この作品には男同士の(かつ、下品な)性行為を描写した部分が存在します。
なので十八歳未満の方は(十八歳以上でも高校生の方も)閲覧を禁じさせていただきます(うっかり迷い込んでしまった男と男の性行為を描写した小説が好きではないという方も非閲覧を推奨します)。



島の遺跡で戦い〜おまけ3
「ふぅ……先生、お先」
「あ、ごめんね、ナップ、わざわざ……」
「いいって、んなの。……月見酒? 宴会でもさんざん飲んだのに」
「いや、今回は俺はあんまり飲まなかったから。パッフェルさんにからかわれてて……あそこで酔い潰れたらあんまり格好がつかないし、まぁパッフェルさんもふざけてるだけだとは思うけどちょっぴり身の危険も感じたしさ」
「はは……先生にしては珍しく、正しい判断かもな、それ」
 がしがしと頭をタオルで拭いて、風呂上りのナップは上半身裸のままレックスの隣に座った。火照った体が、初夏の夜の涼しい風で心地よく冷やされる。
 酒を飲む、というよりは、酒の味と、自宅から望める月と島の景色を楽しんでいるように見えるレックスの横顔をちらりと見て、自分も同じように月を眺める。月は今日もいつもと変わらず美しかった。
 レックスが月を眺めたくなる気持ちもなんとなくわかる、とナップはぼんやり考えた。久しぶりの島の戦える者総出での命を懸けた戦い。それが無事片付いたのみならず、ことを起こした相手も無事助かって生きている。
 そのこと自体は本当によかったとそう思えるのだけれど、やっぱりどうしても思い出してしまう。かつて自分たちと戦い、死んでいった男のことを。
 騙され、傷つけられ、さんざん振り回されつきまとわれて、本当に鬱陶しい相手だったが、それでもあいつのレックスに対する想いは確かなものだったとナップは思っている。あいつはあいつなりに、レックスに影響を受け、自らの道をいくぶん変えたのだと。
 もうとうの昔に死んだ奴だ。だが、それでも。こんな時にはレックスも思い出さずにはいられないのだろう。助けられなかった、手の届かなかった、分かり合うことのできなかった奴のことを。
 だからこそ、今生きて、ここにいて、分かり合うことができる相手がいることの尊さが、否が応にもわかるものなのだから。
 そんなことをやるせなく考えつつ、ちらりと隣に視線を向け――て、驚いた。レックスがなぜか、ひどく嬉しそうな顔でこちらを見ていたからだ。
「……先生、どうかしたのか?」
「いや……大したことじゃないんだけど」
 レックスは嬉しげに口元を緩ませながら、ぽりぽりと頭を掻いて、少しばかり照れながら言った。
「ナップはいつ見ても本当に可愛くて、カッコよくて、こんな子が俺の恋人だなんて俺は世界一の幸せ者だなぁ……なんて、思っちゃって」
「な……」
 ナップはぽかんと口を開けた。レックスが臆面もなく愛の言葉を語るのは今に始まったことじゃないが、ここまであからさまなのは久しぶりだ。
 ぽかんとしてから猛烈に恥ずかしくなってきたのだが、それを表すのもなんだか照れくさく、ナップはぷいと隣に座ったままそっぽを向いてみせる。だがレックスは微塵も衝撃を受けた顔を見せず、さわさわ、とナップの髪を撫で始めた。
 思わずびくり、とする。髪が性感帯だというほど伸ばしているわけでもないが、それでも伝わってくるレックスの手の温もりに、腰の奥がぞくんと震えてしまったのは否定できない。先生に、二十年近く前から馴らしに馴らされたのだから。
 つまりそれは先生にだったらどこを触られても感じてしまうということではないかと気づき、ナップはますます恥ずかしくなってそっぽを向き続ける。それでもレックスは気にせずナップの髪を撫で続け、やがて小さく耳元で囁いた。
「ナップ」
「っ!」
 もう二十年近くのつきあいだというのに、それでも心臓をどきりとさせるレックスの色めいた声。顎に手がかけられ、ゆっくりとレックスの方を向かせられる。ナップは目尻を紅く染めながら、それに従い、口付けられた。
「ん……ん、む」
「ん……ふぅ」
