>> 真夜中のオシレータ > 01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / 21 / 22 / 23 / 24 / 25 / 26 / 27 > site index

BACK INDEX NEXT

13)  ホワイト・バレンタイン・デー

「お帰りの時は戸締りをしっかりお願いしますよ」
守衛がそう言って去って行った。真夜中を過ぎ、一息入れるためコーヒーを入れていると、嵯峨が現れた。5年前のあの時のように。

「相変わらず実験室にこもりっきりなんだな」
「嵯峨さんと違って僕は出世してませんから」
「久々に来たら、ずいぶん部屋が広くなってるなあ」
「拡張したんですよ、機械が増えたから。人員は減ってますけどね」
「おまえが敬語で話してると、あの頃を思い出すね」
「僕は、あの頃とは違うよ」
「私だって、あの頃とは違うさ」
「崇は全然変わってないよ。でも……僕は……」
その日ずっと考えていた台詞が、嵯峨の顔を見た途端に出てこなくなってしまった。
代わりに出てきたものが、目頭を熱くした。

「ごめん、崇……本当に、ごめん……」
「……何泣いてんだよ」
頬をつたう涙を指で拭いながら、頬をなで、そっと抱き寄せられた。
「僕、幸せ過ぎて……有り難味がわかってなかったんだ」
「有り難味って、何の?」
「崇の」
「私の何が?」
「……が」
「え? 聞こえない。もっと大きい声で」
自分の勘違いから生じた心のすれ違いについてまず謝り、よく話し合うつもりだった。だが、髪をかきあげながらキスされると体に火がついてしまい、そんな計画もぶっ飛んでしまった。理屈よりも態度だと言わんばかりに腰をぐいぐいと押し付けた。どんな言葉よりも、その方がこの男には有効なのを知っているから。

「私も、裕貴のちんちんが恋しくて堪らなかったよ」
何よりも大事なその場所は目頭より熱く、この後の臨戦体勢に備えるかのように、お互いに固さを増していた。
「今すぐお前が欲しいよ、裕貴。あっちへ行こう、久々に机の上でヤルのもいいもんだぞ」
「ダメだよ。誰かに見られたら、即刻クビだよ?」
「仕事の代わりはいくらでもあるさ。でもお前の代わりは存在しないんだ」
「崇の代わりもね。だったらさっさと部屋閉めて、ホテルに行こうよ」
「それまで待てない。お前だってもうこんなになってるじゃないか」
なんの躊躇もなくズボンのファスナーを下して、手を差し込んできた。
「あっ……ここじゃ廊下から丸見えだってば……。わかったから、早く向こうに……」
入口の鍵を内側から閉めて電気を消し、奥の実験室に移動した。

実験室のドアを閉めるや否や、狂ったように唇を求め合った。互いの口腔粘膜を探り合いながら強く揺さ振り合うので、
相手の歯で口の中が切れそうだった。この暴力的な口づけに、無茶苦茶にしてほしいという淫らな気分を押さえられなくなった。
「ね……早く、崇のブチ込んで……ハヤク……」
「可哀想に。よっぽど不自由してたんだな」
嵯峨が作業台の上に自分を押し倒そうとしたが、あいにくそこには重厚な機械が鎮座していた。
「仕方ない、本番はお預けだ」
と言うと嵯峨は、さっと跪いて、作業台に体重をかけて立っている自分のペニスにパクついた。
「あっ……崇……ずるい! さっ、先に……僕の言う事聞いてよ!」
嵯峨は咥えたままでモゴモゴと言った。後で家で何回でも挿れてやるじゃないか、とでも言っているのだろう。もう少しでイキそうになった頃、嵯峨はペニスを口から抜き出して振り始めた。
「さあ裕貴、私の顔に向かって飛ばしてくれ」
「何バカな……ぁ……。いっ……1000万のオシロに……ザーメンかかったら、どうすんだよ!」
発射されたザーメンは無事に嵯峨の顔に命中し、2ヶ月振りの顔射に感無量な様子の嵯峨は、顔に放たれたものを手で拭って丁寧に舐め取った。

