>> カノープスの記憶 > 01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 / 13 > site index

BACK INDEX NEXT

3)不意の来訪者

流石に大きなイベントだけあって、いろいろな出店が並んでいた。
人も多い。何処から沸いてくるのかと、思うくらい人が道いっぱいに広がり蠢いていた。
俺は急に空腹感に襲われて、腹の当りを手だ摩りながら、店を探した。
焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、出店の常連が出店の多くを占めている、一角の近くに来た。
どれもこれも、簡単で俺達餓鬼の腹を直ぐに満たしてくれそうなものばかりで、俺は目移りしていた。

(……旨そうな、ラーメンだが、二杯の持ち帰りはきついなぁ、しかも、のびるぜ)で、俺は結局のところ『おでん』にした。
俺は、二人分のおでんを買い、この暑さを乗り切る為の、必殺アイテム『ビール』(勿論、あいつは、未成年なので『ペプシ』)も購入した。
ここいらで、バチッと『俺が大人だッ』ってこを、再確認してもらう為にも、あいつには、『爽やかペプシ』ってことですな。(そんな、玉じゃねぇけど、な)俺は、待っているであろう龍水の元へ急いだ。

しかし、店に戻ってみると、意外な事が起こっていた。
「何だ、これ?」
俺は、店の台に向かって顎をしゃくりながら言った。
「何って?」
龍水は先ほどと毛ほども変らぬ態度で言った。
「何で、何も無いんだ?」
「……それは、正確じゃないなぁ。全てなくなってるわけじゃないよ」
「そういう、問題じゃないぞ」
俺は、砂漠の中にある微かな草たちを想像していた。
「何って、売れたんだよ。他に理由があるわけ無いよ」
俺は内心『やられた!』と叫んでいた。
俺は龍水の側に腰を下ろし、持っていた『おでん』や何やらを強引に手渡した。
「ビールは俺、ペプシはお前」そう、付け加えた。
「あはは、ありがとう。……でも、何でペプシ?」
「不満を言うんじゃない、未成年。これが、大人の正しい判断だ」
俺はそう言って、ビールの蓋を開けて、先ずは一口飲んだ。
「ふん、よく言うぜ」
「勝手に言ってろ、引っ繰り返ったって、年の差は縮まんないんだよ」俺はやたら、大人ぶって龍水に言った。

そんな風にしたい訳じゃなかったが、ただ、どう接していいのか判らなかったからだろう。
平井達とは違う、年の離れた友達。
(友達かどうかは怪しいもんだけどな、俺は女の姉妹しかいねぇし、年の離れた男の知り合なんて、いとこ以外にはいねぇし……)
そんなことを考えて、ふと気づくと龍水の視線を感じた。
(……くだらねぇ)
俺は、ビールを一気に飲み干した。
「達はどうすんの? 品物ないけど」
それもそうだと、思った。
「ちょっと、早いけど店じまいするか?」俺は独り言のように呟いた。
ちくわをくわえながら、龍水は俺を見て徐に言った。
「相談にのって欲しいことがあるんだけど」
(なんだぁ、その物言いは?)
「お前の話し方には悪意を感じるぞぉ」
「よく言うよ、未だ何もいってないだろ?」
(ごもっとも)
「で、相談って?」
「『大人の達』に相談なんだよなぁ」
(このクソガキ! ビールのこと、未だ根に持っていやがる)
「……で、何?」
「今日さぁ、泊まるとこ、無いんだよなぁ。 ……泊めてくんない? あ〜、それとも、同棲中で無理とか?」
「……生憎、親と姉妹と犬と一緒だよ。けど、お前家出中か?」
「まさか、そんなことはないよ。……俗に言う『プチ家出』ってやつ?」
「一緒だよ、馬鹿!」
「まぁ、ちょっと事情があってこのイベント中は帰りたくないんだよ。それで、相談中って訳。なにせ、貧乏、金なしってね」
「……確信犯」
「まさか! そこまでスレてないよ。ダメならいいよ」
「他に当てがあるとでも……」
「いや、当てはない。だったら、あんたに言わねぇ」
口調のわりに龍水の態度はあい変わらず静かなものだった。
俺は心の隅がチクッとなるのを覚えた。
「まぁ、手伝ってくれた事だしなァ」
俺がそう言うやいなや、龍水が覆い被さるように言ってきた。
「売上に関しては文句の付けようもないって?」
(…お前、ボリやがったな)
「ぼったくったって、思ってる? まさか、そんな事はしません。って言うか、相手の気持ちってやつ?」
(はぁ、先が思いやられるなぁ……)

なんたって、俺の家族は史上最強だ、それに女系だ。
しかも、地上最弱の男どもだもんな。
あァ〜考えるだけでも、怖い。
ちくわを食いながら龍水は俺を見て徐に言った。
「他に心配事でも?」
「心配事といえばそうなるんだが、お前みたいな奴を家につれて帰ってみろ、何言われるかなぁ―――う〜ん」
「ダチはダメってこと? じゃぁ、ご学友は?」
「同じじゃんか! どういうことだよ、ご学友って? ガラじゃねぇ」
「わかんねよ、それとも他にネックがあんの?」
龍水がいぶかしんで俺を見た。
「姉貴がなぁ、あいつの目が……」
「姉さんの目?」
「あいつの目は怖え〜んだ、〜よぉ」
「そんなに?」
「……」
「……」
「よし、シミュレーションだ!」
「?」
「日本社会は根回しだ!」
「……わかんねぇよ、それ」
「ぐだぐだ言うんじゃない! お前は何学部だ?」
「A組だよ」
「……文学部だ」
「どうして?」
「いいんだよ、文学部で。それから……」

俺は、執拗なくらい、シミュレーションと口裏合わせをした。
いや、したつもりだった。
これぐらい念をいれていておけば、間違いはないだろうから、と龍水にも有無を言わせず、やりつづけ、その日店を片付けながらも続けていた。

BACK PAGETOP NEXT

Designed by TENKIYA