 軽く舌を絡め合わせあい、目が合う。ひどく照れくさくて視線を逸らしそうになったが、レックスに照れくさそうに微笑まれて、なんだか気が抜けてナップもへらりと笑う。
 レックスの笑顔は、こんな時でも、自分を安心させ、安らいだ気持ちにさせてくれる。頬を撫でられ、半ばとろんとしながらレックスのキスを受け、レックスの囁きを聞いた。
「ナップ……ナップ」
「ん……」
「……今日、縛っていい?」
 そしてその言葉に一気に現実に引き戻された。
「……先生………」
「え、え!? なんでそんな『どうしようもねぇな、この人は』みたいな目で俺をっ!?」
「や、別にいいんだけどさ……そーいうの俺も嫌いってわけでもねーけど」
 この空気でそういうことを言うとは、さすが空気が読めないというかどんな時も自分を貫き通すというか。いやむしろこれだけ長く付き合っていても人間の心理というのは察しがたいものだという人生の真理に思いを馳せるべきか。
「いや、その、もちろん嫌ならいいんだよっ!? ただ今日久しぶりに全力で戦ったじゃないか? 剣を振るうナップの躍動する筋肉が襟元やらからちらちら見えて、あのきれいな体に縄をかけてみたい! っていう欲望がむくむくっと湧いてきちゃったっていうか!」
「…………」
「あ、うううっ、ごめん、ごめんよナップ、気に障った、かな……」
「………いや……」
 どう答えようか白い眼でレックスを見つめながらしばし考えて、やがてふっと笑みをこぼした。自分でも妙な趣味だなーと思うが、レックスのこういう空気の読めないところを、心のどこかが『可愛いな』と思ってしまった。
 だからしょうがない。別に自分もいつもいつも雰囲気出して口説いてほしいと思うほどお子様でもないし、なにより、レックスとそういうことをするのが――それこそ、縛られたり道具を使われたりするのでも、好きなのには間違いないのだから。
 するり、と身を寄せて腕を首に回し、ちゅっとキスをする。最初は軽く、次第に深く。何度も角度を変えながら、舌と舌を絡め合わせる。
 レックスの体から熱が伝わってきて、下半身も明らかに変化が感じ取れるぐらいになって、ようやく唇を話す。「ナップ……」と息を荒くしながら、強い欲情を瞳に兆して名を呼ぶレックスに、にやっと笑ってみせた。
「寝室、行こうぜ。まさかこんなとこでヤる気じゃねーよな?」
「………! う、うん、行こうか、寝室っ!」
 あからさまに嬉しげな、尻尾があったらそれこそぶんぶん振っていそうなレックスににやりという笑顔とともにもう一度キスを送り、立ち上がってじゃれあいながら寝室へと向かった。

「……いつも思うんだけどさ、縛られてる間の時間って間抜けだよな。下着だけで靴下穿くみてーなしょうもなさ感があるっつーか……」
「あはは……まぁ、確かにね」
 寝室で服を脱ぎ捨て、自然体で立つナップを、レックスは手際よく縛っていく。だがいかに手際がいいとはいえ、亀甲は全身に縄をかけなくてはならないので、縛られている間の時間というのがけっこうできてしまうものなのだ。
「でも、俺はけっこう、こういう時間好きだな」
「え、なんでさ」
「だってさ。目の前に、ナップのきれいな体があって……」
「っひ!」
 ぐ、ぐ、と縄で体の前面を締めつけながら、ぺろん、と乳首を舐められる。
「それを縄で締めて、動けなくしてく。その様を目の前で、思う存分見れるってさ……」
「や……ちょ、せんせ……」
 ぺろん、ぺろんとレックスの舌は飛び飛びに下半身に近づいていく。胸、腹、へそ、下腹、そして。
「恋人の特権っていうか、ちょっとない贅沢……ひゃ、ないひゃな」
「ちょ……口に含んだまま喋んないでって……っ」
 当然のようにナップのものを口に含まれた。先端を口に含み、吸い、裏筋を舐め、喉の奥へと導いて愛しげにしゃぶる。その行為にも、仕草にも表情にも、ナップは腰の奥から背中へぞくぞくっと快感が走るのを覚えた。
「……ナップ、俺にしゃぶられるの好き?」
「は!? なに、急にっ……」
「答えてくれよ。俺にしゃぶられるの、好き?」
