>> site index

BACK INDEX NEXT

我侭の領域 〜親父の遺産〜

<8>
他愛もないお互いの近況などを喋っていると、暫くして、寿司屋から注文した品物が届き、俺とゆうにいは薄暗くなった居間で酒を交わしながら少々早い夕食を食べていた。すると、朝から雲行きの怪しかった空から、大粒の雨がポツポツと降り出したかと思うと、列車が走り去ってゆくような轟音をたてて降り出し始めた。

俺は、会話が掻き消されるような雨音の中で何故か、ほっとした表情を浮かべているようだった。
『これで、ゆうにいは帰らなくていいんだ』と、邪な考えが俺を支配していた瞬間だった。

「なんだか、凄い降りになってきたなぁ」
もともと、酒は弱かったゆうにいは、頬を赤くしてやや呂律のまわらない語尾で喋った。
「あぁ、ほんとだな」
俺はどうでもいいような返事をして立ち上がり、縁側に降り注ぐ雨を防ぐ為、戸袋の中から雨戸を引き出して閉めていった。
完全に閉まってしまった居間の空間は、帳の降りきった空のようだった。
それはまるで、俺の心の中を見透かしたように笑う闇だった。
「おじさんが入院中だったら、三和土の修理できないんじゃない? それとも、ゆうにいがするつもりだったのか?」
俺は、ゆうにいが言いかけて引っ掛かった言葉が気になっていたので聞いてみた。
「……あぁ、俺がしようと思ってた。 今の親父じゃ無理だ」
「でも、ゆうにいって仕事は庭師じゃないんだろ?」
「……」
庭師の話になると、妙に口が重くなるゆうにいを怪訝な目で見つめていたが、俺は冷酒を一気に呷って言った。
「今、何の仕事してんの?」
「……行員」
「……えっ、行員って、銀行員?」
俺はそういえば、そんな感じがしてはいたが、まさかそんな職業についているとは思いも寄らなかった。
どちらかというと……会計事務所っていう感じか? いや、どっちにしても堅いか。
 子供の時の印象を思い浮かべても、ゆうにいに対する姿かたちは、
まさに真面目な少年だった。
いつも、真っ白なシャツを着て、折り目のついたズボンを履いて、綺麗に手入れされた学生鞄を持った清清しい格好だった。髪は綺麗に揃えられていて、使い古されてはいたが、形の整った帽子をいつも被っていた姿が甦る。
優等生、そんな言葉が近所から聞こえてきた少年だった。

「……子供の頃、庭師になりたかった。親父の後を継ごうとか、そんなことを考えていたわけじゃないんだ。……ただ、花や木が好きだったから、そうなりたいと考えてた」
弱いくせにゆうにいは、俺と同じように酒を呷った。
「親父さんは……」
と、俺が言いかけたときに、ゆうにいは突然笑い出して、視線の定まらない目を向けていった。
「反対、だとよ。 まさか、反対するなんて思いも寄らなかった。賛成こそしても、反対だなんて……」
「……」
「俺、突然居なくなっただろ? あれなぁ、寮に入れられたんだよ」
(えっ?!)
俺は突然の告白に動揺した。
まるでフラッシュバックを起こしたように、あの時の光景がまざまざと浮かび上がる。

―― 「ねぇ、ゆうちゃんはこないの?」
―― 「明日は、くるんじゃねぇか」
―― 「ねぇ、きょうはくるんでしょ?」
―― 「あいつも、いろいろと忙しいんだろ?」
―― 「ねぇ、いつくるの?」
―― 「ったく、そのうち来るから、五月蝿くするな」
―― 「……ゆうちゃんは、もうこないの?」

俺はゆうにいの声で我に返った。
「庭師になるんだと、親父に言ったら、転校させられたんだ。その後はお決まりのように、親父の言いなりだ。親父の決めた学校にクラブ、卒業したら進路にまで口をだして、果ては、就職先まで決められた。何もかも、親父の決めたレールの上だった。
……しかも、俺は……何、一つ、反対はしなかった。まして、反抗もしなかったんだ。……ったく、何やってんだろうねぇ」
自嘲気味に笑い、又、酒を呷る姿に胸が痛んだ。
「親父さん、ゆうにいが庭師になるの嫌がってたんだ……」
「どうだろう? 本心を聞いたことはないな。親父はね、自身の学歴にコンプレックスがあってね…こっちの話に耳なんて貸そうともしない。……けど、俺は……」
「庭師になりたい?」俺がそう言うとちゃぶ台の上に突っ伏してしまった。
そして、聞き取れにくいほどのか細い声で言った。
「なりたい」
俺はズキズキと痛む胸を押さえながら、眉間に皺を寄せてゆうにいを見ていた。

