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1)フリーマーケット

俺、未知下 達。(ミチシタ トオル)
当年とって十九歳、独身。(当たり前か?)
某国立大学の二回生、週3日のコンビニ店員と週末のフリマでアクセサリーの売り子アルバイトを、敢行中。
(親からの小遣いは当てになんねぇからな)両親と4歳年上のアブナイ姉、3歳年下の超硬派な妹と5歳3カ月のブチ柄の犬が俺の家族。
まっ、いたって普通の家族ですな。

だけど、あの日……いつもと変らない、変らない筈だったあの日、俺の何かが確実に変ったあの日の事を、俺は一生忘れはしないだろう。

俺は、何時もと代わり映えのしないコンビニのバイをト終え、未だ、真新しい原チャリに股がり家路を急いでいた。
「トゥルルル……」俺のケツの部分に仕舞い込んでいた、ケ―タイが鳴っていた。
「クソッ!」(とれねぇ)
俺はポケットの下に入り込んでしまったケ―タイを弄ってはいたが、直ぐに諦めて路肩に原チャリを止めてケ―タイを取り出した。
「はい、松 たか子でぇ〜す」
『芥川龍之介です。』(ばかだねぇ〜)
「……んだ、七緒(ナオ)か?」
『あぁ、お前今、バイト?』
「いや、帰るとこ。で、何か用?」
『お前さぁ、コンビニのバイト休めねぇか?』
「あぁ〜、何で?」俺はやや面倒くさそうに返事をした。
『来週の火、水、木の飛び連休にさ、市民祭があるじゃん? そこでさ、俺達のグループが造ったアクセの売り子してくれよ』

 平井 七緒也(ヒライ ナオヤ)は高校の時の同級で、今は芸大に通っている。彼は彼のグループで造ったオリジナルのアクセサリーを俺がバイトをしている店に卸していた。(彼らにとっては趣味と実益を兼ねたいい仕事だろう)従って俺は、週末のフリマのバイト時に、七緒達の作品もいくつかは扱っていた。

「店、通さずに売るってこと?」
『店の作品とは違ったもんなんだよ。それに、今回は実験的な意味合いもあるから利益を見込んでない。言っとくがな、俺達の作品なんだからな、俺達が売って悪いはずがない』
「……で、俺のバイト代はいくら?」
『未来の巨匠達の作品を扱える名誉を、君に与える!』
「……またな」俺はそう言って、ケ―タイを切った。
(ゲイジュツを信仰する奴にゃぁ、変り者が多いって、本当だな)
又、ケ―タイが鳴った。
『あっ!達君?』
「何が、『達君?』だぁ? なめてんのかよ、あぁ?」
『……売上金の30パーセントって、のはどう?』
「交通費、諸経費は全額そっち持ち。バイト代は売上金の半分をもらう。
条件はビタ一文マケねぇ」
俺はポケットに忍ばせてあった、煙草を取り出し火をつけた。
七緒は『う〜ん、う〜ん』と電話口で唸り声を上げていた。
『……この、越後屋!』
「何とでも言え、俺は金がいんの」

 俺は約一ケ月前、突然飛び出してきた犬を避けようとして、新品のバイクを事故ってしまった。
まぁ、俺は日頃の行ないが良かったせいか怪我も軽くて済んだが、バイクの方は慢心喪失状態で、廃車寸前。(はぁ〜)結果、俺にはロ―ンの小山が残ってしまった。(ったく、んなこと親に言えるかよ)  …で、俺はこの極貧生活のより良い向上を目指しつつ、仕事に勉学に勤しんでいる訳だ。こんな俺様に、なんで、タダ働きなんだ?  世間は間違っているぞ!

「どうすんの?」
『オッケ〜、その条件でいい。……お前以外に売り子は頼めんからな。商品の搬入やなんかは、又、テルするわ』
「商談成立だな。何をいってもこの越後屋、腕は確かですぜ、お代官様?」
『はぁ〜、判ってるよ。じゃぁな』
「あぁ」

俺は七緒とのやりとりに微かな楽しさを味わっていた。(さぁ、メシ食って寝るか)ちょっと前まで俺は、先を急ぐ様にバイクを走らせていたが、七緒との話しが余程楽しかったのか、イ―グルスの『テキ―ラ・サンライズ』を口ずさみながらバイクをゆっくりと走らせた。

あれから、バタバタと忙しい日々だった。七緒からの電話での商品のやりとりや、三日間もコンビニのバイトを休むため、出勤予定の変更や、休むためにその分を他の休日に消化してみたりして、『この忙がしさをあいつらはわかってんのか?!』と、ぼやきたい日が何日か続いた。もちろん、それに伴って勉学にもしわ寄せがあったのだが。
(まっ、頭は悪くないんでね、その辺は巧くやってるけどな)

 市民祭はこの都市で随分前から行なわれているフェスティバルで、色々なイベントが期間中行なわれる。(気がついたらやってたんで、いつからだったかは知らないなぁ)ステ―ジは大小合わせて4つ有り、子供の為の『ポンキッキ』みたいなものから、目玉のバンドコンテストまでと幅広く行なわれている。(これが結構、有名でスカウトが多く集まるらしく、噂が噂を呼んで今や一大メインイベントと化している)ステ―ジ以外でも、ストリ―トでは素人フリマとプロのフリマ(七緒達のものはト―シロ―の方に分類された、何でだ?)や、露店の食べ物系、産直販売、古本市に骨董市など様々なイベントが三日間の間に行なわれるのである。

 その時はただ、七緒達の作品を販売するという特別なんの意味もない、ただそれだけの三日間だと思っていた。変わるはずのない未来、たぶんこうだろうと心の角で予測していた自分自身の事。これが、あの三日間で全てが覆ってしまった。(俺の知らなかった世界)

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