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16)スイート・テンの夜

31歳になった時、北米に3年の海外転勤の辞令が出た。新規参入事業の工場を、立上げからサポートする目的だった。初めての海外生活は予想外に快適だった。深夜まで残業する事も殆どなく、休日は世話好きな先輩夫婦に色々な所に連れて行ってもらったり、広大な風景を眺めながらバイクで走ったりして過ごした。月の半分が海外出張の嵯峨とは、毎月数日間一緒に過ごすことができた。その時に甘えて過ごしたり、思いきりセックスできれば自分はそれで満足だったが、離れて暮らす事に音を上げた嵯峨の職権濫用により、赴任は1年半で切り上げられてしまった。

帰国後の生活で変わった事といえば、嵯峨が、自分が渡米中の「寂しさを紛らわすため」に再開したサッカーの練習のおかげで、休日にアパートに来る頻度が少なくなった事だった。一方自分は、「お前は女性受けが良いから」と、出会いの場が少ない同僚達に頻繁にコンパへと借り出されるようになった。このまま嵯峨と付き合い続けて自分の将来はどうなるのかとやりきれない気分になる事が多かったおり、精神年令が釣り合った同世代の男女で飲み歩くのは良い気晴らしになった。コンパでは男同士でするような下ネタを連発したり、ロリコンやマザコンを匂わせると大抵の女性は去って行った。それが通用しない相手には佐倉に恋人役を演じてもらって撃退していたが、その芝居も佐倉が鈴木と電撃結婚したことで続けられなくなってしまった。そんな日々を送っているうちに、嵯峨と付き合い始めて10年目を迎えた。
 
初めの3年目くらいまでは、実験室で初めて結ばれたその日をしみじみと思い出したりしていたが、10年も経つとそんな事は考えもしなくなっていた。だが今年は嵯峨が、初めての朝を迎えたあのホテルに泊まろうと言い出した。場所が場所だけに、ロマンチストが何か記念日めいた事を計画しているのだろう。久々にめかし込んで、待ち合わせのホテルのラウンジに向かった。
少し遅れて現れた10年来の愛人は、頭に鈍く光る銀髪が目立ち始めた他は、見た目は殆どあの頃と変わりはなかった。
そして記念日に用意してきたプレゼントは、妻との離婚成立の報告だった。

指輪「それはおめでとう。でも、何で今更?」
「クレアが今付き合ってる男と結婚することになったんだよ。息子はクレアの両親の家に残るらしいから、私は晴れて独身に戻ったって訳だ」
「ふうん……崇が離婚したところで何も変わらないけどね。
僕らが結婚できるわけじゃなし」
「それを言っちゃあミもフタもないじゃないか」
「崇がずっと前に僕に言った言葉だよ。覚えてないの? 
こっちは深く傷ついたんですけどねぇ」
「お前にもそんな言葉で傷付くほど繊細な時代があったわけだ」
「……」
「それでだな、めでたく不倫じゃなくなった事だし、今度こそ一緒に暮らさないか? 横浜のマンションを売って、どこでもお前の好きな所に家買うからさ」
「ご遠慮させていただきますよ。僕は今の生活を変えたいとは思わないし、それに、崇と一緒の住所を会社に届けられる訳ないじゃん」
「そんな事正直に申告しなくても方法はいくらでもあるだろう。いちいち横浜から通うのは正直疲れたし、お前の家の風呂は狭過ぎるから嫌なんだよ」
「普通、お風呂は大の男が二人で入るもんじゃないんだよ」
「前のアパートのは広かったじゃないか。なあ、裕貴、10周年のお祝いには最高にいいアイデアだと思わないか?」
「ダイヤモンド10個ついた指輪でもくれた方が嬉しいかもしれない」
「そんなものが欲しいなら、下へ行っていくらでも買ってやるぞ」
「本当、パパ? だったら、指輪よりブルガリの時計の方がいいなぁ」

急に離婚を報告されても、手放しで喜べる時期はとっくに過ぎている。同居を二つ返事でOKできない理由も色々ある。いつもの様に嵯峨のペースで話が進められるのが嫌だったので、ふざけて話を逸らせ続けた。同僚達とは来ることがない高級バーで飲むのが嬉しい振りをして、カクテルや水割りのグラスを重ねた。好きでもない女性ジャズヴォーカルに耳を傾ける振りをしながら。嵯峨はそれ以上話すのを諦め大きくため息をつき、何本目かのタバコに火をつけながら言った。