「今からなればいいじゃん」
俺は妙な軽さを伴った言葉を吐いていた。
『ゆうにいが思うことをすればいいんだよ、自分の好きなことして何が悪い?』
ゆうにいのおやじのことなんか、俺にとっては何の意味もなさない。
俺はゆうにいさえ笑ってくれればそれでいいのだ。
ちゃぶ台に突っ伏したままのゆうにいがこちらに目を向けて意外そうに俺を見つめた。
(あぁ、そんな目で見ないでくれ……俺は)
「かずの言ってる事が、正しいんだよな……。判ってるんだけど、ダメだって思う」
「どうして? 実力がないから、なれない訳じゃないだろ? おやじさんの他にも障害があるってこと?」
俺は頭に浮かんだ事柄に対して、又、ゆうにいの左指を無意識に見てしまった。
(指輪はしてないのか……)
「かずだから、白状するけど……俺、今、かなりまいってる」
「ダメージ最強?」
「うん、そうそう…そういう感じ」
ゆうにいは愉快だといいたげに笑いだし、突っ伏していたちゃぶ台から身を起こして、
両手で身体を支えるようにして座りなおした。

「親父との関係の悪さは今に始まった事じゃないさ。庭師になるならないで、もめても結局は、俺が言いなりになるわけだし……。そこが、問題だったんだろうなぁ、嫁との関係まで不味くなった。別居して、もう、何年になるのか、数えるのも馬鹿らしくて……。いい加減、離婚してお互いやり直そうと考えてるのに、お互い何も言い出さない。いつまでもズルズルとした非生産的なことばかりしている。最近ではお互い、独身だと錯覚して、何かの拍子に“あれっ? そうだ、結婚してたんだ”って思い出す始末だ」
俺は、言うともなしに独白を続けるゆうにいを凝視していた。

「……前に進んでない。そんこと判ってるんだけど、全然、進まないんだ。する事なすこと全てが裏目だ。もしかしたら、自分で自分を止めているのかもしれないと、思うことがある。変わることが怖いとか、変化した後はついていけるのか、なんて考え出すと、もう歯止めが利かないんだ。けど、 動かないから現実には何にも変わらなくて……錆びた時計のように止まったままだ。もしかしたら、俺を救ってくれる誰かを心のそこで待っているのかもしれない。不甲斐ない自分を諌めて、助けてくれる“白馬の王子様”でも探してるのかな? こんな、現実を変えてくれる誰かを、期待してるのかも……」
俺はただ悲しそうに喋りつづけるゆうにいを眺めていた。

               <9>

「ゆうにい結婚してるんだ」
俺は呟くように口から言葉を吐き出していた。
自分でも何故こんなことを喋っているのかは判らなかった。妙に引っ掛かっていたことだったのかもしれなかった。

「まぁ、こんな俺でも結婚はできたけど、ただそれだけだ。……それに、親父が進めた結婚だったから…親父の趣味だったのかもな。……かずちゃんは、独身? 恋人は?」
矢継ぎ早に問うゆうにいを、俺はまじまじと見つめ、彼の目の中に揺らぐ何かを見つけたような気がした。
「独身。おまけに、彼女とはここへ引っ越してくる前に別れた。淋しいって言っちゃぁそうかもな」
俺は目を離さず、笑いもせず、真面目に答えていた。
「……そう」ゆうにいは俺の目線から外れようと横を向いて答えた。
「……別居して、何年?」
「3年……長いよなぁ。普通、こんな状態だったら離婚してるよな?」ゆうにいは相変わらず、目を逸らしたままだった。
「まぁ、人はいろいろってことで、個人の自由なんだし……。それとも離婚する、踏ん切りがつかないの? それとも、金でもめてる?」
ゆうにいは片手で額の汗を拭うような仕草をして言った。
「ははは……金? 金で解決できるなら、とっくの昔にカタがつてるよ。今じゃお互い、なんで別居してるのか、理由も判らないんじゃないか? こうしていると、結婚なんて初めからしてなかったって思えるんだよ。
お互い単に面倒なだけなのかもね。そんなところじゃないのかな?」

「……踏ん切りついたら、離婚する?」
俺は何を言ってるんだろうか?
何を期待してる?
部屋の空気はどんよりと重く、湿気ていて、雨戸を打ちつける音がいやに響いていた。
「……するよ」
俺を真っ直ぐに見つめながら言ったゆうにいの言葉は俺の胸を刺した。
「だったら、俺が踏ん切り付けさせてやろうか?」
我ながら低い声だと思った。
喋り終えると、喉の辺りがひりひりと痛んだ。
ゆうにいは黙ったまま俺を凝視していた。
俺もゆうにいを見つめたまま黙っていた。
雨足が急に激しさを増したようだった。