 器用に口をナップの股間に固定したまま足に縄をかけていくレックスの口調に、かぁっと首筋が熱くなるのを感じる。これはレックスが、自分をいじめたいと思っている時の声だ。
 レックスは普段は本当に優しすぎるほど優しい先生で恋人だが、ごくたまに意地悪になる時がある。寝室の中限定だが、そういう時ナップは本当にもう勘弁してというくらい焦らされいじめられ恥ずかしいことを言わされるのだ。
 しかも悔しいことに、それが決して嫌ではないのだから始末が悪い。レックスに支配されいじめられ弄ばれるのに、自分は確かに被虐の快感を覚えてしまっているのだ。
 なので、ナップは顔を赤らめレックスから視線を逸らしながらも、渋々ながら答えを返した。
「好き……だよ」
「ちゃんと、こっち見て答えて」
 う、と思いつつ下を向き、自分のものを、竿を、玉を、先端を、舐めてしゃぶって楽しげに快感を与えてくるレックスと視線を合わせて答える。
「先生にしゃぶられるのっ……好きだよ」
「あはは、可愛いなぁ、ナップ……そんなに恥ずかしそうにしちゃって」
「っう!」
 レックスの指がつぷっ、とナップの後孔に入ってきた。自分の入り口を素早く撫で、軽く抜き差しし、ずぷぷっ、と中に入ってくる。もちろんたっぷり潤滑剤をつけて。
 ナップのイイところを熟知した指が、自分の中をつぷつぷと探っていく。慣れた仕草で。流れるように。腹の底からぞぞぞぞっと持ち上がってくる快感を与えながら。
「ナップはお尻の穴をいじられるのも好きだよね? こういう風に。軽く抜き差しされたり……」
「っ、うぁっ」
「中指をここで、こうくいくいって曲げられたりさ」
「ぁ……う、そ、こっ」
「答えてよナップ。俺にお尻の穴いじられるの、好き?」
「っ……」
 カァッと顔が熱くなるのを感じ、ナップは思わず怒鳴ってしまっていた。そんなのわかりきってることのくせに。
「ああ好きだよ、好きに決まってんだろっ! 先生だったら体のどこ触られるのもいじられるのも舐められるのもしゃぶられるのも、突っ込まれんのも大好きだよっ!」
 怒鳴ってしまってから先ほどに倍する勢いでカーッと顔が熱くなり、赤くなる。なに言ってんだ俺、馬鹿か。んな恥ずかしいこと叫んでどうすんだ、そんなの先生だって本当はわかってるってのに。
 そして(ナップの予想通りに)、レックスは一瞬目を見開いてから心底嬉しげに笑み崩れ、れろぉんとナップの裏筋を舐めた。
「っく!」
「そうか、そんなに俺にいろいろされるのが好きなのか……いやらしいなぁ、ナップは」
「〜〜〜〜っ」
「そんないやらしくて正直な子には、ご褒美をあげないとね」
「へ、ご褒美って……っ!」
 立ち上がったレックスの股間がすでに臨戦態勢なのを見て取り、ナップはごくりと唾を飲み込んだ。ぺろり、とナップの耳朶を舐め、食んでから、レックスはするりとナップの後ろに回る。
「見て、ナップ」
「………っ」
「なにが見える?」
「……俺が、素っ裸になって、先生に縛られてるとこ……」
 二人の寝室には鏡がある。それも体全体を映せるような大きな姿見だ。それは普通に身だしなみを整える時にも使うが、それよりもどちらかというと、こういう時に使う方が多いのだった。
「そうだね。ナップのおちんちん、どうなってる?」
「っ、ビンビンに、勃ってる……」
「そうだよね、裸になって、縛られて、体を俺に舐められてしゃぶられていじられて、期待しておちんちんビンビンにしちゃってるんだよね」
「っ……〜〜! そうだよ、ケツに挿れられるの期待して勃ってるよ! だからっ……」
「ほら、そう焦らないの。ナップ、今君のお尻、どんな風になってるかわかる?」
「っ……」
 ナップは後孔に与えられる感触に、ぞくぞくっと身が震わされるのを感じた。潤滑剤でぬるぬるにされた後孔、そこの入り口をレックスのものの先端がぬろー、ぬろーと上下に撫でている。
「せ、んせっ……なに、して……はやく、挿れっ……!」
「あはは、そんなに息荒くしちゃって、ほんとにナップはいやらしい子だなぁ。ちゃんと言えたら挿れてあげるから。ほら、言ってごらん? 君のお尻、今どうなってるかわかる?」
