2011年08月12日

新刊情報!「闇に煌めく花」

闇に煌めく花

芹生はるか / イラスト:緒田涼歌
2011年 8月 12日 発売
出版社: リリ文庫
本 定価:630円(税込)

闇に煌めく花

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 しかし恭也の手を取っただけで、柾和の手はその指を握ることはない。
「──お食事をなさいましたか?」
  恭也の手を布団の中へ戻しながら告げる柾和に、悲しげに首を振る。
「それはいけませんね。直ぐに運ぶように伝えましょう」
「食欲がない…」
「では医者を」
「いい…。──食べる…」
「承知いたしました。──では、わたくしはこれにて下がらせていただきます。
明朝には戻りますので、警護は先だってもお知らせしました野坂が廊下に
おりますので、御用の際にはお呼びください。失礼いたします」
「まっ…! 待って、柾和…っ」
  掠れた声で呼び止める恭也の声が、まるっきり聞こえていないかのように、
後はお願いします、と孝弘に事務的に告げて柾和が部屋を出ていく。
その背の高い、がっしりとした後ろ姿を今にも零れ落ちそうな涙を落とさない
ように見送った恭也は、両手で顔を覆うと静かに嗚咽を洩らした。
「──恭也様…」
  あまりに悲しげな泣き声に、たまらずに孝弘が恭也の両肩をそっと抱く。
「まさ…かずが──」
  孝弘を振り返り、搾り出すような声で恭也は言った。
「柾和が…、好きなんだ……」
  大粒の涙をぽろぽろと零して、恭也が孝弘の腕に縋る。
「お願い…、孝弘兄さん…。柾和を──、柾和を僕にちょうだいっ…! 
柾和が好きなんだ。僕は柾和が……。柾和が手に入るならなんだってするよ。
だから僕に柾和をちょうだい……っ!」
「恭也様…」
「お願いだよ…、孝弘兄さん……」
  恭也の指が痛いほど孝弘の腕に食い込む。
「──柾和とはこれきりになされた方がよろしいかと…」
「嫌…っ! 嫌、それは嫌……」
「柾和は恭也様のことなど、少しも想ってはおりませんっ!」
「そんなこと、わかってるよっ…!
──そんなこと…、言われなくても…わかってる…」
  言って恭也は両腕で震える己の身体を抱き締めた。
「柾和は僕のことなんて好きじゃない…。わかっているけど……。
わかっているのに、駄目なんだ…。この身体が、柾和じゃなきゃ嫌だって言うんだ…。
好きな人に初めて抱かれて、身体が溶けるくらい気持ちがよくて…、
胸が痛いくらい幸せで……。キスも、愛撫も、好きな人と結ばれる痛みも悦びも…。
この身体が覚えてる…っ! もう一度柾和に愛されたい、あの腕に抱かれて、
なにもかも忘れて──」
「ご自分が伏見天皇をご継承なさったことを、お忘れになりませんよう。
──わたくしは柾和に恭也様をお慰めすることは許可しましたが、愛し合うことを
許可したわけではございません。柾和とのことはご結婚までのお遊びとなさいませ」
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投稿者 kuma : 2011年08月12日 07:10
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