それは極上の葡萄酒にも似て
「それじゃ、ククール、あとお願いね……ふぁあぁ」
 あくびをしながらゼシカは船室に消えていった。俺は軽く手を上げてその背中を見送る。
 西の大陸に向かうため船を手に入れた俺たちは、現在絶賛寄り道中だ。世界中の小島やら海からじゃないと行けない場所やら聖地ゴルドやらサヴェッラ大聖堂やらを回りまくったあと、今は聖地ゴルド南の海でクラーゴン相手にレベル上げを行っている。
「ドルマゲスを倒すためにはもっと力をつけなくちゃ! レベル上げてお金を貯めていい装備買って、いろんな場所に行っていろんなアイテム手に入れなきゃダメなんだよ!」
 そうユルトは主張するが、これは絶対ユルトの趣味だ、ということで俺たちの意見は一致している。
 そんなわけで俺たちは今聖地ゴルド南の沖の海をぐるぐる回っているわけだ。昼の間は出てくる魔物と戦って、夜になったら休む。
 そして当然、徒歩の旅でもやっていたように、夜休む時は魔物に備えてこうして見張りをするわけだ。
 まあ寝る時はちゃんとベッドで寝れるってだけでも今までとは雲泥だけどな。古代の船だってのに寝床も船室も新品同様ってのはありがたい。舵を回すだけで自在に動いてくれるし。
 それにここらの海はかなり暖かく、もう秋も終わりだってのに夜じっと立っていても肌寒さを感じない。だから見張りもさほど苦にならないというのもあった。
 俺は一応船の周りに注意を払いつつ、力を抜いて船壁に体をもたせかけた。空には満天の星と見事な満月、船の上には小さなカンテラがちらちら光を踊らせている、女を口説くには悪くないシチュエーション。
 が、今俺は一人。孤独にそれらの美しい風景を眺めるのみ――
 ってこの二週間毎日見てりゃそんなもんは見飽きる。そんなことはどうでもいいことで、要するに俺は、暇なんだ。
 つまらん。退屈だ。二時間の見張りのうちまだ三十分しか経ってない。つーかそもそも見張りなんていんのかよ、これまで一度だって休んでる時に襲われたこたねえじゃねえか。あと一時間三十分どうやって潰せってんだ。
 なんか面白いことないかな。こんな僻地に二週間もいるってどうよ。人間って普通街に住むもんだろ。あー酒場行きてえ。酒飲んで、ポーカーでカモから金巻き上げて、女口説いて――
 そこまで考えて俺は苦笑した。街に行ったら行ったでそれどころじゃなくなるのはよくわかってたからだ。
 そんな馬鹿なことを考えている間に残り一時間になった。あと半分か。
 ユルトが起きてこないかな、とちらりと考えて、すぐに眉間に皺を寄せた。おい俺、だんだん思考がユルトに毒されてきてないか。
 そりゃ俺だってあいつのことは嫌いじゃないし、別にああなるのももう嫌というわけじゃなくなってはいるが、基本的に俺としては不本意……
 ……だが退屈しのぎっつーか、ただヤるだけの相手としてはすげーいいんだよな、あいつ。どんどんこっちの呼吸覚えていってるしテクもどんどん上達してってるし……どんどんエロくなってるし。
 あのヤる時の雰囲気のエロさは尋常じゃない。潤んだ瞳でぼんやりとこっちを見上げてくる時の視線は壮絶にやらしいし突いた時の鳴き声はすごいし、男だってのにこのままどこまでいくのか不安になるほどだ。普段とのギャップがまたそそるんだよな。
 ……やばい。なんか、ちょっと……もよおしてきた。
 なに考えてるんだヤりたい盛りのガキか俺は、と自分を戒めるものの頭は勝手に妙にくっきりとあいつのあの瞬間の声やら俺に懇願する時の泣き顔やらをリアルに思い出してきてしまう。あーもう散れ散れっ、と頭を振っていると――
「ククール、なにしてるの?」
 ――ユルトの声がした。
 俺はそちらの方にゆっくりと向き直る(こいつの前で余裕のない態度は見せられない)。タイミングがよくてちょっとばかしどきりとしたが、実際さほど驚きはない。こいつが俺の見張りの途中でやってくるのは、これが初めてじゃないからだ。
