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青かん 〜後 編〜

<4>
山下は男とともに今よりも更に暗い木々のある場所へ、並んで押し入っていった。そこはまるで別の世界のように、喘ぎ声が壊れたラジオのように、途切れ途切れに洩れてきた。
 山下も流石にこんな暗くて、陰気な場所でセックスをしようと女と行ったことはなかった。
特にシチュエーションで燃えるようなタイプの人間ではなかったので、場所なんてどうでも良かったからだ。
 ただ、2年ほど前に数合わせのコンパで知り合って、即セックスということがあった時に、女は『あたし、ここじゃ燃えないわ、ねぇ、この先に”お墓”があるんだけど、そこでしない?』と持ちかけられたことがあった。  
勿論、山下は『丁重にお断り』をした時以来の変り種となった。

 奥のほうには ”トトロ” にでてくるようなデカイ木”があったが、そこには先客がことを済ませたあとのようで、丸めて捨てられた
ティッシュペーパーの山が木の根元にあった。山下はその屑の小山を足で脇の方へ押しやり、木の幹に男を押し付けた。
「大丈夫です、急がないで」男は山下より余裕があるように囁いた。
山下は、その態度に少し苛立ちを隠せなかったが、男は山下の機嫌を損ねないように優しく両腕に手を添えて、山下を木の幹側に立たせて移動した。
 
『いままで、震えていた奴が、急に余裕ぶっこくってのは、どういうんだ?』
男は山下と向かい合わせに立つと、やや緊張した面持ちでゆっくりと滑るように山下の胸を撫でながら、山下の一番熱量を増し、大きく期待で膨らんだ中心部分まで膝を折り曲げて凝視していた。そして、ゆっくりと震える手で山下のズボンのジッパーを引き下ろし、期待に大きく膨らんだ男の象徴をその白い細い指で取り出した。

山下はその様子を見下ろして眺めていた。余裕のような態度と思っていた男の肩は、期待に喜び、震えるように大きく上下していた。大きく張り詰めた質量のある山下の雄は大理石の彫刻のように固く張り詰めていた。

一瞬、躊躇した男を山下は両手で顔を挟んで上に向かせた。
山下は男がどんな顔をしながら、しゃぶろうとしているか表情が見たかった。
男の顔がゆっくりと持ち上げられ、その顔の表情を見た。
男は潤んだ瞳を山下に向けながら、今にも咥えこもうとするように半分だけあけた唇からいやらしい舌が見えた。
山下は挟んでいた頬から両手を男の髪の毛の中に埋めて自分のモノへ導くように前に押していった。
男の頭はさほどの力は入ってはいなくて、易々と山下のモノへ近づいた。
男は両手で山下の雄を握り、下から上になぞり上げるように舌を這わしては、咥え込んでいった。その行為を繰り返すうちに、男は山下のモノに歯をたて、扱き、吸い、そして自分の口の奥まで出し入れを繰り返した。
やがて、山下は男が紡ぎだす快感に酔いしれ、男の髪の毛を無造作にかき回して触った途端、言い知れぬ興奮が背中を駆け抜け、今まで味わった事のない、衝撃に眩暈がした。

山下が想像していた柔らかい絹のような細い髪は、思っていた以上にさわり心地が良く、男の体臭と相まって不思議な感覚に捕らわれた。このままでは、男に入れる前にイってしまいそうだったので、山下は慌てて、男を立たせて後ろを向かせ、挿入する体勢をとると、先ほどの積極的な男の態度は急におどおどとした態度に変貌した。

『……慣れてんじゃねえのかよ?』
男はまるで初めてのような態度で自分の尻を隠していたが、山下はお構いなしに、所在なげに天上を見上げた山下の雄を男の緊張したアナに狙いを定めた。男の足を大きく開かせ前に倒すように背中を押して、尻を両手に挟んで引っ張り上げて、グイッと差し入れた。
男は低く呻いたが、声は押し殺していてどんな言葉だったかは判らなかった。