ゆうにいの額から汗が顔の輪郭をなぞって流れ落ち、古い畳の上に染みを描いた。
「……俺、できるかな?」
俺は「できるさ」と即答して、一気にゆうにいとの間合いを詰めて引き倒した。こうなる事を予想していたのか、ゆうにいは抵抗もせず俺に組み敷かれた。いや、お互いこうなることを想像して駆け引きをしたのではなかったのか?
「……前から、聞きたいことがあったんだ。どうして、ひとり置いていかれたのかと。かあさんに、弟、それにゆうちゃんまで! 俺から離れていってしまった。けど、考えれば考えるほど、答えは出なかった。
どうして、俺ばっかり捨てられるんだろうって……」
俺はゆうにいの目も見ず、彼の腹の上に跨り、額に張り付いた髪を取り除いていた。
ゆうにいは俺のなすがままの状態だったが、俺の言葉には何も答えてくれなかった。

「ずっと、俺の傍にいるんだと、思ってた。ゆちゃんだけは俺の傍から居なくなったりしないって思ってたんだ! ……でも、なんで? 親父には話をしたんだろ?! どうして? 何故、俺には何も言ってくれなかったんだ? 後で、聞かされた。親父には話をしてたってこと。……だから俺、親父に……嫉妬した。ゆうにいは俺が、邪魔だった? それとも、嫌いだった? ねぇ、どっち?」
俺は今にも泣き出しそうな顔をしていたように思う。
だから俺は、自分を誤魔化すように忙しなく片腕を動かして、ゆうにいの身体を触っていた。
黙ったままのゆうにいは、優しい表情をして俺の顔に手を伸ばして両手で包み込んだ。
「かず、ごめん」
俺は両手で引き寄せられるまま、ゆうにいの顔に近づき、その息がかかるほどの距離にいて、彼の動く唇を見た。
「謝ってなんてほしくないよ。それより……俺の言う事を聞いてよ。
又、昔みたいに、何でも我侭聞いてよ」
俺は誘われるようにゆうにいの唇が触れるか触れないかのギリギリのところで、喋っていた。
微かに、ゆうにいの唇が震えたように感じた。
「かずの言う事は、何でも聞くよ。今も、昔も。……俺が、嫌だといったことがあるかい?」
「じゃぁ、ゆうちゃんを俺にちょうだい。……俺、ゆうちゃんが欲しい」
「あぁ、やるよ……知也。みんな、やる」

               <10>

 ゆうにいが言った俺の名前は何かのきっかけだったのか、俺の芯の部分を刺激し、生き急ぐかのように早く、そして荒々しく、ゆうにいの唇を貪った。男の唇は初めてだったがそんなことはどうでもよかった。舌を入れて口内を出し入れすると、ゆうにいの舌はまるで別の生き物のように俺に絡み付いてきた。それは今までに味わったどのキスよりも濃厚で頭の芯がグラグラと揺れる感じがした。

暫くの間、俺はゆうにいの舌と唇を吸いつづけていると、ゆうにいが息ができなくなってきたらしく、しきりに首をふりだした。俺は、名残惜しげにゆうにいの唇から少しだけ離れた。
「はぁはぁはぁ……」
ゆうにいの胸が空気を求めて上下したのが見えた。
俺は直ぐに、ゆうにいの唇を又塞ぎ、今度は彼の忙しなく上下する胸をシャツの上から弄った。
俺の舌はゆうにいの唇から顎へ、そして首筋へと移動して吸い続けた。
ゆうにいの着ている白いシャツが汗ですっかり濡れていて、乳首をぼんやりと映し出すように張り付いていた。俺はその貼りついたシャツの上から乳首を口の中に含んだ。
その途端、意外なゆうにいの声を聞いた。
「あっ、ぁぁぁ……」
まるで『感じる』とでも言ったように。