「崇は「まだ」だよね? じゃ今度は僕を満足させてよ」
梱包用のビニールシートを床に敷き、両足を大きく開いて仰向けに寝転んだ。
「もう、家に帰ってからいくらでも突っ込んでやるって言ってるのに」
嬉しそうに文句を言いながら、嵯峨は片足を自分の肩にかけ、ポケットからオイルの小ビンを取り出し、これから繋がるべき場所に塗りたくった。
「ひぁ……っ? 何で、そんなもの……持ち歩いてるんだよ……」
「ゲイの身だしなみじゃないか。いつも車に置いてるやつ、ここに来る前に取りに行って来たんだよ」
久々に対面する愛しいつぼみに指を1本入れて抜き差しする。
「……じゃあ、ここで……ヤル気で、初めっから……ああン……」
「当然だろ。お前だって、私が欲しくて堪らなかった癖に」
2本の指を中で遊ばせ、吸いついてくる内壁を確認する。堪らないポイントを突かれて独りでに腰が揺れてしまう。

「さあ、3本いれたぞ。お待たせしたね」
欲しくて欲しくて堪らずに、閉じたり開いたりしていたつぼみが、みっしりと重みのある嵯峨の男性自身に無理やり開花させられた。

!!……欲しかったのはこれ……!!

たった1度浮気をしただけなのに、他にもっと自分に相応しい男がいるかもしれないのに、こんなことでいいのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。今必要なことは、目の前にあるこの幸せを掴んで離さないことだ。自ら棄て去るには大き過ぎるこの幸せを。
「ああっ、崇! イイ! もっと……もっと、突いて!」
内臓をえぐられるかのような勢いで強く深く突き立てられ、我を忘れて嵯峨の背中を引っ掻きながら叫んでしまった。
「いくらご無沙汰してたからって、感じ過ぎだぞ、裕貴。この一発が終ったら早くお前の家に……」
「イヤ、まだ、抜かないで!」
「中出ししたらお腹壊すじゃないか。そういうのは家に帰ってからいくらでも…」
「ヤダ、今は……ぁん……僕の、中で出して。」
「そんなことしたら妊娠しちゃうぞ?」
「僕が女だったらとっくに……してるよ100回くらい……」
「ははは、お前と私の子供だったら可愛いだろうなあ」
くだらない会話を交わしながらも繋がり続けた。一発で終りどころか、2ヶ月分を「やり貯め」してしまいそうだった。見つかったら大変な事になるというスリルが二人を燃え上がらせ、また、実際には見つかるはずがないという安心感が二人を大胆にさせていたのだろう。

外は小雪の舞い散るバレンタインデーの夜、完全防音の実験室では、仲直りの姫始めに幸せいっぱいの二人が、いつまでも精の花を飛び散らしていた。


                 **********************


それから2年の月日が流れた。自分は30歳になり、最前線のエンジニアとしての自信とプライドを身につけ、45歳の嵯峨は役員クラスに昇進して経営者側の人間になっていた。立場の違いによる意見の衝突を避けるためにも、余り仕事の話題はしないようになった。「遠くなった上に狭過ぎる」と文句をいいながらも嵯峨は、2度目に引越した2DKのアパートと横浜の自宅を往復していた。付き合い始めて7年、気分は普通の、やや倦怠期気味のカップルのようだった。相変わらずゲイらしい激しさのセックスを除いては。

バレンタインというのは自分にとっては少し面倒な行事だった。社内便で自分宛だけに届くチョコレートは部署の仲間に配れるし、お返しも簡単なので問題ない。しかし、顔見知り程度や全く知らない女性からプレゼント付きで貰ったチョコレートは、自分にとっては不幸の手紙のようなものだ。無視したりつき返したりという事が出来ない性分なので、お返しにあれこれ悩む事になる。このおかげで、自分に近づいてくる女性を傷つけずに好意をかわす術も身につけてきた。だが、この年のバレンタインデーは、海外出張土産のマカデミアナッツ・チョコの大箱を片手に、そんな術が通用しない相手が現れたのだった。

BACK PAGETOP NEXT

Designed by TENKIYA