しかも意外に男のアナは慣れてはいないらしく、山下の雄の進入を中々許してはくれず、先を含んだだけでそれ以上は先に進めなかった。山下はこれ以上、無理に入れるてしまうのは相手を傷つけてしまうのではないかと考え、引き抜こうとしたとき、
男が掠れた声で懇願してきた。
「ひ、引き抜かない、っで……そのまっま」
「いいのかよ、辛そうだぜぇ?」
「いい、そのまま……挿れて」
男の『挿れて』といった言葉が妙に艶かしく山下の耳を擽った。
男は急にモゾモゾと右腕を動かしてきたので、山下は男が何をしているのか判らなかった。
男は、自分の中に山下を挿れるのが無理だとわかった時点で、己の雄を扱きだしていたのだ。山下は男の行為に触発されて一気に男の中へ進入していくと、男は自分が扱く感覚より山下のモノを飲み込んでゆく感覚で声を上げたようだった。
山下は男のアナで初めてきつく締め付けられる感覚を感じて、自分も動く事がままならない状態に陥り、女とは違う感覚に驚いていた。しかし、山下が男のうなじに鼻を近づけ、柔らかい髪に鼻先を差し入れると、香水の臭いを押し広げるように男の体臭が鼻を掠めた。

山下はその臭いと髪が顔にふれたとたん、高みにも上るような感覚を覚え、山下の雄は一気に質量を増し、男の尻を抱え込んで前後に差し入れては抜きだす行為を始めた。
男は自分の雄を更に扱いていたようだったが、これ以上していては大きな声を出しそうだったので、素早く己の口を手で塞ぎ、声を殺していた。山下は男が自分の尻を男に填められながら、自分の雄を扱くという行為がひどく淫乱で卑猥なような気がして、更に興奮してしまい身体の中の芯が熱くなっていくのを感じた。

山下は、押し殺した声を直ぐ側で聞きながら、尻を抱えていた左手を外して、冷たく外気にさらされ、行き場をなくして尚も張り詰めた男の雄を握った。
「うぐっ、ぐっ」
男は山下に握られた事に驚いたのか、己の手を噛みながら山下を振り返った。
「あんた、こっちも握って欲しいんだろ?」
山下は男に向かって囁いた。
山下は自分以外のモノを握ったことはなかったが、何故か違和感や嫌悪感などは感じられかった。寧ろ、こうした方が男の感度が良くなるのではないかといったことからした行為だった。
ただ、自分の雄ではないものを握り、扱くながら、自分の雄はぎゅうぎゅうと別のものに締め付けられる感覚が妙に不思議でならなかった。

「はぁ……はぁ……逝きたいって、言えよ」
山下はまだ、少し男より余裕があった。きつく締めつけられるのに、中は熱くて妙に柔らかいと感じがした男の内部を、十分に感じることができていたし、初めに差し入れ難かった状態とは違い、今は女のように濡れて山下のモノが男の前立腺に触れるたびに、かすれてくぐもった声を発しながら、尻の肉をビクつかせている男を見る余裕があったからだ

 しかし、逆に男の雄は既にはちきれんばかりに大きく張り詰めて、まるで耐えることが罰であるかのように、口を自ら塞いで我慢しているようだった。だから山下は楽にさせてやろうかという気持ちがある一方、自らの征服欲を満足させることを優先させたくなる欲求が頭を擡げ、男を先に逝かせようと考えた。男は考える余裕もないくらい、山下を感じているらしく、声も届いていないように、顔を横に振り、自らの尻を上下に激しく振って答えていた。

「先に、逝ってくれたら……俺も逝くよ、どう?」
山下は男のモノをきつく握り締めて、思いっきり引っ張ると男は耐えかねたように両膝がガクガクと震えさせ、聞きとり難い声を発しながら男の精を吐き出した。山下は左手に生暖かい男の精を感じながら、自分の限界が近い事を知り、男から引き抜き、外で発散させた。山下は自らの精を吐き出しながら『やっぱ、中出しはマズイよな?』と思い、手早く身支度を済ませた。男の方といえば、そうとう身体にこたえたのか、のろのろと緩慢な動きをして身支度をしていた。どうも気力はあるが動きが伴わないようだ。

山下は身支度をなんとか済ますことのできた男を、引き摺ってベンチに座らせた。男は恥ずかしいのか、やや俯き顔をあげようとはしなかった。山下の方も無理に男の顔を見たからといって何かが変わるはずもないので、特に男の表情を見るようなことはしなかった。5分ほどそうして二人でベンチで座っていると、先ほどの憑かれたような熱の疼きが急速に冷えていき、外気がこれほど冷たく感じるものなのかと思い直していた。