俺はその声に気をよくして、彼の両方の乳首を張り付いたシャツの上から交互に口の中に含んでは舐めて、噛んで、吸ってやった。その度にゆうにいは小さくて、遠慮深い声を漏らして身体を震わせていた。
「……触って……」
それは小さな声だった。
声は、雨が戸を叩きつけるくぐもった音と、ゆうにいを抱きかかえると発する衣擦れの音だけの世界に聞こえたものだった。
俺は動きを止め、ゆうにいの動いたであろう唇を見た。
「今、なんか言った?」
ゆうにいは薄っすらと、閉じていた瞼を明けると、懇願するように言った。
「お願いが……」
(お願い?)
「ゆうちゃん、何が言いたい?」
ゆうにいは何かを訴えかけるように、頬を染めながら、喋るのだが、口を鯉のようにパクパクとあけ閉めをしているだけで、声にはならないようだった。
俺はちょっと意地悪な考えが浮かんだ。
「ねぇ、言わないとわからないよ? で、どうして欲しいの?」
俺はそう言いながら今度は彼の乳首を両手の親指の腹でシャツの上から撫でまわした。
「んんんーっ」
ゆうにいはその途端、唇を思いっきり噛んで顔を背けてしまった。
俺はこんな反応が返ってくるなんて夢にも思わなかったので、興奮し、己の中心に熱が集まって、欲望が高揚してくるのがわかった。
「ゆうちゃん、感じるの? でも本当はここより、こっちのほうがいいんじゃない?」
俺は言うと同時に、ゆうにいの股間に手をだしてもう既に硬くなりかけて勃ち上がりかけたゆうにいの熱く硬いものを上から握った。すると、驚いたように身体を跳ね上げ、目を見開いて俺を凝視した。
最初は怒ったような感じだったが、直ぐにその影は潜め、まるで困惑するような顔をして、俺が彼のものを揉み扱く度に、口から息を静かに吐いていた。

それから俺はゆうにいの手を取って、欲望に身を滾らせた俺の固くなったもののところへ持っていき、触れさせた。
驚いたようにしていた顔は、俺の言っている事がわかったのか、躊躇しながらも差し出された俺のものを優しく握った。
「…かず……直に、さ、さわってくれ」遠慮がちに小さな聞き取りにくい声でゆうにいが言った。
俺はゆうにいの言った意味を理解して、又、意地悪なことを言った。
「俺に、触って欲しいの?」
「うん、うんっ」
与えられる刺激に反応して、返事もままならないゆうにいが可愛くてじっと見てみたいと剰さえそう思った。
「じゃぁ、俺のを先に出して扱いてくれたら、触ってあげるよ」
ゆうにいは返事も返さずに、慌てて俺のズボンのチャックに手をかけて、外そうとした。ゆうにいは急ぐあまり、思うように動かない手をもどかしげに、不器用にジッパーに手をかけていた。
 開かれたズボンから出た俺のものは、既に堅く弓なりになって反り上がっていた。
一瞬躊躇したゆうにいだったが、切羽詰った表情をして、俺のものを握り扱き出した。
俺は彼の行為を確認すると「じゃぁ、俺も触ってあげるよ」といって彼のズボンのジッパーを下ろしてブリーフの中から欲望の先走り汁を見せていたゆうにいのものを引きずり出して、ゆっくりと扱き始めた。
それは不思議な感じだった。
自慰行為とは違う、別のようなものだと思った。
自分で触って扱いているにも関わらず自分のものは、違う律動で動き、扱かれ、握られている。そして、胸や身体から感じる体温が暖かく、濡れた肌をぬるぬると流れていくさまに、神経が過剰に反応をする。まるで自分じゃない自分が快楽を求めているのに、揺さぶると、ゆうにいが反応するのだ……俺ではないのだ。俺が快楽を求めようとすると、反応するのはゆうにい。すると、今度は俺が反応する。
 反復するような行為は続き、荒い息を吐きつづけていると、自分の身体が何処にあるのかさえあやふやになって、ドロドロに溶けて、ゆうにいと一つになったような錯覚を起こした。
「かず、かずっ!……」
ゆうにいが身体を突き上げるように動かして俺の名を忙しなく叫んだ。
きっと、イキたいに違いない。
何故なら俺も、イキたいからだ。
「いいよ、ゆうにい。一緒にいこう」そう言ってゆうにいの耳元で囁くと、直ぐにゆうにいは達したようで四肢を小刻みに震わせて声を漏らした。

俺もほぼ同時に達した。
白い欲望をゆうにいの腹に撒き散らして、俺はそのまま、ゆうにいの腹の上に乗ったまま荒い息をしていた。ぬるぬるとした感覚が下半身を覆っていたが、湿気た空気を含んだ居間の空気がヤケに、肌に纏わりつくような感じがした。
「ゆうちゃんの中に入りたい」
俺は耳元へ囁くように呟くと、ゆうにいは今度は、はっきりとした口調で「かずが欲しい」と言った。
 いつものように、逃げ出しそうな瞳ではなく、欲望に濡れたような目をして俺に訴えた
ゆうにいの顔に俺は更に興奮した。半身を起こして着ていたTシャツをもどかしげに脱ぎ、開け放たれたズボンも手早く脱いだ。その間、ゆうにいは身動きひとつせずに俺の身体を物欲しげに眺めていた。

