>> ロバのうえの懲りない男たち > 01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 > site index

BACK PAGETOP NEXT

3) 凛太郎と俺のびみょう〜な関係

「まっ…て、って…み、つるが」
「向こうの部屋にいるから…大丈夫ぅ」
「……」
「…感じる?」
「ああぁ…あっ…うんっ」
凛太郎の手が俺の下生えを掻き分けるように弄くる感覚が妙にもどかしくて、自らの尻を振り凛太郎の太くて固いものに擦りつけるように揺らした。

突然、凛太郎が「昨日、浮気した?」と囁いてきた。
それはまるで甘い吐息のように。

―――『浮気』ってなんだ?
俺は言われた言葉と、凛太郎の心の中が、ナイル川の対岸に立って手を振る観光客の中でハナクソを穿っているヤツを捜せ! というぐらい見えないモノのような気がした。
しかもだ、自分の事をペトロナス・タワーよりも高いところに置きっ放しにしてる奴に言われたかぁないセリフじゃないか!
それに、そんなセリフを面と向かって言ってやることができるんなら、俺は今のこの状況にいるわけはないのだ。
きっと、そんなセリフを吐いても凛太郎は何も無かったような涼しい表情でこう言うに決まってる。
『俺みたいな男が独占なんて出来ないよ』

あぁ、なんて嫌味な奴なんだ。
業とだ、業とに決まっているっ!
それを、浮気と世間で呼ぶのなら俺は浮気した事になるのだろう。
俺は確かに浮気した。
……けど、浮気ってなんだ?
俺は凛太郎とは別れているんだ、とっくの昔に。
あいつはあいつで付き合ってる女がいるじゃないか?
そりゃぁ〜今はふられて俺のところへ転がり込んで居候の身だが…。
だいたい、本人に居候の自覚が無いって事の方が危険な思考じゃないか?
しかも、あいつの住民登録は俺の住所で、俺と同居じゃねぇか?
俺は他人だ……なんでなんだ?
なのに、なんで浮気ってことになるんだ?

俺が誰と付き合おうが、何人のセックスフレンドがいようが、そんなの知ったこっちゃねぇじゃんっ?
何で、凛太郎に独占意欲をもたれなきゃならんのだ?
おかしい……ぜってぇ〜おかしい!

俺はやっぱりおかしいと、思考を中断して瞑っていた目を開けて凛太郎を睨むと、凛太郎は薄笑いをして俺を眺めていやがった。
―――なんで、あんたが余裕ぶっこいてんだよっ?
浮気をされて妬いてるのはどっちなんだ?
凛太郎あんただろ?
 俺は妙に余裕のある凛太郎を見たが、あいつは相変わらずの態度で俺をゆっくりと揺さぶる。まるで、焦らされた方が感じるだろうと言いたげな、それはオヤジの心理ってヤツかもしれない。
それでも、深みに填まりそうな凛太郎の腰つきが、俺の思考を奪うかのように、絡みつくように感じるのはやっぱり凛太郎だからだろうか?
凛太郎の薄い唇が俺の首筋や顎のあたりを当て所もなしにさ迷っているのが、妙にまどろっこしくて、俺はイライラし始めていた。

「う、浮気ってなんだよ?」
俺は精一杯の虚勢を滲み出して、凛太郎に言った。
しかし、蛙の面にションベンとはこのことだ。
俺の言った言葉にも何の反応も示さず、俺を小ばかにしたように口の端をゆがめて笑っていた。

「…ほら、ここと、ここ。 キスマークがついてる」
―――あの野郎……。痕をつけるなって、あれほど念を押したのにぃ、クソッ!
「……ぶつけた」
「はははは……要って器用だな」

俺には決まったセックスフレンドがいる。
何度別れたかわからない、凛太郎を除いて固定で3人だ。
一人は同じ会社の営業2課の進藤だ。
俺よりも5つほど若い男。
けっこう、イケ面のクチだろう。別に俺がメンクイとは思わないが…。

もう一人は得意先の財務部に勤める石居という係長だ。少し、凛太郎に似ている気がする。
そして、もう一人は偶々飲み行ったダーツバーで知り合った男、南澤だった。会社の規模は小さいが、IT関係の仕事で脱サラしてやっと軌道に乗り始めたところだったらしい。

進藤にはパートナーがいない、最近別れたらしい。
石居係長には、妻子がいておまけにジジババもついている。
南澤には決まったパートナーがいて、俺はツマミ食いらしい。
まっ、それが世の中ってもんだ。
俺はいまのところ現状に不満がない。
 因みに、凛太郎が浮気したといった相手が、血の気の多い進藤。
あれは、若いということをハナにかけて、俺の身体で体位の研究をしているとでもいうのか……そのう、俺がヘトヘトになるぐらいにセックスをするので、こちらも飢えている時はいいが、そうでないと……激しく、疲れる。はぁ〜俺も若くないなぁ。

だから、この現状について俺は周りが心配するほど苦痛には感じていない。まぁ、時々我に返って泣きたくなる夜が廻ってくることはご愛嬌だ。
俺はそれを承知で付き合っているのだ。
割り切った関係、といえばいいのかもしれない。
都合のいい関係は俺にとっても相手にとっても好都合な条件だろう。
しかも、修羅場はないときている。
心の安息を求める俺にとってそれは非常にウェイトの大きい重要事項だ。
勿論、金の絡みもない。(これも、結構重要だ)
ただ、自分的にこれでいいと思い込んでいる。
そう、思い込もうとしているんだろう。

正直、俺は今の自分に自信がなかった。
凛太郎の件がトラウマになっていることもあるのかもしれない。
凛太郎以外にパートナーを見つける……そういうことが考えられないのだ。いや、寧ろ考えたくないのかもしれない。

『別れる』っていうのはどう言うことなのだろうか?
凛太郎の顔を一生見なくなるということなのだろうか。
自分の人生の中において大部分を占める凛太郎が、いなくなるということは一体、自分はどうなるのだろうか?

今は、長くて9ヶ月、彼の顔を見ないこともある。
その時、彼は俺でない誰かを愛しているのだ。
そして、鮭のように又舞い戻る。

もしかしたらと、又自分のところに戻ってくるだろうと甘い考えを否定する事も出来ず、そのために、パートナーを作ろうとはしない自分をどこか可哀相だと思っている節がある。
客観的に自分の事を判断できる頭を持ってはいるのだが、なぜか、凛太郎本人を前にすると俺の思考は中断し、正しい判断が下せない。
そして、下す自分に躊躇する自分がいる。
それは、考えられないのではなく、考えたくないからのだろうか?

「……」
「なぁ…感じてる?」
『感じるかって?』
俺は言われた言葉に反応し、眉間に皺を寄せて凛太郎を見た。
凛太郎は既に己の固くなった竿を、半勃ちにななった俺の竿に執拗に擦り上げた。
「……充分感じてるだろ、下半身だけだけど」
俺はできるだけ嫌みったらしく言ってやった。
「くっくく…そんな、口もかわいいなぁ」
凛太郎はやっぱり食えないオヤジだった。
馬鹿にしたような口調でも、俺には真っ赤になるぐらい嬉しい言葉だった。
もっと、言って欲しい。
もっと、弄って欲しい。
「……早く、入れてくれよ」
欲張りな心は貪欲に凛太郎を求めている。
あぁ〜あ、又、俺は絆されるのか?

「だめ〜」
―――な、なにが…だめ〜だ?!
このヒトデナシ野郎がぁ〜!!!
結局、俺はいつものように振り回されて、いつものように凛太郎に囁くのだ。

―――『好きだ』と

BACK INDEX NEXT

Designed by TENKIYA