>> 天穹の恋 〜大阪編〜 > 01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 > site index

BACK INDEX NEXT

4)落ちてきた男 〜前編〜

箱崎の身体は初めて抱いたあの日よりも、三日前に激しく抱いた夜よりも今日は格別に美しく思えた。想いを抱きながら眺める箱崎の背中は先程よりも赤く輝き、いやらしく汗が薄っすらと纏わりついていた。
 
小野は箱崎が紡ぎだす快楽に身を任せながら、箱崎の背中を上下に擦り上げてより高い快楽へ登りつめたいと願っていた。
 そんな小野を知ってか知らずか、箱崎自身はかつて無い情欲に身を焦がしていた。いつもとは逆のシュチュエーションだとか、いつもより消極的な小野の態度に業を煮やしているのは確かだったか、些かやさぐれた小野が膨れっ面で子供っぽい態度しているのも一因だった。小野の子供じみた態度は庇護欲を掻きたて、その表情を見るのが楽しいと思うことが度々あったからだった。

―――『あぁ…なんか、かわいいなぁ』と。

箱崎は忍び笑いをしながら小野の腹のあたりに舌を移動させて、手の平で感じる小野の身体を舌でも感じていた。
ゆっくりとした、ともすれば緩慢とした動作で箱崎は小野の身体を移動し小野の中心に向かって下りていった。
既に興奮して大きくなった小野自身を箱崎は何の躊躇もなしにスェットの上から彼のふくらみを大きな口をあけて柔らかく噛んだ。
ズボンの中にある小野自身が一層固くなり持ち上がった感じがした。

箱崎は小野のスウェットに素早く手をかけると、中から黒いボクサーパンツに包まれた小野自身を見つけてそのまま口に含んだ。柔らかく噛んだり、吸い付いたりしていた箱崎は、徐に小野のパンツをズリ下げて勢いよく飛び出してきた雄を掴み口に含んだ。箱崎は舌を使って丹念に既に捲れあがって先走り液を出しつづける小野の雄を舌の先で舐め続けた。

小野は紡がれた快楽に思わず笑みをこぼしたが、妙に目の座った箱崎を感慨深げに眺めていた。

 男のモノなど大凡しゃぶった経験などない箱崎がよくもここまでになったものだと小野は考えたからだ。小野は箱崎が今までに経験したセックスについて話しを聞いたわけではないし、又、聞くつもりも無い。ただ、彼がいたって普通の人生を歩んできているならば極々当たり前なセックスライフだったのだろう、と思っている。
普通の恋愛。世間一般論から決して外れることのない、女性との恋愛。

そんな当たり前な、普通の生活を送ってきた40過ぎの男が何をトチ狂ったのか男のモノを咥えてうっとりとしゃぶっているなどと彼自身も想像だにしなかったことだろう。

勿論、小野にとってもそれはある意味同じようなもので、彼を手に入れてこのゆるやかな生活に浸っていることができるなんて思ってもみなかったことだ。箱崎が恋人として隣にいることは、奇跡だと言わざるを得ない。それはあまつさえ神に祈りたくなるような事であり、以前の小野では想像だにできないことだった。

 こうも自分の読みを裏切って易々と壁を壊してやってくる人を小野は知らなかった。ともすれば土足で上がりこみ、無遠慮に心を乱す不埒な輩のように振舞う馴れ合いは、最も小野が避けていたものだったはずなのだ。しかし、今は箱崎が行うもの全てが自分が望んでいたものであり、心の奥底で静かに渇望していたものだった。

大学時代からの友人である津田との会話を思い出し、自分がいかに普通の恋愛を経験していなったかを思い知った。「去るものは追わず」決してそんなモットーをもって付き合ったことなどなかったが、結果的にはそういう風に捉えられても仕方がない付き合い方をしていたのは事実だったのだ。

ただ、優しく笑って傍にいてくれる暖かい手を望んでいた。
盲目的に自分を庇護して欲しかった。
寂しいと声に出して言わなくても、黙って抱きしめてくれる人を探していたように思う。
今まで自分を通り過ぎていった人達がそうでなかったかどうかは、今となってはわからない。
だが、彼がそうだと確信したのはいつ頃だっただろうか?
そう思えば、後先も考えず我武者羅に彼を欲した。
何もかもが欲しくて、肉の一片さえ、血の一滴さえ、自分のものにしたかった。
だが、小野はその事実に戦いた。凡そ自分とはかけ離れた世界の住人だったはずの箱崎を己が欲するまま引き込んだものを、又更に沈めようとするのか、と。