「子供の身体だと思った?」
俺は真っ裸の身体の胸を張るようにして前に突き出して、ゆうにいの顔の前で誇示するように見せた。ゆうにいは荒い息遣いをしながら、両手を伸ばして俺の胸に触った。細い指が吸い付くように俺の肋骨や筋肉に沿って触っていくと、俺の欲望は又、息を吹き返し大きくそそり立つように蘇ってきた。
 俺は、ゆうにいの汗で濡れたカッターシャツを力いっぱい、広げて開け放った。
小さなボタンが鈍い音を立てながら四方に飛び散る。
ゆうにいの乳首も興奮を隠し切れないほど、硬く上を向いていた。
俺はふと顔に笑みを浮かべながら、ゆうにいの下半身の大半を覆っているズボンに手をかけ、下へ引き摺り下ろした。
その時、ゆうにいは俺が脱がせやすいように、腰を浮かした。
俺は何もつけてはいない生まれたままの姿。
そしてゆうにいは、胸を開けて、袖をとおしたシャツだけをまとった姿だった。
俺は半分だけ開いた唇の中から誘うように動く舌を見つめて、
「ゆうちゃんって、いやらしい」そう言って顔を近づけると頬を染めて横を向いてしまった。
俺はそんな仕草に微笑んで、ゆうにいの首筋に顔を埋めながら強く吸いついた。ゆうにいが、震える腕を俺の背中に回して、しがみ付くように身体を密着させると、俺はゆうにいの足を掬い上げるようにして抱えた。

「ゆうちゃん、力緩めて」
身体の強張ったゆうにいの身体に言って聞かせるように呟いても、彼はぎこちなく動くだけで、こちらの思うように動いてはくれなかった。俺は、手じかに合った座布団を引き寄せ、ゆうにいの腰の辺りに二つに折りたたんで差し入れて尻を浮かし、抱えていた両足の膝裏を押えて、まだ見たことのないゆうにいの暗い後ろの口を蛍光灯の下にさらけ出した。
先ほど、欲望を吐き出したゆうにいのものは、又、興奮を覚えたように、ヒクヒクと動き勃ち上ろうとしていた。
「ねぇ、ゆうちゃんの、又、興奮してるね。 俺が見てるから?」
勃ち上ったゆうにいのものをしげしげと眺めながらそう言うと、先程よりも更に赤くなったゆうにいが手で顔を覆って、小さな声で「見るな」と言った。
「どうして? ねぇ、何で勃ってるの?」
俺は益々、苛めたくなってそう囁くと既に勃ち上って、ゆうにいの中に入りたいと欲望をギラつかせた俺のものを彼のものへ擦り付けてやった。ぬるぬるとした先走り汁を又も流し出して感じておきながら『見るな』とは、ゆうにいらしいなと思い、顔が緩んでつい苛めたくなるのだ。

ここまできてやることといえば、あとはひとつしかない。女も男もそう大差などない。
俺はゆうにいの身体に圧し掛かるようにして身体に覆いかぶさり、右手で彼の腹の上に広がって滑っている白濁した欲望を掬い取り、ゆうにいのまだ、触ったことのない後ろの口へゆっくりと塗りつけた。
「あっ!」
強く瞑っていた目を開けて、驚いたような声を出してこちらを窺うように覗き見るゆうにいと目と目が合った。
「ほら、力抜いて。 もっとリラックスして。でないと、入らないよ?」
笑いながらそう言ってゆうにいの慣らされていない後ろの口に指を一本ゆっくりと入れてみた。
ゆうにいは声にならない短い悲鳴のような声を上げて、両足を閉じようとした。
「じっとしてよ、足、閉じたら入るものも入らないよ? さぁ、もっと開いて」
耳元で囁くと、おずおずと足を開こうと必死に行動する姿が、物凄く素直で可愛いと思うのはかなりの欲目だろうか?
指の本数が1本増えて、質量も2倍になり、必死に耐えて、俺の背に手を回して耐えている姿が実に欲望をそそった。
「ゆうちゃんて、可愛いね。 ねぇ、いくつになった? 今年でいくつ?」
俺は玉のような汗をかきながら眉間に皺を寄せて、大きな口で息を大量に吸ったり吐いたりしているゆうにいの口角ぎりぎりを舐めてやった。
「うっっ、うっん……」
ゆうにいは答えようとするのだが、口から洩れるのは、卑猥な喘ぎだけ。
「ねぇ、今、どんな感じ? ほら、もう1本入ったよ? 
今何本、ゆうちゃんの中に何本入ってる?」
俺はニヤケ笑いが止まらず、奥へ奥へと3本の指を入れては抜くギリギリのところで又、差し入れるといった行為を暫く繰り返した。ゆうにいの物欲しげな後ろの口はぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て始めると、次第に大きな喘ぎ声を出し始め、俺の背中に回していた手で己のものを握り扱き始めた。
「何してんのさ? 自分でしたらダメだろ?」
「あっ……いや、触っ……」
懇願するような表情をして見るゆうにいに俺は笑いかけて、ゆうにいの右手を左手で制して、手首を握った。
彼の手の平には、ゆうにいの白く濁った液が着いていて、それを見ると又、高揚した気分になるのがわかった。あれほど、普段は身持ちの硬そうな顔をしていながら、色事に至るとこうも乱れて淫乱な表情を浮かべるのか不思議な感じがした。それと同時に、心の隅に湧くどす黒い嫉妬を己の中に確認してしまった。

