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20)出会った頃の君でいて #2

立て続けに海外出張が入ると、現状のスタッフでは議事録や次回の会議の資料作成が追いつかず、以前一緒に仕事をしていた坪井にヘルプを頼む事が多い。極秘事項もあるので本当はいけない事ではあるのだが、期日厳守の為には他に手段がなく、その都度食事を奢る事で協力してもらっている。

「お待たせしてすみませーん。あれ、嵯峨さん、車変えたの?」
「もう随分前になるよ。裕貴が派手な車は嫌だって言うもんでね」
「確かに真っ赤なフェラーリは周防美さんのイメージじゃないけど。でも、もったいないなぁ」
派手好きな坪井は、少し残念そうな顔で車に乗り込んだ。

坪井とは、彼女が入社以来の長い付き合いだ。私が北米赴任中に、休暇を利用して短期留学にやって来た事があったので、元妻のクレアと息子とも知り合いだ。当時すでに妻と別居して現地採用の男と暮らしていたので、ゲイだという事はその時にバレている。この男との件を知っている社員は坪井だけではないが、裕貴との事を話せる相手は他にはいない。

「嵯峨さんが海外から帰ってきたらすぐわかりますよ、次の日周防美さん必ず唇腫らせてるから」
「彼は粘膜が弱いんだよ。生々しい事言うねえ」
「生々しい事やってるのは誰なんですか。嵯峨さんみたいな人に振り回されて、周防美さんも大変よねえ」
「振り回されてるのはこっちの方だよ、独りよがりで思い込みが激しくて。クレアが日本に帰ってきた時も、私が彼女と縁りを戻すと勝手に思い込んで、アパートを追い出されたんだから」
「ひゃはは、可愛い顔して案外やるじゃない」
「出会った頃は目が合っただけでも頬染めてたのに、今じゃ、オッサン呼ばわりだからね」
「何言われたって、行かず後家の耳にはおのろけにしか聞こえませんけど」
「坪井さんも、そろそろ面食いは卒業してお嫁に行ったら?」
「私の歴代のお婿さん候補みんな食っちゃった人に言われたくないですよ」
「あはは、坪井さんとは男の趣味が一緒だもんねえ。でも顔で選んだらリスクも大きいよ、皆さん我侭だし浮気者だし…」
「周防美さんはそんな事ないでしょ?」
「それが大アリなんだよ。裕貴のやつ、最近出張が多過ぎる大阪が怪しいんだよな。坪井さん、大阪の事とか調べられない?」
「お断りします、そんなスパイみたいなこと。今は周防美さんと違うチームだから何にもわかりませんよ。あんなに天然で不器用そうな人が浮気するなんて、嵯峨さんの考え過ぎじゃないんですか?」
それまで料理に集中して真剣に話を聞いてなさそうだった坪井は、浮かない表情の私を見て初めて心配顔になって付け加えた。
「まさかぁ、何かあったんですか?」
坪井がそう思うのも無理はないが、全く見かけによらない人間もいる。信じたくなくても、現実に裕貴は浮気をしているのだ。

それは裕貴が大阪出張から帰った夜のことだった。出張用のボストンバッグにつまづいて倒してしまい、中身が外にでてしまった。仕方なく片付けていると、中からコンドームのパッケージが出てきた。初めて実験室で関係を持ったあの日も含め、裕貴とは一度もコンドームは使っていない。出張中に私以外の男を咥えているということか。匂いに敏感な裕貴にこんな安っぽい香りつきのゴムを使うなんて、無神経な男を選んだものだ。毎日セックスするのは疲れるとか何とか言いながら、私が海外出張中の1〜2週間のブランクには耐えられないのか。それとも私に飽きたという事なのだろうか... まあ、セーフセックスの心がけは良い事だし、自分も裕貴と付き合い始めてから一度も他の男と寝ていないかと言えば嘘になるから、知らない振りをしてやろう。

……とは言うものの、一夫一夫制がモットーの私としては、浮気をされて寛容でいられるわけがない。アメリカ時代に足を痛めて以来中断していたサッカーにのめり込みつつあるのも、そんな状況から逃げたいからなのだ。わずかに良かったのは、自宅近くのサッカークラブに移ってから裕貴の家に行かなくなると、裕貴がこちらに通ってくるようになったことだ。クレアが荷物を全て引き取った後では「足を踏み入れたくない」理由がなくなったからなのだろうが、何だかんだと言って一人でいるのは寂しいと見える。私みたいに欲求や要求をストレートに口に出すタイプじゃない癖に、その行動様式は笑えるくらいに判りやすい。

