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2) テネシーワルツ

今日は、珍しく集まったメンツがはしゃいでいる。
まぁ、無理もない。
俺が『ひと悶着起して、彼氏と別れた』お祝いだからだそうだ。
―――だから、なんでお祝いよ?
いつものバーで友人と、その日の客とその他大勢で、ありがた〜い慰めの真っ最中。
あまりな急展開で現実と心が追いつかない状態だが、それが有難いことなのか迷惑なことなのか考える余裕もない怒涛の飲み会。

「…だからぁ、言ったろ? 早いうちに決着付けろってな?」
睦月がハイボールをハイピッチで飲みながら偉そうなことを言う。
「……」
「そうそう、睦月の言う通り! 結局さぁ、皆が言ってた通りになったじゃん?」
このときばかりは睦月より6つも若い浅田が鼻息荒く相槌を打ちやがる。
「……」
「最初からアレじゃぁなぁ…、長く続くわけねぇよなぁ……」
しんみり言うなっ、小泉喜三郎! 爺むさいフルネームで怒鳴ってやろうか?!
「「「「そう、そう!!」」」」
「…………」
―――しかし、皆、言いたいこと言ってくれるよなぁ、人のことだと思って、さ。
「もういいだろ? 別れたんだからさ」
俺は正直な話、ウンザリを通り越して嫌気が差してきたところだったので不機嫌丸出しの表情で言ってやった。
「「「「…………」」」」
―――――いやいや、だからって、急に黙ることはないだろ? それに、怒ってないしぃ。
本人はもう既に過去のことだと整理しかけてるんだからさぁ、少々辛いけど。

「しかしだなぁ、よく持った方じゃねぇ? いっちゃんにしてはさ」
「そうだなぁ、一樹にしてはもったか? 半年?」
「……8ヶ月、正確には」
「「「「うぉ―――っ!」」」」

―――だからぁ、その雄叫びはなんなんだよ?
「いちいちうるさいよ、お前ら」
「いつきぃ〜偉そうだなぁ、いつになく」
「……べつにぃ」
俺は口を尖らして拗ねたような表情をしてみせた。
すると、小泉の奥に座っていた男が急に席を立って俺に向かってやってきた。

『ここ、終わったら、場所変えて飲み直さない? 二人で』
『…おっ?…』
「あぁ〜わるいね。 コイツこれでも先約あるんだよ」
と、睦月がウザそうに男に言い、肩に手を回して男を威嚇した。男は片手を上げて笑って俺の元から離れて行った。
「なんだよ?! 邪魔すんのか?」
そう言うと、睦月にいきなり殴られた! ……しかも、グーで。
グーだぞ? 痛てーんだよっ!

「お前、今日はいいけどよ、隙ありすぎだぞ!」と、今度は腹を殴られた。
「……別にぃ隙だなんて、なぁ…」
「あぁ? お前わかってないよな……ほっんと、心配だ!」
「…何が?」
俺はムッとした表情で返事を返すと、睦月は胡乱な目つきで更に腹を小突かれた。
「あいつの噂、聞いて知ってんだろ? 
 “根こそぎ浚っていく、ドブ浚いみたいな奴” に声掛けられてヘラヘラしてんじゃねぇ。ば――かっ!」
「…………」
「…なんだ、反省してるのか?」
「……」
「…俺は、ドブ?」
「……男は細かいことを気にするな!」
「う――っ……」
本当に反省している。もし、俺が普通の状態ならあんな男に鼻も引っ掛けなかっただろう。
“根こそぎ浚っていく、ドブ浚いみたいな奴” と称された鼻持ちならないイケメン男はここいら辺りでは有名な奴だった。
そんな奴だとわかっていても引っかかる奴がいるのも確かなことだ。……俺みたいに。