 見張りをする時間帯はローテーションするが、順番はユルト→ヤンガス→ゼシカ→俺、で固定だ。俺が最後じゃない時は俺の次はユルトになるので、ちょっとばかしユルトが早く来るのは別におかしくない。
 ――などというのは、当然だが言い訳だ。
「別に。ただ退屈だなーって思ってただけだ」
「ふぅん。ククールって退屈だと頭を振る癖あったっけ?」
「お前だってボーっと立ってると腕組んで貧乏ゆすり始めるだろ」
「それもそっか」
 納得したように一人うなずく。俺はさりげなくユルトに近寄り、隣に立った。
「お前こそどうしたんだよ。交代にはまだ時間あるだろ」
「うん、あのね」
 ユルトはにっこりと笑って言う。
「ククール、セックスしない? って聞こうと思って」
 俺は(一ヶ月前なら吹いていただろうが)軽く笑ってその言葉を受け容れる。はっきり言って風情も情緒も欠片もない言葉ではあるが、もう慣れた。
 それに、こういうのも手っ取り早くて悪くないと言えなくもない。
「別にいいぜ。暇だし」
 俺が(内心少しばかりうきうきしながら)そう答えると、ユルトはさらににこにこしつつうなずいて言う。
「じゃ、しよ?」
「ああ」
 俺はうなずいて、ユルトを抱き寄せ、その小さな桃色の唇にキスをした。
 当然舌をぐちょねちょに絡めたディープなやつ。上下左右全方向からの責めに、ユルトも目を閉じて(言われなくても閉じるようになった)応える。
 パルミドでこいつを抱いてから、一ヶ月。その間俺たちはほとんど三日と空けずにヤっている。
 こいつはサルのように、というにはガツガツしてなさすぎるが、とにかく積極的に俺とヤりたがった。俺が嫌だやめろと言ったらそれ以上は押してこないものの、俺をじぃっと背筋がぞわぞわするような視線で眺めてきたり「じゃあセックスはしないけどそばで寝ていい?」とか聞いてそっと俺の太腿を握ってきたりと技を駆使してくる。
 わざとやってんのかお前、と何度も聞いたがそのたびにユルトはなにが? と首を傾げる。そしてなんとも言えずいやらしい、誘ってるとしか思えない、頼りなげで切なげで色気のある目で俺を上目遣いで見上げるのだ。
 一週間俺はそれと戦ったが、最後にはもう切れてしまった。もーいい、こいつがヤりたいっつってんだからヤってやりゃいいんだ、この前と同じボランティアだボランティア! と(自分を誤魔化して)押し倒したのだ。
 荒野を旅していて女っ気のない時だったせいもあり、ユルトとの行為は上等なワインのような濃密な快楽を俺に与えた。それでもう俺は開き直ってしまった。
 俺はもともとモラルだなんだって言える立場じゃないはずだ。男だろうが気持ちいいんだからいいじゃないか。それにこいつは別に愛が欲しいわけでもなんでもない、それならこいつは理想的なセックスフレンドになる。
 そう自分を納得させて俺はユルトを抱いた。何度も何度も。そしてそのたびにどんどん俺好みの体になっていくユルトに危機感を覚えながらも(だってこいつ男なんだぜ。男が男に抱かれるのに慣れていいもんか普通?)、その快楽には逆らえず――今に至る。
 正直、本当にいいのかといまだ思う気持ちもないではない。俺はこいつが嫌いじゃない。時々こいつは本物の阿呆じゃないかと思うこともあるが、気を遣わなくていいし、なんか、こいつの隣にいると楽に呼吸ができるんだ。
 こいつの明るい笑顔を見ていてむしょうに腹立たしくなってくることがもうまったくないとは言えないけど。その腹立ちも、ユルトがなに怒ってるの? とあのでかい目をきょとんとさせてこっちを見る表情を見ているとしゅるしゅると消えていってしまう。
 そんな気に入ってるって言ってもいいこいつを、俺は抱いたりしていいのか?