 男は自らの長サイフを取り出し一万円札を一枚取り出して、震える白い手を差し出した。山下は札を握った男の手を握り締め『明日はどうするの?』と聞いた。
驚いた男はようやく顔を上げて、山下を見つめた。
不安の色が濃く残る瞳が、意外なことを囁かれたことに驚いているようだった。
「……あ、明日ですか……」
山下は白い手を握りながら空いたもうひとつの手を男の首筋に差し入れて、柔らかい髪を弄ぶように梳きいれては握ったりしていた。男は山下の行為を嫌がりもせず、受け入れたまま考え込んでいた。
「別に、やんないならそれでいいんだけど」と、山下が言いかけた途端、男が慌てて口を挟み「や、やってくれるんですか? ……いいんですか?」と自信なさげに言った。
「あぁ、いいよ。勿論、金、くれるんだろ?」
山下は”自分が金を目当てに男の望んだ行為をするのだ”ということを改めて思い知らすために言葉を口にして念押しをした。
男もわかっているとでも、言いたげに大きく頷いたが、どこか寂しそうな表情が一瞬、山下を掠めた。

「じゃ、同じ時間にここで待ってるよ」
山下は男に言い放つと立ち上がり、ベンチから離れてさっさと自転車を押して歩き出した。
男は暫くの間、ベンチから動こうともせず、ただ離れてゆく山下を見つづけていた。
 公園の敷地外に出られる階段を上がりかけた山下だったが、急に振り返り、未だ座りつづけている男へ向かって走り戻ってきた。男は、去ろうとした山下が急に戻ってくる事に恐怖を覚えたのか、ベンチから動けなくなっているようだった。
「!!!」
男は寒さで震えているのか、恐怖で震えているのかは定かではなかったが、明らかに動揺しているようだった。
山下は大きく息を弾ませながら、男の両肩に手をついていった。
「……ごめん、あんた大丈夫だったか?」
男は息を弾ませながら喋る山下を眺めながら『何のことでしょうか?』と尋ねた。
「い、いや、あんたがあの時、結構辛そうに……見えたから、歩けるのか、なっ? って考えた。俺、そんなこと全然、
気に、してなかったからさ。……って、ホント大丈夫? 歩ける?」
山下の意外な優しさは男を溶かすには十分だったようで、男は両手で顔を覆い隠して声もあげずに泣いている様だった。
『……まいったなぁ、俺、何かしたかぁ?』
訳もわからず男を眺めていた山下は、「とりあえず、ここから出ようよ」といって男を抱えるように立たせ、一緒に並んで公園外の外へ向かって歩き出した。
男は歩く道すがら、段々と落ち着いてきたようで『ここから、一人で帰れるから』と言って山下と別れて一人で帰っていった。
男と別れてから山下は男が泣いた意味を考えようとしたが結局、納得のいく答えは得られなかった。

男がして欲しかった行為は男の望んだ現実だったんだろうか? それとも思い描いた幻想だったのだろうか? 
その結果、男は満足したのだろうか?  ……で、山下はどうだったのか? 
 男の髪と体臭に煽られ、男と初めてセックスを体験したのは、面白い経験だったわけだが、それに付随して本来の目的である“金”まで得られるという特典つきだった事で、得られる物はあっても失う物などなかったはずだ。しかし、図らずも男の身体に溺れそうな感覚が頭を過ぎり、アラームが頭の中で鳴り響いたと思った途端、男に『俺は金が目当てだ』と言って予防線を張っている自分がいたことに驚いていた。

 翌日、同じ時間に山下が公園に行くと、男が昨日と変わらず同じベンチにちんまりと座っていた。男と山下は後ろから入れるだけのセックスをして、金を貰い、明日の約束をして別れた。
そして、又、次の日もその次の日も、男と会い、又、ただ填めて出し入れするだけの味気ないセックスを繰り返した。男はいつも最後に何も言わず、やたら白い細い指で金を渡すと無言で帰っていった。そんなことが、1週間も続いただろうか、山下は急に不安に駆られた。

 男は何故、何も言わないのか? 
そうではないのかもしれないと、山下は思い直した。
俺が男のことを知りたいと願っているからだ。男とはただ“金”だけの関係なのであって、決してお互いの素性に関しての会話は無いはずなのだ。
 男も金と体の関係に徹しているのであって、山下もそうすべきだったのだ。
しかし、今ではコンビニでバイトをしている間も、一人で夕飯を食べている時も、最近頭にチラつく男の肢体があった。
ただ、男の身体はズボンが取り払われた下半身のみの姿だけだったが。
又、それが余計に山下を苛つかせた。

