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17) 流されて

箱崎は、ふと、体の重みに気がつくと明けていたのか、閉じていたのか判らない目を凝らしてグルリと辺りを見回した。
影になったところを仰ぎ見ると、優しい笑顔の男が自分を見下ろしているのがわかった。

「……記憶が、飛んでた」
箱崎が笑顔の男にそう言うと、今度は大きく声を出しながら笑い箱崎に言った。
「俺が、誰だかわかります?」
「……歳はとってるけど、そこまで耄碌しちゃいないよ、ひなた」
小野はうれしそうに又、笑い今度は箱崎を強く抱きしめてきた。
(うっ、重い……)
箱崎はどうやら少々、記憶が飛ぶくらいの衝撃を味わっていたことを思い出した。見下ろしている小野の顔がヤケに、嬉しそうだったのを見てしまうと、なんだが妙に恥ずかしい気分になってしまい、羞恥に顔を赤らめて、逸らした先に目を向けるとそこは先ほど小野との情事の惨状が広がっていた。
(うっ、ひゃぁ)
今いる場所から玄関先へ転々と脱ぎ散らかしたスーツが見え、自分が何も身に付けていない状態だということに思い当たった。
そう考えてしまうと、毛ほどにも感じなかった五感が復活したかのように、感覚が敏感になり太腿の付け根辺りにあたる、妙に生暖かく硬い異物に神経が集中してしまった。

「あ、あのぉ……」
箱崎の肩口に顔を埋めていた小野はゆっくりと起き上がり、額に薄っすらと汗のかいた顔を見せた。
「まだですよ、もう、終ったって思いました?」
(……?!)
小野は相変わらず、破顔した表情で面白そうに笑うと、箱崎の伸びきった足に手をかけて抱えるように曲げた。
「なっ……ちょ、ちょっと待ったぁ〜!」
「待ったはなしです」
「い、いや…そ、そのぉ」
「嫌もなしです」
「あ、いや、だから……」
しどろもどろになる箱崎をからかうように話をしながら、常に片手で箱崎の尻を撫でていた。
 箱崎の身体は否応なしに、小野の股間と密着し、お互いの硬くなった雄が触っているのだが、今では自分自身が興奮して熱を帯びしまっていて、どちらの体の部分か定かではないような気がした。
声を漏らしそうになるのを、すんでのところで抑えこみ、顔を背けると、小野は箱崎の耳元口を寄せて囁くように言った。
「二回イキましたね? もう一回、イッときますか?」
箱崎の心臓が途端に跳ね上がった。

小野は箱崎の身体を抱きかかえ、手を背中に回して、胸と胸を密着させ身体を上下に動かした。
「あっ……やっ、め」
箱崎はそういえば、先ほど小野の自宅に着くなり情けなくも、小野の膝で感じてしまったのだ。その後といえば、なし崩しのように玄関先のフローリングに押し倒され、彼の手で又もや股間を撫上げられ、ズボンに手をかけて脱がされて、彼の手で扱かれた。
 その時はもう、なにやら恥ずかしくって、まともに小野の顔を見ることもできず、あまりの気持ちよさに声を出さないようにと我慢してしまい、自分が今どうしているのかさえあやふやだった。
そして、気がつくと、全裸で小野に組み敷かれてまな板の鯉のような状態だったのだ。

「緊張してますね」
「ははは…やっぱりっていうか…初めてだし、どうやるのか全然判らなくって……もう、頭の中、グルグルで……」
「ははは……そんなこと考えてたんですか?」
「うん……変かな?」
「い、いえ……俺が不安にさせてたんですかね?」
「えっ? そ、そんなこと、ないよ。ただ…」
「でも、心配してたんでしょ?」
「そ、そりゃぁ……どうしたらいいか、全然わからないし…」
「何も、変わりはしませんよ。……俺に任せてください、ねっ?」

(なんだかなぁ、可愛らしい声をだしても、やることがやることだから…)
箱崎は笑って余裕のある小野に悪態をついてみようと思った。しかし、当初の不安でもあった事に対して、これから始まるであろうセックスを考えると自然と箱崎の行動はセーブされていった。
『やっぱり、俺が下なのかなぁ?』
箱崎は小野に抱きすくめ、あらゆるところを撫でられていながら、ただ漠然と考えていて、そんな時はどうしたらいいのかとか、女とセックスをした時の反応はどうだったのかとか、思い出しもしてみるのだが、混乱しているようで今更、思い出してもどうなるものでもないと、又、考えを振り出しに戻してみては、考えるといったことを頭の中で繰り返していた。

