あれから俺は……と、言うと腑抜けた負け犬状態になっちまっている。
ケーキ屋で見かけた “彼” に、魂ごと持っていかれてしまって、今、何も手につかない状態で……今に至るわけ。
現状はボ−−−っとした状態と興奮した状態の繰り返しで、気がつくと溜息を吐く俺がいる。
就職サイトを閲覧していても、彼の顔がモニターに映るという怪奇現象もなんのその。
（逆に萌える！）なのに、気になる彼氏にアタックが実行できない、何故か及び腰になってしまい悶々と頭の中で妄想ぎみなのだ。あまりにも空しすぎる現実に涙も出やしねぇ。
こんな状況は今までの俺であれば考えられない。
特に引っ込み思案でもないので、積極的にパートナー探しを行うはずなのに、彼のことを考えると”怖い”と思う自分がいる。というのも、一目見た“彼”はきっと今ままでの男とは違うと直感したからだと思う。今までの“男”なら何の躊躇いも気負いもないだろう。やってはいけないと思いつつ、貢ぐ行為を繰り返しても『あぁ、またか』で反省もないのだが、今度は何故だか“怖い”と思って躊躇する自分がいるのだ。
『ただ、眺めているだけでいいはずないじゃないか？』と、叱咤しても状況は変わらない。『幸せは歩いてこない、だから自分でつき進むのだ』という、何にでも前向きさがみられた以前の俺はいったいどこへ行ったの？
仕事は決まらない、金もねぇ〜の、目指す彼氏には面識すらない “何にもナッシング状態”を 何とか打破すべく策をめぐらすが……結果はグルグルで。（イケてねぇなぁ）
しかしだ、そうこうしても体の疼きは止まらない！（やや、暴走気味ではあるが…）
『行動あるのみ！』などとこぶしを突き上げ外出決定！ （何度同じ事を繰り返しているのかは、とりあえず置いといて！）
まずは、最初の一歩を目指して行動を試みる！
―――件の店に行く！！ 今日も颯爽と行ってみる！
―――…が、ケーキ8個を買って帰るだけ……。
―――しかも、今回で5回目だ。 あちゃ――っ、人はそれを５日目とも言う。
―――情けなさに涙も出ねぇとはこのことだな。
不毛なことをしている自覚は有る。あるが、今となってはどうしようもない…。
打開策がみえねぇ。
流石にケーキ8個×２日の食生活に飽きてきたので、『慰め会』に参加してくれた（？）メンバーにお礼と称し、買ったケーキを浅田と小泉と睦月に渡した（笑）
し かし、今度又店に行くということは遂に6日目で、しかも、又もや俺の食事になるのかと思うと少々気分が乗らない…っつうか、味に飽きてきたところだ。
そりゃそうでしょうとも、ケーキ8個の食事って考えられません！ 冷蔵庫の残り物と一緒に食べてみるアイデアも浮かんだが、マヨネーズと九州土産の明太子、マーガリンと缶ビールしか入っていない冷蔵庫の食品ラインナップは余りにも寂しく、酷すぎる。
俺はそこまでチャレンジャーじゃねぇよ。
店に行きたい気持ちは鬼盛り状態だが、ケーキを買うかと思うと少々二の足を踏んでしまう。
―――それに、絶対俺のこと店の噂になっているよなぁ…。
―――『ケーキ8個を買う男が連チャンで店に来る』ってことで……。行きづらいなぁ…。
逢いたい気持ちが勝りつつあり、重い腰を上げようとした矢先、睦月からメールが届いた。どうせ、俺の煮え切らない態度（ダチどもは酒のツマミにしているらしい…）を笑おうと連絡してきたんだろうと思うと、少々ゲンナリして、確認もせず放置プレイを試みた。
それでも、他のメールやら何やらが溜まってきて、夜中に来たメールを昼過ぎに開いてみた。
＞よう、ケーキばっか食ってんじゃねぇぞ！
＞……ところで、就活どうなった？
＞まだ、決まってないんなら “このアドレス” に飛べ！
＞そして、俺を崇めよ！ そして、ひれ伏すのだぁ〜！！
＞お前の愛の恩人より
『…………』
なんだろう、この腹立たしさよりも嬉しさがこみ上げてくるメールは？！
呆気にとられながらも俺は笑いながら睦月が書いたメールのアドレスにアクセスした。
するとそこには、某就職サイトの企業紹介欄だった。
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――― 旬のこだわりフルーツ・ケーキで、お客様に少しでも幸せなひとときを過ごしていただける事を目指し、お客様に長く愛される店作りを重点において、お店とともに成長していきたい方のご応募をお待ちしております ―――
■フロアリーダー
20〜35歳
接客業経験者
店舗フロアサービスのリーダー。お客様が何を望んでいるのかを敏感に察知して、各スタッフへの指示出しや指導など。
■サービスマネージャー
25〜40歳
ホテルやレストランでの接客教育を有する者
スタッフのサービス技術教育・メンタル教育等、店舗におけるサービスに特化したマネージメント。
その他、本社オフィススタッフ 20〜30歳
店舗のバックアップ業務。店舗備品の受発注・管理、売上の管理、スタッフの給与計算、その他お店の運営のサポート業務。
レジュメをメールにて送付……。
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店舗名は「ケーキレストラン ソーニョ
Sogno」と記載があり、そこは睦月といったケーキ屋で、俺が一目ぼれして通い続けた店名がそこにあった。