 始めは男が仕掛けたゲームだったし、それに乗ったのは山下だったが、次第に山下には苛々が募り始め、その正体を知っているのに知らないフリをする自分が腹立たしかった。ここで怒鳴ることは簡単だった。ゲームをおりればいいだけのことだったのだから。
望んだ展開に、望んだ金。
柔らかな極上の髪の毛に眩暈のするような体臭。
手に入れることは比較的簡単だったが、山下にとって今では男のモノ全てを手に入れたいと渇望していた。

 時折、チラチラと口からのぞく柔らかそうな舌に、己の舌を絡めたいと願いだしたのは行為をし始めて3日目のことで、
それから4日目には初めて男の小さな乳首を弄った。
それらをもっと弄くって、触りまくりたいと考えるようになっていった。
山下の欲望は知らず知らずのうちに肥大し、己自身をも超えるほど巨大化していた。
ただ、これらはルール違反だ。山下のルール違反と判っていながらした行為に、男は相変わらず何も言わなかった。
しかし、山下にとって男を手に入れるためには高いハードルがいくつもあって易々とは飛び越えられないような気がした。
ここ数日、男の願いで会ってはいない。
今日が会う日と約束を交わしたのは4日前。
男は本当にあの公園に来るだろうか? ルール違反を犯しかけている山下が待つ公園に。

<5>

約束の日の当日。
不安で仕方が無かった山下は、その日のバイトを休んだ。
休んで男を見てみようと思っていた。
やがていつもと変わりなく角から現れ、男はコンビニに入って行く。
山下はコンビニから幾分離れた喫茶店に入り時間を潰し、予定通りに11時15分にコンビニを出たことを確認して、又、小一時間ほど時間を潰した。
高鳴る胸を押さえながら、山下はいつもの薄ら暗い公園へ急いだ。

「いつも、早いね」
山下は男にそう声を掛けると、男の右隣に滑るように座った。
男はただ何も言わず、恥ずかしそうに俯いているだけだった。
男はことが始まるのを期待していたかのように立ち上がって、いつもの木の下へ行こうとした。
山下は男の手を握り「ちょっと、話をしないか?」と引き止めた。
男は額に皺を寄せ怪訝な表情をしたが、きつく握り締めた手を見やり小さな溜息をついて元の場所に戻ってきた。
「なぁ、あんたはどう思ってるんだ?」
山下は先ほどから掴んでいた男の手は離さずに握り締めたまま聞いた。
「……どう、思うかですか?」
意外に冷静に話しをする男を見つめながら山下は自分の提案を言って聞かせた。
「ん〜、あのさ、あんたと俺が知り合って、こういうことになってるよな?、あんたさ、嫁さんから怪しまれないの? 時間は毎日遅いし、オマケに一日一万円を俺に払ってるんだぜ?  まぁ、毎日やってるわけじゃないからそれほどじゃないにしても、今日で既に十万近くは俺に払ってることになるじゃん?」
「……知ってます」
男の蚊の泣くような声も、今のこの静かな公園では十分に聞こえる大きさだった。
「俺があんたの懐具合の心配をするのも変な話だけどさ、俺にとってはいい話なんだよ、わかる?」
「……良い儲け話ってことですよね、わかっています。だから……こんなことでも付き合ってくれていることも承知してます」
男は山下が何を言い出そうとしているのか判らなくて当惑しているようだった。