付き合い初めの頃は童貞も同然で、私が教える全てのことを吸収しようと一生懸命だった。子供だましみたいなフェラしか経験したことがなかった裕貴が、涙目になりながらそのおちょぼ口で私のデカマラを一生懸命咥えて、私を悦ばせようとする様は本当に健気で可愛かった。それが十年経った今では、浮気相手の趣味なのか、下半身集中の私の愛撫への不満なのか盛んに乳首攻めを要求してみたり、自分が突っ込まれればそれで良いみたいな態度で、けなげな子犬からオラ猫に変貌している。女も羨むあの桃尻に目が眩んだ報いとは言え、少々甘やかし過ぎてきた事に今さら後悔しても仕方がないのだろうか。

そんなモヤモヤで頭がいっぱいのある休日、何事もなかったように食事をして、DVDを見ながらソファでいちゃついていた。この男の禁欲の限度は2週間、海外出張の後でもあるのでたっぷり可愛がってやりたいが、浮気を知ってしまったからには意地悪をしてみたくもなる。

「んん……もう、指はいいから、早く挿れてよ……」
「裕貴君のいやらしいここはガバガバだから、パパのデカマラでしか感じないのかな?」
「あぁ、んっ……ガバガバじゃ……ない……もん」
「何でガバガバじゃないって判るの? 誰かに挿れてもらって確かめたのかな?」
「……なんで、そんな……意地悪言うんだよ…」
「私の居ない間に、その可愛いお尻を他の男に差し出したりしてるんじゃないだろうね?」
「あんっ……んな事……する訳な……あぁっ」
「全部知ってるんだよ、私は。出張先で男漁るなんてはしたない事するんじゃない。今度からこれ持って出張しなさい」
襞に吸い付かれた指を引き抜き、今にも自分のモノを突っ込みたい気持ちを抑えて、ひくついて私を待ち構えている裕貴の蕾に一番新しいディルドを挿入した。先日のアメリカ出張で知人の店で作ってもらった、自分の陰茎を型取りして作ったシリコン製のカスタムメイドだ。

「何?! こん……なのヤダ...…崇のじゃなきゃ……」
「何で? 私以外の男のでもいいんだったら、これでもいいんじゃないの? これは私と同じ形とサイズなんだよ。ほら、カリもデカくて、当たり具合も悪くないだろ?」
そう言ってディルドのスイッチをONにした。ギュイーンと一鳴きした私の分身モデルが裕貴の中で角度をつけてクイクイと曲がり始めると、裕貴は堪らずに声を上げた。
「くっ……あっあっ、いやぁ、ああんんっ……崇ぃ、イっちゃううぅ!!」
狭い自分の部屋とは違って私の家では加減しない裕貴の大きな鳴き声と、規則正しい分身モデルのモータ音、分身モデルを咥え込んだまま腰を振る裕貴の淫乱な下の口から聞こえる卑猥なくちゃくちゃという水音が部屋中に響き渡る。この素晴らしい光景を黙って見ていられる訳はなく、淫乱の泉で喉を潤そうと、裕貴の桃尻を割ってディルドを抜き出し、代わりに舌を入れようとした。その瞬間、泉から愛液が大量に溢れ出してみるみるうちに洪水になり、私は流され、溺れてしまった。

ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボボボボボボボボ。。。。。。。。。。

「お湯流しっぱなしで、何やってんだよ。お風呂で溺れる気なの?」
ブルゾンを着た裕貴がバスルームの入り口に立っていた。
「…おかえり。えーと、英語の講座から帰って来たのかな?」
「もう、転んだ時ついでに頭でも打ったの? 講座は昨日、冷蔵庫からっぽだから買い出しに行って来るってさっき言ったじゃん。荷物一杯だからピンポンしたのに出てこないと思ったら…」
そうだった。昨日のサッカー練習でフェイントをかけられて転んだ際に片足を酷く捻挫したのだった。昼風呂に入り、片足を湯船から出して浸かった状態で寝てしまっていたらしい。
「鬼の嵯峨さんがお風呂で溺れ死んだら、会社で大笑いされるのがオチだよ」
「それよりも、お前に溺れてるって事の方が大笑いだと思うけどな」
「は、は、は、は。下らない事言ってないで、のぼせないうちにさっさと上がって。材料買ってきたんだから晩御飯作ってね」
「怪我人に飯作らせるのかお前は」
「手は怪我してないよねぇ? それとも僕が作って差し上げましょうか?」
たまに裕貴が作る不思議な味付けの料理の数々を思い出した。
「解りました。作らせていただきます」

美味しい料理の後には美味しいセックスが待っている。これがお互いにとって安らぎの休日となっている間は大丈夫なのかもしれない。さっきの夢のようにまた私は溺れるのだろうか? 本当に裕貴の海で溺れ死ぬなら本望だ。そんな言葉を口にしたら、また呆れられるだろうが、呆れてくれるうちは大丈夫なのかもしれない。いつのまにか自分に主導権がなくなってしまった恋愛に一喜一憂する、11年目の夏が始まろうとしていた。

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