小野は百面相に近い箱崎を見ながら『可愛いなぁ』などと思うも、顔を箱崎の肩口に埋めて、箱崎の体臭を嗅ぐと、自身の欲望が一気に加速して、高まっていくのがわかった。
(俺、意外と余裕ないなぁ……)
落ち着こうとする気持ちとは裏腹に、箱崎を弄る腕は、焦るように少々乱暴に強く抱きしめ、彼の尻割れ目に手を入れて中指でそっと触れながら撫でた。優しく触れては、せりあがる小野の指が気持ちよくて、うっかり声を上げそうになってしまった箱崎は、それらを隠すように又、喋りだした。

「おっ、ひなた……ちょっと、質問」
「?」
撫上げる手を止めると、小野は顔を上げて、少々不服そうに見つめた。
「……今更、止めってのは無しですよ?」
「ち、ちがうよっ! そう、じゃなくて……」
「なに?」
「…あのう、やっぱり……俺が“下”なんだよね?」
(ってこの場合、”下”とか”上”とかあるんだろうか?)
「……」
(今更、何言っちゃってんだろうねぇ、この人は…)

意外に余裕の無かった小野は、箱崎の天然に毒気を抜かれたように噴出して、身体を揺らしながら笑った。
「……”上”がいいですか?」
「い、いいっていうか……どうなんだろう???」
小野は本当に可笑しいらしく、笑いが止らないようで、箱崎に笑いながら、
「まぁ、今日はとりあえず俺が”上”ってことで……俺の方がこういことには慣れてえますから。で、よくなかったら今度は俺が”下”ってことで、どうですか?」
(……まぁ、”下”からでも入れることもできるんだけど、ねぇ。お楽しみは又、今度ってことで)

小野は一人、箱崎とのセックスライフを頭の中で構築しながら、楽しそうに笑った。小野が笑ったので、つられて箱崎も笑ったが、箱崎は自分の質問が、なんだか全然、トンチンカンなことを聞いているようで、自分の言いたい事って本当はなんなのか、わからなくなってきていた。

(…そもそも、”上”ってどうするんだよ? ”下”もそうだけど…同じかなぁ)
今更ながら、自分の知りたいことが解決せずに物事がドンドン進んでいく不安があるものの、このまま流されていくんだろうなぁと溜息をついた。

箱崎の顔を眺めて笑っていた小野は、彼を抱きすくめていた手を離して、頬に手を沿えてキスをした。
「んっ?」
小野の口内は、先程よりも熱を帯びていて、暖かく、生き物のように箱崎へ進入してゆくようだった。女性とのキスでこれほど興奮を覚えたことはなかった篠崎は、男性とのキスがこれほど自身に衝撃をあたえるものだとは思わなかった。
しかし、これが男性のキスだからなのか、ひなたとのキスだからなのかと考えれば、やっぱり、後者の方でひなただから感じたのだろうと思いたかった。

箱崎は小野の舌に纏わりつれる感覚が気持ちよくて、もっとして欲しいと彼を求めて首を持ち上げ、彼の頭を両手で押えた。箱崎の腹の上では、小野の雄が固く張詰めて押し寄せてくる感覚があり、自身の雄もまるで小野の雄に絡みつくように固く張り詰めてお互いを擦り合わせていた。

あまりの気持ちよさに目が潤み、視界がぼやけだした頃、箱崎は自身の張り詰めてもう我慢できないと主張する雄に手を伸ばそうとした。
(あぁ…触りたい)
そんな箱崎に気付いた小野が頬に触っていた手を直ぐに外して、箱崎が伸ばした手を握って止めた。
「あっ…うんっ……ひ、なた?」
「ダメじゃないですか? 俺がいるのに、自分でしちゃぁ…イケナイ人だなぁ」
非難めいた目で訴える箱崎を叱るようにして小野は言うと、箱崎の手を彼の目の前に挙げた。
声を出そうとも羞恥心が邪魔をして上げれない箱崎を楽しむように、小野は半開きになった口から音のない声を出して息をしている箱崎を見ていた。
「ここを触っていいのは俺だけですよ」
小野はそう囁き返ると、カチカチに張り詰めた箱崎の雄を薄っすらと、指で触った。
その途端、箱崎の声が洩れた。