「ここ数日はさ、けっこう暖かいと思うよ。けど、もう真冬だぜ? なのに、俺達って相変わらず寒い夜空の下で、“青かん” してさ、しかも “立ちバック ”ばっか……」
山下は男の髪に手を伸ばして冷えきった柔らかい髪をもてあまし気味に触っていた。
「……」
男は山下の問いには反応せず、視線を足元に落としたまま黙っていた。
山下は触っていてた髪から首筋へ手を這わせ男の頬の辺りまで手を伸ばし触れていた。
すると男はやおら顔を上げ、山下を見ながら言った。
「……今日で……終わりにしましょう」男の声が震えていた。
山下は舌打ちをして、触っていた手に力を込めて男の首筋をきつく掴んだ。
「なんで、そうなるんだよ? あんた、歳いってるわりには短絡的だね」
そういわれて男は捕まれた手から離れようと身を捩った。
それでも、山下は手を離さず、更に力を入れて掴んだ。
「でね、そこで提案」 山下がやや含みのある声で話し掛けた。
男はその声につられ山下と目を合わせた。
「俺さ、家でようと思うんだ。それで、マンションを借りるつもり。晴れて一人暮らしを享受するんだぜ?」
「……それが、なにか?」
男は山下の言っている意味が判らず若干、苛つきながら答えた。
「……あんた、ニブすぎ。俺が一人暮らしするんだぜ?」
山下は『まだわからないのか』とも言いたげな言葉遣いで男に言った。
「……脅して、いるんですか? 僕があなたに金を払え、とでも?」
不安に小刻み震える男を山下は『あぁ、そう感じたのか』と思い、男をできるだけ優しく扱おうを思った。
「あんた、勘違いしてる。俺、あんたをどうのこうのするつもりはないよ」
山下は手に入れていた力をゆっくりと抜き、優しく男の背に回した。
「俺が一人暮らしでマンションを借りたら、そこでしようよ? ベットも買うしさ、そしたらこんな寒空でしなくてすむじゃん? 
いい案だと思うんだけどなぁ。それにさ、お金のことだけど、あんた、俺に1回1万円で払ってるけど、そんなの続かないよ?
まぁ、あんたが言い出したことだから、続かなくてもいいんだけど……だったらさ、俺とシェアリングしない?  そしたら、部屋も好きなだけ使えるよ。ねぇ、どう思う?」
山下は自らが構築した“未来予想図”を男に一気に捲し立てると、自らの案に酔っていた。
男は山下の出した提案が自らの常識を超えている為、考えが追いつかないでいた。
「……シェアリングって……」
「だ・か・ら〜、二人でマンション探してさ、あんたと俺とで使うの。まぁ、あんたは“家庭”があるから泊まりは無理かもしれないけど……そうそう、二号宅って感じぃ?  但し、家賃は俺と折半ってことで。そしたら、あんたの好きな時に、俺があんたを “填められる” ぜ?」
山下は自分の出した提案が最高のもののように感じられ、口角をやや吊り上げ気味に笑い出していた。
男は薄暗い空の下でもわかるほど、顔を赤く染め山下から視線を外した。
それを見た山下は心の中で男が山下の言っていることをようやく理解したうえで、肯定とも取れる反応を返した事に気をよくした。
 山下の中心は先ほどから触れていた髪や首筋の肌の感触に熱量を増して、次第に膨張していくのが己自身の反応でよくわかっていた。山下は男が見られまいと外した顔を無理やり己に向け、初めてのキスをした。
男は一瞬動きが止まり、何をされているのかわからないといった風で、固まったままだった。山下はそれをいいことにつけこみ、男の唇や肉厚な舌を思う存分吸い続け蹂躙した。

山下は『ルール違反だよな』と頭の隅で考えてはいても、初めて男の舌に触れた喜びで爆発しそうだった欲望が、なりを潜めて満足していくのを感じていた。男は当初、山下を跳ね除けようともがいてはいたが、次第にもたらされる舌の快感は既に己自身が大きく膨らんでゆくのを感じ、肩で息をしながら、山下の背に手を回して、又、 山下以上に大きくなった男の雄を山下の雄に擦りつけるように身体を密着させた。

熱に浮かされたように二人は抱き合っていたが、暫くして山下が言った。
「……明日から、マンション探ししない?」
男はゆっくりと、しかし確かな言葉で山下に言った。
「午後は半休するよ、待ち合わせしよう」
「あぁ、いいよ、俺は……ところで、変なこと聞くけど、あんた、名前は?」
「……そうだね、そうだった。お互い名前すら言ってなかった……」
「ほ〜んと、そうだよ、って俺、山下 秋良」
「谷口 亜津志」
「ふ〜ん、アツシィ?」
「……何?」
「……今度は、ベッドで名前を呼ぶよ」
「……呼んでくれるの?」
「但し、あんたは俺の名前を呼べないよ?」
「……どうして?」
谷口は訝しりながら聞き返した。
すると、山下は「だって、あんたは”喘ぎ声”しかだせないからさっ」と、笑いながら言った。
谷口は山下の声に小さく笑い『恥ずかしいな』と答えた。
『……喘ぎ声だけじゃなくて、俺には色々とあんたに聞きたいことがあるんだけど……まっ、いいか? おいおい聞けばね?』 山下は楽しそうに笑いながら、又、強く亜津志を抱きしめてキスを交わした。
二人の時間は既に2時を少し廻っていた。

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