―――今なら未だ間に合う。そう、今ならまだ引き返せる。

そう繰り返し理性をチラつかせる心と、一欠けらの肉さえも奪うような業の深さを見せ付けるもう一つの自分との葛藤に悩み続けた時間は思ったより長くはなかった。
どこか、隔たりのあった二人の間柄が交じり合ったかのような瞬間を突然迎え、戸惑っている自分を笑いながら、自分を変えてくれる何かを持ちえる箱崎が愛しかった。
自分と同じ考えであればいいのにと、うっそりと思いながら箱崎の汗ばんだ背中を見ていると、小野の頭は急速に今のこの現状に不満を抱き始めた。今までに得られなかったシュチュエーションに萌えたのはつい先ほどだ。しかし、現状は早く箱崎を欲しくて仕方が無くて、遂に熱は硬度を増して中心に集まりつつあったのだから。

―――今から飛び跳ねて、襲い掛かろう。
不埒な考えで自身を満たすと、得も知れぬ快感が小野に走った。
それはとても魅力的な考えだと思い当たる。

箱崎の両肩を強く押しやり、無理に引き剥がすと、戸惑いに満たされた箱崎の目と合った。
小野の両目は薄く狭められて弧を描き『覚悟してください、今から襲います』と、箱崎にとっては空恐ろしい言葉を赤く色づいた唇から吐いた。

 小野は一旦立ち上がり、ソファを背中で押しやって自身の空間を確保すると箱崎の後ろにあったテーブルもグイッと手で押しやって空間を作った。
テーブルに置かれたコーヒーカップから冷めたコーヒーがビシャリと跳ねて天板の上に茶色い液体が染みをつくった。

まだ、何が起こっているのか現状を把握できていない箱崎はただ、呆然と小野の行動に全てを委ねているようだった。
小野はやや乱暴に箱崎を床に押し倒して、馬乗りになり興奮して固くなった乳首を両手で弄りだした。
「手加減なんて…できやしない」と口ごもるように小野は呟いた。

言うともなしに発した言葉は、それでも箱崎の耳に届き、「乱暴に扱っていいんだよ? …身体は丈夫な方だから」と妙に爽やかに笑って小野の上気した頬を撫で上げた。小野の目が驚きに見開いたと同時に、箱崎はやおら腰を浮かせてジーンズに手を掛けて脱ごうとしていた。その行為は小野の不意をついた一瞬の出来事だった。
有無を言わせず襲い掛かろうと思っていたのに、小悪魔的な箱崎の反応にまたしても小野は出鼻を挫かれた格好な上に、
箱崎の反応が予期せぬものだったために、逆に驚いたのは襲っていた小野の方だった。

―――あれ、天然なんだろうなぁ…でも…。

小野の頭の中の疑問符は増殖しつつも、脱ごうと思っていたズボンが予想外に手間取っているようで、どこか苛つくようにズボンと格闘している箱崎を楽しげに眺め、見下ろしていた。
とりあえずは、この状況を楽しむこもとを優先させた小野は、むきになってジーパンを脱ごうと格闘している珍しい箱崎のしたいようにさせるべく、暫く待つことにした。
箱崎は相変わらず自分のおかれている状況が把握できていないにもかかわらず、悠長に構えた小野の存在すら明後日の方向において、脱ぐことに必死になっていた。

―――早く脱ごう、早く、一刻も早く…。
体の中に蠢く蟲が這い出てくるような、気持ちの悪い感覚を押えながらジーパンを脱いでいた箱崎には小野の変化までは判らなかった。箱崎のジーパンの下から現れたのは、当然のように着用しているはずの白いボクサーパンツではなく、艶かしく誘うように覆い繁った下生えの毛であり、そして既に張り詰めて大きくなりつつあった箱崎の雄だった。小野は予想外の展開にだらしなく口を開けて眺めていた。

―――あのぅ、はるかさん、……ノーパンじゃないですか?
 箱崎がノーパンでジーンズを履くなど考えられない。至極普通の服装の趣味であり、ファンションなどというものはこの人物にって意味のあるものとは思えないほどかけ離れているものだと思っていたからだ。決して趣味が悪いとは思わないが、ファションセンスがすこぶる良いと言うことでもない。ただ、凛とした清潔感のある、ともすればストイックな真面目な服装をする男なのだ。
小野にとっては、何よりも白い上衣と藍色の袴の似合う男だと思っていたこともあって、彼がパンツの着用線を気にしてズボンをはかないなんていう事は考えもつかなかった。

小野はある予感に身を震えるのを堪えて、開け放たれたジーンズの中心に広がるのは被い茂った下生えを背景にしっかりと自己主張した箱崎の雄の状態を目にすると、弓なりに細めた目を輝かせて舌なめずりして凝視する自分はいかに箱崎を求めているのかということを、又胸に刻んだような気がした。

ただ、一点拭えない不安が募るものを除けば、だったが。

BACK PAGETOP NEXT

Designed by TENKIYA