『おい、睦月! ありゃ、アブね――ぞ』
『判ってるよ!』
『いいや、わかってねぇ』
『あのままじゃぁさぁ、“ミシュランの人形” でもお持ち帰りしそうな勢いだよ?』
『……おいおい、こえぇ〜こと言うなよ、浅田。想像しちまったじゃねぇか!』
『想像って?』
『『『……』』』
―――全員、沈黙。
『嫌だなぁ、みんなぁ、ジョークだよ、ジョーク。睦月突っ込まれる方だよ? ネコだよ、ネコちゃんよ?! 人形持って帰ったって、突っ込んでくれないよ?』
『バカやろうぅ!!』
『下品なこと言うなっ!』
『頼むからさ、可愛い顔してアブナイこと言うなよなぁ、あさ坊―――ぅ』
『なんだよ、みんなしてぇ――っ』
「もう、そんなのどうでもいいじゃないか―――っ!」
俺はちょっとトンチンカンな心配をする悪友どもに心では感謝をしつつ、怒鳴ってみた。これで、この話題もおしまいだ。
結末を考えるのが怖かった日々におさらばだ。
踏み出すのは怖いけれど、今よりはマシな日が来ると思える今がある……ってね?

「だいたいさぁ、いっちゃんの元彼の中でもピカイチってくらい変態度高くない?」
「おい、それじゃぁ俺が変態好きに聞こえるだろ? 訂正しろ!」
「そりゃぁ、誕生日プレゼントに『スキャンティ』を贈るおやじだもんな」
「…うるさぃ!」
「ぎゃ〜はははは…」
「笑いすぎじゃねぇ?」
「…スキャンティは悪くない!! 贈る奴が悪い! アレは自分で買うもんだ!」
「小泉は……スキャンティ愛用者だったな、だったら、やろうか?」
「何言ってんだよ、お前。いつになく激昂して電話してきたじゃねぇか?」
「問題パンツじゃなくて、『いちご柄』が問題なんだよっ!」
俺はやや興奮していたのか、大きな声で叫んでしまった。すると、バーの客から同時に失笑が漏れた。
…もう、どうでもしてくれ。

「その『いちご柄のスキャンティ』未だ持ってるのか?」
「……持ってるよ」
「まぁ、なんだな……教訓として持ってろ、なっ?」
「……何でだよ? やるよ、お前に」
「いらねぇ、俺、ブリーフ派だから」
「俺もいらねぇよ、ボクサー派だから」
「……恋人の趣味も考えない奴は恋人でも何でもねぇよ、忘れちまえ」
睦月が言うように確かにそうかもしれない。
普通、恋人じゃなくったって、相手に喜んでもらえるモノを贈るんじゃないのか? なのにアイツときたら……スケベおやじ丸出しのプレゼントって………笑えねぇ。
アレを頭に被って「パパァ〜ン、遅かったのね〜」なんて言いながら裸エプロンで出迎えろっ、ってか?
『――――ざけんじゃねぇ』っての。 ……俺の柄じゃねぇしな。
……大体、俺、かわいくもねぇし。………じゃぁ何で、俺と付き合ったんだろ?

「まぁまぁ、皆さん、コレをどうぞ。『一樹さんを元気付ける会』に僕も協賛しますよ」と、バーのマスター兼バーテンダーである谷村さんが俺たちにカクテルを作ってくれたが、俺だけ違った色をしていた。
「…?…」
「『一樹さんを元気付ける会』ってなんだぁ〜」とか「そんな会だったかぁ〜」とか色々言ってはいるが皆、どうでもいい感じだ。まぁ、飲める名目探してんだろうなぁ。
俺の前におかれたカクテルを見ながら「ええっと…マスターこれは?」と話しかけた。
「一樹さん以外の方は “ナイトキャップ” そして、一樹さんは “テネシーワルツ” です。今日で最後にしましょうね〜」
と、いって人の良さそうな顔をした。

半分(?)酔った悪友たちはマスターの言っている意味なんか全く理解していなかったが、仕事柄そこそこ知識のあった俺は、苦笑いで誤魔化してマスターに感謝した。
「…有難うございます。明日から身を入れて仕事、探します」と、言ってマスターの作った “テネシーワルツ” を飲み干した。

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