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8)キック・オフ

嵯峨が予約した部屋は、広くとった窓から二方向の夜景を臨む角部屋だった。部屋のドアを閉めるや否や、嵯峨にがっしりと抱きしめられてしまった。
「本当は空港のトイレで君を抱きたくて堪らなかったんだけど、嫌われたくないからずっと我慢してたんだよ」
「またそんな… まだまだ時間あるんですから、あの、先に、お風呂入ってからにしませんか?」
「そうだね、じゃあお風呂でしようか」
「……じゃなくって、嵯峨さん、長旅から帰られたところだし、お先にゆっくり入られたらどうですか?」
「そうだね、じゃあ、背中流してくれる?」
「……わかりました」
相手はもうヤル気満々で、何を言っても無駄のようだ。

ガラス張りのシャワーブースで軽くシャワーを浴びた後、夜景を眺められる浴槽に移動した。一流ホテルの浴槽でも、大の男が二人で入るには手狭だった。この前は、嵯峨は逸物だけを取り出し、自分は下半身は靴下だけという格好で事に及んでいたので、お互いの全裸を見るのはこれが初めてだった。既に互いのシンボルがそそり立っている状態でまじまじと見詰め合うのは滑稽な感じがした。自分の目前には、激務の日々を送るサラリーマンとは思えない、均整のとれた、鍛え上げられた肉体美があった。その男性自身は、改めて見ると今まで見た誰のモノよりも大きく、赤黒く血管が脈打った別の生き物のように思える。あの夜は、こんなモノが自分の後ろを突いて中に入ってきたのか。

少し熱めのお湯を張り、薔薇の香りのするバスジェルを溶かし込んだ浴槽に一緒につかると、タオルを手にした嵯峨が優しく体を撫でた。
「君は着やせするタイプなんだね。結構、骨格も筋肉もしっかりしてる。何かスポーツやってたの?」
そういって大胸筋筋辺りを手のひらでなぞった後、乳首を指で転がし始めた。腰がくだけそうになった。
「こっ、高校卒業するまで……サッカー……やってたんです……」
「そう、私も若い頃はサッカーやってたんだよ。じゃあ、今夜は仕切り直しじゃなくて、キックオフだね」
そういって今度は舌先で乳首を転がした。
今日はされるがままにはならないと固く決意してきたのに、もう嵯峨に主導権を奪われてしまっている。こんな事なら、ある程度のイメージトレーニングをしてくればよかった、と悔やんだ。

「さっ嵯峨さん、ベッドに行きませんか… この前みたいに机の上とか…固い場所はもう嫌な……っあ……」
「いいよ。でも、今夜は何回もやるんだから、ベッドは最後でいいだろう?」
「……何回もって……」
「せっかく夜景のきれいな部屋に居るんだから、夜景をみながらファックしよう」
そう言って立ち上がると、バスタオルで軽く体を拭き、バスローブを羽織った。
「さ、湯冷めしないうちに早く」

ある一点を除き力が抜けてしまっている体を、何とか拭いてバスローブを羽織り、嵯峨が立っている窓際に近づいた。ラウンジで勝手に約束した通り、嵯峨は先にキスしてきた。唇を舐めてきた相手の唇を舐め返す。互いの舌先が触れ合い、その根元を探り合う。舌を絡めたまま、バスローブを脱がされ、窓際に夜景を背にして座らされた。ガラスの冷たさを感じる体の背面とは対照的に、体の前面は、唇に放たれた情欲の炎が全身に燃え広がり、収拾がつかないほど熱くなっている。

嵯峨の舌は徐々に下半身へと降りていき、構ってほしくて堪らない部分に近づいてきた。この前は真っ先に食らいついたその部分だけを避けて舌を這わせ続けている。
「体毛は薄い方なのに、ここだけは意外と濃いんだね」
悠長にそんな事言ってないで、早く咥えて欲しい、この前みたいに…
焦らされるのに耐えられず、自分で何とかしようと延ばした手を嵯峨が止めた。
「いけない子だねえ、そんなお行儀の悪い事して。私が良いって言うまでイっちゃだめだ」
そう言うと、さっき脱がされたバスローブのベルトで両手を後ろに縛られてしまった。

「?!嵯峨さん、な、何するんですかっ……」
「勝手にイこうとするからお仕置きだよ。私といる時は、自分で掻いちゃだめだ」
「そんな……僕、もう出したい……お願い、いかせて、嵯峨さん……」
「『嵯峨さん』はやめてくれ。『崇』だ。崇って呼ばないといかせてやらないよ」
「タ……カシ……」
「そうだ。『崇、いかせて』は?」
「た、崇、いかせて…は、やく…」
「いい子だ、裕貴。どうやっていかせてほしいの?」
「さ、触って……」
「コックに触ってほしいの?」
「……コック……?」
「ここの事だよ。裕貴は何て呼んでるの、「ちんちん」かい?」
そう言って、既に滲み出している先走りを人差し指でなぞり、その指を舐めた。何でこの男は、こんなに恥ずかしい事を平気で言ったりしたりできるのか。そしてその辱めに身をまかせて早く到達してしまいたいと願っている自分は何なのだろうか。

