>> 天穹の恋 > 01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 > site index

BACK INDEX NEXT

14) 先手必勝、飛車角取りで大手!

小野は二人っきりになった静かな車内で小野はココが勝負どころと心に決め、話の糸口を探った。
「…はるかさん…」
「はいぃ?」
「はるかさんって…出身は関西じゃなかったですよね??」
「???えっ????」
「偶に、大阪弁喋るんですね?」
「え、あぁ…どうしても相手が大阪弁だと、つられてねぇ、でる。
別に隠してたわけじゃないんだけどね…」
「別に、隠すようなことじゃないでしょ?」
「あぁ、まぁ…そうなんだけど…」
「でも、なんだかいいですねぇ」
「えっ? そ、そうかなぁ…」
「どうしたんです? そんな、驚くようなことでも無いと思うんですけど…まさか…コンプレックスがあるとか…今時、そんなこと思ってる奴なんかいませんよ?」
「い、いや、そうじゃなくて……あっ、でもコンプレックスかなぁ??」
「…又、誰かに変なこと言われたんじゃないですかー?」

「…良くわかりますねぇ……っていうか、もうクセみたいなもんでしょうか?」
「…で、なんていわれたんです?」
「はっははは、小野くん、なんだか怒ってます?」
「別にぃ、怒ってなんかいませんけど…あきれてます」
箱崎と小野は二人で笑い、仕方が無いといった表情をした箱崎が恥ずかしそうに言い始めた。
「…あははは、言い難いなぁ〜」
「今更、そりゃないでしょう。この際だから、白状しちゃってください」

「う〜ん、昔ね…俺が大阪弁を使うと…なんか『ヘンな気』になるから喋るなって…言われた事があって…それから、使いづらくて…。でも、大阪の友人たちとは、どうしても、つられちゃって…でるんですよね」
「『ヘンな気』ですか???」
「……エロいって」
(げっ! 何だ、それ?!)
「うっ、う〜ん……なんだか『イヤラシイ感じがする』って言われちゃって…ははは…」
『いや、いや、そうじゃないでしょ? 貴方の声でやわらく喋られた日には、皆、勃っちゃったってことなんでしょ?』

「そ、そんなことないですよ」
小野は否定した答えを返しながらも、心の中ではあんな声で喋るんだから、あの時の声はどうなんだろうかと想像していた。
「俺は、別に…特には…。なんって言ったらいいのかなぁ……ソフトな感じがしていいんだけど」
「そう? …だったら、小野くんの時だけは大阪弁でしゃべろうかなぁ」
と、屈託のない笑顔を浮かべながら小野に向かって喋っていた。
『そんなことを、真顔で言わないで下さいよ、はるかさん。…鼻血がでそうです』
「是非、そうしてくださいよ」
小野は恥ずかしがって笑う箱崎を盗み見ながら決心を固め、
『こんなに、緊張したのは生まれて初めてだ』と苦笑いを浮かべた。

妙に静かな車の中で小野は、はやる心を押さえながら箱崎に話を切り出した。
「…はるかさん……あの、ちょっと、いいですか?」
「うん、なに?」
「…はるかさんって、何方かお付き合いしてる方って、いらっしゃいます?」
小野は高鳴る胸を押さえつつ、冷静にゆっくりと話を勧めた。
「俺? ……いない、よ」
「ほんとに?」
「…ウソじゃないよ。あんまり、人に自慢できる事じゃないけどねぇ……しかも、この歳なのに」

 箱崎は『どうして、そんなことを聞くのか?』と言葉を繋げようと思ったかが、結局、言わずにいた。自分は、ずる賢く立ち回っているように思えてならなかったからだ。
そんな言葉をなげ掛けて、彼からいったい何を言って欲しいのか?
心の中で思い描き、期待する言葉はなんなのか?
その言葉に対して、自分はどうしたいのか、まだ態度を決めかねている自分に嫌な感じがした。

