる。しなやかな筋肉のついたきれいな背中が弓のようにしなる。不覚にも体がたまらなく熱くなってきた時、ユルトがこっちを向いた。
 この前俺をたまらなく興奮させた、快感に必死に耐える涙でぐしゃぐしゃの泣き顔で。
「くく……かお、みせ、て……」
「………っ!」
 俺の熱が一気に上がった。
 ユルトに噛みつくようなキスをして、熱情のまま勢いよく腰を動かす。頬を舐め、噛む。それまで頭がまわっていなかったユルトのペニスも、律動に合わせて勢いよくしごいた。
 あ、あ、あ、とユルトの声がどんどん高くなっていく。俺の息もどんどん荒くなってきた。どちらからともなく体ががくがくと震え、目の前にちかちかっとフラッシュが散り、熱を昂ぶらせる。
「あ……あ、あぁぁっ………!!」
「……っ!!!」
 俺の名誉のために言うが、達したのはユルトの方が先だった。
 久々にハードなセックスをしたという気がして、俺はユルトの上に倒れこむ。ユルトもぐったりと体を弛緩させた。
 ……認めたくはない、認めたくはないが、すげぇよかった。ここまで燃えたのは相当久しぶりだ。この俺が、一瞬とはいえ、暗い情熱とは関係なしに我を忘れるとは。
 ユルトのことは嫌いじゃない。まぁ、気に入ってるって言ってもいい。まだ心の底にわずかにわだかまるものはあるにしろ。だがここまで体の相性がよかったとは予想外だった。
 まいった。男相手に、ここまで本気になってヤってしまうとは。
 俺たちの息が落ち着いてきた頃になって、ユルトが顔を振り向かせて俺を見た。どこか頼りなげにぽうっとした、ぶっちゃけ誘ってんのかと思うほどやらしい表情で。
「……ククール」
 わずかに嗄れた声。
「……なんだよ」
 にこ、といやらしい雰囲気はそのままに、いつもと同じように優しく微笑んで。
「すごい、気持ちよかった。ありがと」
「……そりゃ、光栄の至り」
 それ以外言う言葉はねえよな。
「……もっかいしよ?」
「は?」
 俺は仰天した。こいつ、まだ二度目だろ? 経験の少ない奴ってのは女だってかなり体きついはずなのに、男のこいつが……。
 ユルトの顔が、少し困ったような、それでいてねだるような、頼りなげで誘うように目を潤ませた、死ぬほどやらしい顔で小首を傾げる。
「……いや……?」
「………う」
 ずくんと、俺の中心にくるものがあった。
 ぶっちゃけ、また勃った。
「あ! あ、あ、ああ……」
 俺は律動を再開した。俺の巧みな腰使いを思いきり見せつけ……というか感じさせるように。
 あーもういいや、こいつが満足するまでつきあってやれ。
 つか、俺のプライドにかけて主導権は渡さねえ! 今度こそ翻弄する!
 ……とか思っていたら、ユルトの体力は想像以上で。おまけに思った以上にやらしく、その上俺とどっちが翻弄してるかわからなくなるほど巧み、っつかよくて。
 結局、空が白み始めて二人とも力尽きて眠るまで盛りまくってしまった。

 俺たちが下に降りてきたのはもう昼過ぎで、情報屋と話をしてパルミドを出たのは夕方になってからだった。トロデ王にはぶちぶち文句を言われ、ゼシカとヤンガスにも叱られた。
 けど体力を回復させるためにはそれぐらいの休息が必要だったんだって。宿屋の回復の魔力のおかげで元気だが、そうでなけりゃ今頃腰が立たないはずだ。
 野営の準備をしながら、俺はため息をつく。ユルトの奴は起きたらもうきっちり服を着込み、昨日のことが嘘だったかのように天然元気なユルトに戻っている。
 もうあんなこと言い出してくれるなよ、と俺は思った。男を抱くなんて一度(いや二度目だけど)でたくさんだ。
 ……けど、すげえよかったよな。
 うああ考えるな考えるな俺! もう二度とあんなことはあっちゃならないんだ!
 でも、あいつをもう二度と抱けないっていうのはかなり惜しくないか?
 いやいや、いくらよくてもあいつは男だ。俺が男を相手にするなんてあっちゃならないことだ。今までの女たちにだって申し訳が立たない。
 俺がそんなことを考えていると、ゼシカが言った。
「ユルト、あんまり股間掻かないでよ。見てて恥ずかしいわ」
 俺はぎょっとしてユルトを見る。確かにユルトは竈を作りながらたびたび立ち上がって股間をぼりぼり掻いていた。
 ユルトはうーん、と首を傾げる。
「ごめん。なんか痒いんだよね」
「昨日のベッドから蚤とか移されてるんじゃないの?」
「そうかも。裸で寝ちゃったからなー」
「裸? なんでよ」
「だって昨日僕ククールとセ――」
 俺はダッシュでユルトに駆け寄り、その口を手でふさいでやたら明るく言った。
「そんなことわざわざ言うことじゃないだろ整理体操しただなんて。それよりユルトちょっと武器購入の件で話があるんだが!」
 呆気にとられるゼシカを残して俺はユルトをぐいぐいみんなから離れたところまで引っ張り、怒鳴るように囁いた。
「おい! お前まさか昨夜のことみんなに話すつもりじゃないだろうな!」
「どうして?」
 きょとんとした顔。
「いや……だって、今ゼシカに……」
「ああ、だって聞かれたもん。聞かれたことには答えなくちゃ」
 当然のように答えるユルトに、俺は頭を抱えた。
 そうだこいつはそういう奴だった。考えとかない俺が馬鹿だった。
「……ユルト。俺とセックスしたことは仲間にも誰にも秘密だ」
「どうして?」
 さっきとまったく同じ、きょとんとした顔。
「恥ずかしいだろうが」
「なんで? 別に変なことじゃないじゃない」
「変なことだろうが! 男同士で」
「男同士だと変なの?」
「変だっ」
「そうかなぁ……じゃあ、なんでククールは変なことしたの?」
「う……」
 痛いとこ突いてきやがって。
「……人には時々変なことしたくなる時があるんだよ」
「ふうん。でもみんなそうなら別に恥ずかしくないんじゃないの?」
「俺は恥ずかしいんだ!」
「ふうん……」
 ユルトは少し考えるように首をかしげ、ああ、と笑った。
「ククール、ししゅんきなんだね! 変なことしたら笑われるんじゃないかって、じいしきかじょうになってるんだ!」
「………は?」
「もう、しょうがないなぁ。でもそんなに気にしなくても別にククールのことみんな馬鹿にしたりしないと思うよ?」
 違う。そうじゃない。お前はどういう思考回路をしてるんだ! 男同士ってのは明らかに普通じゃない関係なんだ、わかってんのか!?
 と怒鳴りたい気持ちは山々だったが、この天然に怒鳴ったところでどうしようもないので。
「それでも黙っとけ」
 と俺は言い、ユルトのにっこり笑ってうなずくのを確認したのだった。

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