「俺にくれるっていったじゃない? ねぇ言ったよね、ね?」
俺は酷く子供じみた喋り方でゆうにいに話しかけ、まるであの頃に得られなかった全てのものを取り戻すよかのように振舞っていた。そろそろ頃合だと感じ始め、俺は指を一気に引き抜いた。それまで中に埋まっていたものから解放された安堵感がゆうにいを襲ったように、身体全体をビクつかせた。
そして指の替わりにゆうにいが欲しいといっていた、俺自身をあてがい、一気に推し進めた。

「んっあああぁぁぁ」
それは嬌声に近い叫び声だった。
感じていると言うより、驚いているといった感じだった。
俺を突き放そうとする両腕を押さえつけ彼の胸に噛み付くと、薄っすらと血が滲み口内に生暖かい血の味が広がった。
古い畳が擦れる音と肉と肉がぶつかり合う卑猥な音が、静かな部屋に充満し、耳の中まで欲望で満たされてゆくのが判った。俺はただ、ゆうにいの奥に自分の居場所を探すように深く、奥へと進んでいった。
「んっ、んぅんっ……」
ゆうにいといえば、声にならない声を上げ、焦点の定まらない目で俺を見つめていた。
俺はゆうにいがダラダラと涎のように垂れ流しつづけている遂に勃ち上がったものを左手に納めて扱きあげ始めた。すると感じているのか、徐々にゆうにいの声に艶が入りだして、痛みよりも快感の方が占めだしているのか、半眼でこちらを見つめて、自由になる手で俺の尻を触りだした。
俺の尻を今度は両手で弄るように触っては、荒い息遣いで口を空けているゆうにいが酷く淫乱に見えた。俺はその手の感覚にあわせるように、ゆうにいの熱いものを扱きだすとゆうにいの胸が上下に揺れた。
「あっあぁ……もっ、ん…っ」
俺は嬉しそうに笑って、ゆうにいのものを極限まですりあげた。
「あぁ…も、う…」
ゆうにいが根を上げそうな声を上げた途端、忙しなく動かしていた手を止めた。
「あっ?!」
ゆうにいがイキそうになった手前で動きを止め、俺は両手でゆうにいの肩を押えて、一気に根元まで差し込んだ。
「うっ、あっぁぁぁ…」
大きく張り詰めたゆうにいのものは俺の腹とゆうにいの腹の間で張り詰めながら、だらしなく欲望を垂れ流していた。
「い、いやだ、かずっ!……イカして」
痛みがするのか、目尻に涙を貯めて懇願するゆうにいが一層可愛く見えた。
(俺、サドの気があるのか?)
今の今まで、女と寝た時にはなかった感情がフツフツと湧いてくるのを押えきれないでいる自分に対して、妙に興奮していた。
ゆうにいは『いやだ』と言っておきながら、自らの手は俺の尻を鷲づかみにしたまま、離そうとはしなかった。
「ゆうちゃん、言ってることが違うよ? 
俺が動くの、それともゆうちゃん自分で動くかい?」
俺はニヤケる顔を、涙をながして荒い息をつくゆうにいの顔に近づけて、耳の穴に舌を入れてやった。ゆうにいは返事もせず、呻きながら、おずおずと腰を前後に動かしだした。
ゆうにいは後ろの口の刺激は自ら動く事で得ようとし、前への欲望は己の動きで俺の腹に擦りつけて得ようといていた。
俺はゆうにいを深く入れたまま動かずにゆうにいの耳の穴を舐めつづけて身体を確りと抱き押えていた。ゆうにいの後ろの口は、既に十分慣らされて濡れてはいたが、時々波のように襲ってくる快感で、内部が強く絞まって、俺のものを刺激するのが堪らなく気持ちよかった。
ゆうにいの手が俺の背中や尻を撫でるように動き回り、時々、自分の動きに合わせて俺の尻を両手で握って、自ら深く刺し入れるようにする仕草が可愛らしく思えた。俺はゆうにいのやりたいようにさせる為、暫くの間、ゆうにいから与えられる快感に酔いしれていた。