言葉と言葉の間隔が長く感じられて、小野が言葉を選んでいることが傍からでもでも感じられた。
「はるかさん…俺と付き合ってもらえませんか?」
「何処へですか? まだ早いですし、だいじょう…」
箱崎が小野の言った言葉のタイミングが、余りにも唐突で、別の事を考えていた箱崎には脈絡のないもののように思われた。だから、小野の言った『俺と付き合って』という言葉は特別な意味を持たないものだと思ったのに、彼の言葉は意味が違っていた。

「いえ、そうじゃなくて……」
小野は苦笑いしながら、チラリと助手席に座る箱崎を見た。
「? …と、いうと…」
不思議そうな顔をした箱崎がハンドルを握る小野を見つめた。
「俺は、はるかさんが好きです。だから、恋人になって欲しいと思ってます」
「…俺が、小野くんと、ですか?」箱崎は、自分が思っていた以上に冷静に喋っている自分がいて内心、驚いていた。
「そうです」
「…俺は、男ですよ?」
「そんなの、見れば判りますよ」
「はぁ、まぁ…そうですよね〜」
箱崎は言われた言葉の実感が伴っていなくて『恋人』というのはどういうことなのだろうかと、霧の中でうろうろともたついて歩いているように思われた。のろのろとした覇気のない小野への質問も、ただ、自分の考えをまとめるための時間稼ぎのように思われた。
 しかし、相変わらずクリアな声で小野は辛抱強く彼の答えを待った。ただ、一筋縄ではどうにもこうにもならないことはハナから承知していたことなので、それに対する気の長さも今は持ち合わせていた。

「男から告白された事ってないですか?」
「えっ? ええ、な、無いです」
「そうですか…はるかさん、モテそうなのになぁ」
「…モ、モテませんよ、交際申し込んだら断れちゃうし……」
「俺に申し込んでくれたら、直ぐにOKしますよ?」
「そ、それは…ちょっと、意味が違うと思うんだけど…あのう、もしかしたら俺のこと…」
「なんです?」
「あ、あのう、からかって、ますぅ?」
「俺が、はるかさんを?」
「うっ……うん」
「いいえ、至って真面目です」
「そ、そうなんだ…」
 箱崎は彼のような男が男に告白するはずがないと、思っていたし、又、そんなことが己自身に降りかかろうなどとは夢にも思わない事態が進行しつつあってか、いつも、鈍いといわれていた要領の悪い自分をからかって、いるのではというトラウマにも似た感情が自身を覆っていくような感じを覚えていた。

「小野くんはあるんですか?」
箱崎は『あぁ、なんてマヌケな質問をしたんだろう』と、言ってから後悔した。
「…されたこともありますし…今だってしてます」
「そ、そうですか…あははは、そうですねぇ…」
小野は二人の会話は段々と奇妙な物に変わり始め、このままでは会話の行方が何処に向かうのか次第に不安になっていった。

 小野は急に路肩に車を止めて、助手席に座っている箱崎の方を向き彼の手を握って言った。
「考えてくれませんか? …俺、初めて会った時から好きなんです。俺のこと、嫌いですか?」
突然、手を握られて自分より体躯のデカイ男に詰め寄られた箱崎は、驚いたというより少し怖かった。今すぐ、どうにかされるからとか、そういった怖さではなく、きっと、自分はこのまま流されていってしまうのではないかという恐れからだと思った。

『俺のこと、嫌いですか?』
そう告白した小野は、眉間に皺を寄せて苦しそうな表情をし、身体を強張らせる箱崎を、頭の隅で『脅かして、可哀相だ』と思う半面、身体の芯がズキズキと疼くがわかった。箱崎の指を握り締めていると、箱崎の身体の震えが伝わってきて、得も知れぬエクスタシーを感じている自分がいることに興奮していた。

「…き、嫌いじゃないけど、どう、返事したらいいか…俺は、男だし、君も、男だし…い、色々と、問題って…いうのが、あると、ねっ? …思うんだ…けど。そ、それに、と、年上だし」
箱崎は車のドアにへばり付くように身体を寄せて、小野から離れようともがいていた。しかし、小野はじりじりと箱崎を追い詰め、今ではお互いの息がかかるほど接近していた。