 ……頭ではそう思っているんだが、気持ちいいことが大好きな俺の下半身はこいつとのセックスにもう少し浸っていたいと言う。気持ちいいことに流されてしまいたい。その思いは俺が思っていたより強固で、結局俺はこうしてユルトを抱いている。
 そしてこいつとのセックスは、頭が吹っ飛びそうになるくらいイイ。
 ずるずるとキスしたままユルトを押し倒し服を脱がそうとする俺に、ユルトはキスに応えながら協力する。たまにはぁ、と濡れたようなため息を落としながら。
 強烈なキスに唾液でべとべとになったあごを一舐めして唇を離すと、にやりと笑ってズボンの前をくつろげる。ユルトは意図を察して頑是ない子供のようにこくんとうなずき(そのあどけないしぐさと半開きの唇のいやらしさのギャップに俺は体が熱くなった)、そっと俺のペニスを口に含んだ。
 吸ったり舐めたり先端を咥えながらしごいたり吸いながらあごを前後に動かしたり。ペニスを飲みこむように喉の奥に導いたり。そうしつつも俺を蕩けそうにエロい視線で上目遣いに見上げるのは忘れない。
 ……こいつ、ホントにうまくなったよなぁ……一ヶ月で。
 俺を見上げながらはふぅ、と艶っぽく息をつくその仕草にぐっときて一瞬出そうになったが、プライドにかけてそんな真似はできない。俺は軽くユルトの頭を撫でて言う。
「もういいから……今度は俺に触らせろ」
「うん……」
 ぼうっと呟くその口調も仕草も雰囲気も、壮絶にエロい。フェロモン撒き散らしまくりって感じだ。
 ユルトを立ち上がらせて香油の入った瓶を取り出し、見せつけるように手に香油をたらしにちゃにちゃと弄ぶ。それからユルトの口の中にもう片方の手の指を二本差し込んで、立ったまま香油をつけた指を後孔に滑らせた。
「上と下、両方の口で俺の、この指が動いてるんだ。一緒に俺の指を味わえよ?」
「ん……ぅ」
 ユルトは素直に俺の指をぴちゃぴちゃと音を立てて舐めた。ぞくっ、と背筋に思わず快感が走る。
 だが表面上はあくまで余裕たっぷりに、後孔と口を同時に愛撫する。後孔は軽く周りをなぞってから優しく入れて感じるところをなぞってやり、口の中は少し乱暴に舌を挟んだり上あご下あごを押したりと思う存分いじくる。
「ん、う、は、んぅ……ん」
 だーからその声エロいんだっつーの。喘ぎ声で感じちまうじゃねえかちくしょう。
 俺は三本まで増やした指をそっと抜くと、ユルトと視線を合わせる。
「今日は立ったまま挿れようぜ」
「……立ったまま……?」
「ああ。ほれ、足上げて俺の足またいで。俺に体重預けて」
「……ん、ふぅ」
 ユルトは素直に足を上げる。こいつは本当にためらいというものがない。
 それでいてどこか恥じらうように、これでいい? と確認するように俺を見てくるものだから、俺の体温はまた上がってしまうのだ。
 ずっ、と一気に挿入した。
「んあぁっ!」
 ユルトの体重のせいで普段よりさらに奥まで俺のペニスが突き刺さっている。ユルトの中のヒダヒダは、凶器のような俺のペニスを柔らかく受け止め、包みこんでいつものごとく絶妙な力加減で締め上げた。
 しばしその締めつけと柔らかいひだを堪能する。というか締めつけは強烈だし中の熱がこっちにまで伝わってきて熱くなるしで少し馴染むまで落ち着きたかったのだ。
 だが、ユルトはは、は、と短く呼吸しながら、淫らに腰を揺らめかせる。
「……おいユルト」
「くく……うご、いて、よぉ……も……ぼく、だめ……」
「………っ」
 そんな今にも泣きそうな思いっきりそそる顔と声で間近で囁かれて、動かないでいられるほど俺は精神を鍛えてない。
 唸り声を一つあげると、俺は律動を開始した。ユルトの腰を持ち上げては落とし、落とすのと同じタイミングでユルトの最奥を突く。
 そのたびにユルトはもうたまらないって感じのめちゃくちゃやらしい嬌声を上げるので、俺はますます我を忘れて腰を動かし、ユルトのペニスを腹筋と腹筋で挟んで擦り上げ――
 ユルトが射精するのに数秒遅れて、俺も射精していた。

 朝になると、ユルトはそんな濃いセックスをしたことなど微塵もうかがわせない態度でにこにこしながら言う。
「さー、今日も頑張って狩ろうね! 目標クラーゴン三十体!」
「まかせてくだせえでがす!」
「了解!」
「……おー」
 俺は一人やる気のない返事を返す。つうかな、ユルト。お前どうして四回もやっときながら(あのあとさらに三回やった)そんなに元気なわけ? 受け容れるほうが辛いはずだろ? 俺だって少し腰だるいのに。
「もー、ククールやる気ない! これもドルマゲスを倒すための第一歩なんだからね!」
 ぷうっと膨れてから、にっこりと。
「一緒に頑張ろー」
 底抜けに明るい笑みを浮かべてほんにゃーと言うのだ。
 ……ホントにあれだけやっといてどーしてこう健全な笑みが浮かべられるかな……しかもヤった相手俺だぜ? まーそのおかげで俺とユルトのことが誰にも気づかれずにすんでんだけどさ。
 俺はやれやれと息をついて、ユルトの頬をむにっとした。
「むぅー、なにすんだよー」
「ククール! 兄貴をいじめたら承知しないでがすよ!」
「いじめてねぇよ。……はいはい、頑張らせていただきますですよ」
 昨日の色香が欠片もないことに安堵したのか落胆したのか。俺はユルトを放すと、やれやれと肩をすくめた。
 するとユルトはにこっと笑って、上目遣いで少し潤んだ瞳で俺を見つめ。
「頑張ろうね」
 と例のいい声で囁くように言ったので、俺は一瞬体温が上がりかけてしまったのだった。

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