しかし、ふと、意識が途切れた瞬間、又あの強烈な匂いした。
甘く優美なその匂い。
庭先に立った時と玄関で眩暈にも似た匂いと同じものだった。
考えてみれば、不思議なものだ。
あの匂いをどこかで嗅いだ記憶があるのだが、いまでも思い出せない。
しかし、今ふと、ゆうにいの髪の匂いを嗅ぐと、あの花の匂いがした。
(……あの花?)
俺は匂いが『花』であると思った。
何故、花なのだろう?
何故、ゆうにいの髪から?

「か、かずっ!」
大きな声だった。
俺はゆうにいの声で現実に引き戻されたようで、鈍く甘美な痛みにも似た感覚が俺の中心に集まり、質量を増したようだった。
ゆうにいは答えるように「あっぁぁっ……」と声をあげ、俺の肩に噛み付いた。
俺はヤケに冷静な声で「ゆうちゃん、イッたの?」といって、半眼でこちらに視線を送り、口からだらしなく涎を出しているゆうにいと視線をあわせた。
「じゃあ、今度は俺がイカせてやるよ」俺はニヤリと笑って、意味の掴めていないゆうにいの身体から俺のものを抜いた。
「うっ、うぅぅ……」
ゆうにいは低く抗議するような声で言って、腕に力を込めて俺を抱きよせようとした。
俺は四肢に力の入らないゆうにいの身体をいとも容易くうつ伏せにして、尻を持ち上げて先ほどまで、俺自身を飲み込んでいた穴を電灯の下に晒した。

そこは大きく開いていてひくひくと動き、俺の欲望を待ちきれないといった状態のようだった。
「ゆうちゃんのあ・そ・こ。まだ、もの欲しそうに動いてるよ?」
そう囁いても、ゆうにいに言葉が聞こえているかどうかは定かではなかった。
俺はゆうにいの尻を持ち上げたまま、片手でゆうにい自身を握り扱きながら、後ろの口にゆっくりと、再度、押し進んでいった。
「か、かずっ! まっ、まって……っん」
漸く我に返ったのかゆうにいは、抗議の声を上げたが、俺は無視する形にズンズンと奥へ、更なる奥へと突き進んだ。
もうこれ以上進めないところまできても、俺は奥へ行くのを止めず、ゆうにいを激しく揺さぶって推し進んだ。
「はぁはぁぁ……」
先ほどまで自分自身に余裕がみられたのだが、どうにもこうにも、今はそれほどではなかった。意外に確りしたガタイのゆうにいの肩甲骨を押しやるように触って、肩を揉むように手を動かして、乱れて汗まみれの髪の毛が張り付いたうなじへと、手を動かした。

そこに両手の平を宛がうと、どくんどくんと、ゆうにいの心臓の音が聞こえるようだった。
頬を畳に押し付けて、開いた口から官能の声を上げつつ、身体全体が震えていた。
俺は移動させた手で、ゆうにいの両肩を掴んで一気に引き上げ、身体を弓なりに起こし上げた。
「……あ……っ」
ゆうにいの身体から、汗とも精液ともつかない液体が小さな玉となって四方へ飛び散った。
俺は、その光景を見るなり、自分のものが又、大きく仰け反るようにゆうにいの中で、形を変え内部を圧迫してゆくのを感じた。俺の方もそろそろ限界に近づきつつあって、より一層締め付けのきつくなった、ゆうにいの内部に未練を残しながらも、ゆうにいの肩に力を入れて、大きく突き上げた。
「うっ…」
「あ…っ…あぁぁ…」
熱い欲望が身体の中から熱を奪い去るように、抜けて四散する感覚に身震いを覚えた。
ゆうにいをゆっくり畳の上に降ろして、俺はゆうにいの中に入ったまま、覆い被さった。
ゆうにいも俺も荒い息遣いで、何も喋ろうとはしなかったが、ゆうにいの背中が温かいとふと思った。俺は背中に頬をなすりつけるように動かしていると、ゆうにいが弱々しい声で囁いた。
「……昔、おんぶばっかり……せがんできたよ、ね」
俺は『この期に及んでこのセリフか?』と、今だ俺の保護者を気取るこの男を、忌々しく、そして愛しく感じる自分に笑ってしまった。
「俺、ゆうにいの背中が好きなんだよ」
「ふふふ…知ってるさ。 かずはここから離れようとしなかったからね」
愉快そうに肩を少し震わせて笑った。
「はぁ?」
俺は急にゆうにいの言った言葉に自分の耳を疑った。
そうか、そういうことだったのか!
「この、確信犯っ!」
俺はゆうにいの耳の囁いて、耳たぶを噛んでやった。
「……確信、なんて…あるもんか…いつだって、何もない、よ」
「……」
「優二(ゆうじ)は俺のこと好き?」
「…当たり前のこと聞くな…」
「?」
覆い隠された体の下から手を伸ばして俺に、遠慮深く触れてくる手は、少し震えているようだった。
俺はゆうにいの言った言葉の深いところまではわからなかった。が、しかし、俺はそれでいいと思った。
まだ、始まったばかりだし、ゆうにいはまともに聞くと、恥ずかしがって喋っちゃくれないだろう。
楽しみはこれからってことにしよう。
俺は偉く前向きな事を考えるようになったものだと、思った。
何かが変わったのかもしれない。