「まあ、いきなりこんな話したんで動揺してるだろうから、今日はこの位にしておくよ。だけどお前、ちょっと飲み過ぎじゃないか?」
動揺を隠すために飲んでいた事は、当然お見通しだった。

「いいじゃん、今夜はお祝いなんだから」
「良くない、そんなに飲んだら勃たなくなるじゃないか」
「勃たなくてもいいじゃん、突っ込むのは崇の方なんだから」
「バカ、勃たないチンコしゃぶって何が面白いんだよ」
「崇こそタバコ吸い過ぎじゃないの? 僕のチンコはニコチン中毒になってるんじゃないかと常々心配してるんだけどねぇ」
「それは大変だ! 大事な裕貴のチンコがニコチン中毒になってないかどうか、早速診察しに行かないと」
ダイヤモンドをちりばめたような夜景に全く似つかわしくない落ちで締めくくると、スイート・テンの贈り物を拒否された愛人はマティーニを飲み干し、挫けずに第二ラウンドへと立ちあがった。

調子に乗って飲みすぎたので、部屋にたどり着くまで嵯峨の腕を取らなければ真っ直ぐ歩けないほどだった。部屋のドアを閉めると、嵯峨に体重を預けるようにして抱きついた。嵯峨はわざと押し倒されるような体勢でフロアに倒れ込み、お前がご奉仕しろといわんばかりに四肢を投げ出した。嵯峨のネクタイを取りシャツのボタンを外し、胸と、年の割には贅肉のない腹を撫で、キスの雨を降らせた。その体の表面を被う体毛にも銀色のものが混じっており、中年好みの自分にとっては出会った頃よりも魅力的になっていた。ベルトを外して下半身をあらわにし、闘える姿に変身しているその分身を咥えようとすると、マグロになるのが退屈になった嵯峨が言い出した。

「裕貴君、先生が診察してあげるから、おちんちんを見せなさい」
「事業部長、今日はお医者さんごっこなんですか?」
嵯峨はエロ親父といたいけな少年というシチュエーションで、自分は会社での自分たちの立場を想像してセックスすると燃える。全てがマンネリ化している状態にあっても、酔っ払うと羞恥心のかけらもなくなってしまう傾向があるらしく、何を要求されても素直に従ってしまう。ズボンとショーツを脱ぎ、嵯峨の顔に尻を向けて馬乗りになった。嵯峨の口撃が始まると腰が砕けてフェラに集中できないので、急いで目前に屹立しているモノを口に含む。10年もの間自分を支配し続け、また自分も固執し続けるその部分を握り何度も咥え唇で扱き、湧き出すものを舐め、飲みこんだ。

奉仕されている間、おちんちんを診察すると言いながら、嵯峨はフェラよりも尻を愛撫するのに専念していた。
「大丈夫、タバコの臭いはしませんよ、ヒト科のオスのいい匂いだ。相変わらず白桃みたいなお尻だねぇ……でも、お前ちょっと太ったんじゃないか?」
と言って、片方の手で下腹をつまんだ。嵯峨は全く体型も体重も変わらないのに比べ、自分はこの10年で7kgも体重が増えている。昔が痩せ過ぎだったので今くらいが普通なのだが、その増加分が腰周りに集中しているのはいただけない。場所を変え、今度はバスルームの鏡の前で身体を重ねる。鏡に映し出される、後ろを深く貫かれながら自分のモノを扱く浅ましい姿に淫らな気分を昂ぶらせながらも、嵯峨の腰の動きに合わせて揺れる下腹が気になって仕方がなかった。一回り以上も年上の嵯峨がサッカーやジムに余念がないのに、自分が体を動かすのはセックスの時くらいだ。これは何とかしなければ……。

前日に海外出張から帰ってきたばかりの嵯峨は久々にやりまくって満足げだったが、さすがに疲れが残っているらしく、すぐに寝てしまった。この週末は雨だからサッカーには行かないだろう。同居の話をまた聞かされるかもしれない。嵯峨と入れ替わりに、自分は来週は大阪の関連会社に出張だ。嵯峨との同居に踏み切れない理由がそこにある。大阪で、あの男に出会ってしまったから……。離婚して、将来の二人の生活を真剣に考えている恋人の寝顔を見つめながら、最近出会ったばかりの違う男の事を想う。不誠実な事だと頭では分かっていても、この想いは止められない。10年目の夜に、10年前と同じ夜景を見下ろしながら、一人想いをめぐらせていた。

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