2010年12月28日

新刊情報!「エスケープコード」

エスケープコード

芹生はるか / イラスト:一夜人見
2010年 12月 13日 発売
出版社: リリ文庫
本 定価:590円(税込)

エスケープコード

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  どれくらいの時間が流れただろう。
  否、沈黙が時間を長く感じさせていただけかもしれない。
  ふいに立ち上がった康之が、飲みかけのペットボトルをテーブルに置くと、
  いきなり晄の腕を掴んだ。
「え…?」
  腕を引かれるままに立ち上がった晄が、どうした? と戸惑ったように
 問いかける。
「――なに…? どうした、急…」
  言葉が、康之の唇に飲み込まれる。
  突然のことに見開いた晄の瞳に、自分を見つめる康之の瞳が映った。
「う…んんっ…」
  康之の舌が、口の中に入ってくる。
「んっ…! んんぅ…!」
  腰を引き寄せる康之の手の感触。
  腕の中にしっかりと抱き込まれて、晄は混乱した。
「う…っん…!」
  握り締めた拳で康之の肩を押しても、きつい抱擁を解くことはできない。
  逃げる舌を探られ、引き寄せるように絡ませてくる康之の舌の動きが、
  生々しく感じられる。
「はっ…、あ…っ!」
  キスをしているというより、口中を犯されているような気がした。
  震えるほどに生々しくて、怖いくらいに感じてしまう。
  それは相手が康之だからなのか、いままで経験したことがない口付け
  だからなのか、晄にはわからなかった。
  腰が抜ける、という表現を聞いたことはあるけれど、実際にキスひとつで
  腰が抜けたようになることなんて、あるはずがないと晄は思っていた。
  それでもいまの自分の状況は、確実に腰が抜けている状態にあると、
  おかしいくらいに冷静に頭の中で考えていた。
  唇が離れて、互いに視線を合わせても言葉はなかった。
  言葉を忘れてしまったのか、それとも声すらも失ったのか、ただ何度も
  繰り返し唇を重ねて眼差しを交わしていくうちに、晄は康之に応えている
  自分に気がついた。
  逃げていたはずの舌が、康之の舌に応えていく。
  康之の舌を追って、その愛撫を求めて舌を差し出す。
  拒絶していたはずの手を彼の背にまわして、その確かな筋肉の感触にハッ
  とした晄が、身体を離そうとした瞬間、康之の強い腕に引き寄せられた。
  真っ直ぐに自分を見つめる康之の瞳から、そっと視線を外すと、もう何度目
  かわからない口付けで唇を塞がれる。
  抵抗はしなかった。
  なぜ彼が自分にこんなことをするのかも、考えなかった。
  彼が求めるままに唇を重ねて、彼に引き寄せられるままに彼の腕に身を任せた。
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投稿者 kuma : 2010年12月28日 03:18
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