2010年07月18日

新刊情報!「切ない忘れたいでも愛してる」

切ない忘れたいでも愛してる

芹生はるか / イラスト:兼守美行
2010年 7月 12日 発売
出版社: リリ文庫
本 定価:560円(税込)


切ない忘れたいでも愛してる

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 胸がツキン…、と痛むと同時に、自分の身体の芯が熱く甘く痺れるような
感覚を覚えて、日和はひどく狼狽えた。
 ―――や、やだ…。僕は一体…、なにを……。
 頬が火照って、頭がクラクラする。
 室谷とはまだ一線を越えられないでいる自分なのに、もしかしたら心の
奥底では彼とそうなることを望んでいるのかもしれない、と日和は思う。
 だからこそ、こんなふうに室谷に抱かれる自分の姿を想像してしまうのかも…。
 そっと手を伸ばして、熱くなっているそこに触れてみる。
 元々、あまり大きくないそこは、硬く天を突くとそれでもそれなりの大きさには変化する。
「――んんっ…」
 自分で慰めたことなど、一度もなかった。
 日嵩と暮らし始める前までの記憶は全くないから、以前の自分がどう
だったのかはわからないけれど、きっと性に関して興味もなかっただろうと思う。
 室谷と付き合うようになって、インターネットで調べて男同士のセックスや
自分で慰める方法を覚えた。
 それでも自分でそこを扱いたり、あそこに道具のようなものを挿入して
慣らしたりする、などという文面を読んだだけで頭が沸騰しそうなくらい
クラクラして、どうしても行動に移してみようとは思えなかった。
 勃起した自分のそこを見たことがないわけではない。いつだったか、朝、目覚める
とそういうことになっていてひどく驚いて、日嵩に泣きついたことがあった。
 男の子の身体はそういうもので、それはごく自然なことなんだよ。
日和の身体が健康な証拠なんだ、とやさしく教えてもらって安心できたけれど、
生理現象とはいえそうなってしまう自分の身体に違和感を覚えたし、罪悪感
でいっぱいになった。
 それなのにいま、室谷を想って身体が疼くのだ。
 疼いてたまらなくて、自分で触れて慰めてしまう。
「あ…っ! あっ、あっ…」
 ―――ヒロさん…。ヒロさん、ヒロさんっ…。
「ヒ…ロ、さん…っ!」
 甘く掠れた声で恋しい相手の名を呼んだ瞬間、そこから勢いよく迸ったもので
日和の指が濡れた。
「――あ…」
 日和は唇をわななかせて、濡れた自分の指を愕然と見つめた。
 なんだかひどく、ひどく自分が汚れてしまったような気がした。
「……や――!」
 ベッドから跳ね起きて、日和はバスルームへ走った。
 寝巻きを脱ぐのももどかしく浴室へ入った日和は、シャワーを頭から浴びた。
 ボディソープを泡立てて、必死になって手を、身体中をこれでもかと擦り
つけるようにして洗う。
「汚い…。汚い、汚い…、汚い――」
 綺麗でいなければならないのに。清らかでいなければならないのに、こんな
ことをしていたら堕ちてしまう…。
 帰れなくなってしまう――。
「……帰る?」
 自分の内から湧いてきた、いっそ恐怖にも近い想いに日和は首を傾げた。
 ―――どこへ…?
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投稿者 kuma : 2010年07月18日 19:43
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