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16) はじめての男

落ち着いた居酒屋で箱崎は特にグチる風でもなく『今日は悪かったね』とか『打ち合わせの最中なのに、ごめんね』とか相変わらず、謝ってばかりで、小野は内心『答えをくれるかと期待してたのになぁ』などと少々、落胆した気持ちになっていた。
 小野は答えを急がせるつもりはなかったのだが、期待しなかったわけではなかったからだ。正直言って彼から断られるとは思っていない。十中八九、彼は俺に気がある、もしくは嫌いではない、と確信があったからだ。
あとは彼の心の整理だけと、自分自身に言い聞かせ、その時をまっていた。

「……」
何かしら、言いたい事があるような煮え切らない態度を取り、しかも、口に出すのは謝罪のみというのは、余りにも色気が無い。小野としては折角、箱崎と二人だけで差しつ差されつというのは願っても無いことなのに、箱崎ときたら項垂れて下を向いたきりだった。 
(まぁ、そんなところを見れるのもいいなぁと思うのは惚れた弱みかなぁ)
ひとり、心の中で笑っている小野は、箱崎の少しの変化に気付いていなかった。

箱崎は既に自分の心を決めていて、今日小野に告白しようと思っていたのだ。勿論、昼間の「花田」の一件がなくても打ち明けようと思っていたのに、あの一件がケチをつけた形になってしまった。箱崎自身に追い討ちをかけるように、小野に迷惑をかけ、その上、告白までするのかと思うと、みぞおちあたりがキリキリと痛んだ。

「……はるかさん」
「は、はい!」
「あのう……返事のこと気にしてるんだったら、俺……急ぎませんから、今日は楽しく食べましょう」
小野は箱崎にそう言って笑いかけたが、箱崎は又、更に恐縮した顔になり、低くなっていた頭を又、下げた。
「ちょ、ちょと……はるかさん、やめてくださいよ」
「ご、ごめん。……俺、謝ってばかりだ」
箱崎は自分の不甲斐なさを呪いたかった。

「はぁ……俺、そんなつもりで言ったんじゃないんですよ。困らせるつもりなんて……」
「ち、ちがうよっ! ……あっ、ごめん、大きな声だして」
箱崎は、もう何がなんだかわからないが、そのわからないことを小野に打ち明けようと決心した。

「……ちがうんだ。俺、今日ちゃんと返事しようと思って、小野くんに、言うつもりだったんだ」
(えっ?! ……そりゃぁ、まぁ……)
「でも、花田のことがあって、君に迷惑かけることになって、
それで、話どころじゃなくって……俺、色々練習してきたのに」
(…はるかさん、何、練習してきたんです???)
小野は苦笑いを浮かべ「今日、返事をもらえるんですか?」と言った。
「……うん」箱崎は小さく頷くと顔を真っ赤にしてしていた。
(あぁ〜あ、なんだか、判りやすい人だなぁ……)

箱崎は更に、挙動不審を見せ始め忙しなく両手の指を擦り合わせていた。
暫く、黙っていた箱崎が急に顔を上げて、妙に人懐っこい顔つきで小野に言った。
「…俺、ねぇ……自分の事がよくわからないんだ。多分、俺、小野くんのことが好きなんだと思う。けど、意識したのは、つい最近で……」
「いつ、だったんですか?」
顔を上げた箱崎は、ふっきれたような表情をしていて迷いは見られないような気がした。

「あの晩……弓道の連中が泊まって、鍋を囲んで……君が泊まりに来た、晩だよ」
「……俺が、はるかさんに触れた晩?」
「うん、そう。……あの時、ドキドキした」
(なんだかなぁ……子供もみたいな人だなぁ)
「俺は、貴方に会う度にドキドキしてましたよ」
「はははは……ごめん」
「別に、謝ってもらうようなことじゃないですよ。俺はそれが嬉しかったから」
小野は箱崎の心にある色々な想いを聞いてしまいたかった。その上で、自らが描いた世界に一緒に行けるならいいのにと、思っていた。