「……っ先生の指でぐちゃぐちゃになってっ……先生の、先っぽ濡れてるちんこでっ、上下に、撫でられてるっ……」
「それだけじゃないよね? ナップのお尻の穴、今すごい勢いでぎゅっぎゅって動いてるよ? 広がったり、締まったり。挿れてほしいって言ってるみたい」
「んな、こと、言うなって……!」
 ぬろー、ぬろーとあくまで先端を撫でるだけのレックスの先端。腕を高々と上げさせられ、体を締めつけられ足を縛られ、動けない状態のまま焦らされて、泣きそうになりながら腰を揺らめかせる。
「ほら、見てごらん。目の前の鏡に映ってるナップの顔」
「っ……!」
「すごくいやらしい顔してるよ。目は潤んでるし、顔真っ赤だし。口の端からは涎たらたら流して、もうほしくてほしくてしょうがないって顔して……」
 その通りだった。目の前にある鏡の中に、つぶさに見て取れる自分の顔は、本当に情けないくらい恥ずかしい顔をしていた。それを、レックスに指摘され、自分の後孔には臨戦態勢のレックスのものが触れていて、もう、もう――
 ナップはたまらず必死にレックスの方を向いて、顔を歪めながら訴えた。
「せんせっ……も、お願いだ、からっ……はやく、挿れて……!」
「……っナップっ」
 ずぶっ、と中に入ってくると同時に、ぐっと体を傾けてキスをされる。それでようやくレックスも自分をいじめながら相当に切羽詰っていたのだとわかった。
 じゅぷれろじゅぽじゅぱっ、と卑猥な水音が立つほど激しくキスをしながら、じゃっちゃっちゃっじゃっ、と摩擦熱を感じるほど激しく後孔を出入りされる。そのくせ中のイイところも巧みに突いていて、片手がいつの間にかナップのものを握り勢いよくしごいていて、もう片方の手はナップの乳首や胸や脇腹や感じるところをいじっていて、キスから解放されれば目の前に縛られ後ろから突かれて一物を勃起させている自分が見えて、もう、もう――
「イ、っくぅっ……!」
「っ……!」
 どぷどぴゅどくっどぷっ、とナップは白濁を吐き出した。

 緩くなっていく呼吸の中で、腕を吊り下げている縄を解かれ床にくずおれる。レックスが零した液体の後始末をしているのを、ぼんやりと見つめた。
 ……悔しいが、よかった。ナップもそれなりに経験を積み、レックスに翻弄されっぱなしで終わるということはめったになくなっていたのだが、今回は久々にレックスに一方的に攻めまくられて終わってしまった気がする。
 よかったのは確かだが、やはり男として悔しいのは否めない。次は絶対こっちが攻めてやる、と一人誓っていると、レックスに声をかけられた。
「ナップ、ちょっと手を出してくれる?」
「手?」
 深く考えもせず反射的に手を出す――や、かしゃり、という音がした。
「……おい。なんだよ、これ」
「えーと。手錠、かな。ラトリクス謹製の」
「それがなんで俺の手にはまってるんだよ」
「えーと、その。なんていうか。せっかく縛ったんだからっていうか……実はもうちょっと、やってみたいのがあって……」
「……おい」
「……駄目、かな」
 困ったような顔で見つめられ、ナップはは、と小さく息を吐いてから、レックスを睨み、小さな声で呟いた。
「……今日だけ、だかんな」
「……うんっ! ありがとうナップ、いっぱい気持ちよくさせてあげるからね!」
 満面の笑顔を向けられて、ナップははぁ、とため息をついた。レックスがこういうことをするのを、ナップがそういうことをするのも、自分たちはいつも結局許し合ってしまう。
 それはやっぱりお互いがお互いに惚れあっているせいだろうなと思うとひどく照れくさくなるのだが、それはやっぱり幸せなことには違いないな、と思うのだった。
 ……そんなことを考えて幸せに浸っていたせいで自分たちの行為をライに見られていたことには(二人とも)まるで気づかなかったのだけれども。

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