劇的に変わったわけではなかったが、親父の遺産は俺がなげやりに過ごしてきた今までよりも何かを与えてくれたものだと思った。弁護士に言われるまま、この家を売っぱらわなくて、ほんと、よかったと今更ながらに、自分の決断を褒めた。
そう考えると、なにやら楽しくて、妙にハイな気分になってきた。
俺に覆い被されたゆうにいは、なにやら、モゾモゾと動こうとしているようで、しきりに顔を動かしていた。
「……何、やってんの?」
「えっ、あ…いや、べ、べつに…」
明らかに動揺しているゆうにいの目線の先を追うと、そこには雨戸を閉めた縁側のところだった。
「なんなんだよ?」
「あ〜、そ、そのう…」
「ゆうちゃん言わないとわからないだろ? いい年こいてはっきりしろよっ!」
「…かず…」
力なく目を伏せるゆうにいは観念したようにボソボソと喋りだした。
「あ、あの…ゆ、雪見(ゆきみ)障子…なんだけど」
「??? 雪見障子?…それが、どうかしたのかよ?」
俺は自分に興味を持たず、流石に障子に興味を持つ根っからの庭師にやっかみ半分、可愛さ半分もあって、ゆうにいの耳の穴へ舌を入れて舐めまわしてやった。
「ひゃっぁ!」
どこからそんな声がでるのかと思うほど、乙女な声で俺を驚かせた。
「その声で『あんあんっ』って言って欲しかったなぁ」
「ば、馬鹿っ!」
俺の手の甲を思いっきり、抓ってきた。
(ったく、痛てぇよっ!)
「…ゆ、雪見障子に、映ってるんだよ…」
「? だから〜ぁ、何が映ってるんだよ?!」
「俺とかず…」
「…当たり前だろ? 俺とゆうにいしかいねぇんだから、さ。 逆に他のもんが映ってる方が、こえ〜よっ」
俺はそう言って、暗い縁側を隔てている季節はずれの雪見障子を見た。
そこには、蛙のように折り曲げた足を広げて、その間に俺自身を埋め込んで、畳に伏せているゆうにいと覆い被さっている俺が映っていた。
「……へぇ、すだれ障子と交換するの忘れてたよ、怪我の功名ってやつ? いや〜、お蔭で、又、勃ってきちゃった!」
そう言うが早いが俺のものは又、ゆうにいの内部で大きくなった。
「あ…っ!」
「ゆうちゃん、今度は雪見障子のガラスを見ててよ。俺が揺さぶって、喘いでいるゆうちゃんが見れるよ?」
俺はゆうにいに入れたまま、片足を持ち上げて、あお向けに体制をもっていき今度は正面から両足を抱えて、更に深く入れた。
「ゆうちゃん、ほら、あっち見て」
俺はゆうにいの顎に手を添えて雪見障子が見えるように顔を向けさした。
「んっ……ば、ばか…ぁ」
俺を詰りながらも、目は雪見障子に魅入られているように視線を向けるゆうにいがいた。
「…やっぱ、日本家屋って…いいんじゃない?」
俺はそう呟くと、内心『親父に感謝』かな?と、嫉妬し続けて、親父を逆恨みしたことを棚に上げてほくそえんだ。
 目が離せないのか、雪見障子を凝視したまま、ゆうにいは俺の名前を呪文のように呼びつづけ、俺が離れないようにと内部をぎゅうぎゅうと締め付けてくるのが判った。ゆうにいの言葉も俺の興奮も全てが、高みへ上り詰めようとした頃には、既に雨も上がり、縁側からは雨の音も殆んど聞こえなくなっていた。ただ、湿った和室の室内でゆうにいが畳を掻き毟る音と、べちゃべちゃと肉体がぶつかり合う音だけが時間を支配しているようだった。


BACK PAGETOP NEXT

Designed by TENKIYA