箱崎は顔を真っ赤に、羞恥心でいっぱいに染まりながら小野の目を見てはっきりと言った。
「……き、今日、そっちに泊まってもいいかな?」
小野は思いがけない箱崎からの言葉に暫く呆然とした。
「……それ、本気ですか?」
「……うん、や、やっぱり、お、俺のマンション……」
しかし、自ら進んで告白している割に箱崎は余裕がないようで、言葉がうまく口にできないでいた。
「いいんですか? 俺は、もう遠慮はしませんよ?」
「……うん」
消え入りそうな声で返事をした箱崎だったが、口調はとても確りとしていて、彼の決意の表れを見たような気がしていた。
「今日は、覚悟してくだい。俺、今日めちゃめちゃ、頑張りますよ!」小野は箱崎の耳元で、小さく囁いた。
騒がしい店内で、その程度の声などは掻き消されてしまうのに、箱崎はまるで、耳元の大音量のスピーカーを通して聞いたように思えた。

(が、がんばるって…何をがんばるんだ?)
「……が、がんばるって……」箱崎が言い澱んでいると、晴れた日のような爽やかな笑顔で小野が言った。
「俺、体力に自身はありますからね! はるかさん相手なら……最低、4回はいけますよ?」
(……だからぁ)
ニコニコと満面の笑顔の小野に箱崎は言い知れぬ不安を抱きながらも、顔に笑顔を貼り付けながら言った。
「俺は、もう歳だから……お手柔らかに、ねっ?」


             *****************************************


あれから、箱崎は食べたのかどうかもわからない食事を小野と済ませて、小野のマンションに向かうべくタクシーを捕まえた。
二人の乗ったタクシーは静かに小野のマンションに向かっていた。

『明日は休みですか?』
『俺は、休みだったんだけど……“花田の件”があるから出社する、小野くんは?』
『…ひなた』
『あ、あぁ……ひなたは?』
『同じです、明日、仕事なんですよ。改修工事の仕事が入っちゃってるんで、監督に行かないといけないんです』
『……そうなの』
『……残念?』
『えっ! えーっと……はははは』

 タクシーの運転手に聞こえたかどうかは不明だったが、今はそんなことに気を使っている余裕もなく、ただ車内で小野の存在を敏感に感じている箱崎だった。タクシーが無事、小野のマンションに到着し、小野が先ずマンションに入ろうとした時、箱崎の足が躊躇っていた。
(……こんなはずじゃないんだけど)
そんな箱崎を心配してか、小野は振り返り箱崎の手を握った。
握られた箱崎は驚いて小野を見た。

「一緒には入りましょう」と言って笑った。
その笑顔を見てどこか引きつったような笑いをしてしまい、頭を弱く箱崎が頷いた。
 小野のマンションでは幸い他の住人にも会うことはなかったが、箱崎は内心びくついていた。
薄暗いエレベーターホールで、手を繋いだまま待っている時も、誰かが通りがかるのではないかと心配していたのだ。
 エレベーターの中で小野は箱崎と向かい合い、空いている手で、箱崎の首筋に手を差し入れ撫で回していた。箱崎は撫でられている感覚に甘い疼きを覚えたが、場所が場所だけに自分が緊張して、赤く顔を染めている姿をまじまじと見つめられるのが恥ずかしかった。

「怖いですか?」
突然、小野が低い声で切り出した。
「?」
箱崎は最初、言われた言葉の意味が飲み込めなかったが、彼も不安に感じているのだと直感した。
(……誰でも、思うことは一緒かな?)
「怖いんじゃないよ……多分」
「多分?」
「ひなたがいるのに怖くはないよ……ただ、ちょっと、不安なだけかな?」
箱崎は照れを隠す為に笑ったつもりだったが、妙な表情になってしまっていた。