「可哀想だからいかせてあげる。ほら、熱くて堪らないだろう? 夜の新宿に水を撒いてやろうね」
今度は窓に向かって立たされ、ペニスを握られ、扱きながらホースで水を撒くように左右に振られた。放出されるのを待っていた「水」が宝石をちりばめたような夜景を映すガラスに勢い良く飛び散った。
もう恥ずかしさの限界を超えてしまって、どうでもよくなった。
嵯峨はまだベルトを解いてくれない。今度は中腰の格好にされ、メントールの香りのするジェルのようなものを肛門に塗られた。
「ひっ……何ですか、これ……」
「これ塗ると気持ちよくなるよ。オーガニックのハーブ配合でお尻に優しいんだ。残念な事にロンドンのゲイショップでしか買えないんだけどね」

メントールの刺激で熱く感じる秘門に指を何本か差し込んだ後、嵯峨が突入してきた。
風邪の熱にうなされていた前回とは違い、英国土産のジェルの効能もあるのか、頭がクラクラするような強烈な快感を経験する事ができた。生まれて初めて、体の内部から前立腺を刺激されて得たその感覚には、「コック」に外的刺激を与えて得てた快感とは比較にならないものがあった。嵯峨が前後に腰を振る度に、さっき果てた筈の自分の分身がガラスに当たる。
「あーあ、こんなにガラス汚しちゃって。自分が汚した所は、自分でお掃除しようね」
挿入したまま腰を振り続ける嵯峨がペニスを握り、ガラスにこすり付けてモップのように左右に動かし、先ほど放出したものを拭き取った。自分の大事なモノが完全に嵯峨のおもちゃになっている。程なく、長時間頑張っていた嵯峨もクライマックスを迎え、「裕貴、裕貴!」と、自分の名前を何度も呼んで果てた。放ったモノは、お尻に塗りたくられた。

第一ラウンドが終わると、急に寒さを覚えた。いくら空調が整っているホテルの部屋とはいえ、素っ裸で窓際にいたら寒いに決まっている。
「この前みたいに風邪ひいたら大変だ、ベッドに入って暖まろう」
ベッドは当然のようにダブルベッドで、大男二人が並んでも余裕のある広さだった。片手でタバコを吸いながら、もう一方の手で腕枕をする嵯峨の胸に抱かれた。その胸には、濃くはないが自分にはない胸毛があった。指に絡めて弄んでみた。
「胸毛あるんですね」
「ああ、私は日本人にしては体毛は濃い方だからね。毛深いのは嫌いかい?」
「いえ、胸毛に触ったの初めてだから」
「じゃあ『胸毛のある初めての恋人』なんだ」
「いいえ。ただ『初めての恋人』ですよ」

学生時代は、同級生や先輩と、よくある男同士の性欲処理に耽ったことがある。何人もの先輩・後輩に告白されたり襲われかけたりしたが、自分はずっと年上の大人の男性が好みだったので、彼らに欲情することも本気になることもなかった。そのせいで本当はノンケなのだと思われてきたというメリットがある一方、欲情する対象がノンケばかりだったので、思いが叶った事がないという不幸な青春を送ってきた。そして今やっと、念願かなって15歳年上の男と付き合う機会ができたのだ。夢に描いていた「彼」とは全然ノリが違う気はするが、あり余る魅力がそれを忘れさせようとしている。

「明日は部屋で朝食を取って、チェックアウトまでゆっくりしよう。今回の出張はちょっと精神的にキツかったから参ってるんだよ」
新たなタバコに火をつけながら嵯峨が言った。空港からの車中で聞かされた、嵯峨の仕事の話を思い出した。こういう関係にならなければ聞き得ないであろう第一線に立つ者の苦労話に、かけられる言葉は見つからなかった。
「大変なんですね……」
「でも今は、君がそばにいてくれると思うから頑張れるさ」

先ほどまでセックスの猛攻撃に翻弄されながら、スイッチひとつでシリアス・モードに切り替わっている嵯峨に同情している自分の単純さに呆れてしまう。だが、もうこの男を好きになることを止めることは出来ない。嵯峨はまだタバコを吸っている。今のうちにコンタクトレンズを外しておこう。ベッドから這い出してレンズを外すと、急に眠気が襲ってきた。連日の長時間労働の上、今朝は早くから張り切り続けだった。嵯峨さんはあと何ラウンド頑張るつもりなんだろう。寝る前に、あの窓に派手に放ってしまったものを拭き去っておかなければ。朝ルームサービスが来るまでに……。

記憶はそこで途切れ、目がさめた時は、ルームサービスの朝食が運ばれてきたところだった。裸眼でぼんやり見える嵯峨は、既に起き出しバスローブ姿でタバコを吸っていた。窓が白く汚れたままだったのと、「男同士で泊まっている」と思われるのが恥ずかしくて、シーツを頭からかぶったまま、メイドが出て行くのを待っていた。ワゴンから漂う美味しそうな匂いに急に空腹を覚え、昨夜カクテル以外に何も口にしていなかったことを思い出した。先に眠ってしまった自分に、嵯峨はロスタイムを要求するだろうか? 昨日までの自分とは違う、もう何をされても恥ずかしくないから大丈夫だ。多分……。

「そういえば昨夜、食事するの忘れてたよ、君を食べる事しか考えてなくて、ははは」
先にテーブルに着き、そう言って笑う恋人に、全裸のままベッドから走り出し、後ろから抱きついて言った。
「僕もだよ、崇」
一瞬驚いたような顔をした嵯峨が嬉しそうに笑った。ガラス越しにさし込む朝日が背中に暖かかった。

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