「俺のこと、嫌いじゃないんですね? でも、年下はダメなんですか?」
「…ちょ、ちょっと、小野くん。あ、あのう…ダメとか、じゃなくって、ちょっと…待って、って…」
箱崎は必死に両手を使って小野の胸を押していたが、小野はピクリとも動かず、段々と箱崎を追い詰めた。箱崎は真直に見た小野の顔を見て、又、昨晩の小野の取った行動を思い出していた。
『あぁ…だめだっ! 思い出しちゃ…』
やや、俯きかげんに下を向いた箱崎の頬は赤く紅潮していて、風呂上りで時間のたっていない髪からはシャンプーの臭いがほのかに香った。

「あっ…?」
「俺が、好きっていうのはこういう意味なんですよ?」
小野は触れるようなキスを箱崎の頬にした。
「……」
「はるかさん、わかってました? 俺はずっと、あんたをそういう目で見ていたんですよ?」
「そ、それは…」
『わかっていた、それも、昨晩気がついた…』
と、箱崎は小野に伝えようかとも考えた。
 しかし、箱崎の考える常識からは既に逸脱しており、通常ならば答える事などできる筈もなかったのだ。しかし、箱崎はここ土壇場に来て、自分の心が揺れているのを感じていた。どうしていいのか迷っているうちに、小野が先に行動を起こした。

「ちょっ……」
小野は抵抗の続ける箱崎の手を押さえ、左手で箱崎の後頭部を持ち上げて強引に唇を重ねた。箱崎は小野が押し迫る前からパニックに陥っているようで、小野が唇を重ねて無理やり歯列をわって舌を滑り込ませることも容易にできた。
「うっ…」
箱崎は小野のシャツを力一杯握り締めて、引っ張っても小野の身体がピクリとも動かず、むしろ体重をかけて更に箱崎に覆い被さってきた。小野の長い舌は箱崎の口の中を自由に動き回り、奥歯の内側の肉の辺りや、箱崎の舌をも絡めるような動きをして、次第に箱崎の思考を自由を奪うようだった。

キスを交わしながら小野は『性急過ぎた』と、思っていた。
いままで、したこともないし、ましてや柄に似合わない”ただ待ている”だけの行為をしてまで、彼を失いたくないと思っていた故の期間はなんだったのだろうか、と今まで積み上げたものを自身の行為で潰してしまっていることへの後悔からだ。
 しかし、小野は自分の行動が、唇を重ねてからは歯止めがきかないくらいに、加速をつけて彼を抱きたいと願っている事に気がついていた。

 角度を変え、何度も箱崎の唇を覆い、舌を使って口の中を動き回り彼の舌に絡ませているうちに、箱崎の舌がおずおずと小野に答えるように動きを始めたのに小野は反応し、 箱崎を抑え付けていた右手で彼の背中を撫で回し、徐々に腰に、太ももにと移動して、ついには触れたいと思っていた箱崎の股間の辺りを弄っていた時、小野の身体の下でビクつかせて跳ね起きる 箱崎の体を感じた。

「…ご、ごめん…」
箱崎は触られた手の感触に興奮してしまった事に対して、歓喜している自分と嫌悪している自分の感情が入り混じって、覆い被さっていた小野の身体を力任せに押しやってしまったが、悲しそうな小野の顔を見てしまうと 、自分がいかに酷い事をしているように思えた。

「…いいえ、俺が悪いんです、本当にすいません」
頭を垂れて、心なしか震えたような声を出す小野を不憫に思い、自分の過ちまでが消え去ったように感じてしまった。
「も、もう少し…時間をくれないかな?」
箱崎は判りきった答えを心の中に隠しながら、腹を括る日を決めねばならないことを悟った。
「お、俺は、全然かまわないです…」
小さく返事をする小野の頭をゆっくりと撫でた。
まるで、子供を愛おしむように優しく触ったが、そんな思っても見ない行動に出た箱崎をただ、ビックリしたように小野は眺めた。小野の驚いた様子と、何故、自分がそんな行動に出てしまったのかさえ、自身では判らぬまま箱崎は苦笑いを浮かべて『もう直ぐ、家だね、送ってくれる?』と言った。

BACK PAGETOP NEXT

Designed by TENKIYA