そんな表情を見ては、『いいなぁ』と今更ながら、顔が緩む小野だった。
我慢も限界点に達した時、小野は握リ締めていた手を更に強く握り締め、箱崎を引っ張るようにエレベーターから下ろして、部屋の扉をもどかしげに開けた。
重い金属製のドアを開けて、強引に箱崎を引っ張りいれると、手早くドアを閉めて鍵を掛けて、扉に箱崎を押し付けて、ついさっきまで小野と会話をしていた箱崎の唇に貪るように絡みついた。
「うっ……んっ」
不意に覆い被さってきた小野に驚きもしたが、今はそれより妙に熱を帯びた小野の唇の感触が堪らなく気持ちよかった。

(なんだかなぁ……抱き寄せられて安心する俺って、どうかと思うなぁ)
箱崎は背の高い小野に覆い被さられるように立ち、彼から与えられる安心感に酔いしれた。小野は、止らなくなった欲望を必死で押さえようとしながらも、吸い付く箱崎の舌は柔らかく弾力があって、後頭部の辺りがズキズキと疼いた。

小野は性急に事を運ぶつもりなど毛頭無かったが、外れてしまった欲望を今更押さえ込むなんて芸当ができる筈も無く、ココはひとつ、若さゆえの情熱ってことで流されてもらおうなどと、考え出して、動きを止めていた小野の手が箱崎の身体を弄り始めた。
小野の口は相変わらず、箱崎の口を塞いだまま、陵辱していて、箱崎は飲み込めなかった唾液を口の端からダラダラと溢れさせていた。小野の大きな手は、今まで触ることのできなかった箱崎の身体を求めて、さ迷いつづけ、カッターシャツを素早くたくし上げると筋肉のついた背中へと滑り込ませた。

(触りたかったんだよなぁ……この肌)
小野は肌の感触を楽しむように、何度も何度も、箱崎の背中の首の辺りからベルトの辺りの腰までを吸い付くように擦り上げた。箱崎は小野が滑りながら時々、ふと、動きを止める仕草をすると、身体を捩り離れようともがいた。小野の手は際限なく箱崎を求めるように動きつづけている間、箱崎の股の間に割りいれていた右足の膝を押し上げるように動かした。

(あぁ? ……んあ、なんだ???)
小野の膝は、箱崎のたち上がりかけた股間を刺激するようにゆっくりと、手の動きに合わせるように上下に揺らした。
下から突き上げるような感覚が等間隔に箱崎を支配し始めると、小野は膝で股間を潰すように押さえては離しの行為を、波のように繰り返した。驚いた箱崎は力を込めて箱崎から離れようとするものの、自由は利かず、又、思いっきり力を込めて小野を突き放す事もできずに、形だけの拒否を示しただけだった。

小野が紡ぎだす感覚は、今まで感じた事の無い甘い疼きとなって箱崎を襲い始め、何処か今のことを冷静に見ている自分と、官能の声をあげて、小野にすがりついている自分がいることを、既に壊れてしまった頭の中で朦朧と感じていた。
扉と小野の間に完全に押さえ込まれてしまった箱崎は、身動き一つ取れなくて、ただ、小野から受ける一 方的な愛撫に困惑していた。

(あぁ、どうすればいいんだ?)
今更ながらだが、彼を感じている自分の反応に、彼は喜んでいるんだろうかなどと、これまた変なことを漠然と考えていると、不意に箱崎は強い刺激を股間の辺りに感じて驚いた。下がるように身を引くも、扉があるために叶えられず箱崎は眉間に皺を寄せて身を縮めた。
小野がやっと箱崎の口を解放し、左の耳朶を甘く噛んだ。
小さい痛みに身をくねらせると、小野は箱崎の尻を思いっきり小野の身へ引き寄せた。
「あっ……」
触れてはいけないものに、触れたようだった。
「あっ、い、それは……ぁ」
それは固く張り詰めた小野の雄に、箱崎の興奮した雄が圧着した瞬間だった。
本当は、もっと前から触れ合っていたのだと思うのだが、吸い付くような手の動きに気を取られていて、 肝心なところの感覚がなかったのだ。