「俺が触ったから良い声出してくれたんですか? 俺以外に絶対触らせちゃダメですよ? 」
上下に頭を振って頷いている箱崎を見ながら小野が言った。
「ご褒美に、イカせてあげます。でもその前に言ってくださいね、指ですか、それとも…口がいいですか?」
小野はニヤリと意地悪そうに笑って、肩で息をしながら、涙目になっている箱崎を覗き込んだ。
「なっ……んっ、んっっ…」
「ほら、はるかさん、直ぐ我慢するでしょ。我慢しないでくださいよ。 でもね、どちがいいか言ってくれないと、わからないなぁ。俺は、はるかさんのして欲しいことをしたいんですよ?」
カリの部分を執拗に親指の腹で押し上げ、握る力を微妙に入れたり抜いたりして、強弱をつけて答えを急かした。
箱崎は質問の意味が理解できているのかそうでないかは、見た目では判断できないが、切羽詰まった表情は、この先病み付きになるほど、いやらしいと小野は思った。
 箱崎は言葉にならない声を喘ぎながら出しつづけ、どういったらいいのかさえわからない、とでもいいたげな目をして、必死に小野へ訴えかけた。そんな箱崎を見下ろしながら、苛めすぎたかなと思い「じゃぁ、手がいいですか? 口がいいですか? どっち?」と啄ばむようなキスをし始めると、もう限界にきていた箱崎の雄からはダラダラと先走りの汁を流しだして、赤く潤んだ目をして言葉を漏らした。
「はっはっ、はやくっ…触っ」
「どこを?」
「あっ…あっ、あ…そ、そこ」
「手で? それとも口?」
「う、うっん……はぁ…」
箱崎の頭の中では『もうなんでもいいから、早く触って!』と叫んでいたが、現実には声にはならず、小野が喋る言葉の意味も今は判らなくなりそうだった。
「口ですね? で、どうして欲しいんです?」
「そ、そこ……もっと…」
「もっと? 何です?」
「す、吸って。 あぁ……強く、吸っ…て」
「はるかさん、素直ですねぇ。 じゃぁ…口で強く吸いましょうねぇ」
ニヤニヤと笑いながら、箱崎の小刻みに震える睫毛を見ながら、
「俺、しゃぶるの好きなんですよ。今度から先にしゃぶらせてくださいね」といって、箱崎の身体の上を這うように下がって行った。

小野は張り詰めた箱崎の雄を左手で握って、舌先で触ってやると面白いようにびくびくと動き、今度は強弱をつけて吸ってやると大きな喘ぎ声を上げた。
(はるかさん、反応良すぎです)
小野は箱崎の尻を持ち上げて、今度は手で扱きながら、物欲しげにビクつかせている後腔を大きく舌で舐め上げた。
「ひゃぁ〜」
(……どんな声だしてんですか?)
小野は逃げられないように力を入れて箱崎の腰を抱え込んでいた。
(…はるかさんって“流される”性質だな。こりゃ、相当気をつけて見張っておかないと、他の男に寝取られかねないな……)
小野はかなりの贔屓で箱崎をみていていると自分では納得していたが、ここまで自分が溺れていることを自覚したのは初めてだった。

昼間は真面目で、人当たりもよくて、オマケに部下からも信頼されてる可愛い人が、夜は結構、大胆だと言うこと知り、今後の教育次第ではどんな風になってくれるのかと想像すれば、欲望が大きく育ったことを身をもって実践していた。
初めて迎え入れる固く閉じた後腔を、丹念に解してやって十分小野自身を受け入れられだけの素地をつくってやると箱崎の身体は一層、熱くなって小野にしがみ付いてきた。