小野は箱崎の耳を口と同じように舐め始め、耳の穴の中まで舌を入れ初めて、しゃぶりだした。そうしな がらも、小野は箱崎の尻を掴んだ手に力を入れて、まるで擦り合わせるように箱崎の股間を揺すりだした。
「あっ、まっ、まって……」
初めて与えられた快感に言葉にならない声をだして、小野の背中にしがみ付くも、混乱しかかった頭では 小野のなすがままに翻弄されていた。小野はベトベトに濡れた箱崎の耳朶を名残惜しそうに、離すとそのまま首筋に唇を移しして、赤く跡が残 るほど強く吸い付いた。赤く鬱積した小さな跡は、小野が自分のモノだと誇示するように、幾度も幾度も吸いつづけ、小さな痛み を箱崎に強いた。脱がされることの無かった白いカッターシャツは、汗が滲み、中途半端に下げられたネクタイの生地がザラザラと箱崎の頬にあたっていた。

背中を弄っていた小野の手は何時の間にか、箱崎のシャツを開け放ち、胸に顔を埋めていた。金属製のドアの冷たい感触が小野の背中に辺り、小さな叫び声を上げたが、それよりももっと未知の感覚に驚き、胸に顔を埋めている小野の頭を両手で抱えた。
「あ、あっ」

小野が箱崎の乳首の辺りを舐めまわしては、口の中に含んで吸い上げ、舌の先でチロチロと触ったりして いた。そんところを丹念に舐め上げられたことのなかった箱崎は、初めて与えられた感覚に、戸惑い、声を上げるのを躊躇っていた。
しかし、小野は既に箱崎の感じる部分を探し出していて、そこに刺激を与えると面白いほど素直に声を上げる事を知っていた。
「うっ、んっっ…あぁ」
箱崎の我慢していた声が、小野の舌先の動きに堪らず洩れた。
小野は恥ずかしそうで、それでいて、何かを求めているような声を己が紡ぎだす卑猥な音の間に聞いて、口に含んでいた箱崎の乳首を離して見上げた。
「……???……」
急に愛撫を止めて、箱崎の顔を見上げた小野の顔を箱崎は訳がわからず、見返していた。

「…ここ、感じるでしょ?」
小野は唾液で滑ったその唇で、箱崎に問いかけ、ぎらつく瞳で箱崎を捕らえて離さなかった。
「ばっ、ばか!」
箱崎は見上げられた小野の顔に欲情してしまい、真っ赤に染め上げた顔を隠すように目線を逸らした。しかし、箱崎の身体は表情とは裏腹に、正直に股間を大きくしてズボンの形状を大きく変えていた。

小野は右の太腿に、箱崎の欲望が大きく固く育っている事を感じて、嬉しくなって笑った。
箱崎の身体を頭の部分のみを扉につけ、自身の手前まで引き寄せ、己の右足に箱崎の不安定な体を乗せた。
小野の硬くなった雄が小野の股間を刺激しはじめ、ざらついた舌で胸を舐め上げられると、箱崎は堪らず、食いしばった歯列の間から声をあげた。
「今のがいいの?」
小野は前にも増して箱崎を揺すり、胸に吸い付いた。
箱崎はどうしていいのかわからず、ただ波の中を漂う身体を、揺すられるような状態の中で、熱を帯び始め我慢できなくなった自分自身の股間を諌めるように箱崎は、大きな声を漏らして懇願した。
「あ、あぁぁッ……いいッ、んっ、んっ……」
小野の顔は優しい笑顔をたたえ、箱崎の声を聞いていた。
(はるかさん…・・・これからが本番ですよ? 覚悟してくだいね)
小野は食い入るような双眸を箱崎に向けていた。

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