「入れますよ」
小野は自分の紡ぐ言葉も聞いていない箱崎の耳朶を舐めて言うと、
箱崎は半眼にあけた目を空ろに漂わせ、空けはなたれた口から声の無い音を出していた。
勿論、箱崎に小野の言葉を聞く余裕もないのは様子を見れば判ってはいたことだが、それでも彼には何かを言わなくてはいけないような気がした。
身体を推し進めて箱崎の中に進入していくと、彼の身体が大きく仰け反り、言葉にならない声を出した。慣らされているとはいえ、初めて迎え入れる箱崎の部分が拒否を示すように強く絞まり、小野は与えられた刺激に眉間に皺を寄せた。

勝手が違うのか余裕がないのは小野も同じで、荒い息をしながら箱崎の顔を覗き込むと、痛むのか苦痛に歪んだ表情のまま唇を噛んでいた。白いシーツを強く握り締め、耐える姿が妙に艶かしくて、小野は苦笑いを浮かべながら、箱崎の頬に顔を寄せて「そんなとこ握らないで、俺の身体にしがみついて」と囁くと、小野の言葉に反応するように薄っすらと目をあけた箱崎が、握り締めていたシーツを手放し、小野の背に両手を回して「……キツイ」と小声で言った。

小野は妙な浮遊感で、又、心が高揚する感覚を覚え「はるかさんのいいとこ、いっぱい探しましょうねぇ」と子供に言って聞かせるように言葉を紡ぎ、更に奥へと身体を進めた。
箱崎はその反動で、又身体を反りながら今度は、艶やかな声で叫び、小野の背中に回した手に力を込めた。
 最初は遠慮深げに動いていた小野は、段々エスカレートするようにおの律動を大きくし、箱崎を揺らし続け、顔に張り付く柔らかい髪から汗が流れ落ちるのを数を数えて眺めていた。

最初は箱崎の欲望に濡れた横顔を眺めては、ニヤニヤとニヤついた顔をしていた小野は、それはそれで満足していたのだが、急に不安を覚えた。それはかつて経験したことのない不安だった。
お互いの欲を求め合って、肉を食らいあうような獰猛な性急さで身体を重ねた時とは違い、まるで確かめるかのような動作は、相手の一挙一動が気になって仕方がなかったのだ。
 自分をこうも不安に駆り立てているのは何なのか小野には理解できなかった。相変わらず、組み敷いた箱崎に腰を動かしながら攻めつづけている間も、一度考えた不安はそう易々とは、消えてはなくならなかった。
そんな時、身体を揺らしながら、固く閉じた目を開け何かを喋ろうとしている箱崎を見た。
(…?…)

「俺、ってやっぱり……酷い奴なの……か、な?」
(何、言ってんですか、この人…)
小野は散々、喘いで声が出なくなっている箱崎の言葉の意味を深くも考えず、否定してみた。それは、ただの世間への後ろめたさなのだろうと。
「俺、もしか、したら…ひなたの…」
(…俺の?)
今更ではと思うが、彼は俺と関係したことによって、後悔しているのではないだろうか。小野はかつて考えた事も無い罪悪感で、箱崎を縛っているような気がした。

「寂しいって…こと、だけで…求めて、たのかな…」
(……)
『あまりに普通で、凡庸としていて、決して飛び出た存在ではないけれど、他人のために怒ってくれる貴方が愛しくて、望んで強引に手に入れたんです。そんな俺に遠慮してるんですか?』
喉まででかかった言葉を、漸く飲み込み、ただ生理的に流れ出る箱崎の涙に小野はそっと触れた。
「俺は、それで十分ですよ。 俺を愛してくださいなんて言いません。ただ、俺が傍にいることを許してください。……貴方の傍にいることを」
小野が喋りかけ、流した涙に唇を寄せて掬い上げると、薄く開けた目を箱崎は強く閉じた。
「それより……もっと俺を感じてください。 俺は貴方の中にいるんですよ?」
「うっ……っはぁはぁ…」
刺激に身体をビクつかせ、閉じていた瞳を又開けると、今度は意志の確りした目線で小野を見て、両手で確りと小野の背中を抱きしめた。
「…ああぁ、イ、イキそう……」と頬を赤らめながら小野に呟いた。
「もう少し、頑張って耐えてくださいよ? 俺も一緒にイキたいんですから……」
小野は今まで生きてきた中で最高とも思える微笑を浮かべて、官能に身体を震わせて必死でしがみ付く箱崎にそう言った。

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